「嵐の前触れ」
「ホロウさん、これ何の事だか知りませんか?」
そう言って彼の人からぴらりと見せられたのは一枚の紙きれ。
―― 近日中、学校町にて≪夢の国≫が大きなパレードを開催する。各々方注意されたし。 ――
「今日帰りに駅前で配ってたんです。
≪夢の国≫のパレードって……近い内に何かイベントでもあるんですかね?」
≪夢の国≫のパレードって……近い内に何かイベントでもあるんですかね?」
「………………」
「うーん」と考え込む彼女から再び紙に目を戻すと、≪夢の国≫とひときわ強調された部分が嫌でも目に飛び込んできた。
≪夢の国≫、その噂はここ数日で急速に広まり、己の耳にもそれは届いていた。
『異形のものたちを率いた少女が夜な夜なこの学校町に現れ、子供達を連れて行く』
そしてそれは時に都市伝説をも取り込み、≪パレード≫は日に日に拡大しているという。
彼女と共にこの町で暮らす様になって約一月、日が経つにつれだんだんとこの町の異様さに気づき始めていた。
彼女と共にこの町で暮らす様になって約一月、日が経つにつれだんだんとこの町の異様さに気づき始めていた。
それは常に付きまとい続ける他の都市伝説達の色濃い気配だった。
確かに現代では都市伝説は数え切れない程存在し、それぞれが人々の暮らしの中にうまく紛れて暮らしている。
しかし大抵は存在するだけで精一杯な力の弱いものばかりであり、ごく稀に己の欲求や本能を抑えられないものが人を襲ったりしてその存在を主張する。
しかしそばに居るだけ、何もしない状態ですらいくつかの反応を感じるというのはさすがに異常だ。
加えて以前まで彼女が暮らしていた場所と比べても、はっきりとした反応など数えるほどしかなかったというのに、だ。
確かに現代では都市伝説は数え切れない程存在し、それぞれが人々の暮らしの中にうまく紛れて暮らしている。
しかし大抵は存在するだけで精一杯な力の弱いものばかりであり、ごく稀に己の欲求や本能を抑えられないものが人を襲ったりしてその存在を主張する。
しかしそばに居るだけ、何もしない状態ですらいくつかの反応を感じるというのはさすがに異常だ。
加えて以前まで彼女が暮らしていた場所と比べても、はっきりとした反応など数えるほどしかなかったというのに、だ。
つい先日も、影ながら強い契約者の反応を感じ取っていた。
それははっきりと彼女に向けられていて――幸い気づかれる前に彼女自らがその場を離れたので事なきを得たのだが。
それははっきりと彼女に向けられていて――幸い気づかれる前に彼女自らがその場を離れたので事なきを得たのだが。
それに追い討ちをかける様に飛び込んできたのは≪夢の国≫という未知の都市伝説の存在。
突如現れては消えるという≪パレード≫は夜な夜な他の都市伝説やこの町に暮らす契約者と火花を散らし、ある時は敗れ、ある時は追い返してみせたりと一進一退を繰り返しているらしい。
突如現れては消えるという≪パレード≫は夜な夜な他の都市伝説やこの町に暮らす契約者と火花を散らし、ある時は敗れ、ある時は追い返してみせたりと一進一退を繰り返しているらしい。
……もし万が一そんな輩が己の契約者と接触してしまったら。
そして彼女の身に危険が及ぶような事があれば――そう考えるだけで言い知れぬ不安にかられる。
そして彼女の身に危険が及ぶような事があれば――そう考えるだけで言い知れぬ不安にかられる。
かつて己は、自分の身勝手な願いで幼い彼女と≪契約≫を結んでしまった。
しかしそれは半ばしか果たされず、その上ようやく己のしてしまった事に気づいた頃には、彼女は遠く離れた国へと渡ってしまった後だった。
しかしそれは半ばしか果たされず、その上ようやく己のしてしまった事に気づいた頃には、彼女は遠く離れた国へと渡ってしまった後だった。
それからすぐに己は彼女の後を追いかけた。
日々彼女に迫る都市伝説達を何人も影で葬り、必死で彼女の身を守り続けた。
それらはすべて己が招いた事の償いであり、再び彼女に≪契約≫を迫る気は全くなかった。
しかしそれでも、彼女には何度も怖い目にあわせてしまった。
そしてそれは完全な≪契約≫が交わされた今もなお続いているのだ。
日々彼女に迫る都市伝説達を何人も影で葬り、必死で彼女の身を守り続けた。
それらはすべて己が招いた事の償いであり、再び彼女に≪契約≫を迫る気は全くなかった。
しかしそれでも、彼女には何度も怖い目にあわせてしまった。
そしてそれは完全な≪契約≫が交わされた今もなお続いているのだ。
「ホロウさーん?」
ふと聞こえた声に我に返ると、不思議そうな表情を浮かべた彼の人がこちらをじっと見つめていた。
「どうしたんですか? あ、もしかして何か知ってます?」
期待に満ちた様子で身を乗り出してくる彼女に、電子辞書に短い文章を打ち込む。
『いいえ 何も知りません』
「あれ、ホロウさんも知りませんか……じゃあ何なんでしょうね一体」
残念そうにつぶやく彼女に、今度は別の文章を打ち込んでみせる。
『それより 今日あなたはもう寝る時間ではありませんか?』
「あっ、そうだ明日朝一の授業でした……じゃあ今日はお開きですかね」
はあ、とため息を一つ、彼女は空になったマグカップを持ってを流しに向かう。
そのわずかな間に、ひそかに一文の書かれた紙を懐へとしまい込んだ。
そのわずかな間に、ひそかに一文の書かれた紙を懐へとしまい込んだ。
そう、それでいい。
貴方はそれ以上『こちら側』を知らなくていいのだ。
貴方に降りかかる災いは全て己が引き受けよう。
だから、せめて貴方にはいつも変わらず笑っていてほしいのだ。
私の愛しい≪姫君≫よ、どうかそのままで――。
<Fin>