「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 魔法少女銀河-20

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【不思議少女シルバームーン第八話 第四章「因縁」】

 階段を早足に駆け上がっていく。
 春のまだ寒い空気が頬を突き刺す。
 下では先程から爆発音や大量の生物がうごめいているような気持ち悪い音がしている。
 近い。
 あの禍々しい感じは。
 僕は知っている。
 あれは俺だ。
 俺はあれだったんだ。
 違う。
 俺が?僕が?あれになって……
 でも何故?
 心は迷っていても機械のように身体だけは動く。
 扉を開け放つ。

「ジャアアアアアアアアアアアアアアアック!」

 扉の向こうには自分より遥かに大きい椅子に座っている少年が居た。
 頭から血を流している。
 椅子の後ろには黄金製の天球儀を模した機械が日の光を浴びてカラカラと動いていた。
 恐らくあれが日食と同時に“死の河”の展開を補助するのだろう。

「やぁ……スバル。君が来ると思っていたよ。」
「ずいぶんボロボロじゃないか。」
「いや、済まないね。君と俺との二人きりのパーティーを邪魔する男が居てね。」
「へえ……。」
「まあ、あれだ。あと少しで治るところさ。茶を用意した。飲めよ。」
「生憎とそんな暇はない。お前をそこまで追い詰めた男ってのは気になるぜ。」
「あー、足元足元」

 足元を見る。
 どこかで見たような顔つきの男が内蔵をまき散らして……
 どこかで?
 いやこの人は……!

「おっちゃん!おっちゃんあんた何やってんだ!」

 目玉が飛び出ていたり色々砕けているために良く解らなかったがこの男は確かに彼誰飯店の主人だ。
 相当手酷くやられている所を見るとかなりの大ダメージを受けながらも戦い続けたのだろう。

「ん?あーやっぱお前が来たか。」
「やっぱじゃねえよ!あんた只の中華料理人じゃなかったのかよ!」
「いや、料理人って大抵元グリーンベレーだったりするだろ。」
「良いから黙ってろ!死ぬぞ!」
「ははっ、沈黙の料理人。」
「おいおいスバル!俺というものがありながらそんなおっさんにばかり構ってるなよ。
 昔の君はもっと冷酷で、美しかったぜぃ?」
「僕は変わったんだよ!」
「確かに変わったな、一人称も違うし。
 やっぱりまだ俺を恨んでいるのか?」
「恨む?」
「ほら、あれだよ。俺の代わりに軍の人体実験を受けたこと。」
「え?」
「覚えていないのか?」

 先程からまとわりつく気持ち悪い感覚。
 自分が自分じゃないような感覚。

「お前は……俺、いや僕の代わりに軍の人体実験を受けて都市伝説の力を埋めこまれたじゃないか!」

 嘘だろ?
 いや、待て。
 嘘だ。
 覚えがある。

「お前こそ人体実験の時に暴走して始末されたと聞いたぞ!」
「違う、違うんだよスバル。」

 悲しそうな顔を見せてジャックは俺に告げる。
 死神の宣告のように。

「実験の後、暴走したのは…………君だ。」

 記憶のピースが嵌っていく。
 噛みあう。
 軋む。
 痛む。
 真実が痛みを伴って舞い降りる。

「そしてどういうわけか君は死んだと思って投棄されてなお生きていた。
 いや違うな、僕が助けたんだ。」

 嘘だろ。
 嘘だ。
 真実だ。
 俺はジャックを救えなかった。
 そしてその後クーデターに巻き込まれて……
 違う。

「僕は死神と契約して君の死の運命をねじ曲げたんだ。
 死神の力は凄まじかった、なんせ君を救うついでにクーデターにも成功しちゃったしね。」

 もう否定できない。
 こいつは俺を助けてくれた。
 でも……

「だからなんだああああああああああああああああああああ!」

 眼鏡を投げ捨てて吠える。
 埋めこまれた力の使い方は思い出した。
 ヨツバさんから貸し出された使い魔を携帯で呼び出す。
 番号を打ち込むと同時に大型のバイクが部屋の真ん中に飛び込んでくる。
 カウルに光る“emeth”の文字からしてバイクの形をしたゴーレムだろう。
 ゴーレムは体内から装甲のような物を僕に向けて射出した。
 それと同時に僕は埋め込まれた狼男の力を呼び覚ます。
 筋肉が隆起し、牙が伸び、五感は極限まで研ぎ澄まされる。
 そして装甲は僕の身体を一瞬で包み戦闘のための形態へと変化する。
 黒地に緑のラインの走ったスタイリッシュなデザインの防護服だ。
 都市伝説の力と現代科学の融合といったところか。
 近くにあったバイクのグリップを思い切り引き抜く。
 それは打撃部分が銀で出来た特殊警棒になっていた。

「思い出してくれたんだね!」
「ああ思い出した!でもお前の今の行動を許す訳にはいかない!
 俺は!名も無き兵士でなく!天野昴としてお前を止める!」
「やれやれ……ぬるい生活をしている間に君も変わってしまったのか。
 今の君の大事な人を殺せば君も元に戻るかな?」
「ジャック!お前がなんでこんなことを始めたのかは俺が一番知っている!
 それでもお前はやりすぎだ!今ならまだ引き返せる!こんなことはもうやめろ!」
「もう駄目だよ、“僕”はもう引き返さない。
 引き返す気もサラサラ無い、さあスバル、この美しい風の吹く世界で、砕け散り一つになろうよ。」
「断る!俺は俺だ!」

 携帯にヨツバさんが込めていた余剰の魔力を弾丸にして射出する。
 ジャックの頬を焦がしながら魔弾は壁に突き刺さった。
 ジャックはというと弾丸の隙間を掻い潜り、俺の側まで寄ってくる。

「遅いよスバル!」

 掌底が顎に突き刺さる。
 が、無意味。
 装甲服によって防御力が跳ね上がっているのだ。
 彼の小さな体を思い切り蹴り飛ばす。

「ゴーレム!」

 バイクが一瞬で液体金属に変わり、その後人の形をとる。
 バイクだったそれはゴーレムとしての本来の姿を取り戻して吹き飛んだジャックを待ち構える。

「叩き潰せ!」

 丁度ジャックが目の前に来た瞬間、ゴーレムは拳を振り下ろした。
 ミンチになるジャック。
 だがこの程度で彼が倒れる訳もない。
 ゴーレムの頭に乗るような位置で再生すると彼はゴーレムを素手で破砕してから高速で体当たりをしかけてくる。

「やるじゃん、鈍ってないみたいだね。」

 俺が衝撃に身構えている眼の前で奴は突如として方向転換。
 俺の側面についてナイフで俺の装甲の隙間を狙う。
 小柄な分懐に一度入られると狙いを定め難い。
 俺は距離を取ってあいつと戦おうとするのだがそのたびにあいつは吸血鬼の身体能力で俺との距離を詰める。

「くそっ!嫌な戦い方するな相変わらず!」
「おいおい褒めるなよ喜んじゃうだろ?」

 ナイフと警棒が正面からぶつかり合う。
 次の瞬間、警棒がまっぷたつになった。

「折れた!?」
「切れただろうに。」

 次の瞬間、目にも留まらない速さで突き、薙ぎ、斬りつけの三段攻撃が俺を襲う。

「ぐお!?」

 痛みすら無く、脇、肘、腿の三箇所から赤い血液が迸る。
 とてつもない切れ味だ。
 いやそれ以上に奴の腕が良いのか。

「あれれ?どうしちゃったんだいスバル!」
「うるせえ!これくらい効かねえぞ!」

 メリケンサックを握りしめてジャックを殴り抜く。
 純銀製のそれは奴の顔面を焦がして撃ちぬく。
 ジャックが怯んだと見た俺はいっきにやつとの距離を詰めようとした。

「そこで攻めるかい。」
「しまっ――――――――――!」

 細い糸が絡みついてくる。
 いつの間にやらジャックの手からは眼を凝らさねば見えない程細いワイヤーが伸びていた。

「悪いが終わりだ。」

 油断した。
 解っていたはずなのに、自らの力に奢って罠にかかった。
 装甲が砕けて、体中から血液が噴き出す。
 薄れていく意識の中、俺は何時の間にか死にかけていた筈のおっちゃんが姿を消していることに気がついた。


【不思議少女シルバームーン第八話 第四章「因縁」】

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