21世紀初頭のウィーン。
万聖節前の少し浮き足立った街の中を、ひとりの青年が歩いていた。
黒髪で、やや切れ長の目。一目で東洋人とわかる特徴を備えてはいるが
彼が中国人なのか日本人なのか、ウィーンっ子達には区別は付きはしない。
欧州の慣習には不慣れな青年は格式の高いカフェを避けて、公園でサンドイッチでもと
市街地を少し外れた静かな道へと入って暫く歩くと
「あーっ!」
子どもの叫び声と共に飛んできた赤いボールが、青年の頭を直撃した。
軟らかいゴムボールなので当たっても大して痛くないが、
(俺ってニブいなあ)
子どものボール程度ならともかく、害意のある都市伝説の攻撃だったら洒落ではすまない。
やっぱり飛縁魔と一緒に居れば良かったかなあとも思いはするが、
『珍しい餌』を漁りに行くのに帯同しても楽しいわけでもない・・・
「それかえしてー」
声に気づいた青年は考え事を中断し、ボールを拾い上げると
瀟洒な門扉の内側に立ち、手を伸ばす少女に渡してやる。
「ありがとー!」
年の頃なら6~7歳程度か、顎のあたりで切り揃えられた癖のない黒髪に、薄青色の瞳。
屈託のない愛くるしい笑顔を浮かべてはいるが、何故か色濃い“死”の匂いを纏わせている。
「・・・・・・!?」
思わず青年が少女をまじまじと眺めていると、少女はきょとんと首を傾げた。
「なーに?」
「あ、いや。お兄さんは旅行でこの辺に来たんだけど、
この辺りにお弁当を食べられそうな公園はないかなあと思ってね」
「旅行?もしかして、おにーさん中国人だ!」
欧州の人間にとって、東洋人=中国人のステレオタイプは子どもにすら健在なのかと苦笑いを漏らした。
「お兄さんは日本人なんだ」
少女の瞳が吃驚したように見開かれて、それからぱっと花が咲いたような笑顔がこぼれる。
「ホント!?あたしのおかあさまも、日本人だったんだよ!」
日本語も知ってるよ、コンニチワって言えるよときゃっきゃとはしゃいで跳びはねながら
青年を見上げる少女にお利口さんだねえと微笑みかけてさらさらとした黒髪をなでる。
「お嬢ちゃんは何歳?お名前はなんていうのかな?」
「ノイ・リリス・マリアツェル!8さいです」
青年はしゃがみ込んで少女の目線の高さに、自分のそれを合わせると
「俺は浅倉柳。18歳です」
万聖節前の少し浮き足立った街の中を、ひとりの青年が歩いていた。
黒髪で、やや切れ長の目。一目で東洋人とわかる特徴を備えてはいるが
彼が中国人なのか日本人なのか、ウィーンっ子達には区別は付きはしない。
欧州の慣習には不慣れな青年は格式の高いカフェを避けて、公園でサンドイッチでもと
市街地を少し外れた静かな道へと入って暫く歩くと
「あーっ!」
子どもの叫び声と共に飛んできた赤いボールが、青年の頭を直撃した。
軟らかいゴムボールなので当たっても大して痛くないが、
(俺ってニブいなあ)
子どものボール程度ならともかく、害意のある都市伝説の攻撃だったら洒落ではすまない。
やっぱり飛縁魔と一緒に居れば良かったかなあとも思いはするが、
『珍しい餌』を漁りに行くのに帯同しても楽しいわけでもない・・・
「それかえしてー」
声に気づいた青年は考え事を中断し、ボールを拾い上げると
瀟洒な門扉の内側に立ち、手を伸ばす少女に渡してやる。
「ありがとー!」
年の頃なら6~7歳程度か、顎のあたりで切り揃えられた癖のない黒髪に、薄青色の瞳。
屈託のない愛くるしい笑顔を浮かべてはいるが、何故か色濃い“死”の匂いを纏わせている。
「・・・・・・!?」
思わず青年が少女をまじまじと眺めていると、少女はきょとんと首を傾げた。
「なーに?」
「あ、いや。お兄さんは旅行でこの辺に来たんだけど、
この辺りにお弁当を食べられそうな公園はないかなあと思ってね」
「旅行?もしかして、おにーさん中国人だ!」
欧州の人間にとって、東洋人=中国人のステレオタイプは子どもにすら健在なのかと苦笑いを漏らした。
「お兄さんは日本人なんだ」
少女の瞳が吃驚したように見開かれて、それからぱっと花が咲いたような笑顔がこぼれる。
「ホント!?あたしのおかあさまも、日本人だったんだよ!」
日本語も知ってるよ、コンニチワって言えるよときゃっきゃとはしゃいで跳びはねながら
青年を見上げる少女にお利口さんだねえと微笑みかけてさらさらとした黒髪をなでる。
「お嬢ちゃんは何歳?お名前はなんていうのかな?」
「ノイ・リリス・マリアツェル!8さいです」
青年はしゃがみ込んで少女の目線の高さに、自分のそれを合わせると
「俺は浅倉柳。18歳です」