喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
カシマさん ─ 少女視点(前編)
物事には表と裏がある───そういわれています
けれど、どちらが表でどちらが裏なのか
けれど、どちらが表でどちらが裏なのか
表だったものが、いつのまにか裏になっている
そんなことだってあるかもしれない
そう、例えばメビウスの輪の様に
そんなことだってあるかもしれない
そう、例えばメビウスの輪の様に
表の自分と裏の自分
一体どちらが本当の自分なのでしょうか
一体どちらが本当の自分なのでしょうか
*
嫉妬していた
校舎、屋上、視界には高校生の男女
失恋
そう……もう終わったことなのだろう
そう……もう終わったことなのだろう
彼のこと、ずっと前から気になっていた
このメガネをコンタクトに変えたら……
もし、メイクをしたら……髪を染めたら……
彼は私をどう感じるだろうか
そう考えるだけで毎日が楽しかった
このメガネをコンタクトに変えたら……
もし、メイクをしたら……髪を染めたら……
彼は私をどう感じるだろうか
そう考えるだけで毎日が楽しかった
けれど、もう彼の隣には一人の女性がいる
学年一の美少女だった
最初は何かの用事があるだけだろうと思っていた
ただの友達の様にも見えた
だが……
ある日を境にして彼らの新密度は急激に高まっていた
何かの一線を越えた……そう、感じた
学年一の美少女だった
最初は何かの用事があるだけだろうと思っていた
ただの友達の様にも見えた
だが……
ある日を境にして彼らの新密度は急激に高まっていた
何かの一線を越えた……そう、感じた
私の入り込む余地はない
そう、もう終わったのだ
けれど……まだ……
そして
出会ってしまった
そう、もう終わったのだ
けれど……まだ……
そして
出会ってしまった
あの都市伝説と───
*
ある夜の事だった
私は眠っている──これは夢だ──と自覚している
どろりとした液体が腰辺りまで侵食し足元がおぼつかない
……底なし沼にはまる様な感覚
背後から何かが浮かび上がる気配
振り向くとそこには……女性が立っている
ニヤリと嗤っていた
じっとりと生暖かく不快な汗が体表を覆う
……底なし沼にはまる様な感覚
背後から何かが浮かび上がる気配
振り向くとそこには……女性が立っている
ニヤリと嗤っていた
じっとりと生暖かく不快な汗が体表を覆う
女性は眉をひそめて言う
「あら、貴女……既にからっぽね」
「誰?」
「ふふ、質問するのは私の方なのよ?……でもいいわ」
「あなたは誰なの?」
「恐怖すらも感じていないのかしら……本当にからっぽ」
「あなた……カシマレイコさん?」
「正解……貴女、良い香りがするわ……私と契約しない?」
「け…い…やく?」
「ええ、契約……貴女の願いが叶うかもしれないわよ?」
「願いが……叶う」
「そのからっぽの心を埋めることが出来る───契約」
「カシマさん……私、契約します……だから、願いを叶えて!」
「あら、貴女……既にからっぽね」
「誰?」
「ふふ、質問するのは私の方なのよ?……でもいいわ」
「あなたは誰なの?」
「恐怖すらも感じていないのかしら……本当にからっぽ」
「あなた……カシマレイコさん?」
「正解……貴女、良い香りがするわ……私と契約しない?」
「け…い…やく?」
「ええ、契約……貴女の願いが叶うかもしれないわよ?」
「願いが……叶う」
「そのからっぽの心を埋めることが出来る───契約」
「カシマさん……私、契約します……だから、願いを叶えて!」
「ああ……本当に良い香り、貴女のその……嫉妬の香り」
*
女子高生が3人
話の中心にいるのは、肩までの黒髪で
華奢なフレームのメガネをかけた、おとなしそうな娘
フレームと同じく華奢な体付きをしている
笑っていてもどこか儚げな、独特の雰囲気を持つ少女
話の中心にいるのは、肩までの黒髪で
華奢なフレームのメガネをかけた、おとなしそうな娘
フレームと同じく華奢な体付きをしている
笑っていてもどこか儚げな、独特の雰囲気を持つ少女
話題は───都市伝説
「ねぇ、カシマさんっていう都市伝説知ってる?」
メガネの娘が切り出す
「しらな~い」「怖い話?」
返す二人
「ちょっと怖いかも……聞きたい?」
メガネの娘が切り出す
「しらな~い」「怖い話?」
返す二人
「ちょっと怖いかも……聞きたい?」
「ん~そうね~」「ちょっと怖いのか~」
もったいぶった様に、悩むフリをする二人
「話したいって言うならしょうがないわね~」「うん、聞こうじゃないの」
もったいぶった様に、悩むフリをする二人
「話したいって言うならしょうがないわね~」「うん、聞こうじゃないの」
「大切なモノを奪うカシマさんっていうのがいてね……」
彼女が話をし、カシマさんが奪う
だが、奪ったものは大したモノではない
女子高生や近所の子供たちの大切なモノなど、たかが知れている
だが、奪ったものは大したモノではない
女子高生や近所の子供たちの大切なモノなど、たかが知れている
彼女は、さしたる罪悪感も抱かずに奪い続ける
からっぽの心を埋める為に……
カシマさんは力を付けていく、密やかに、順調に
彼女の知らないうちに……凶悪な程に……
からっぽの心を埋める為に……
カシマさんは力を付けていく、密やかに、順調に
彼女の知らないうちに……凶悪な程に……
*
喫茶ルーモア
カラン・コロン……カラン・コロン……来客を告げるベル
「いらっしゃいませ」
女子高生が一人で入ってくる
「こんにちは、マスター」
彼女は颯爽という言葉が良く似合う、そんな動作で
カウンター席にサッと座る
「こんにちは、輪(りん)くん……今日はそこの席なのね」
無言でコクリと頷く
「最近はそこが輪の指定席なんだよ」
「ここは全体が見渡せるからね」
「いらっしゃいませ」
女子高生が一人で入ってくる
「こんにちは、マスター」
彼女は颯爽という言葉が良く似合う、そんな動作で
カウンター席にサッと座る
「こんにちは、輪(りん)くん……今日はそこの席なのね」
無言でコクリと頷く
「最近はそこが輪の指定席なんだよ」
「ここは全体が見渡せるからね」
ずっと待っていた……この時を……このチャンスを
目の前には、あの憎い女がいる
そう、あの"姫"と呼ばれている女
目の前には、あの憎い女がいる
そう、あの"姫"と呼ばれている女
楽しそうに話している、あの彼の話だ
憎しみを抑えられなかった
いや、抑える気など最初から無かった
その為に……この店に何度も足を運んだのだから……
憎しみを抑えられなかった
いや、抑える気など最初から無かった
その為に……この店に何度も足を運んだのだから……
*
「あら?姫さまじゃないかしら?」
後ろから声をかける、さりげなく
「……あら、サチ(うすい)さん?」
「ここに来ているということは、姫さまも都市伝説に興味があるのかしら?」
「そうね、少し調べてはいるわ」
順調に会話が進む、あと少し
「そう……それじゃあ "カシマさん" の話は聞いたことがあるかしら?」
「"カシマさん"?聞いたことはあるけど、いくつかパターンがあるのよね?」
「そうよ、無数にパターンが存在するわ……興味があれば聞いていかない?」
ややあって、女が答える
後ろから声をかける、さりげなく
「……あら、サチ(うすい)さん?」
「ここに来ているということは、姫さまも都市伝説に興味があるのかしら?」
「そうね、少し調べてはいるわ」
順調に会話が進む、あと少し
「そう……それじゃあ "カシマさん" の話は聞いたことがあるかしら?」
「"カシマさん"?聞いたことはあるけど、いくつかパターンがあるのよね?」
「そうよ、無数にパターンが存在するわ……興味があれば聞いていかない?」
ややあって、女が答える
「ええ、聞きましょう」
掛かった……これで───奪える
あなたの大切なモノって……何?
彼の愛情?
彼への愛情?
それともその美しい外見?
彼の愛情?
彼への愛情?
それともその美しい外見?
何でもいいわ、あなたの大切なモノを頂戴
彼を頂戴
彼の隣を頂戴
その美しい外見を頂戴
彼を頂戴
彼の隣を頂戴
その美しい外見を頂戴
*
姫にカシマさんの話をした日から3日が経った
いつもの様に眠りにつく
カシマさんが誰かの夢に入り込み、視界がリンクする
いつもの様に眠りにつく
カシマさんが誰かの夢に入り込み、視界がリンクする
今日こそは、あの女の夢に……毎日そう願いながら過ごしていた
だが、眼前には少年───10歳ほどの少年
つまらない、今夜も無駄な夢を見るのか
だが、眼前には少年───10歳ほどの少年
つまらない、今夜も無駄な夢を見るのか
精々、怖がるといいわ
私に失望を与えた罰を受けなさい
意識がリンクしていく……視界だけでなく、その───心も
私に失望を与えた罰を受けなさい
意識がリンクしていく……視界だけでなく、その───心も
「坊や……あなた、良いモノを持っているわね」
「…………」
「私、嫌いなの……満たされて、足りている人たちが……」
「…………」
少年は声が出ない
「坊や……私の名前はなあに?」
「……カ、カシマさん」
「正解……でも残念、少し足りないわ」
少年は恐怖に震える
「…………」
「時間切れ」
「くっ」
「……あなたの大切なモノを頂くわ」
「…………」
「私、嫌いなの……満たされて、足りている人たちが……」
「…………」
少年は声が出ない
「坊や……私の名前はなあに?」
「……カ、カシマさん」
「正解……でも残念、少し足りないわ」
少年は恐怖に震える
「…………」
「時間切れ」
「くっ」
「……あなたの大切なモノを頂くわ」
恐怖に歪む可愛らしい顔……とても良い表情
*
一週間が過ぎた
何も変わらない日々
未だに、あの女の夢には入れない
何故?
判らない……心がささくれていく
何も変わらない日々
未だに、あの女の夢には入れない
何故?
判らない……心がささくれていく
夢に入る……またあの少年
苛立ちが募る
苛立ちが募る
カシマさんの話では、この子も都市伝説だという
なら、もっと苦しませてもいいよね?
人間でもないのに、あんなに満たされていた少年
なら、もっと苦しませてもいいよね?
人間でもないのに、あんなに満たされていた少年
嫌いなの……満たされて、足りている人たちが……
私はこんなにも、からっぽなのに……ずるい
私はこんなにも、からっぽなのに……ずるい
「こんばんわ、坊や」
「…………」
少年の体から力が抜ける……どろりとした液体に侵食されていく
「あら、もう諦めてしまうの?つまらないわね」
「……カシマさん」
「何かしら?」
「……質問してもいい?」
「フフ、いいわよ」
私は、余裕の笑みを浮かべる
「どうしてボクを狙うの?」
「あなたが幸せそうだったからよ……同じ都市伝説なのにね」
「……だろうね」
「だから、あなたの大切なモノ……契約者への信頼を奪ったのよ」
「……そんなモノ、大切じゃないさ」
何を言っているの?この子は……訝しげに見つめる
「あら……素直じゃないのね」
少年の体が震えるのを見て満足し、つぶやく
「痩せ我慢は体に良くないわよ、フフ」
「…………」
少年の体から力が抜ける……どろりとした液体に侵食されていく
「あら、もう諦めてしまうの?つまらないわね」
「……カシマさん」
「何かしら?」
「……質問してもいい?」
「フフ、いいわよ」
私は、余裕の笑みを浮かべる
「どうしてボクを狙うの?」
「あなたが幸せそうだったからよ……同じ都市伝説なのにね」
「……だろうね」
「だから、あなたの大切なモノ……契約者への信頼を奪ったのよ」
「……そんなモノ、大切じゃないさ」
何を言っているの?この子は……訝しげに見つめる
「あら……素直じゃないのね」
少年の体が震えるのを見て満足し、つぶやく
「痩せ我慢は体に良くないわよ、フフ」
だが、次の瞬間に待っていたのは───
嘲る様な嗤い
「カシマさん、もうひとつ質問に答えてよ」
───凝視する、判らない……何が起こっているの?
「坊や……いい加減にしなさい」
「答えられないかもしれないのが───怖い?」
「?!……いいわ、何でも答えてあげるわ!」
「答えられないかもしれないのが───怖い?」
「?!……いいわ、何でも答えてあげるわ!」
馬鹿にされている、睨み付ける、苛立ちが隠せない
「守りたいモノが増えると、自然に敵が増えるものだよね?」
───守りたいものなんて無い
「他にも自然に増えるモノがあるんだけど何か判る?」
───判らない……答えは何?!───判らない!!
「……だから何よ、答えられないから何だって言うのよ!」
眼前の少年に
以前は、一週間前にはあったはずの恐怖心が───ない
以前は、一週間前にはあったはずの恐怖心が───ない
「カシマさん、貴女は何も判っていないんだね」
───私には判らない?何故?
「じゃあ……今度はボクの何を奪うつもりなの?」
───大切なモノに決まっている
「それは無理だよ」
───何故?……何故、無理なの?
「だからさ、信頼や愛情を理解していない貴女なんかに
ボクの大切なモノは奪えないって言ってるのさ」
ボクの大切なモノは奪えないって言ってるのさ」
───何を言うかと思ったら、現に私はあなたの信頼を奪ってみせたわ!
「だからそれが違うと言っているんだよ……ボクはマスター<契約者>を信じている」
───何故?!……奪い去ったはずなのに?!
「さっきの質問に答えられない様な貴女には、上っ面の信頼しか奪えないってことさ」
───上っ面ですって?……驚愕、理解不能
「そうだよ」
睨み付けるが、少年は意に介さない
緩く握った右拳を胸に当て、ゆっくりと言葉を紡いでいく
緩く握った右拳を胸に当て、ゆっくりと言葉を紡いでいく
「さっきの答え───仲間だよ」
───仲間?
「守りたいモノが増える、それを守りたいと思っているヒトが他にも居る
利害が一致すれば、自然と仲間になる」
利害が一致すれば、自然と仲間になる」
───だから、それが何だって言うのよ!
「信じたいヒトがいる、そのヒトの仲間達を見ればそのヒトの在り方が判る
信頼されている、信頼に足りるヒトだと判る」
信頼されている、信頼に足りるヒトだと判る」
───信頼を奪っても、仲間を見てまた信頼を……取り戻す?
「やっと判った様だね」
───そんな……馬鹿な
「だから、ボクの大切なモノは───奪えない、何一つ」
───何も奪え……な…い……