アア。其れは、目が眩むくらいノ真っ赤な夕焼け。
イヤ、夕焼けデモナク世界は紅い。
影絵に、入ったみたいだ。
イヤ、夕焼けデモナク世界は紅い。
影絵に、入ったみたいだ。
怪奇チャンネル番外 上
「それでさ、サブローの奴がいったんだ「先生、これはウミガメじゃなく、ナポリタンです」って」
ショウネンは、緑色の車道をテクテクと歩く。
空は、臓器をブチマケたように赤い。
電柱には、干された肉がぶら下がっている。
建物の壁には、デカデカと「??」「??」と書かれている。
僕には、まだ読めない。
すれ違う人々は、ボウズとおかっぱだ。
みんな瞼がないので、眼をパッチリ開けている。
開けている所為で、虫がくる。
また、虫が大きくて足がいっぱいはえて、歯も生えているので、みんな頭からバリボリと食われている。
後ろ、を歩く少年は、ニコリと笑いながらそれに答えた。
らんどせるには、少しの麩菓子とペンになる炭片と、ノートになるネズミの皮が入っている。
おとうさんが、数日前に、干したものだ。
新しいノートを買ってくれた。
おかあさんは、新しいおべべを作ってくれた。
白と黄色の市松模様だ。
ショウネンは、少年に聞いたんだ。
「何でさっきから、君は一言も喋らないの?」
少年は、キャラメルを渡した。
ショウネンは、何も迷いもなく、キャラメルを口に放り込んだ。
ショウネンは、緑色の車道をテクテクと歩く。
空は、臓器をブチマケたように赤い。
電柱には、干された肉がぶら下がっている。
建物の壁には、デカデカと「??」「??」と書かれている。
僕には、まだ読めない。
すれ違う人々は、ボウズとおかっぱだ。
みんな瞼がないので、眼をパッチリ開けている。
開けている所為で、虫がくる。
また、虫が大きくて足がいっぱいはえて、歯も生えているので、みんな頭からバリボリと食われている。
後ろ、を歩く少年は、ニコリと笑いながらそれに答えた。
らんどせるには、少しの麩菓子とペンになる炭片と、ノートになるネズミの皮が入っている。
おとうさんが、数日前に、干したものだ。
新しいノートを買ってくれた。
おかあさんは、新しいおべべを作ってくれた。
白と黄色の市松模様だ。
ショウネンは、少年に聞いたんだ。
「何でさっきから、君は一言も喋らないの?」
少年は、キャラメルを渡した。
ショウネンは、何も迷いもなく、キャラメルを口に放り込んだ。
「食べたな!!?」
「食べたな」
「食べたな」
「食べたな食べたな食べたな」
「食べたな」
「食べたな」
「食べたな食べたな食べたな」
今まで動かなかった、影の部分が人の形に伸びて。無数に。少年とショウネンを囲んだ。
「う、わわっ」
「馬鹿!!飲み込め!!!」
少年は、ショウネンの口にお札を張り、手を引いて走り出した。
にょうきにょきと影が、触手を伸ばしてくる。
「二の札!出よ!山よ!!!」
少年は、影に向かって、御札を投げる。
ショウネン達と影との間の空間を切り裂き、地面が隆起し始める。
地は、寄せ合い我先にと、上を目指してガラガラと。音を立てて、駆け上がる。
少年はショウネンの手を引き、帰り道を共に走る。
「全く!一年も、捕らわれやがって!馬鹿野郎!!!」
少年は、ショウネンに叫んだ。
ショウネンは、少年を徐々に思い出していった。
群青の光沢を放つ黒髪に、黒縁の眼鏡。如何にも、勉強ができる優等生で。まるで某少年探偵みたいに、スーツを着ていた。
唯一の違いは、蝶ネクタイでなく、普通のネクタイだってとこと。
中身は、まるでジャイアンみたいなとこ。
ショウネンは、少年の名前を呼んだ。
「…拓磨?」
「ああ、そうだよ!ったく、オレの子分のクセに勝手にどっか行くな!!」
頭の靄が晴れ、視界と思考がクリアになっていく。
自分の名前は、風間明深。
市内の小学校に、通っていた。
拓磨は幼なじみで、いつも苛められていた。
僕を勝手に子分と呼び。いつも持ち物に変な暗号を書かれ、幼稚園の頃はトイレまでついてきた。
僕は、それが嫌でたまらなかった。
それ以上に、ばあちゃんも嫌だった。
ばあちゃんは、一週間に一度は僕を家に連れていき、一緒に念仏を唱えさせた。
僕は、それらが嫌でたまらなかったので、お母さんと文句を言いに行った。
今は居ない、お母さんと。
「思い出したか?」
明深と拓磨は、いつの間にか砂利道を走っていた。
小石は固く、明深の足に突き刺さる。
足が重く、歩みが遅くなっても、拓磨は明深の腕を引く。
「止まるな!!亡者に抜かれるぞ!!」
そうしているうちに気が付いた。
拓磨の眼は、決して後ろを向かないことに。
僕を、見てはいる。
僕の後ろは、見ていない。
後ろには、ナニガイル?
僕の足首に。カビのような、ドロのような、クサいような、クサったような指が。
「三の札!!押し流せ、激流よ!!」
拓磨が、三枚目の御札を後ろに投げる。
空間を裂き、通された川に、押し出された水が飛沫を上げ流れていく。
後ろのモノも、押し流す水量に唖然としてしまった。
「走れ!!」
拓磨は再び、僕の腕を強く引いて、走り出す。
帰り道を迷いなく、走っている。世界は、いつの間にか真っ黒な闇の中になっていた。
拓磨は、後ろを振り向かずに言う。
「オマエが、オレとおばあさんが嫌いなのは、良くわかっていた。
こうなるんなら、こうなる前に、伝えるべきだったと後悔しているよ。
明深。お前は、馬鹿みたいなくらいデカい器の所謂、霊媒なんだ。もうそりゃ、オマエ、どっから引っ張ってきた源泉なの?って感じくらいにな。
時代が時代なら、オマエをミイラにして、即身仏に仕立てようとするやつがいるかも知れないくらい。
もしくは、英雄って部類の人間に成れちゃうくらい、規格外の人間なんだ。
だけど、それは、本来人間の位置づけられた魂の在るべきところと、少し離れてた。
だから、オマエは別世界に行きやすかった。それを、僕は必死で止めた。お前のばあちゃんもな。
けど、お前は交通事故でなくした両親を探しに行った。
僕らが、「根の国」と呼ぶところに」
暗い暗い。
黒に喰われそうな、ぼんやり白く光る砂利道を、僕らは走った。
よく見るとそれは、骸骨で出来た道だった。
靴を履いた拓磨とは違い、明深は裸足だ。
眼のくぼみに親指をとられ、骸骨の歯を折り、それでも走った。
鼻水と涙で、顔がくしゃくしゃだ。
それでも、口のお札は外れない。
「明深」
懐かしいお母さんの声がして、明深は。
振り返っちゃいないと思った。
―だって、彼女は死んでいる。
僕は、考えた。
―別れの言葉を。
悲しかったから。もう、会えないし。その声は聞こえないから。
―僕は、札を剥がし、言った。
「おかあさん…」
刹那。
手足は亡者の腕に絡み取られ、おかあさんだったものが、額にキスをしてくれた。
崩れた顔の女が。
「うわあああぁあああああああ!!!!」
明深の絶叫が、根の国にこだまする。
拓磨は引かれそうな腕を、引き、明深を現世に戻そうとする。
「かわいいこかわいいこかわいいこ」
狂ったように回る舌と唇が、緑色をしていた。
「たすけ、助け…!!」
「クソ阿呆!!!」
拓磨は、腕を引きながら、無数の屍の山に絶望した。
残念ながら、お釈迦様の垂らした蜘蛛の糸も、見えない。
BAD ENDだ。
拓磨は、目頭が熱くなるのを感じた。
一年前、姿を消した明深をずっと探していた。
明深は、ずっと自分のことを嫌いだと言っていた。嫌いでも良かった。
明深のおばあさんは、明深が特別だと言っていて。父も、そのことを知っていた。
「あの子は、お前よりもずっと上だ。神様とは言えないが、使者と呼ばれる者かも知れないな」
父は、そう言っていた。
物心ついてすぐに、霊験を積むために、時代遅れの方法で寺に預けられ。
日々心身の鍛錬を積み、受け継がれた数式魔術を暗記した自分とは違う。
そこにいるだけで、邪を払い。高位の存在に目を付けられ。異世界にも、簡単に行ってしまう存在。
正直に言えば、嫉妬していた。
彼に、ちょっかいを出すことで、少し気を紛らわせていたのだ。
しかし、彼は居なくなった。
居なくなって、清々した。そんなわけない。
私物に新しい術式を書かれても、ストーカーじみたことをされても。
姑息な手段に、明深は必要以上に怒らなかった。
最後には、呆れて苦笑いしていた。
孤独。それが、一番の行動原理だった。
自分は、彼以外に、友達と言える者が居ないことを思い知らされたのだ。
拓磨は、生きている明深に、一度でいい謝りたかった。
その願いが、死者の腕で塗りつぶされていくのがわかった。
「…クソ阿呆!!!!」
拓磨は、賭に出る。
自分の一部を以て、穢れを移す古い魔術。
本来は人型を用いる術は、実は、効果を上げるのは非常に簡単で。
人体の一部は、その部位が重要な機関で在ればあるほど、術の効果は上がる。
そして、今回は自分ではなく、他人の代わりを作らなければならない。
方法は、簡単だ。
他人を映す機関を使えばいい。
「ぐあああぁああああ!!!」
拓磨は、右目に指を突き立て、抉り抜く。
顔の筋肉が引きずられる感覚と、中で眼の神経がぶちぶちと切れる音がした。
それらを全て、噛み締めて、飲み込んで、呪式を組み立てる。
ここまでやったんだ、一部の間違いも許すか!!!
「…我が望みは、…幻想。
蜃気楼の揺らぎ…。陽の輝きを用いて…、一度の幻影を。
…穢れを移し、地の果てへと…送る。許しを。
この右目を…、これより…風間明深とす」
拓磨は、右目を遠く遠くに投げた。
弧を描き、消えていくそれは、途中で人型になり、二本の足で闇の中を走っていく。
亡者は滝のように、それを追いかけ、流れて逝った。
「走れ」
拓磨は、三度、明深の手を引いた。
「う、わわっ」
「馬鹿!!飲み込め!!!」
少年は、ショウネンの口にお札を張り、手を引いて走り出した。
にょうきにょきと影が、触手を伸ばしてくる。
「二の札!出よ!山よ!!!」
少年は、影に向かって、御札を投げる。
ショウネン達と影との間の空間を切り裂き、地面が隆起し始める。
地は、寄せ合い我先にと、上を目指してガラガラと。音を立てて、駆け上がる。
少年はショウネンの手を引き、帰り道を共に走る。
「全く!一年も、捕らわれやがって!馬鹿野郎!!!」
少年は、ショウネンに叫んだ。
ショウネンは、少年を徐々に思い出していった。
群青の光沢を放つ黒髪に、黒縁の眼鏡。如何にも、勉強ができる優等生で。まるで某少年探偵みたいに、スーツを着ていた。
唯一の違いは、蝶ネクタイでなく、普通のネクタイだってとこと。
中身は、まるでジャイアンみたいなとこ。
ショウネンは、少年の名前を呼んだ。
「…拓磨?」
「ああ、そうだよ!ったく、オレの子分のクセに勝手にどっか行くな!!」
頭の靄が晴れ、視界と思考がクリアになっていく。
自分の名前は、風間明深。
市内の小学校に、通っていた。
拓磨は幼なじみで、いつも苛められていた。
僕を勝手に子分と呼び。いつも持ち物に変な暗号を書かれ、幼稚園の頃はトイレまでついてきた。
僕は、それが嫌でたまらなかった。
それ以上に、ばあちゃんも嫌だった。
ばあちゃんは、一週間に一度は僕を家に連れていき、一緒に念仏を唱えさせた。
僕は、それらが嫌でたまらなかったので、お母さんと文句を言いに行った。
今は居ない、お母さんと。
「思い出したか?」
明深と拓磨は、いつの間にか砂利道を走っていた。
小石は固く、明深の足に突き刺さる。
足が重く、歩みが遅くなっても、拓磨は明深の腕を引く。
「止まるな!!亡者に抜かれるぞ!!」
そうしているうちに気が付いた。
拓磨の眼は、決して後ろを向かないことに。
僕を、見てはいる。
僕の後ろは、見ていない。
後ろには、ナニガイル?
僕の足首に。カビのような、ドロのような、クサいような、クサったような指が。
「三の札!!押し流せ、激流よ!!」
拓磨が、三枚目の御札を後ろに投げる。
空間を裂き、通された川に、押し出された水が飛沫を上げ流れていく。
後ろのモノも、押し流す水量に唖然としてしまった。
「走れ!!」
拓磨は再び、僕の腕を強く引いて、走り出す。
帰り道を迷いなく、走っている。世界は、いつの間にか真っ黒な闇の中になっていた。
拓磨は、後ろを振り向かずに言う。
「オマエが、オレとおばあさんが嫌いなのは、良くわかっていた。
こうなるんなら、こうなる前に、伝えるべきだったと後悔しているよ。
明深。お前は、馬鹿みたいなくらいデカい器の所謂、霊媒なんだ。もうそりゃ、オマエ、どっから引っ張ってきた源泉なの?って感じくらいにな。
時代が時代なら、オマエをミイラにして、即身仏に仕立てようとするやつがいるかも知れないくらい。
もしくは、英雄って部類の人間に成れちゃうくらい、規格外の人間なんだ。
だけど、それは、本来人間の位置づけられた魂の在るべきところと、少し離れてた。
だから、オマエは別世界に行きやすかった。それを、僕は必死で止めた。お前のばあちゃんもな。
けど、お前は交通事故でなくした両親を探しに行った。
僕らが、「根の国」と呼ぶところに」
暗い暗い。
黒に喰われそうな、ぼんやり白く光る砂利道を、僕らは走った。
よく見るとそれは、骸骨で出来た道だった。
靴を履いた拓磨とは違い、明深は裸足だ。
眼のくぼみに親指をとられ、骸骨の歯を折り、それでも走った。
鼻水と涙で、顔がくしゃくしゃだ。
それでも、口のお札は外れない。
「明深」
懐かしいお母さんの声がして、明深は。
振り返っちゃいないと思った。
―だって、彼女は死んでいる。
僕は、考えた。
―別れの言葉を。
悲しかったから。もう、会えないし。その声は聞こえないから。
―僕は、札を剥がし、言った。
「おかあさん…」
刹那。
手足は亡者の腕に絡み取られ、おかあさんだったものが、額にキスをしてくれた。
崩れた顔の女が。
「うわあああぁあああああああ!!!!」
明深の絶叫が、根の国にこだまする。
拓磨は引かれそうな腕を、引き、明深を現世に戻そうとする。
「かわいいこかわいいこかわいいこ」
狂ったように回る舌と唇が、緑色をしていた。
「たすけ、助け…!!」
「クソ阿呆!!!」
拓磨は、腕を引きながら、無数の屍の山に絶望した。
残念ながら、お釈迦様の垂らした蜘蛛の糸も、見えない。
BAD ENDだ。
拓磨は、目頭が熱くなるのを感じた。
一年前、姿を消した明深をずっと探していた。
明深は、ずっと自分のことを嫌いだと言っていた。嫌いでも良かった。
明深のおばあさんは、明深が特別だと言っていて。父も、そのことを知っていた。
「あの子は、お前よりもずっと上だ。神様とは言えないが、使者と呼ばれる者かも知れないな」
父は、そう言っていた。
物心ついてすぐに、霊験を積むために、時代遅れの方法で寺に預けられ。
日々心身の鍛錬を積み、受け継がれた数式魔術を暗記した自分とは違う。
そこにいるだけで、邪を払い。高位の存在に目を付けられ。異世界にも、簡単に行ってしまう存在。
正直に言えば、嫉妬していた。
彼に、ちょっかいを出すことで、少し気を紛らわせていたのだ。
しかし、彼は居なくなった。
居なくなって、清々した。そんなわけない。
私物に新しい術式を書かれても、ストーカーじみたことをされても。
姑息な手段に、明深は必要以上に怒らなかった。
最後には、呆れて苦笑いしていた。
孤独。それが、一番の行動原理だった。
自分は、彼以外に、友達と言える者が居ないことを思い知らされたのだ。
拓磨は、生きている明深に、一度でいい謝りたかった。
その願いが、死者の腕で塗りつぶされていくのがわかった。
「…クソ阿呆!!!!」
拓磨は、賭に出る。
自分の一部を以て、穢れを移す古い魔術。
本来は人型を用いる術は、実は、効果を上げるのは非常に簡単で。
人体の一部は、その部位が重要な機関で在ればあるほど、術の効果は上がる。
そして、今回は自分ではなく、他人の代わりを作らなければならない。
方法は、簡単だ。
他人を映す機関を使えばいい。
「ぐあああぁああああ!!!」
拓磨は、右目に指を突き立て、抉り抜く。
顔の筋肉が引きずられる感覚と、中で眼の神経がぶちぶちと切れる音がした。
それらを全て、噛み締めて、飲み込んで、呪式を組み立てる。
ここまでやったんだ、一部の間違いも許すか!!!
「…我が望みは、…幻想。
蜃気楼の揺らぎ…。陽の輝きを用いて…、一度の幻影を。
…穢れを移し、地の果てへと…送る。許しを。
この右目を…、これより…風間明深とす」
拓磨は、右目を遠く遠くに投げた。
弧を描き、消えていくそれは、途中で人型になり、二本の足で闇の中を走っていく。
亡者は滝のように、それを追いかけ、流れて逝った。
「走れ」
拓磨は、三度、明深の手を引いた。
どれくらい走っただろうか。
僕らは、この世の警官に保護され、救急車に乗せられて。
気を失っていたらしい。
聴覚が、正式な機能を取り戻し、人の動く音。布の擦れ合う音と、床を打つ足音が聞こえた。
無視をしているのに気が付かれたのか、頬をぺしぺしと叩かれる感じがした。
「オマエは、どこまで僕を心配させるんだ」
冷たいシーツの肌触りが心地よくて、眼をつぶったまま、何度も触っていたかった。
目を開けると、ベッドに腰掛けた拓磨がいた。
片目には、包帯が巻きつけられている。
「夢じゃ…、なかったんだ」
明深の眼から、涙が溢れ、そのままシーツの上を濡らしていった。
あそこは、怖くて、悲しくて、寂しくて、可哀想な世界だった。
誰も救えない。救ってくれない。救いようがない。手を差し伸べるのは、神様ってやつしかいない。
あそこにいるモノは、皆、蜘蛛の糸が垂らされるのを待っていた。
僕は。
蜘蛛の糸に、されかけたのかも知れない。
明深の鼻水と涎と涙でだらだらな顔に、容赦ないチョップが飛ぶ。
「お前、俺の右目かけたのにまだ泣くか」
「ぬわぁあああ、ずびずびずび」
「汚ねえぇええ!顔拭けぇええ!」
「ぐわ、っひっぐ。ごべんなぁああ!ごべんなざああい」
「言ってる意味がわかんねぇええ!」
すぱーんと、小気味良い音を立てて、額に衝撃が走る。
「ま、子分を助けるのは、親分のつとめだろ。それから、ごめんな」
拓磨は、片目でにこりと笑っていった。
僕らは、この世の警官に保護され、救急車に乗せられて。
気を失っていたらしい。
聴覚が、正式な機能を取り戻し、人の動く音。布の擦れ合う音と、床を打つ足音が聞こえた。
無視をしているのに気が付かれたのか、頬をぺしぺしと叩かれる感じがした。
「オマエは、どこまで僕を心配させるんだ」
冷たいシーツの肌触りが心地よくて、眼をつぶったまま、何度も触っていたかった。
目を開けると、ベッドに腰掛けた拓磨がいた。
片目には、包帯が巻きつけられている。
「夢じゃ…、なかったんだ」
明深の眼から、涙が溢れ、そのままシーツの上を濡らしていった。
あそこは、怖くて、悲しくて、寂しくて、可哀想な世界だった。
誰も救えない。救ってくれない。救いようがない。手を差し伸べるのは、神様ってやつしかいない。
あそこにいるモノは、皆、蜘蛛の糸が垂らされるのを待っていた。
僕は。
蜘蛛の糸に、されかけたのかも知れない。
明深の鼻水と涎と涙でだらだらな顔に、容赦ないチョップが飛ぶ。
「お前、俺の右目かけたのにまだ泣くか」
「ぬわぁあああ、ずびずびずび」
「汚ねえぇええ!顔拭けぇええ!」
「ぐわ、っひっぐ。ごべんなぁああ!ごべんなざああい」
「言ってる意味がわかんねぇええ!」
すぱーんと、小気味良い音を立てて、額に衝撃が走る。
「ま、子分を助けるのは、親分のつとめだろ。それから、ごめんな」
拓磨は、片目でにこりと笑っていった。
当時。
離れた町に住んでいた二人が、学校町で見つかったことは、ちょっとしたミステリーとなった。
風間明深は、一年も行方不明の男児。佐竹山拓磨は、一時間であり得ない速度で移動したことになっている。
本当のことは、誰も知らないし、二人も言わないだろう。
それは、奇怪で有り得ない都市伝説として、今も細々と語り継がれている。
離れた町に住んでいた二人が、学校町で見つかったことは、ちょっとしたミステリーとなった。
風間明深は、一年も行方不明の男児。佐竹山拓磨は、一時間であり得ない速度で移動したことになっている。
本当のことは、誰も知らないし、二人も言わないだろう。
それは、奇怪で有り得ない都市伝説として、今も細々と語り継がれている。
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