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死神少女は修行中-番外.少女ふたり、昔の夢、今の幻想(ゆめ)

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たん、たん、たん、たん。

 軽い銃声が止む頃には、標的は既に光と化して四散していた。
 はじめのうちは怖かったけれど、私がお父さんとお母さんの役に立つにはこれしかない。
 ひとつ標的を殺していく度に、両親が喜んでいるような錯覚が、蛍から恐怖と罪悪感を奪っていった。

「?」

 人目に付かない通りを選んだのに、裏道の入り口に少女がひとり。
 自分よりひとつふたつ年下らしい白いドレス姿の少女は、左腕が銃に変わり
 ぎょろぎょろと左目を蠢かせる蛍の様子を見ても、恐れる様子もない。
「・・・!!」
 見られてしまった以上、この子も始末するしかない。
 左腕の銃を少女―新宮幻に向け、一息に鉛玉を打ち放す。

たん、たん、たん。

「おおっと、なのですよっ」
 鮮やかなブルーで薔薇と蝋燭、それに魔法陣が描かれた
 幻想的なドレスの裾と淡いピンクの長い髪がふわりと揺れ、幻の躯が宙を舞う。
「いきなり何すんですか、あぶねーのですよ」
 口先を尖らせて言い募る幻に、さらに銃弾を放つ。
「危ねーですってのに」
 幻の口調も表情も、紡がれる言葉ほどには危機感に欠けていて。
 銃口をひらりひらりと躱す彼女の動きが蛍の焦りをいっそう募らせる。

(はやく片づけなくちゃ・・・)

 白衣の人達がもしこれを見たら。
 標的を殺すところを人に見られて、口封じも出来なかったら。

 わたしは役立たずになってしまう。
 見捨てられてしまう
 居場所がどこにもなくなってしまう

「・・・なるほど、そーゆー事ですか」
 いつの間にか幻の手には手鏡。
 「照心鏡」人の心を映すそれが力の主たる幻に見せたそれは
 微笑む両親と丸っこい猫に囲まれて、年頃の少女らしく笑いさざめく眼前の少女―蛍の姿。

「これが、君の夢」

 彼女の叶わぬ夢の姿は鏡の中で暗転する。
 蛍の髪を掴んで引きずり回す父親、煙草の燃えさしを押しつける母親の姿、なにもない牢獄のような部屋・・・

「そしてこれが現実」

「君は」

 音もなく地面に降り立ち、口元を三日月の形に笑んで歩み寄る彼女は、まるで

「ボクと来るべきなのです」

 昔童話で見た、にやにや笑いの猫

 互いの顔が触れそうなくらいまで近づいた幻が囁く。淡いピンク色の髪が揺れた。

 この子が何を言っているのかわからない。蛍が左腕、銃身の部分を振りかざして幻に迫る。

「君は―君も、自由になるべきなのですよ」
 自由?自由って、なに?

 殴りかかる銃身を極めて身軽に、躯を軽くひねりながらバックステップで避ける幻。

「親も、白衣の連中も、誰も君の事なんか気にかけない、思いやらない」
 ―聞きたくない。

 蛍も後ずさり距離をとって撃ち放した銃弾は、手鏡に当たりそのまま消えた。

「ボクの様に自由になったなら」
 嫌。言わないで。膝が震えて立っているのも覚束ない。

「もう誰も君を虐げない、利用されない。見捨てられることにも怯える必要がない」
 私が一番知りたくない、考えたくもないことを何で、この子は

 ―だから、君もボクのように、みんな

  消してしまえ

「やめて!」
 はじめて、蛍が叫んだ。
「やめて。そんな―ごほっ、非道い事―ぐっ、ごほごほっ、わたし、そんなこと、したら」
 そんなことしたら、私の居場所が
「きっといつか、お父さんや、お母さんや・・・ごほっ、ニャンコ先生が、助けに、来てくれ・・・」
 躯をくの字に曲げ咳込む蛍の瞳に、ドレスを飾るリボンが映る。
「どーせ誰も助けてなんてくれねーですよ」

 世界なんて残酷なんだ。
 弾かれた者は否定される
 弱ければ踏みつけられる
 必要なのは居場所でも力でもない。反逆と拒絶の意志。

 世界から拒絶された者が世界を拒絶する。それは正当な権利。

「違うの!」

 私は、私は拒絶なんかされてない

「あなたとは違うの!」
「君の方こそ莫迦げてるのですよ」

 自分の為に、自分の世界の為に周囲を葬った自分と、
 誰かの世界に迎え入れられたいが為に自分を擦り減らしている彼女。
 似ているようで似ていない。鏡写しのようだと思う。

 不意に響いた、ぱんという乾いた音。

「ぁ・・・」
 脇腹からぼたぼたと溢れる液体で白いドレスに深紅が広がってゆく。
「居場所、ねえ・・・」
 どこか皮肉な、意地悪い笑いを浮かべながら崩れ落ちる幻を見下ろした蛍は、満足そうに笑っていた。

 お父さん、私やったよ
 お母さん、私頑張ったよ
 私がお父さんとお母さんを悪い都市伝説から護った
 私がこんなに頑張ってるのを見たら、きっと喜んでくれる
 愛してくれる
 ・・・そうだよね。私の居場所、まだあるよね?


「・・・気が付いた?」 次に意識を取り戻したのは、いつもの寝室。けれどあれが夢な訳がない。
「丸二日寝てたよ。傷は『蝦蟇の油』で塞いだから」
 あそこから連れて帰ってくるの、大変だったんですがという貴也の愚痴っぽい文句は聞き流した。

「居場所、ねえ・・・」
 撃たれたときに呟いた一言を反芻すれば、思い出すのは鏡に映った彼女の夢。
 似ていないと思ったけれど、やはり彼女と自分は似ている。
「ボクも昔は、あんな莫迦げた夢を見てたですね・・・」
 捨てたようで捨て切れていない。そんな所までも似ているようで、だからこそ―
 でももう二度と会うこともないのだろうと、ある種の確信めいた予感を抱きながら身体を起こす。
 脇腹の傷は、もう痛まなかった。



END

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