「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会決戦-04

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 オルコット、エレナ、ユーグ、弘蔵は、≪テンプル騎士団≫と、凍死隊の中でも騎馬を有する者達を先頭にして、各種の罠や散発的に行われる正体を現さない敵の攻撃を捌きながら≪ピリ・レイスの地図≫が指し示していた地点を目指して進軍していた。
 先程から行われている敵の攻撃は随分と独特なものだった。
 銃弾が飛んできたかと思うと、矢やスリングショットの類で投擲されてくると思しき石や木の実まで飛んでくる。これでは敵の主な武器も、相手がどんな都市伝説なのかも一切分からない。
 凍死兵達もそれぞれ攻撃に対して対応を取る事が出来るとはいえ、射かけられる攻撃は進軍のペースに若干の影響を与えていた。
 弘蔵は≪テンプル騎士団≫達と攻撃を弾く役目をしていたが、やがて一人戦列から離れて正体不明の敵の正体を暴こうと行動し始めた。
 ……これほど探しても見つからないか……。
 弘蔵は敵の姿を求めて攻撃が飛来してきた場所を探していたが、攻撃が飛んできた所に辿りついた時には既に敵は姿を消しているという事ばかりだった。今も道の両脇にずらりと並んでいる建物の一つに侵入した弘蔵だが、そこには既に何者かが居るような気配はない。また逃げられてしまったようだ。
 ここは敵が用意した戦場だ。何らかの抜け道がこの建物の内部に用意してあってもおかしくはない。そう思いながら弘蔵は先程からこの異界を覆う冬が弱まっているのを感知していた。
 ……これは出鼻をくじかれたかな?
 相手も馬鹿では無いという事だろう。こちらに対しての対処法を組んできているようだ。建物の窓から見下ろすと、大きな道を長大な戦列が行進を続けている。今のところ進軍自体にはなんら問題は起こっていないが、このまま敵がすんなりと徹心の異界の入り口まで通してくれるとは思えない。
 ……危険な要素を取り除く為に早くこの射撃の正体を掴みたい……。
 思いざま、弘蔵は背に担った二本ある槍の内の一本を引き抜いた。
「〝小松明〟」
 弘蔵の身体を炎が覆い、その姿が景色に溶ける。
 その効果を確認しながら、弘蔵は違和感を抱いた。
 ……? 隠行の炎が広範囲に広がらない?
 普段ならば他者の姿をも隠させる効果を付与する能力をもつ〝小松明〟の能力が、ぎりぎり弘蔵を隠す事が出来る程度にしか広がらないのだ。
 ……能力が……食われている? この空間の力か?
 おそらくそうだろう。槍の様子からそう判断し、弘蔵は建物の窓から外へと飛び出した。目指すのは道路を挟んだ向かいの建物の屋上だ。
 跳躍一つで辿りついた屋根の上で、弘蔵は姿を消しているこちらの気配を敏感に察して逃亡を図ろうとしていた気配へと即座に〝小松明〟を打ち振るった。
 ――捉えた! ……?
 奇妙な悲鳴らしきものを上げて槍に貫かれた敵の姿に、弘蔵は眉をひそめた。


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「オルコット、敵の正体……らしきものを掴んだ」
 姿を隠していた火の粉を散らせ、オルコットのもとへと現れた弘蔵の歯切れの悪い台詞にオルコットは合点のいかない表情を浮かべた。
「曖昧だな、捕らえたのか?」
「ああ」
 弘蔵は槍の穂先に刺して炎で焼きながら引き連れてきた敵をオルコットへと見せた。
「これは……?」
 エレナが困惑顔で呟く。
 それは大人一人分の大きさをしたきぐるみだった。デフォルメしたリスを模ったと思われるそれは、頭部を貫かれた状態で炎に炙られて既にぐったりとしている。
 オルコットはそのリスを見て呟く。
「マスコット……≪夢の国≫か」
「≪夢の国≫……以前学校町で暴れたという都市伝説か」
「だとしたらこの異界の情景にも説明がつく」
 ユーグが言ってオルコットが頷く。
「彼の国にはこのリスのような兵、――彼等の流儀では住人が多くいるらしい。武器がそれぞれ違うのは住人達が一番扱いやすい武器を使っているからだろう」
 これはとんだ隠し玉を用意していたものだとオルコットは思う。
 ……大規模な戦力の増強は無いと踏んでいたが、これはやられた。
「〝小松明〟の隠蔽が上手く働かなくなっている。≪冬将軍≫の冬もどうやら似たような状況のようだ。これも≪夢の国≫の影響か?」
「≪夢の国≫は話の元となった娯楽施設の事業拡大の話に関連して国の領域を侵す能力を妨害する能力を保持していると以前聞いた。おそらくはそれが原因だろう」
 得心したように弘蔵は唸る。オルコットもどうしたものかと思考する。
 ……国を治める者の力故の冬の緩和というわけか……王権とはまた厄介な代物を投入してくれたものだ。
 恐るべきはこの土壇場で≪夢の国≫の協力を取り付けた敵の顔の広さだろう。
 オルコットはリスの姿をした住人を件で叩き斬る。光となって住人は消えていくが、彼等は王が滅びない限りは死なない住人として蘇って来るのだろう。急がなければならない。そう心に思い、オルコットは軍全体に喝を入れる意味も兼ねて号する。
「この空間に居る間は敵の攻撃の主体は≪夢の国≫の住人と思え!」
 同時に弘蔵へと顔を向ける。
「弘蔵、お前に雷の主の討伐を任せたい。降って来る数は少ないが目ざわりだ」
「了解した」
 先程まで鳴り響いていた驚霆は既になりをひそめている。雷の主は無駄弾を撃たない主義らしい。しかし未だ空には雷の気配が漂っている。この後敵の将とぶつかる時に邪魔をされるわけにはいかない。
 応じた弘蔵はどこか楽しげに腰に差した刀を引き抜く。
「〝抜丸〟、探せ」
 引き抜かれたのは大蛇が襲いかかった時、勝手に鞘から抜けて大蛇を切ったという霊刀だ。雷の主を追わせるつもりだろう。弘蔵は宙に浮き、断つべき敵を捉えようとしている刀に視線をやりながらオルコットに言う。
「いくらか兵をもらっていくぞ」
「必要なだけ持って行くといい」
「景気がいいな。では武運を祈る、オルコット」
「そちらも、佳い戦を」
「ああ、――首を取って来る」
 そう言い置いて100からの兵と共に離脱する弘蔵を見送って、ユーグが本隊に注意を促す。
「礫の類は目くらましだ! 雷撃と銃矢にだけ注意しろ!」
 オルコット達本隊は進軍を続ける。≪夢の国≫内部、見方によっては不気味にも綺麗にも映るこの国は、オルコット達にとっては戦いづらい戦場であるようだった。


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 Tさんは水路を花弁が一枚流れていくのを視界の端に捉えた。
 ……氷が融けている。
「夢子ちゃんがやってくれたか」
 重い防寒具を脱ぎ棄ててTさんは最初の面倒は処理できたな、と一息をつく。
 ≪夢の国≫の能力をもってしても冬の影響が少なからず出ているのか、多少の肌寒さは感じるが、戦いが始まって体が温まればちょうど良い気温になるだろう。
 進軍の、地響きにも似た音が徐々に近づいてくる。視界には両脇を水路で挟まれた道の奥の方から突き進んでくる軍勢が映っていた。
 ……来る。
 大所帯で進軍してくる彼等はオルコットやエレナやユーグ、そして≪テンプル騎士団≫と騎馬隊を先頭にして道を猛烈な勢いで駆けて来る。徹心の異界への入り口がある場所までの道を一直線に駆け抜けていく算段だろう。
 ……最初から≪ピリ・レイスの地図≫を無効化しなかった恩恵だな。
 ≪ピリ・レイスの地図≫によって徹心の異界の入り口の位置が判明しているため、彼等は分隊をこしらえて≪夢の国≫中を捜索する必要もなく一丸となって目的地までの直線距離を駆け抜ける事が出来る。それは敵の全勢力が固まっているということであり、勢いに気を呑まれそうではあるが、
「この道も、高部徹心の異界へと繋がる入り口の位置も、それらの条件を全て飲んだ上での配置だ。――仕掛けにかかってもらうぞ、≪神智学協会≫」
 一網打尽に罠にかけるのにこれほど最適な布陣もなかった。
 Tさんはタイミングを見計らって手を振り上げる。
「破っ!」
 Tさんの手から放たれた閃光を合図に、配置に付いていた≪夢の国≫の住人が応じた。
 進軍してくる≪神智学協会≫の両側にある建物が爆発によって倒壊する。
 火薬による爆発だ。量と配置を計算されて積まれた爆薬の爆発は、建物の倒壊する方向を正確に道の内側、侵攻してくる≪神智学協会≫の軍勢へと向けた。
 倒壊してくる建物に対する≪神智学協会≫側の反応は率直だった。
 軍勢の先頭に立って全体を牽引していた≪テンプル騎士団≫の騎士達が総長ユーグと共に即座に戦列の側面へと移動してバフォメットの加護を展開し、各々の武器を振るって倒壊してくる建物を弾き飛ばしたのだ。
 被害無しとはいかないが、それでも彼等の進軍を止める程の被害を与える事は出来ていない。≪テンプル騎士団≫が倒壊した建物を防いでいる横を大して速度を落とす事無く突き進んでくる軍勢を見据えてTさんは呟いた。
「そう簡単にはいかないか……」
 手を再度振り上げる。
「第二陣、――今だ!」
 二回目の閃光に応えて再度爆発が発生した。今度は≪テンプル騎士団≫が先程の爆発への対応で手が回せない、先行した軍勢の本隊の半ばにあたる位置での爆発だ。建物の爆発と呼応するように、同時に道そのものに仕掛けられた爆薬も爆発する。倒壊した建物と道は、そのまま軍勢を半ばから分断するような形で道を埋めた。
 爆音の耳を害するような残響、瓦礫と埃、大量の土砂によって分断された道のありさまを確認してTさんは苦笑する。
「夢子ちゃんに怒られそうだ」
 背後にはいくつもの気配がある。それらに対してTさんは語りかけた。
「王の意志の下、俺の指示を聞いてくれる事を感謝する。いくら死が遠いとはいえ、俺達の相手は≪テンプル騎士団≫だ。呪詛に耐えられなくなったらすぐに退いてくれ。くれぐれも無茶な真似は慎むように、でないと王が悲しむ」
 無言のうちに了解の意を受け取って、Tさんは三度手を振り上げた。
「態勢を立て直される前に行くとしようか。これをもって敵を完全に分断するぞ!」
 気配の群れ――先程まで≪神智学協会≫へと射撃を浴びせていた異形の≪夢の国≫の住人達を率いて、Tさんは分断された道に取り残されたユーグが率いる≪テンプル騎士団≫と、≪冬将軍≫が喚び出した凍死兵の集団の方へと移動を始めた。







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