「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代の子供達-64

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 時間がない
 時間がないのだ
 早く、早くしなければ


 私には時間がない
 早く、力を取り戻さなければ








 夕日が完全に沈みきり、夜と言う暗闇が学校町へと完全に降り立った
 人の文明が進むたび、夜の暗闇は人間が生み出す光によって狭められていっているが……人間逹は気づけていない
 闇を狭めれば狭める程に、光ある場所から見える闇が恐ろしく見える事に
 闇を狭めれば狭める程に、闇はより濃く、深くなっていくその事実に
 気づかぬままに、光を増やし闇を駆逐したのだと勝ち誇る人間共の、何たる愚かな事か

 ……しかし
 ならば、そんな愚かな人間の思いから生まれたのだという、己は

(……どうだって、いい)

 どうでもいい
 そんな事を考える必要性等ない
 愚かな人間が、己のような存在を生み出したのだとしたら、それは誘惑され滅びる事を願っている、と言う事
 ならば、その望みを叶えてやれば良いだけの事

 あぁ、そうだ
 人間は、本当に愚かだ
 その望みを叶えてやろうと言うのに、それを邪魔してくるのだから

(その為にも、顔を………肉体を、新しくしなければ……!)

 夜の闇の中を、光を避けるように渡り歩き、次の宿主を探す
 目をつけている相手はいるのだ
 それさえ、見つけ出せば……

「……!」

 気配と、聞こえてきた小さな歌声に足を止める
 誰かが、薄暗さの恐怖から逃れるように鼻歌でも歌いながら近づいてきているようだった
 とっさに隠れ、その行動に苛立ちが高まる
 何故、隠れなければいけない
 この顔の、傷跡さえなければ………!

(……隠れなくても、いいじゃない)

 そうだ、何故、隠れ続けなければならない
 どうせ、近づいてきているのは人間だろう
 人間一人程度であれば、今のこの顔であっても、薄暗さに隠されて誘惑の邪魔にならない
 顔こそ傷ついたが、己には声が、肉体が残っている
 ……人間程度、誘惑できる

 す、と近づいてくる影の様子を伺う
 それは、ハイティーンの少年だった
 顔立ちや髪と瞳の色から見て、日本人ではないか、もしくはハーフか……どちらでもいい
 ここで一人でも誘惑してしまえば、盾にするなりなんなり、使い用はいくらでもある
 息を潜め、気配を潜め、その少年に、近づき、手を伸ばす
 少年の肩に手が触れそうになった、その時だった

 ーーーーぞくっ、と
 激しい悪寒と………熱を、感じた

「っあ、ぁああああああああああ!!??」

 熱い
 熱い、熱い熱いあついあついあついあついあついアツイアツイアツイアツイあついぃいいいいいいい!?

 覚えのある熱だった
 幾重にも叩き込まれる、殺意の篭った熱
 己は、この熱を知っている
 忘れる事など、あるはずもない
 この熱は、己の顔に火傷を刻み込んだ熱なのだから


「………見つけたぞ」

 冷たい声も、聞き覚えがある
 忘れるはずもない
 己の顔に火傷と言う醜い傷をつけた男の事を忘れるはずも、ない

 少年の背後に、その男はいた
 「教会」の異端審問官、ジェルトヴァ
 ヨーロッパにおいて、「教会」と敵対する者………特に、悪魔や魔女と呼ばれる類の者で、この男を知らぬ者などいないだろう
 「教会」に敵対する者を容赦なく狩り続けてきた、元「十三使徒」候補の一人でもある異端審問官
 それは、己へと向けられた死神に等しかった

「レン、下がれ」
「はい……ジェルトヴァさん、お気をつけて、っす」

 レンと呼ばれた少年は、素直にジェルトヴァの背後へと下がった
 こちらを見る表情に怯えはない
 幾重にも枝分かれした燃え盛る鞭を叩きつけられ、半身を焼かれたこの姿を見ても怯えていないその様子は、ただの人間ではなかった

(……っ契約者!)

 戦いに慣れている、契約者だ
 かすかに、己にとって嫌な気配がするような、しないような
 どちらにせよ、まずい
 まずい、まずい、まずい、まずい
 肉体が、持たない
 痛みが、熱が、体の半分以上を支配して、まともに動かす事すらできない

(この、肉体を………「捨て」なければ……!)

 一刻も早く、この肉体を離れて次の肉体へと移らなければ
 この際、目をつけていたあの少女でなくとも構わない
 とにかく、次の肉体へと………!

 一方的に結んでいた契約を断ち切る
 己が抜け出したその肉体は、もはや元の肉体の主の自我すら残っていなかった肉体は倒れ込んだまま動かなくなる

 実態を持たない己の姿を、ジェルトヴァも、レンとか言う少年もしっかりと目で追ってくる
 ジェルトヴァが再び振るった鞭を、すんでのところせ避けて逃げる
 なりふりなど、構っていられない
 肉体を得ていない状態が続けば、己は消滅してしまうのだ
 どこか、どこかに、人間は、肉体は……

 角を曲がり、曲がり、少しでも姿を隠すようにしながら逃げて………

「………!」

 「運命」と言うものに、感謝する
 己の目の前から、携帯端末を弄りながら歩いてきている少女は、間違いなく、己が「次の肉体に」と目をつけていた、少女
 そのまま、素早く近づき、手を伸ばす

「……え?」

 実態を伴わぬとはいえ、ここまで近づけば気づくのか
 少女はこちらを見て、間の抜けた声を上げてきたが……もう、遅い

 少女に触れる
 そのまま。肉体へと入り込み



「ーーーーーーーーーーえ?」





 ……見失った
 その失態に、ジェルトヴァは舌打ちする
 あの「バビロンの大淫婦」は、人間の肉体を奪った状態でなければ存在できない
 もはや元の人間の魂は消え失せ、動く肉塊でしかなかったあの肉体であっても、「バビロンの大淫婦」が入っていれば、死体にはならない
 しかし、「バビロンの大淫婦」が肉体を捨てた今、あの肉体は一気に腐り果て、先に受けていた鞭の炎によって、そのまま燃やし尽くされて消えた
 肉体を捨てたあの状態では長時間行動はできない
 ジェルトヴァと憐の肉体を奪うと言う行動は行わなかったのだから、別の肉体を見つけなければ消えてしまう
 死に物狂いで逃げるそれを、逃してしまうとは

「……っすみません」
「お前が謝る必要はない。私のミスだ」
「………でも」

 憐は、少し不安そうな表情を浮かべていた
 「シェキナーの弓」を持っている状態だったならば、と、そう考えたのかもしれない
 普段、母親であるフェリシテから借りている「シェキナーの弓」を、今、憐は持っていなかった
 「バビロンの大淫婦」「狐」だけではなく、他にも物騒な事件が多発している今、母から身を守る術を奪ってしまっていることに申し訳無さを感じた憐が、母に返していたのだ
 憐が「シェキナーの弓」を所持していたままであれば、逃げる「バビロンの大淫婦」を追撃できたかもしれないが

(……私が、仕留め損ねたのが、悪い)

 憐には責任はない
 責任があるのは、自分だ

 とにかく、「バビロンの大淫婦」の気配を追い続ける
 何度も角を曲がり続け、そして

「………何?」

 消えた
 「バビロンの大淫婦」の気配が……完全に、消滅した
 この学校町から、「バビロンの大淫婦」の存在が、完全に消え失せたのだ

 そこに、人影はなかった
 ただ、スマートフォンが地面に落ちている
 キラキラと煌くピンク色のケースに入っていて、白い顔に赤い目をした黄色い尻尾の狐の人形がついたストラップがついている

「……………咲夜?」

 ジェルトヴァが拾い上げたそのスマートフォンを見て
 憐は、真っ青な顔で、そう呟いた




to be … ?




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