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死神少女は修行中-09.兄と妹、心は未だ遠くに-0a

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だれでも歓迎! 編集
(父さんはどうしたの?もう帰ってこないの?どうして?)
(イタル・・・ごめんね、ごめんね)
(お母さんに女の子が・・・『死神』を継ぐ子どもが・・・できなかったから)
(母さん、母さん泣かないで!)
(あの女に・・・あの女が女の子さえ産まなかったら!)


 マタタビオフ第一会場、東区中学校。
 「マヤの予言」とその一連の都市伝説に人類の存亡が脅かされ授業どころでは本来ない。
 それでもかなりの数の生徒や教師がものともせず登校しているところが、学校町の学校町たる所以といったところ。
 わずかな時間に例のチェーンメールはかなりの拡がりを見せたと見え、オフ会の参加者だけでなく
 彼らを当て込んだジャンクフードの屋台までがそこかしこで営業している。
「ね、あのリンゴ飴って、食べてみていい?」
「イカ焼きってすっごくいー匂いだね!」
「ねーねー、あの水槽、たくさん金魚がいる!」
 初めて見る屋台に興味津々のノイは、なぜ此処に来たかを忘れてしまっているかのようで。
「ノイ・リリス。遊びに来たのではないんだぞ」
 お祭りさながらの雰囲気に少々戸惑っているのはムーンストラック。
 授業より魅力的に見えるのかそのままオフ参加する生徒たちも結構いるので、
 人目に付きたくない極は、周囲をやや気にはするものの、同時にそんな自分が少し嫌だった。

(今まで何を言われたって・・・人の目なんて気にした事はなかったのに)

「新田センパーイ!」
 いたいたー!と駆け寄ってきたのは一学年下の田中カナタだ。
「チビは一緒じゃないんすか?アイツはこーゆーの、面白がりそうでしょ」
 授業に出る気はないらしく、Tシャツジーンズ姿の彼の言う「チビ」とはノイの事。
 暫く前に黒スーツの男女に襲われていた彼を助けて以来、知り合い以上の存在になってからは
 新田家に度々顔を出してはノイをおちょくったりするようになり、
 ノイが住み着いてから賑やかになっていた新田家をますます騒がしくしていた。
「知りませんよ」
 彼が悪いわけではないのに、つい突慳貪な物言いになってしまう自分も嫌だ。
 こんなに感情的になるなんてきっと母さんが死んで以来で、何故なのか自分にもわからない。
「ねーねー見て見て!」
 金魚取れたんだよ!と水と赤い小さな魚が入った袋を手にノイがにこにこ顔で駆け寄ってきた。
「ようチビ!」
「チビじゃないもんっ!」
「チビだったらチビだっ!昨日から何センチ伸びたか言ってみろー」
 しばし小突き合うふたりを、極は少し離れてぼうっと眺めていた。
 きっと端から見たら自分よりカナタの方がよほど兄らしく見えるだろう。
「田中くん、その子何ー?」
「もしかして妹?きょうだい居たっけ?」
 ほら、思った通りだ。クラスメイトらしい女子達が彼の回りに数人集まっている。
「こんな可愛くない妹いらねーよ!」
「えー、可愛いじゃん」
「何年生?」
「だからちげーって。新田センパイの妹」

 一瞬、女子の輪が沈黙した。

「嘘ー!!」
「新田先輩!?妹なんていたの!?」
「てか田中くん、なんであの人と喋れるのよ!?」
 彼女たちは、少し離れて立つ極にちらちら視線を投げながらも、
話しかけたり、近付こうという素振りはしようとしない。
 見目の良い優等生である極に女子生徒から距離を置かれる要素はあまり無い筈だが、
極自身が人付き合いを避けているうちに、いつの間にか周囲も彼を煙たがるようになっていた。
「冷たい」
「何を考えてるのかわからない」
「怖い」
 それが新田極という少年に下されている評価。
 でもそれでも構わないと極は思う。
―あの、父が帰って来なくなってからの。母が死んだ時の、周囲の好奇と哀れみの視線を思うなら。
「イタルー!」
 ノイが大声で極を呼びながら駆け寄って来る声に、意識が現実に引き戻される。
「ねーねー、イタルって、学校だと怖いの?」
 あのコたちが言ってるの。イタルは怖くなんてないよって言ったから、みんなとお話しようよ。
 そう言って極を引っ張るノイの手を振りきり歩き出す。
「余計な事をするな」
「イタル!」
 なおも追いすがるノイを振り切るように駆け出すと、
 待っててーと興味津々の生徒たちに叫んだのだろうノイの声が、背中越しに聞こえた。

「着いて来るなって言ってるだろう」
 学校の隣の公園で極は足を止めた。
 息を切らせながらもノイはなんとか極に着いて来ると、諦め悪く極の袖に手を伸ばす。
「触るな」
 手を叩き落とされても今度こそ動じない。薄青い瞳がひたと極を見上げた。
―父と同じ色の瞳。
 自分と母を棄てた不実な男と同じ色の瞳が。
「だってイタル」
 イタルみんなから誤解されてるんだもん。お家にお友達呼んだこともないし。
 カナタだって初めはイタルって怖そうって言ってたけど、今じゃそんなこと言わないよ。
「だからみんなとお話しして、わかってもらおうよ」
 ね?と笑って伸ばされるノイの手。
 つれなくすればうるさいだろうから、今日くらいは付き合ってやるかと手を取ろうとして
「みんなにあたしも言ってあげるよ。イタルはブアイソだけどホントは優しいんだよって。
 妹のあたしが言うんだから間違いな」
 ノイが言い終わらないうちに、ぱしんと響いた鋭い音。
「調子に乗るな!」
 一度怒鳴ったら、もう抑制なんかきかなかった。
「なにが妹だ!お前が生まれたせいで、母さんも僕も棄てられた!」
「・・・・・・いた、る」
「母さんはお前とお前の母親を恨んで死んでいった!僕だって・・・みんな、みんなお前のせいだ!」
 今更のように赤くなった頬が痛み出したが、堪えきれずに漏れた極の嗚咽がノイの涙をせき止めるように封じてしまった。
(・・・イタルが、泣いてる)
 イタルの家に来て、ほんの数ヶ月だけど、大声を出したり、増してや、泣いているところなんて。
(あたしの、せい・・・?)
 自分のせいで、イタルが泣いている。
 自分のせいで、イタルが、お父さまに・・・・・・?
(お父さま・・・)

 イタルを棄てたという父。どんな人だっただろうと考えたけど、頭のなかに靄でもかかっているようで。
(そういえば・・・あたし、お父さまのこともお母さまのことも覚えてない)
知らず知らずのうちに、金魚の袋の紐をぎゅっと握りしめたまま、ただノイは立ち尽くしていた。

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