「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代の子供達-49a

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匿名ユーザー

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 学校街の北区は、今なおあまり開発が進んでいない地域である。
 田んぼが広がり、山にはまだまだ自然が残っている。
 そして、その山では時折イノシシが出たり、かなり低確率ではあるが熊が出る事もある。
 それ故か、その北区の山の中に好き好んで入る者はあまりいない。山菜の時期であれば山菜採りに向かう者がちらほらといるが、「山菜採りに山に入って行方不明」と言う毎年の風物詩が発生するため数はさほど多くない。

 そのような、山の中をうろちょろする、影が二つ。

「んー、いないなぁ、いい感じの獲物」

 ぽてぽてと歩きまわる少年のポニーテールにした髪がぽんぽん、と揺れて背中に当たる。
 その少年の傍を尽きそうローブ姿の老人は、ゆっくりと辺りを見回し、警戒しているようだった。

「それに、ゆいゆいともはぐれちゃったしー。もう、仕方ないなー、ゆいゆいは。ボクより年上なのに迷子になるなんて」

 違う、迷子になっているのはお前のほうだ
 そのように突っ込まなかった老人……ファザータイムは、なかなかに契約者たるこの少年には甘い。
 道に関しては自分が覚えているから問題ないと感じているのかもしれない。
 いざとなれば、携帯で連絡を取り合えばいいだけの事であるし。確か、彼女は携帯をきちんと持ってきていたはず。ミハエルの携帯も、ファザータイムが持っているし。

「せめて、大物捕まえて帰りたいよねー。お肉食べたいお肉!えっと、日本ではイノシシの肉の事、なんて言うんだっけ」
「ボタン、ではなかっただろうか。鹿がモミジで、馬がサクラ。植物に言い換えるようだな」
「そうそう、ボタン。でも、なんでわざわざそうやって言い換えるんだろうねー」

 確か、そこには日本の昔の仏教での殺生戒が影響していたとは思うが。ファザータイムは仏教関連についてはあまり詳しくない。
 ただ、そのような言い換えは日本らしいな、と妙な日本への偏見と共に感心はしていたが。

「ぼたん、ボタン鍋だっけー。美味しいかな」
「…まず、ヴィットリオ逹がボタン鍋を作れるかどうかが疑問なのだが」

 イタリア料理にイノシシ肉を使うものはあっただろうか。
 契約者と、そのように話しながら山の中を歩きまわり。

 ………気配。
 あまり、友好的なものではない。
 同じく山で迷っている者ではなさそうだ。
 こちらを狙っている………気配としては獣に近いが、獣とは違う遺失な気配。

 ちらり、ファザータイムはミハエルへと視線を向けた。
 ミハエルも、近づきつつある気配に気づいてはいるようだ。
 ただ、まだ鎌を出現させてはいない。
 鼻歌を歌い、まるで警戒なんてしていないよとでも言うように振舞っていた。

(……私の姿は消している。感知能力に優れていない限り、私を認識はしていないと思うが)

 それでも、警戒は必要だろう。
 大鎌を構え、いつでも襲撃者に対応できるよう、備えた。の、だが。

「いいよ、ファザータイム。ボクがやるから」
「……だが」
「平気平気、大丈夫」

 にぱぁっ、とミハエルは子供っぽく、笑ってみせてきた。
 ファザータイムと契約した当初と何も変わらない、無邪気な笑顔。
 「狐」に魅入られ、魅了されてもそれは変わることがない。その点については、ファザータイムはほっとしていた。
 魅了された事によって、契約者に大きな変化が起きていたならば、ファザータイムは「狐」を決して許してはいなかったのだから。

 ……ガサガサと、音が聞こえ始めた。
 気配が、攻撃射程範囲にまで、近づきてきたのだろうか。

 けたましい雄叫びが山中に響き渡った。
 最も、その雄叫びは屠殺されようとする豚の絶叫にも、似ていたのだが。

 飛びかかってきたのは、「豚男」と言い表すのが最もふさわしいと思える姿をしていた。
 人間の首から上が、豚なのだ。
 確か、アメリカの田舎の方では「ピッグマン」と呼ばれる都市伝説が損座していたはずだ。
 恐らく、これもまた、その一種なのだろう。
 アメリカから遠く離れた日本と言う国の、こんな山奥で出現するのは些か異様ではあるが、なにせここは「学校町」だ。
 しかも、「狐」や「バビロンの大淫婦」が学校町に入り込んでいる今、そのどちらかが連れ込んだ都市伝説が野生化していたり、暴れている可能性もある。
 このピッグマンは後者であろう、ファザータイムはそう判断した。
 ミハエルと同じく「狐」の配下であるならば、自分達にも多少は情報が入っているはずだ。

(下っ端の下っ端にも、このような豚男の記憶は、なし)

 ……ならば。
 刈り取ってしまって、問題あるまい。

 飛びかかってきたそれは、迷うことなくミハエルを標的としているようだった。
 肉食であるのか、それとも別の目的か。
 見た目が無力な少年(遠目に見れば少女に見えなくもない)への殺意に満ちたその突撃は、本当に無力な少年であれば恐怖で立ち尽くし、反応等できないだろう。

 しかし。
 ………しかし。
 己の契約者は、その程度の殺気で威圧されるような弱々しい存在では、ない。

 にこり、ミハエルが笑う。
 ひゅんっ、と出現させた大鎌で、ピッグマンの突撃を防いだ。
 自分よりも大きな体の相手の突撃でも、押し負ける事なく逆に押し返す。
 豚頭のその双眸に、驚愕の色が浮かんだ様子をファザータイムは確かに見た。

 不意打ちに全てを賭けていたのだろう。
 ピッグマンは、尻尾を巻いて逃げに走る。
 イノシシはともかく、豚はさほど勇敢な生き物でもない。
 相手が「自分よりも強い」と判断した時点で、逃げに走るのは当然といえば当然かもしれなかった。

「駄目だよ、逃がさない」

 ひゅんっ、と風をきる音。
 ぱっ、と血飛沫が辺りを汚す。
 大鎌の一振りで、ぽぉん、と、豚の頭が跳んだ。
 胴体と首が泣き別れになれば、それはただの人間の男の死体と豚の頭にしか見えなかった。

 逃げる相手は追撃する。
 攻撃されたら相手が死ぬまでやり返す。
 それがファザータイムの契約者たるミハエル・ハイデッガーのやり方であり生き方だ。
 そうするのが「当然」とミハエルは見ているし、ファザータイムとしてもミハエルがそう考え、そのような世界で生き続けるつもりであれば口をだすつもりもない。
 だから、ずっとそのままだし、これからもそうなのだ。

「…よっし、殺しても消えないタイプだね。イノシシ肉じゃないけど、豚肉だ!」

 うきうきと、転がるピッグマンの頭を拾いながら、きゃっきゃっ、とミハエルは笑う。
 その様子を、ファザータイムは微笑ましく思いながら、じっと見守っていたのだった。




「見守っちゃ駄目でしょ。それは食べたくないわよ、私」
「あれー?ゆいゆい、豚肉嫌い?」
「首から下が人間な時点で人肉食べるような感じになるじゃない!ぜっっっったいに嫌!!!」

 ………と。
 駆けつけてきた、同じ「狐」の配下である少女から、盛大な拒絶が入った。
 言われてみれば、確かに豚部分より人間部分が多い都市伝説だ。
 人肉扱いの方が妥当かもしれない。

「ミハエル。流石に人肉は腹をこわす可能性がある」
「えー。でも、お肉ー……」

 むーむーと不満気なミハエルだが、ここは阻止しなければならない。
 契約者が妙なものを食べて腹をこわすのは、困る。

「おじいちゃん、もうちょっと強く止めてよ!ほら、肉なら私がイノシシ狩ったから、これでいいでしょ!?」

 そう言うと、彼女はドンッ!!と、なかなかのサイズのイノシシを見せてきた。
 大きな刃物でばっさりと斬り裂かれた傷が残るイノシシの死体に、ミハエルはおー、と機嫌を直した声をだす。

「すごーい、カタナでばっさり一撃?もー、切ってるとこ見たかったなー」
「はいはい、今度見せてあげるから。今は、これを持って帰るわよ。早く処理しないと美味しくないお肉になるでしょうし。おじいちゃんも、これ運ぶの手伝って」
「……あぁ、わかった」

 ミハエルにこれを運ばせるわけにも行かない。
 そう考えて、ファザータイムはそのイノシシの死体を持ち上げた。
 さて、これで今夜はイノシシ肉を契約者が食べられそうだ。
 この少女には、感謝しなければ。


 まるで、祖父と孫二人のように穏やかな会話をしながら、三人は山を下る。
 そこには血の跡と、ピッグマンの死体だけが、そこに残されたのだった


to be … ?


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