02 誰何
この町はヒトにあらざるモノを魅き憑けると、そう言われてきた
町の外からナニがやって来たのか、という噂はこの町に棲む闇の住人達の間で囁かれるのが常だった
町の外からナニがやって来たのか、という噂はこの町に棲む闇の住人達の間で囁かれるのが常だった
そしてこれは
嘘か真か、「狐」がやって来たという噂が闇の間を流れ始めた時期のことだ
嘘か真か、「狐」がやって来たという噂が闇の間を流れ始めた時期のことだ
「こんにちは、ちょっとすいません」
“学校町”西区、林立する工場の影が落ちる路地で、警察官が制服姿の少女に声を掛けた
着ている制服は町の外部にある私立高校の制服だ
少女は静かに振り向いた
着ている制服は町の外部にある私立高校の制服だ
少女は静かに振り向いた
「こんにちは、帰宅途中ですか?」
「私に何か御用でしょうか」
「私に何か御用でしょうか」
警察官の質問に少女も質問で返す
にこやかな顔をした警察官の口元が一瞬ひくついた
にこやかな顔をした警察官の口元が一瞬ひくついた
「少しうかがいたい事があるのですが。あ、こちらへどうぞ」
「私に、聞きたいことが、あるのですか?」
「私に、聞きたいことが、あるのですか?」
時分は夕暮れ
丁度路地の影に黄昏の赤が混じる頃合いだ
笑顔を貼り付けた警察官は路地のひときわ暗い奥へと少女を誘おうとする
丁度路地の影に黄昏の赤が混じる頃合いだ
笑顔を貼り付けた警察官は路地のひときわ暗い奥へと少女を誘おうとする
「お巡りさん」
少女は素直に警察官の後に付き従った
彼女の声に警察官は一切答えず振り向きもしない
彼女の声に警察官は一切答えず振り向きもしない
不意に警察官は立ち止まった
「こんな路地裏で、私に、何を聞きたいのです、か?」
「何だと思う?」
「何だと思う?」
少女の問いに、彼は嗤いを押し殺したような声で答える
不意に響く鋭い金属音とほぼ同時に、警察官は少女の方へと振り返った
不意に響く鋭い金属音とほぼ同時に、警察官は少女の方へと振り返った
その手には警棒が握られていた
顔面の微笑みからは最早隠すつもりも無い悪意が滲んでいる
顔面の微笑みからは最早隠すつもりも無い悪意が滲んでいる
「いやぁ、こんなにあっさり引っ掛かるなんて、ねッ!」
警察官は今や嘲りと共に、少女の頭部へ警棒を叩き付けようと腕を大きく振りかぶり
「 玉兎、十六式 ―― 『"影" 鳥 "闇" 猿』 」
あっさりと阻止された
“何か”が警察官の動きを邪魔したのだ
“何か”が警察官の動きを邪魔したのだ
「んなッ!? こッ、これは、グぬわッ!?」
警察官が驚く猶予も与えず、“何か”が彼を地面に叩き伏せる
弾かれた警棒が乾いた音を立てて転がった
弾かれた警棒が乾いた音を立てて転がった
「ふふ」
暗がりに響くのは少女の笑い
はっと警察官が少女の方を見ようとした
だが彼の首が動く前に、“何か”が頭を掴んで再度顔面を地面に打ち付けた
はっと警察官が少女の方を見ようとした
だが彼の首が動く前に、“何か”が頭を掴んで再度顔面を地面に打ち付けた
「私に、一体、何の御用ですか? 『偽警官』さん?」
苦悶の声を上げる警察官に少女の声が掛かる
警察官は彼女の顔を見るどころでは無いのだが、少女は笑っているようだった
警察官は彼女の顔を見るどころでは無いのだが、少女は笑っているようだった
いきなり警察官の体が地面に引き摺られる
“何か”が警察官を引き摺っているのだ
不自然な挙動で警察官の体が起き上がるとそのままコンクリートの壁に叩き付けられた
“何か”が警察官を引き摺っているのだ
不自然な挙動で警察官の体が起き上がるとそのままコンクリートの壁に叩き付けられた
「なっ、なっ、何だ、何なんだっ!? 誰だお前はっ、誰なんだっ!! 契約者か!?」
体中を締め上げられる苦痛に喘ぎながら彼は悲鳴のような問いを発する
前方は先程やって来た路地の方だ、西日の赤が闇を深め始めている
少女の顔は逆光となって覗う事ができないが笑っているのは確かだ
前方は先程やって来た路地の方だ、西日の赤が闇を深め始めている
少女の顔は逆光となって覗う事ができないが笑っているのは確かだ
「私の名前を、聞きたいのです、か?」
彼女の声は穏やかだった
警察官の口から断続的に怯えた声が漏れる
彼女の声を聞いて警察官は恐怖に駆られているようだ
警察官の口から断続的に怯えた声が漏れる
彼女の声を聞いて警察官は恐怖に駆られているようだ
「ならば、名乗りましょうか
私は、ノクターン
マジカル★ノクターンと、申します」
マジカル★ノクターンと、申します」
視界の端を、“何か”が動く
警察官は怖さのあまり眼だけを動かして正体を確かめようとした
警察官は怖さのあまり眼だけを動かして正体を確かめようとした
「『偽警官』さん」
少女の声
警察官は悲鳴を上げて、再度少女の顔を見た
その顔は闇と影でよく分からない
警察官は悲鳴を上げて、再度少女の顔を見た
その顔は闇と影でよく分からない
「私も
あなたに、訊きたいことが、あるのだけれど
いいかしら?」
あなたに、訊きたいことが、あるのだけれど
いいかしら?」
最早、警察官は少女の声を聞いていないようだった
“何か”を振り解こうともがくが拘束からは一向に逃れられない
“何か”を振り解こうともがくが拘束からは一向に逃れられない
「『狐』」
その言葉を聞いた瞬間、警察官の動きが止まった
彼の顔には先程より明確な恐怖の色が現れている
彼の顔には先程より明確な恐怖の色が現れている
「御存じ、でしょうか?
最近になって、“学校町”に入り込んで来たらしいのです、が」
最近になって、“学校町”に入り込んで来たらしいのです、が」
警察官は少女の顔を凝視した
「『偽警官』さん、あなた、ご存じ、ないですか?」
「知らないッ」
「知らないッ」
応答は殆ど反射的だった
だがその声色には顔面と同様に明らかな恐怖が滲んでいる
だがその声色には顔面と同様に明らかな恐怖が滲んでいる
「嘘は」
少女は一歩、警察官に向かって歩み寄った
「あなたの、身の為になりませんよ?
『偽警官』さん」
『偽警官』さん」
「偽警官」、そう呼ばれた彼の背筋にうすら寒いモノが走る
少女の顔がはっきり見える、この状況に不釣り合いなほどの笑顔だ
少女の顔がはっきり見える、この状況に不釣り合いなほどの笑顔だ
目の前の恐怖から逃れようと視線を彷徨わせる
少女の周囲には地面から無数の“何か”が生えていた
少女の周囲には地面から無数の“何か”が生えていた
それは細く、周囲の影より暗く、天に向かって伸びていた
その先端はまるで、人間の手のような形状をしている
それこそ「偽警官」の動きを封じた“何か”の正体だ
その先端はまるで、人間の手のような形状をしている
それこそ「偽警官」の動きを封じた“何か”の正体だ
少女は「偽警官」に対して微笑んでいた
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