01 兆し
「駄目だ、足取りはさっぱり」
それが、半ば無理矢理三万円を押し付ける形で依頼した調査に対する回答だった
まあ予想はしてたとはいえ手がかりが何も無いというのは、実際きつい
まあ予想はしてたとはいえ手がかりが何も無いというのは、実際きつい
風が回っている
昼過ぎまでは殺人的な日差しだったのに
夕方から広がり出した暗雲が今や空を覆っている
こりゃ本格的な土砂降りになるだろう
昼過ぎまでは殺人的な日差しだったのに
夕方から広がり出した暗雲が今や空を覆っている
こりゃ本格的な土砂降りになるだろう
「だが何もないわけじゃないぜ、かなり匂う話も聞いた」
「どんな?」
「『モスマン』だ、しかも群れで目撃されてる」
「『モスマン』? ただの都市伝説では無い、ってことか?」
「北区だ、たまに深夜に東区でも見られてる
少なくとも自然発生した『野良』じゃない、最近だ
最近になって他の連中も急に見かけるようになったんだ
しかも『モスマン』だぜ? 誰かが外から持ち込んだって考えるのが自然だろ」
「どんな?」
「『モスマン』だ、しかも群れで目撃されてる」
「『モスマン』? ただの都市伝説では無い、ってことか?」
「北区だ、たまに深夜に東区でも見られてる
少なくとも自然発生した『野良』じゃない、最近だ
最近になって他の連中も急に見かけるようになったんだ
しかも『モスマン』だぜ? 誰かが外から持ち込んだって考えるのが自然だろ」
誰かが、持ち込んだ
か、あるいは外から入り込んで来た
確かに時期が時期だ、マークしておいた方がいいだろう
か、あるいは外から入り込んで来た
確かに時期が時期だ、マークしておいた方がいいだろう
目の前の人面犬は前脚を器用に使って缶の日本茶を啜っている
不意に周囲を見回した
南区は学校町の中でも賑やかな地区だがそれも場所によるらしい
現にこの公園の所在も南区だが人の気配が全く無い
不意に周囲を見回した
南区は学校町の中でも賑やかな地区だがそれも場所によるらしい
現にこの公園の所在も南区だが人の気配が全く無い
「細々した話は色々聞いたが最有力はこれだな」
「なんか悪いね」
「へっ、金を受け取ったからにはな、きっちり仕事はするぜぇ」
「なんか悪いね」
「へっ、金を受け取ったからにはな、きっちり仕事はするぜぇ」
人面犬は顔を歪めて笑っている
「『組織』が動いてるかは知らねーがな、知り合いのとこは『モスマン』と小競り合いになったらしい
ただ、おおっぴらに人間を襲ったって話は聞かなかったし、向こうも考える頭はあるってことじゃねーの?
だからっつって、『野良』なら襲ってもいいってことにはならないけどな」
「今はまだ積極的には動いていない、か」
「まあそんな所だろ」
ただ、おおっぴらに人間を襲ったって話は聞かなかったし、向こうも考える頭はあるってことじゃねーの?
だからっつって、『野良』なら襲ってもいいってことにはならないけどな」
「今はまだ積極的には動いていない、か」
「まあそんな所だろ」
仮に、「モスマン」が統制の取れた駒なのだとしたら
今はまだ命令待ちの状態なのかもしれない
今はまだ命令待ちの状態なのかもしれない
「なあ」
「うん?」
「うん?」
人面犬はいつの間にかこちらに背を向けていた
「いざって時は『モスマン』の退治、シクヨロな」
「俺が? ……『組織』に任せた方が良くない?」
「強いんだろ? 契約者さんよぉ」
「何言いだすんだよおい、勘弁してくれよ」
「俺が? ……『組織』に任せた方が良くない?」
「強いんだろ? 契約者さんよぉ」
「何言いだすんだよおい、勘弁してくれよ」
当初この町に越してきた時は能力をあまり使わない、昔みたいにしないと誓いを立てたもんだ
しかしこうして知り合いが出来て頼まれたりもすると、容易く揺らいでしまう
まあこれもぼんやりと予想してたことではある
しかしこうして知り合いが出来て頼まれたりもすると、容易く揺らいでしまう
まあこれもぼんやりと予想してたことではある
「なあ、おっさん」
人面犬の背に呼び掛けた
「やばい時は逃げてくれよ?」
ハッ、そんな答えが返ってくる
「こちとら逃げ足だけは他の連中より速えーんだよ」
一体、どう脚を器用に動かせばそんな芸当ができるのか
人面犬のおっさんがさっきまで飲んでた缶が小気味いい音と共に蹴り飛ばされた
放物線を描きながら自販機の隣の缶籠の中に放り込まれる
人面犬のおっさんがさっきまで飲んでた缶が小気味いい音と共に蹴り飛ばされた
放物線を描きながら自販機の隣の缶籠の中に放り込まれる
「一応まだまだ調べてやるぜ、俺も興味湧いてきたしな」
「あんま無理すんなよおっさん」
「ばっきゃろ、ほどほどに無理しとかないと生き物は錆びちまうんだよ」
「あんま無理すんなよおっさん」
「ばっきゃろ、ほどほどに無理しとかないと生き物は錆びちまうんだよ」
んじゃな
そう言って人面犬は公園を走り去っていった
空模様は一段とよろしくない雰囲気になってきている
頃合いか、俺もベンチから立ち上がった
そう言って人面犬は公園を走り去っていった
空模様は一段とよろしくない雰囲気になってきている
頃合いか、俺もベンチから立ち上がった
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