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連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-04b

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


カシマさん ─ 少女視点(後編)


気付くと、目が覚めていた
すでにカシマさんは消滅している
今は一人、孤独

ぼんやりと考える、姫さまのことを……
憧れていた、彼女に

彼女に魅力を感じていた
外見の美しさだけで無く、あふれ出て感じられる
その芯の強さ

彼のことが無ければ、取り巻き達と同じ様に
信者にだってなれたかもしれない

どこで間違ってしまったのだろう
どうやったら戻れるのだろう

『信じたいヒトがいる、そのヒトの仲間達を見ればそのヒトの在り方が判る』

あの少年に、私はどう見えるのだろうか
私の仲間は誰なのか
私を信じてくれるヒトはいるのか

涙がこぼれ、嗚咽する

*



学校を休んだ
母は心配していたが、体調が悪いと伝えると
休みの手続きをしてくれた

数日前までは、母の心配そうな表情に苛立ちすら覚えたが
───何故、心配していたのだろうか?───
今は胸が締め付けられる様な苦しさを感じる

どうして心配してくれるのだろう
こんな醜い心をしているのに
知らないから?この醜い心を

「どうして……そんな顔するの?」
「何?」
「どうして心配してくれるの?仮病だって判ってるんでしょ?」
「学校で何かあった?……失恋でもした?」
「?!」
「……やっぱり」
「……なん…で……」
「いわゆる女の勘ってヤツね、それに……」
「…………」
「見ていれば判るわ……あなたの母ですもの」

自然に涙がこぼれていた
今度は大きな声を上げて泣いた
赤ん坊の様に

頬を伝う雫が
焼ける様に熱かった

壊れそうな心をかろうじて繋ぎ止める

私は──誰も居ない真っ暗な部屋で──泣いた

*



次の日、学校へいくと
女生徒2人が声を掛けてきた
「おっ!サチ、元気になった?」
「サっち~ん、おはよ~う!」
───突然に声を掛けられて驚く……が、ごく自然なことのはずだ
「……うん、体調はもう良いよ」
「そっか~、なんか~最近おかしかったから~」
「心配してたんだよな!」
───心配?私のことを?
「やっぱり~、失恋したっぽいかな~って」
「お前、サラッと核心突くなよ!」
「そっか、知ってたんだ……」
「んー、なんとなくだけどな!」
「そだね~、友達だからね~」
───友達だから……か
「ありがとう、もう大丈夫だよ」
───あ……今、少しいい笑顔が出来た気がする
「何か大丈夫そうだな!うん」
「一皮むけたっぽい~、サっちん大人になったな~」

何気ない言葉が私を日常に連れ戻してくれる

『そのヒトの仲間達を見ればそのヒトの在り方が判る』

ならば、この友達の為に私も良い友達でいよう

そんな夢の様なことを想い、心を安定させる

そして私は──独り──家路についた

*



喫茶ルーモア

私は再びあの店に向かう
今度は、あの少年に会いに

謝らなければいけない事がある
とても言い辛いけれど、言わなくてはいけないことだ

彼自身に対する興味もあった
何故、たった一週間であれ程に精神が成長したのか……
知りたかった

カラン・コロン……カラン・コロン……来客を告げるベル

穏やかな表情のマスターと
利発そうでいて可愛らしいあの少年の顔が目に入る

「いらっしゃいませ」

幸いな事に、他の客はいない

「あの!じつはその……輪さんにお話がありまして……その……ですね」

*



全てを話した

輪くんは終始表情を変えずに聞いていた
マスターの方は判らない
私は真っ直ぐに輪くんの目を見て話している
ひょっとしたら怒っているかもしれない

怒られて当然だった───でも
「ほら、輪……何か応えてあげなさい」
穏やかな声
「…………」
「私はいいと思うよ、凄く反省している様だしね」
「今回の件で……ボクにも得るものはあった、反省しているのも判る」
「……すみませんでした」
「だけど……また力を得たら、繰り返してしまうかもしれない」
「……そうかも、しれません」
正直、絶対と言える自身は無い
「その時は……」
少年の言葉の続きを待つ
私は、私の心は、とても弱いから
また何かの都市伝説が心の隙間に入り込むことを許してしまうかもしれない
その時は、彼に殺されるというなら仕方ないと思う



「その時は……相談に来るといい」

そう言うと、プイッと背を向けてしまった
マスターは嬉しそうに微笑む

「あ、ありがとう……ありがとうございます!」
嬉しくて、本当に嬉しくて、私は少年を背中から抱きしめる
彼の耳が真っ赤に染まっていく
そんな可愛い反応に、何だか胸が高鳴る

「あ、あの……それで表の張り紙を見たんですが……」
マスターが言葉を受ける
「ああ、アレね……」
「バイト代は安くて構いません!ここで働かせて下さい!!」
少し考えてから
「都市伝説に理解もあるわけだし……いいよね?輪」
「まあ、募集しても誰も来ないわけだし……
 マスターが割る食器代より安いなら、断る理由はないだろうね」
「だそうだよ」
苦笑いでマスター

「不束者ですが、宜しくお願いします!!」

「……それより、早く離してくれないかな?」
慌てて抱きしめていた腕を緩める
少し名残惜しい

こうして新しい日常が幕をあけた
私の明日は、昨日よりもきっと美しい
ただの予感だけれど、とても素敵な予感

*



サチが帰ると、マスターが優しく語り掛ける

助けようと思ってしたことではないが
それでもボクは、彼女の存在を救った

あのまま放置していれば、いずれはサチ自身が
カシマさん──都市伝説──そのものとなっていただろう

そして今日、明確な意思を持ち
彼女の心を救った

「キミはヒトを救う事が出来た、これはとても大切な事だよ」
「…………」
「だから輪、今回の事を忘れないでいて欲しい」

「うん……忘れないよ」

ボクの記憶にまたひとつ
暖かい想いが刻まれていく

たったひとつでも胸がいっぱいになる
そんな想いをボクは今
確かに感じている

*



物事には表と裏がある───そういわれています
けれど、どちらが表でどちらが裏なのか

表だったものが、いつのまにか裏になっている
そんなことだってあるかもしれない
そう、例えばメビウスの輪の様に

表の自分と裏の自分
一体どちらが本当の自分なのでしょうか

いいえ
表と裏──全て──合わせて自分なのです

それを理解した時
私は都市伝説というものの真理を
一瞬だけ垣間見た様な気がしました



*


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