「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

死神少女は修行中-07.ヘタレ姉妹と過激な母と。

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「これはどーゆーことですか(棒」
 東区の墓地。
 周囲数十メートルの地面やら建築物に無惨に開いた無数の穴を目の当たりにして、
 O-No.99の温和そうな、あるいは温和を装っている通称「鉄面皮」も流石に引きつっていた。
 この双子、特に緋色は都市伝説を完全に制御下に置いているにも関わらず、
 仕事―その能力の都合上、どうしても他者との戦闘が中心になるのだが―を任せると
 必要以上に周囲の被害が甚大になる傾向がある。
 それが彼女達の臆病さ故という事は、もう数年面倒を見ているこの黒服も把握してはいる。
 何時も所在なさげにおどおどしている紫は勿論のこと、
 表向きは生意気で図々しい態度を取る緋色ですらも―
 -彼が見たところ、むしろ彼女の方がメンタルは脆いかも知れない―
 相手の反撃を恐れすぎるが故に、無理を押しても敵を初撃で片付けようとしてしまうのだ。
 二人ともまだ子供なのだからと常々自分に言い聞かせては来たものの、とうとう今日は堪忍袋の緒が切れた次第だ。
「す・・・すみません」
 姉よりかは空気を読む術を心得ている紫が、自分がやったわけでもないのに、
 さながら蝦蟇の油売りの見せ物ででもあるかのように脂汗を流しながら頭を下げた。
 一方、辺り一帯に季節外れの雹を降らせてこの惨状を招いた当人は、ふてくされてそっぽを向いている。
「緋色ちゃん」
 紫が緋色のパーカーの袖を引いた。
 謝罪を促していることは当人たちを含め誰の目にも明らかではあるが、
 それでも緋色は自分たちの担当黒服と目を合わせようとしない。
「・・・そんっなに、破壊行為が好きならさ、明日からA-No.に担当変えてあげようか?」
 完全に凍り付いている声音に、紫がひっと小さく息を呑み、緋色の方も一瞬で顔色が変わった。
「ごっ…ごめんなさいっ!ごめんなさい!ごめんなさい!それだけはイヤ!」
 この双子にとって「過激派」や「強硬派」の多いA-No.やB-No.は
 同じ「組織」に属しているにも関わらず、仲間ではなく恐怖の的でしかない。
 それをよく知っているO-No.99は、「過激派」の中でも彼女たちが最も恐れる人物を引き合いに出して、効果的に双子の恐怖心を煽った。
「いーんじゃない?もうA-No.99に面倒見てもらいなよ。
彼女だってきっと、君たちの世話なら喜んでするさ」
「そんなこと・・・」
 あるわけないと続けようとした緋色が、O-No.99の背後からこちらに近づく人影を目敏く見つけ、顔色を失くした。

 A-No.99『赤坂千草(あかさか ちぐさ)』は黒いキャリア風のスーツを着た、辛うじて若いと言える女。
 明るいブラウンに染めてある髪は隙なく纏められ、自信に溢れた眼差しはやや威圧するようでもある。
「お久しぶりね、O-No.99」
「お久しぶりです、A-No.99」
 ヨーロッパは如何でしたと表面だけは慇懃にO-No.99が頭を下げた。
「それなりに緊張感はあったわね。それに比べて日本(ここ)は・・・まるで昼寝をしているみたいね」
 「組織」までが。
 「組織」至上主義の彼女にとって、どちらかと言えば穏健派の発言力が強く、外部とも必要とあらば連携を厭わない
 ここ学校町の「組織」の現状は愉快なものではないらしく、
 瞳に宿る険が強くなり口調は吐き捨てるようだ。
 やはりこの女は、生粋の過激派なのだ。
 双子は改めて、この女ではなくO-No.99「ウラシマさん」が自分たちの担当黒服であることに感謝した。
 この女黒服を母として生まれたにもかかわらず、双子が「組織」入りする際に穏健派に所属する事を熱望したのは、
 彼女に対する反発と恐れがあったという事は否定できない。
「あたし、ジュース買ってくる」
 事実、形式的な挨拶を交わすと、緋色は紫の手を引いてそそくさと立ち去ってしまった。
 その場に残されたのは、二人の黒服。
 会話の口火を切ったのは女だった。
「・・・まあ、つまらない儀礼はここまでにしましょう」

「・・・『死神』の契約者?」
「そう。外見は十歳程度の、黒髪に青い瞳の女の子供。もしかしたら、二十歳位の若い男が一緒かもね」
「『組織』のデータベースに無いのなら、フリーの契約者かも知れません。
 探してはみますが・・・そんな子供を何故?」
 過日、千草が呼び寄せたヨーロッパの友人が、野良と思われる都市伝説を排除しようとしたところ、
 一般人と思しき少年と「死神」を使役する少女、少女の連れの若い男に阻まれた経緯を話すと、O-No.99の表情が曇る。
 彼はあらゆる可能性を考慮した上で先ずは事情聴取すべきではないかと述べた。
「『組織』に加入が決まった者が一名は殺害され、もう一人も殺されかけた・・・
 それだけでは足りないと言うの?」
 見る間にその表情を怒りに染め上げた千草はその視線で射殺さんとばかりに目の前の男を睨みつけた。
 聞く耳持たずか。
 睨まれた男は鼻白んだ表情であらぬかたを向いた。
「『組織』の体面と、何より志気に関わるとは思わなくて?」
「A-No.99」
 どうせ無駄には終わるが、念のため此方の理も述べておかねば。
「ここ学校町では、人間と契約者、都市伝説が・・・小競り合いはあっても表面上は、平穏を保っております。
『組織』外の協力者を刺激しない為にも…今のような非常の折、平地に乱を起こすような事は厳に慎んで頂けますよう」
 握り締められた女の拳が僅かに震えた。
「・・・それが『穏健派』の見解というわけね」
「あくまで僕個人の見解であり、『穏健派』の総意ではありません。
納得頂けなければご自身で・・・」
「もう結構」
 腰抜けが舐めた事を。
 口には出さずともはっきりとそう言いたげな表情で、千草は身を翻した。
「『組織』じゃなくて自分の面子でしょーが。
 あの女のオトモダチだもん。大方自分からケンカ売って返り討ちにでもされたんでしょーよ」
「ひ、緋色ちゃん」
 こっそり物陰に隠れて一部始終を窺っていた双子のもとに真っ直ぐ歩み寄った千草の姿に反射的に身構える。
「どうせ聞いていたんでしょ」
 実の娘に向けるにはかなり温度の不足した視線を向けると、用件だけをこれまた低温の声音で述べる。
「そういう訳で、もし該当しそうな契約者を発見した場合、直ちにA-No.に引き渡しなさい。生死は問わないわ。
直接発見していなくても、学校などでそのような契約者の存在を掴んだ場合も私に連絡しなさい。いいわね」
 一方的に言い捨てて立ち去る母親の背中に紫が呟いた。
「…私たち、学校になんか行ってないよ・・・・・・お母さん」
 でも二人とも知っている。そもそも彼女達が学校に行っているか、どのような生活を送っているか、
 そんな事に興味を示すような女ではないと。もしかしたら、何年前に自分たちを生んだかも忘れているかも知れない。
「緋色ちゃん、紫ちゃん」
 「ウラシマさん」が駆けつけてくれたので、少し凹んでいた気持ちがほっと暖かくなる。
「聞いてた通りだから。それっぽい女の子を見たら、或いは『死神』を使う契約者を見たら、僕のところに連れてきて貰えないかな。
あくまで任意でね。A-No.が身柄を押さえる前に『尋問する』って事にして保護するから」
 よかった。やっぱり「ウラシマさん」だ。
 少し安心したものの、事によったら、同じ「組織」の者と事を構えなくてはいけないかも知れない。
 ふたりの少女は硬い表情で頷いた。


  ほぼ同時に、墓地からひとりの若い男が歩み出てきた。
 年の頃なら二十歳前、やや痩せ気味の長身に、凛々しくはあるが地味な顔立ちをしている。
 どこか陰のある雰囲気に、身につけた革のライダースジャケットとグローブが見る者によっては幾分アンバランスに映るかも知れない。
「・・・ふうん、『組織』が動くのか」
 まあ「組織」の身内を殺してるとあれば無理もないか。
 取り敢えず新宮さんには教えてあげなくては。
 携帯電話を取り出し、ワンプッシュで彼女の携帯を呼び出す。
「・・・あ、もしもし?
・・・・・・・・・・・・え!?なんで勝手に動いちゃうんだよ!?
今からそっちに行くから動かないで!
・・・・・・何言ってんだよ!俺が居なけりゃ新宮さんひとりでどうやっ」
 言い終わる前に切られた。
(いつもいつもなんでこんなに勝手なんだ!)
 暫く渋い表情で携帯を眺めていた彼だが、ぶつくさとひとり文句を呟きながら走り出した。








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