悪の秘密結社 13
ごとりと重たい音を立てて、携帯ゲーム機より一回り大きな機械が取り付けられたベルトが台の上に置かれる
「これが変身用のデバイスです。試作段階なのでまだ大型ですがね」
「てっきり趣味だと思ったけどな」
「てっきり趣味だと思ったけどな」
既に拘束を解かれたZ-No.592は、抵抗する様子もなくヴィッキーの傍らでその試作品を眺めていた
契約都市伝説を奪われた彼は、ただの黒服としての能力程度しか持ち合わせておらず、戦闘員や怪人に対抗する事はおろか、ヴィッキーを倒し切る事もできない
自害したところですぐに『修理』されてしまうため、今はただ従う他に無いのだ
契約都市伝説を奪われた彼は、ただの黒服としての能力程度しか持ち合わせておらず、戦闘員や怪人に対抗する事はおろか、ヴィッキーを倒し切る事もできない
自害したところですぐに『修理』されてしまうため、今はただ従う他に無いのだ
「こんなものを作れるなら、俺は必要無いんじゃないのか?」
「これ単体で機能するだなんて、誰が言いました?」
「これ単体で機能するだなんて、誰が言いました?」
するりとヴィッキーの腕がZ-No.592の身体に絡みつき、胸元をまさぐるように撫で回す
「あなたのここには、このデバイスとリンクするシステムが埋め込まれています。デバイスで読み込んだ結晶体のデータをそのシステムに複製転送し、その身体に浸透して結晶体に応じた変身を可能とするのです」
「……その結晶体を、返してもらいたいんだがね」
「ああ、あの『こっくりさん』達のですね」
「……その結晶体を、返してもらいたいんだがね」
「ああ、あの『こっくりさん』達のですね」
ヴィッキーはZ-No.592から身体を離し、壁のタッチパネルを操作する
仰々しい駆動音と共に開いた保管庫はほとんど空だったが、手のひら大のケースに収まった大きなメダルがいくつか並んでいた
仰々しい駆動音と共に開いた保管庫はほとんど空だったが、手のひら大のケースに収まった大きなメダルがいくつか並んでいた
「あなたの大事な都市伝説は……これ、ですね」
小さな結晶体を丸い透明の物質が包んでおり、更にそれが金色のメダルにはめ込まれている、そんな造形の物体
「結晶体の強度はさほど強くはないので、それなりの工夫をしてあります。メダルの素材は『第三帝国』に入り込んでいた私が横流ししたオリハルコン製で、カバーとしての強度は勿論のこと都市伝説の力を伝えやすいようにしてあります」
己の成果を誇示するように、メダルを手に取ってZ-No.592に見せつけるヴィッキー
「ですが、これを渡せるのは……あなたの脳改造が終わってから。私達の忠実なる下僕になる前に、力を与えるわけにはいきませんから」
「だったら、そもそもそれを見せるべきじゃなかったな」
「だったら、そもそもそれを見せるべきじゃなかったな」
そう言ったZ-No.592は既にその手にベルトを掴み、己の腰に巻きつけていた
ヴィッキーが何をするよりも早く、メダルを持つその腕を掴んで引き寄せて、遠慮も容赦もない拳がヴィッキーの顔面にめり込ませる
痛覚が無くとも反射的に緩んだその手から、Z-No.592はメダルを奪い取り
その手にじわりと伝わってくる、『こっくりさん』の力
ヴィッキーが何をするよりも早く、メダルを持つその腕を掴んで引き寄せて、遠慮も容赦もない拳がヴィッキーの顔面にめり込ませる
痛覚が無くとも反射的に緩んだその手から、Z-No.592はメダルを奪い取り
その手にじわりと伝わってくる、『こっくりさん』の力
《ただいまー》
《ひさしぶりー》
《さみしかったー》
《ひさしぶりー》
《さみしかったー》
声が
聞こえたような気がした
気のせいかもしれない
それでも
聞こえたような気がした
気のせいかもしれない
それでも
「また一緒に、戦おうぜ」
メダルを握る手に力を込めて
ベルトのスロットにそれをはめ込んだ
ベルトのスロットにそれをはめ込んだ
「変身」
ベルトにはめ込まれたメダルから溢れ出す三色の輝きは、かつての彼女達の毛並のようで
胸の内から身体中に行き渡るその力は、かつての彼女達の声援のようで
胸の内から身体中に行き渡るその力は、かつての彼女達の声援のようで
「よく、変身の方法が判りましたね」
「こういう造形、こういうノリならこんなもんだろ?」
「こういう造形、こういうノリならこんなもんだろ?」
すぐさま背後から襲い掛かってくる戦闘員達を、肘打ちで一人、振り返る勢いを乗せたパンチで一人、回し蹴りで三人まとめて薙ぎ払う
立て続けに死角から襲い掛かる戦闘員達を次々と薙ぎ倒すZ-No.592に、ヴィッキーの顔に笑みが浮かぶ
立て続けに死角から襲い掛かる戦闘員達を次々と薙ぎ倒すZ-No.592に、ヴィッキーの顔に笑みが浮かぶ
「想定していたより、戦闘力は高めですね。元々の契約都市伝説ですし相性が良いのでしょうかね」
「そうかもな。お前は都市伝説の強さってのを甘く見過ぎてるんじゃないのかね」
「甘くは見ていませんよ?」
「そうかもな。お前は都市伝説の強さってのを甘く見過ぎてるんじゃないのかね」
「甘くは見ていませんよ?」
ヴィッキーはメダルが装着されてない結晶体を手に取ると、べろりと突き出した舌の上に乗せ
そのままそれを、ごくりと飲み下した
そのままそれを、ごくりと飲み下した
「甘くは見ていませんが、その存在はあくまで添え物。『悪の秘密結社』と『正義の味方』の戦いを彩る、ソースの一つに過ぎません」
みしり、と
ヴィッキーの身体が音を立てて歪む
それはかつて見た、都市伝説の力を取り込んだ人間の変貌と同じ
白い羽毛に覆われた翼がその背を覆い、西洋の甲冑を思わせる純白の甲殻がその体表を覆っていく
ヴィッキーの身体が音を立てて歪む
それはかつて見た、都市伝説の力を取り込んだ人間の変貌と同じ
白い羽毛に覆われた翼がその背を覆い、西洋の甲冑を思わせる純白の甲殻がその体表を覆っていく
「あなたの『こっくりさん』と同系列の都市伝説、『エンジェルさま』ですよ。同系列とはいえ、動物霊とはイメージとしての格が違います、多少マイナーとはいえ、ね」
「そうか、それで」
「そうか、それで」
とん、と床を蹴り
身体を丸めてくるりと後方に宙返りをするZ-No.592
そして、ぐんと身体を伸ばして蹴りを放つように片足を突き出す
身体を丸めてくるりと後方に宙返りをするZ-No.592
そして、ぐんと身体を伸ばして蹴りを放つように片足を突き出す
「お前は、その都市伝説をどれぐらい知っている? 都市伝説としての定説じゃない、『その都市伝説』の個性をだ」
蹴りの姿勢のまま、Z-No.592の身体が空中でぴたりと静止する
そこにはまるで、その身体を矢とするかのように、引き絞られた弓の形をした力場が展開されていた
そこにはまるで、その身体を矢とするかのように、引き絞られた弓の形をした力場が展開されていた
「こっくりさんこっくりさん、お帰り下さるなら鳥居の方へ!」
冷たい、霊的エネルギーが室内に吹き荒れる
それは鳥居の姿を模って、ヴィッキーに向かって一直線に立ち並び
すぐさまそれから逃れるようにヴィッキーが動くが、鳥居は彼女への道を作るようにその位置を変えるだけ
そして弓から放たれたZ-No.592の蹴りは、くぐった鳥居のエネルギーを取り込みながら加速して、正確にヴィッキーの胸板を捉えた
その一撃は触れた瞬間にその甲殻を塵と化し、取り込んだ都市伝説のエネルギー諸共にヴィッキーの身体を消し飛ばした
それは鳥居の姿を模って、ヴィッキーに向かって一直線に立ち並び
すぐさまそれから逃れるようにヴィッキーが動くが、鳥居は彼女への道を作るようにその位置を変えるだけ
そして弓から放たれたZ-No.592の蹴りは、くぐった鳥居のエネルギーを取り込みながら加速して、正確にヴィッキーの胸板を捉えた
その一撃は触れた瞬間にその甲殻を塵と化し、取り込んだ都市伝説のエネルギー諸共にヴィッキーの身体を消し飛ばした
「お疲れ様、こっくりさん」
床に膝をつき、そう呟いたZ-No.592
変身が解け身を覆っていた装甲が光の粒となってメダルへと吸い込まれていくその背後で、ヴィッキーだった人の形をしたものもまた光の粒となって空気に溶けるように消えていった
変身が解け身を覆っていた装甲が光の粒となってメダルへと吸い込まれていくその背後で、ヴィッキーだった人の形をしたものもまた光の粒となって空気に溶けるように消えていった
―――
『悪の秘密結社』を象徴する紋章が掲げられた、大首領の間
陳腐さすら漂う無駄に豪奢な玉座は空で、その傍らには幼い少女の造形をしたヴィッキーが立っていた
陳腐さすら漂う無駄に豪奢な玉座は空で、その傍らには幼い少女の造形をしたヴィッキーが立っていた
「親玉は何処に行った? お前の本体もな」
「本格的な活動のために、真の秘密基地へと帰還しました」
「お前はそれを伝えるために残ったのか?」
「ええ、あとあなたの合格を伝えるために」
「本格的な活動のために、真の秘密基地へと帰還しました」
「お前はそれを伝えるために残ったのか?」
「ええ、あとあなたの合格を伝えるために」
ぱちぱちと手を叩きながら、笑顔でそう告げるヴィッキー
「貴方を、ただの素材ではなく……我々の敵として認めましょう」
「認められなくても、こっちは最初っから敵のつもりだけどな」
「いえ、私達が敵として認めるのはとてもとても重要な事。何故なら、『悪の秘密結社』は私達が認めた敵である『正義の味方』によってしか滅ぼされる事は無いのですから」
「……わざわざ、滅ぼされるための存在を作り上げ認めようと?」
「ええ、その通り」
「お前らは……自分達が滅びるために、悪行を重ねていたとでも言うつもりかよ」
「まさか……打ち倒すに値する存在が、打ち倒されるに値する存在があってこそ、我々は初めて意味を為すのです」
「認められなくても、こっちは最初っから敵のつもりだけどな」
「いえ、私達が敵として認めるのはとてもとても重要な事。何故なら、『悪の秘密結社』は私達が認めた敵である『正義の味方』によってしか滅ぼされる事は無いのですから」
「……わざわざ、滅ぼされるための存在を作り上げ認めようと?」
「ええ、その通り」
「お前らは……自分達が滅びるために、悪行を重ねていたとでも言うつもりかよ」
「まさか……打ち倒すに値する存在が、打ち倒されるに値する存在があってこそ、我々は初めて意味を為すのです」
ヴィッキーは笑う
嬉しそうに
とても嬉しそうに
嬉しそうに
とても嬉しそうに
「さあ、始めましょう。正義と悪の壮絶な戦いを。語り観る者の心を躍らせる最高の遊戯を。世界の命運を賭けた茶番劇を」
両手を広げ
天井を仰ぎ
天井を仰ぎ
「私達は悪事を為します。今まで以上に無闇に、無意味に、無秩序に、無茶に、無作為に、無謀に、そして無限に……あなたはそれを阻止し続け、私達追い続けるのです」
悪意に満ち満ちた笑顔
悪意に満ち満ちた声
悪意に満ち満ちた声
「させねぇよ。お前の出来の悪いシナリオなんざ、1クール持たせずに打ち切りにしてやるよ」
その全てを吹き飛ばすように、Z-No.592が笑みを浮かべる
「俺と、『こっくりさん』を舐めるなよ?」
「あなたこそ……『悪の秘密結社』を舐めて掛からないように」
「あなたこそ……『悪の秘密結社』を舐めて掛からないように」
そう言ってZ-No.592は、ヴィッキーに背を向ける
「何処へ?」
「一つ、済ませてない用事があるんでな。それを済ませたらすぐに相手をしてやるよ」
「『組織』の手を借りようなどと思わない事です。私達を倒せるのは、あなただけなのですから」
「そんな理屈が、あの町に通用すると思うなよ? ……まあ、仲間を呼んだりはしないから安心しとけよ」
「信用しろと?」
「お前達が認める正義の味方だぜ?」
「なるほど」
「一つ、済ませてない用事があるんでな。それを済ませたらすぐに相手をしてやるよ」
「『組織』の手を借りようなどと思わない事です。私達を倒せるのは、あなただけなのですから」
「そんな理屈が、あの町に通用すると思うなよ? ……まあ、仲間を呼んだりはしないから安心しとけよ」
「信用しろと?」
「お前達が認める正義の味方だぜ?」
「なるほど」
ヴィッキーはくすりと微笑むと、黙ってその背を見送った
―――
『悪の秘密結社』が学校町に侵入した一件以来、町に出入りする都市伝説存在への『第三帝国』の監視が相応に厳しくなった
だがその警戒すらも、長く続けば日常となる
いつものように『スツーカの悪魔』が町の遥か上空を飛び回る中、メイはいつものように日課の犬の散歩へと出掛けていく
何匹もの大型犬のリードを握り締め、道行く近所の人々に笑顔で挨拶をしながら
だが、時折
その笑顔は暗く陰り、歩を止めた犬達が心配そうにその顔を覗き込む
だがその警戒すらも、長く続けば日常となる
いつものように『スツーカの悪魔』が町の遥か上空を飛び回る中、メイはいつものように日課の犬の散歩へと出掛けていく
何匹もの大型犬のリードを握り締め、道行く近所の人々に笑顔で挨拶をしながら
だが、時折
その笑顔は暗く陰り、歩を止めた犬達が心配そうにその顔を覗き込む
「どうした、元気が無いな」
俯いていたその頭上から、男性の声が掛けられる
「悪ぃ、報せが遅くなって」
ぽん、と
気安く頭に乗せられた手が、ぐしぐしと頭を撫で回す
気安く頭に乗せられた手が、ぐしぐしと頭を撫で回す
「ちょっと遠出しなきゃならないが、すぐ終わらせてくるから安心して待ってな」
頭から、手の感触が離れ
メイが顔を上げると
そこには既に誰も居なくて
犬達の視線が向けられた先にも、既に人影は無く
それでもその先、ずっと先に彼がいる事を、手のひらの温もりに教えられ
メイは顔を上げ、真っ直ぐ前を見詰めて歩き始めたのだった
メイが顔を上げると
そこには既に誰も居なくて
犬達の視線が向けられた先にも、既に人影は無く
それでもその先、ずっと先に彼がいる事を、手のひらの温もりに教えられ
メイは顔を上げ、真っ直ぐ前を見詰めて歩き始めたのだった