「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代の子供達-02a

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 日常とは、常に非日常の犠牲の上に成り立っている




               Red Cape






 4月も半ば過ぎ、新入生達が、まだまだ新しい学校に馴染もうとしていくこの時期
 彼、直斗は放課後の今もまだ、校舎に残っていた
 人気のない校舎の中を、ゆっくりと、まるで、何かを探すように歩きまわる
 かつん、かつん、と足音を響かせながら歩く様子は、普段のおどけた様子の彼とは、違って………

「あれ、なおっち。まだ帰ってなかったっす?」

 と、声をかけられ、直斗はぴたり、と足を止めた
 いつもの戯けた表情に戻ると、くるり、と振り返る
 そこにいたのは、クラスメイトの憐だ

「や、憐。憐もまだ帰ってなかったんだな」
「俺っちはー、部活決まったから、そっちの用事もあったっす。けど、なおっちは?」
「龍哉も、部活決まったみたいでそっちの用事があるっていうから、それ終わるまで、時間つぶしだ」

 いつものおどけた拍子で笑いながら答えると、なるほどー、と憐は笑った
 直斗とはまた違う、へらりとした笑顔を浮かべたまま

「それで、本当の理由は?」

 と、首を傾げてきた
 見ぬかれている、と感じ、直斗は苦笑する

「半分は本当。もう半分は、まぁ、見回りかな」

 見回り、と言う言葉に。憐が心配そうな表情を浮かべた
 そう言う表情をされるだろうな、とはわかっていたのだが。実際にその表情を見ると、申し訳なくと同時、劣等感のようなものを覚えた

「……危ないから、なおっちは、あんまそういう事しないでいいっすよ?」
「ま、そうだけどさ。怪しいもん見たら、すぐに誰かしらに伝えて、俺は逃げるから。そんな心配しなくて大丈夫だって」

 でも、と、憐は不安げな表情を消さない
 ……わかりきっていた事なのだ
 自分は、小学校から………いや、それ以前からの付き合いのグループの中で、「自分だけ」が、周囲とは違う
 だから、自分はこんなにも心配されているのだと、直斗は理解していた
 自分だけが違うが故に………ずっと共に親しく付き合ってきた仲でありながらも、ほんの僅か、壁が存在している事を理解していた

(………………俺だって)

 自分だって
 その気になれば、皆とは違うとは言え、皆と同じように、出来るのに
 ………その事実を知られていないが故、心配されてばかりで、皆と同じような事をしようとしても、周りはなかなか許さない

 仕方ないのだ、とも思っている
 だから、そのことで皆を恨むなどと言う、見当違いの事をするつもりはないが
 …………………それでも

「…?なおっち、どうか、したっす?」

 と、憐が首をかしげてきて、直斗は思考を引き戻した
 考えても仕方ない事を考えこむものではない
 ……自分、らしくない

「いんや、なんでもない………見回りは、もうちょいするつもりだからさ。心配してくれるんなら、一緒について来てくれるか?」
「へ?……まぁ、いいっすよ。戦闘向きではないっすけど、全然できない訳じゃないんで」

 直斗の言葉に、憐はへらり、と笑って了承してきた
 巻き込んで悪いな、と思いつつも、こうした方が憐を心配させずにすむのだから、仕方ない

 足音が、二人分になる
 かつん、かつん、と、二人分の足音が、夕暮れの校舎の中に響く

 かつん、かつん、かつん、かつん、かつん、かきん

 ぴたり、と、二人はほぼ同時に、歩みを止めた

 かきん、かきん、かきん

 何か、金属同士がぶつかり合う音
 音の発信源は………家庭科室
 憐に視線を向けると、こくり、と、小さく頷いてきた

「家庭科室で、出る可能性があるのはー………」
「「家庭科室の包丁」辺りか。飛び回ってるだけだから、ほっといてもいいっちゃいいが………」
「んー、でも、都市伝説を知らない人が、その現象に巻き込まれたら危ないっす。出来りゃあ、なんとかしたいっすけど」

 かきん、かきん、かきん、と聞こえてくる音を聞きながら、直斗は考えこむ
 「家庭科室の包丁」は、「放課後に無人の家庭科室で包丁が飛び回る」と言う都市伝説だ
 ある意味、「本体が存在しない」都市伝説である
 契約者が存在するならば、それを叩けばいいだけの話であるが、都市伝説単体、となると、少々対応が難しい
 まさか、家庭科室の包丁を破壊する訳にもいかないだろう。付喪神系ならそれで対処出来るかもしれないが、この都市伝説はそういった類ではないのだから

「一応、様子だけでも確認するか?」
「聞こえてくる音的に、包丁同士がチャンバラしてる予感っすから、覗くだけでちょっと危ない気が………先生に、報告した方が」

 と、憐の言葉が終わるよりも、前に

 ばりぃんっ!!と、ガラスが割れる音が響き渡った
 思わずそちらに視線を向けると、家庭科室の扉の窓が割れていて…………ふわり、と。包丁が、宙に浮いていた
 一振りではなく、いくつもの包丁が家庭科室から割れた窓を通って廊下へと飛び出してきていて

「………あっれ。あの都市伝説って、家庭科室から出て飛び回るもんだったっけか?」
「違うと思うっすー………あれ、まさか契約者、あり………?」

 都市伝説が、本来の伝承とは異なる行動パターンを見せた場合………それも、このような概念系都市伝説がそのようなパターンを見せた場合、高確率で契約者が存在する
 ならば、その契約者は、どこにいるのか
 契約者さえ見つけてなんとかすれば…………この飛び回る包丁を、何とかする事は、できる

 直斗はとっさに、契約者を探そうと家庭科室の中を覗きこもうとしたのだが

「危ないっ!」

 ぐっ、と憐に腕を引かれる。直後、直斗の目の前を包丁がひゅんっ、と通り過ぎた
 飛び回る包丁は、確実に直斗と憐を狙ってきている

「っち。さっさと家庭科室入って、契約者見つけるべきだったか」
「そうみたいっすねー………ちょっち、判断ミスっす、まずは、この包丁どうにかしねーと………」

 す、と、憐が直斗を庇うような位置に立った
 その様子に、直斗はほんの少し悔しげな表情を浮かべる

 あぁ、ほら
 結局、また、守られる
 自分は、本当なら「守る」立場に、なりたいというのに

「………憐、誰か呼んでくる。それまで、時間稼げるか?」

 ここに、憐を一人置いていく、と言う選択肢
 本当ならばとりたくない手段だが、自分がここで足手まといになるよりはマシだ
 憐は戦闘能力を全く持たない訳ではない………の、だが。契約都市伝説の能力で戦うとなると負担が大きいし、万が一としての「予備の都市伝説」を持ってはいるが………肝心のそれが、今、手元にはない
 自分がここにいる事で、憐が自身を庇おうとするだろう事はわかりきっているのなら、憐が傷つく可能性を少しでも減らす行動を取るべきなのだ

 直斗のその判断は、間違ってはいなかった
 ただ、直斗が動くよりも、早く、更に家庭科室の窓ガラスが割れて………ひゅんっ、と、新たな包丁が姿を現し、二人を挟み撃ちにする体勢をとってきた為、それは不可能となってしまった

 小さく舌打ちし、直斗は憐と背中合わせに立つ

「…俺っちが、なんとか道、開けるんで。そこを通って行ってほしいっす」
「できりゃあ、憐に怪我させたくないんだが………」

 ひゅんひゅん、と包丁が飛び回る
 二人が覚悟を決めるとほぼ同時、包丁は一斉に、二人に襲いかかってきて

 甲高い金属音と、低い激突音が、廊下に響き渡った

「………っ!」
「ぁ………」

 包丁は、二人には届いていない

「我が親友(とも)を傷つける事は、許しません」

 直斗の前に、その手に刀を手にした龍哉が立ち

「………俺の親友(ダチ)を、傷つけようとするんじゃねぇ!!」

 普段は翡翠色のその目を、爛々と金色に輝かせた遥が憐の前に立っていた
 直斗と憐に襲いかかった包丁を、龍哉と遥の二人が、それぞれたたき落としたのだ

 龍哉は刀を手にしているから、それで叩き落としたのだろう
 ただ、遥は素手である。その拳で飛び回る包丁を叩き落としたのならば、その拳は血にまみれているはずなのだが、傷ひとつついていない

 その理由を、直斗も、憐も。当然、龍哉も遥も理解している
 昔から、よくつるんでいたこの仲間内の中で、誰が何と契約しているのか、どんな能力なのか………自分達は皆、しっかりと理解しているのだから

「契約者はっ!?」
「推定、その家庭科室の中!」

 家庭科準備室からも、出た気配はない
 そして、ここは2階だ。窓から脱出するにも時間はかかる
 いるとしたら、まだ、家庭科室の中だろう
 直斗の言葉に呼応し、龍哉と遥はそれぞれ、家庭科室の左右の扉から家庭科室の中へと飛び込んでいった

 ………家庭科室から、何やら悲鳴が聞こえてきた
 勝負は、さほど時間がかかる事なくつくだろう、直斗も憐も、そう確信していた
 あの二人を相手にすると言うのなら、よほどの者でなければ、引き分けにすら持ち込めまい

「…りゅうっちとはるっちが来てくれて、良かったっす」

 ほっとした表情を浮かべる憐に、そうだな、と直斗は頷いてみせた
 ……おかげで、憐が怪我をせずに、すんだ

「じゃあ、俺、荒神先生に伝えてくるよ」
「あ、う、うん、お願いっす。俺っちは、一応、怪我人出た時に備えて、ここに残ってるっすから」

 直斗の言葉に、憐はこくり、と頷いてきた
 …まぁ、怪我人は出るだろう、間違いなく。「家庭科室の包丁」の契約者が十中八九怪我をする。多分、殺さないとは思う
 怪我人が、出なかったとしても。憐としては伯父と授業以外で顔を合わせるのは、なんとなく気まずいのかもしれない
 ………ならば、自分が、報告の役目を担うべきだ。直斗は、そう考えた
 せめて、そう言う方面で、役に立てるように

(…ま、一人で遭遇してたら、俺が全部片付けたんだけど)

 報告の必要もない状態に、していたのだけど
 まぁいいか、とそう考えて
 直斗は一人、戦闘の音を背後に聞きながら職員室へと向かう

 その、途中に

「…………」

 三階へと向かうクラスメイトの姿を見かけて
 その後ろをついていく存在に、気づいて

(……あぁ、あっちを片付けるのが先か)

 と、そう考えて、進路を変更したのだった






 非日常を知らぬ者が非日常に気づく必要はない
 気づいてしまえば、その瞬間から
 非日常と言う犠牲の中へと、足を踏み入れるのだから




               Red Cape



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