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南の島 (後編)

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南の島 (後編) ◆76I1qTEuZw


前編から



 そっちの坊やも、大した怪我じゃねーだろ。
 お嬢ちゃん、ひとまずそいつに肩でも貸して、どっか見えないとこまで行っちまってくれ。
 おれはそっちの子に用がある。
 ……あー、おまえもここは諦めとけ。そーゆー構図になっちまった時点で、お前の負けだ。

 乱入してきた男は、大体そういう意味合いのことを言ってみくると康太を追い払った。
 最後の一行だけは、白い髪の少女に向けた言葉。
 男の制止に、少女は少しだけ悔しそうな表情を滲ませつつも、しかし素直に従って銃口を下げる。

 どこをどう歩いたのかは覚えていない。
 きがつけばみくるは、康太を片手で支えるような体勢で、建物の間を抜ける細い小道を歩いていた。
 振り返っても、さっきの少女と男の姿は見えない。
 逃げ切った。ひとまず危機を脱した。
 そう思って、一息ついて安心したら、今度は途端に同行者のことが心配になってくる。早く手当てを――

「あ、あの、土屋くん、本当に怪我は……って、あれ?」
「…………大丈夫。軽傷。備えがあって、助かった」
「お腹のところ、何か、はいってる、んですか?」
「…………こんなこともあろうかと。コンビニで。この血は、ほとんど鼻血」

 みくるは目を丸くする。
 そう、よく近づいて見れば、康太の腹部、刺されて裂けた制服の下に覗くのは、血に濡れた傷ではない。
 鼻血にまみれてはいるが、紙の束――おそらくは雑誌の類である。
 何十枚も重ねた紙というのは、実は意外と硬い。ちょっとした刃物や拳銃弾が相手なら、服の下に仕込んでおくだけでそれなりの防御力が期待できる。某参加者の父親(見るからにヤクザっぽい、というか、どう見てもヤクザそのものです本当にありがとうございました)も、「いつ刺されても大丈夫なように」腹に雑誌を挟んでいたというのだから、その効果は推して知るべし。
 もちろん、みくるに見つからないように、という一心で服の下に隠した『お宝本』は、何度も刺されてズタズタになり、挙句に血まみれでグシャグシャになった。崇高なる性の探求者・ムッツリーニとしては、思わずその場で膝をついてしまうほどの精神的ダメージだった。思わず逆ギレしてロケット弾を構えてしまうほどの怒りだった。だが、それもこれも結果オーライである。何故なら……

「…………損害は、小さくなかった。けど、無事にこうして生き延びた。2人とも」
「土屋くん……」

 普段は寡黙なだけに、珍しい饒舌は重みをもって響いて聞こえる。
 みくるは思わず、潤んだ瞳で、康太を見上げ――しかし康太は、何故か目を合わせようとはせず。

「…………それより、服を確保しないと」
「!!」

 視線を逸らしたままのその指摘に、みくるは一気に赤面する。
 そう、包丁で何度も切りつけられたメイド服はビリビリに裂けて、実に扇情的な格好になっている。
 下に着ていたスクール水着や、頭につけていた猫耳が無傷なのが信じられないくらいの惨状だ。
 チラチラと覗く紺色の水着が、下手な裸よりよっぽど刺激的な格好になってしまっている。
 これでは鼻血も噴くはずだ。ムッツリーニでなくとも、参ってしまうはずだ。

「い、いやあああん! み、見ないで下さぁい!」
「…………病院。流石にそろそろ輸血しないと……命に関わる」

 ぼたぼたぼた。
 みくるの上げた桃色の悲鳴に、ムッツリーニは再度鼻血を噴出する。
 流石に色々と厳しいのだろう。貧血にフラつきながらも、進路を北西方向に――つまり病院がある方向へと向ける。そう、このムッツリーニという男、道具と血液パックさえあれば、自分で輸血が可能なのだ。日常的に生死の境を(主に鼻血による出血多量によって)彷徨っているうちに身につけた、ちょっとした特技である。

「…………ついでに病院で朝比奈さんの服も確保し……(ぶはっ)」
「ああっ!? また出血が酷く?! やっぱりどこか怪我を……!?」
「…………大丈夫。大丈夫だから、道を急ごう」

 言葉の途中で鼻血の勢いを増し、それでも土屋康太は歩みを速める。前にも増して、早足になる。
 朝比奈みくるは、小走りになりながらも追いかける。
 純真なみくるには想像もできなかったに違いない――彼の脳内に描かれた、楽園(パラダイス)の姿など。

 猫耳ナース姿で身を屈める、朝比奈みくる。
 胸のサイズがどうしても強調されてしまう、薄手の病人用パジャマ姿でこちらを見上げる、朝比奈みくる。
 そして、女医らしく白衣を羽織り聴診器を首にかけ、しかし大胆にボタンを外しアンバランスにも下に着込んだスクール水着を堂々と晒して誘惑の笑みを浮かべる、朝比奈みくる――。

 ムッツリーニでなくともKOされるような構図であることは、間違いなかった。


    ◇   ◇   ◇



 まあ、結局のところ、この2人には。
 包丁を手にした少女に襲われてもなお、未だここが殺し合いの場である、という実感が薄いのだった。


【C-6/一日目・早朝】

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱(あちこち大きく裂かれて服の体裁をなしていない)、
     スクール水着、猫耳セット@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式、ブラジャー、リシャッフル@灼眼のシャナ
[思考・状況]
基本:互いの仲間を捜索する。
1:土屋康太と同行。
2:びょ、病院! 病院に行って手当てと、服を……って、なんで病院で服なんでしょう?
3:これ(リシャッフル)どうしよう……。
[備考]
 土屋康太が腹部に忍ばせていた雑誌がエロ本であることに気付いていません。
 むしろ、咄嗟の機転で防具となるものを用意し装備していた準備の良さに感心しています。


【土屋康太@バカとテストと召喚獣】
[状態]:腹部に刺し傷(軽傷)、身体の前面が血まみれ(鼻血によるもの)、貧血
[装備]:「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、ロケット弾(1/1)@キノの旅
     エロ雑誌×2@現地調達(刺されて血まみれ)(服の下、腹の上)
[道具]:デイパック、支給品一式、カメラの充電器、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ
[思考・状況]
基本:女の子のイケナイ姿をビデオカメラに記録しながら生き残る。
1:朝比奈みくると同行し、彼女の仲間を探す。
2:だ、ダメージが大きい……!(心理的に)(お宝本に穴開いた&血にまみれたことで)
3:病院に行って輸血を……! ついでに、みくるにコスプレを……!!

[備考]:
 貧血の症状は主に鼻血の出血によるものです。
 腹部の傷はごく浅いもので、内臓に届くほどではありません。
 むしろ『お宝本』を台無しにしたことによる精神的ショックの方が大きいかもしれません。


【エロ雑誌@現地調達】
土屋康太がコンビニで確保したもの。2冊まとめて手に入れた。
条例などで18歳未満には売ってはいけないことになっている、ごくありふれた大人向け雑誌。
とはいえ、ムッツリーニの目利きによれば、内容に高い期待が持てる極上の『お宝本』であるらしい。
(ジャンルや内容の詳細については、後続の書き手さんにお任せします……もし必要ならば、ですが)
なお本来の用途ではないが、服の下に仕込んでおいた場合、意外と防具としての性能も高い。


    ◇   ◇   ◇



 要するに、おれたちがやってることってのは、悪足掻きにも等しい『時間稼ぎ』、なわけだ。

 馬鹿なガキがエロ本片手に自家発電に勤しんだり、胸のでけぇ同級生の女の子に鼻の下伸ばしたり、告白して振ったり振られたり、友達とバカやって怒られてぶーたれて、家帰ってTVのUFO特番見て大笑いして、そんな、つまらない日常を送るための、時間稼ぎのための戦争だ。

 でも、そのために、伊里野が鼻血噴いたり血ィ吐いたり副作用にのたうちまわったり目ェ見えなくなったり髪の色抜けたりきゅるきゅるきゅると幽霊と会話してるのを見たりすると、な。

 こんな世界、いっそ滅びちまえ。

 ……なんてことを考えちまうことも、たまにはある。


    ◇   ◇   ◇


「久しぶり、とでも言えばいいのかね。
 その髪、浅羽に切ってもらったのか。随分と思い切ったもんだな、おい」
「…………」

 あのガキどもの声が遠ざかるのを待って、おれは伊里野に声をかけた。
 断片的な目撃情報から半ば予想はしていたが、逃亡前には腰あたりまであった伊里野の髪は、肩にかからない程度の長さに切り揃えられていた。一律一回百円、園原中学運動部御用達の、浅羽直之理髪店の仕業だろう。
 ったく、まだ免許も持ってねぇくせに、いい仕事しやがる。おれもチャンスがあったら、一度頼んでみるかね。手に職があるってのは、素直に羨ましいもんだ。

 あー、しかし面倒なのはこっからだ。
 ぼやいた直後に伊里野の奴と出くわせたってのは、幸運だがな。
 こっちの読みどおり辺縁部をウロチョロしててくれたのは有難いが、しかし「殺し合いに乗っている」っていう読みまで当たってくれなくてもいいだろうに。
 やっぱ浅羽のためか? 浅羽だな。他に理由はねえわな。
 さて、どう話を進めるかね。頭ごなしに叱り付けて伊里野とドンパチ、ってのも御免こうむりたいし、少なくともおれの話に耳を傾けてくれる程度には冷静なようだ。なら、こうか。

「ま、間に合ってよかった。おまえ、そんな装備で2人まとめて相手にしようだなんて、無茶にも程があるぜ。
 負けられないんだろ? ならもっと知恵使え。なんだったら、おれがもっと勝算のある方法をだな、」
「――ころすつもりでさしたのに」
「……そりゃどうも」

 ……こりゃダメだ。
 虚ろな表情で物騒な呟きを漏らす伊里野を前に、おれは小さく溜息をついた。
 目があさっての方向を向いたまま帰ってこない。どう見ても目の焦点が合っていない。
 一過性の視力障害発作でも起こしたか? 伊里野の奴、見える時には人並みの視力を保っているんだが、ダメな時には周囲の明暗くらいしか分からなくなっちまう。複数の強烈な薬剤の副作用、らしい。おれもそっちは専門じゃないから理屈や原理までは分からん。こりゃどっちかっつーと椎名か先坂の担当分野だ。
 まあ、今の伊里野の身体が、この3日間持つかどうかも怪しいようだ、ってことくらいは分かるけどな。
 無理なんだよ、おまえには。
 マンタもない、医療班のバックアップもない、おまえには。
 この会場にいる58人、綺麗さっぱり皆殺しにする、なんて、できっこないに決まってるだろうが。

「とりあえず、場所変えるぞ。こんな道の真ん中にいつまでも突っ立ってるわけにもいかないしな。
 その辺の家にでも腰落ち着けて、これからのこと考えよう。
 ほれ、見えないってなら手ぇ貸すから……」

 そう言って、手を伸ばして、おれは。


    ◇   ◇   ◇


 馬鹿げた椅子取りゲームをなんとか蹴り倒して帰ってみたら、厄介ごとは全部終わっていた。

 まあ世の中の混乱はそう簡単に納まるもんでもないし、人間同士・国同士のいがみ合いは相も変わらず飽きもせず延々と続いてはいたが、一番肝心のUFO絡みのあれやこれやは、おれのいない間に綺麗さっぱり片がついてしまっていた。
 地球人類にとっての存亡の危機は、それが始まった時と同様、唐突に去っていった。そういうことらしい。
 いやはや、普段はバカだアホだと罵倒し続けてきた木村の奴がこんなに役に立つとは思わなかった。なんでも、頼みの綱のブラックマンタが出撃させたくても出しようがなくなって、みんな必死になって、工夫して努力して、いろいろやってみたら上手いことハマってくれた、ということらしかった。こうなっちまうと今までのおれたちの苦労が馬鹿らしくもなってくるが、しかしあの頃ああやって稼ぎ続けた時間が実を結んだという見方もできるわけで。
 一部始終を先坂やら永江やらから聞かされたおれは、ただ苦笑することしかできなかった。

 むしろ、大変だったのはそっからだ。
 世界の危機は去った。けれどブラックマンタは無傷で残っている。パイロットの伊里野も帰ってきた。
 地球上で唯一現存するディーン機関と、その唯一の適性者。
 こりゃ新たなトラブルの種になることは必至だった。それがそこにある、ただそれだけの理由で世界規模の大戦争が起こっても不思議じゃない状態だった。

 なので、おれは伊里野と浅羽が生きて帰ってきたという事実そのものを、揉み消した。
 伊里野さえいなけりゃ、マンタもただの扱いにくい航空機だ。火種になるような代物じゃねえ。
 既に一線からリタイアしていた椎名の奴をこっそり抱きこんで、伊里野の体調を一通りチェックさせて簡単な処置させて、2人が外国行きの船に潜り込めるよう手配した。ビザなしパスポートなし旅券なし、の一方通行の海外旅行。平たく言えば、ただの密航。
 同時に偽装工作も必要だ。かつて敵だった相手より、身内向けの情報操作が面倒だった。何度も嫌な冷や汗をかかされた。UFOの脅威は去ったとはいえ、細かい後始末は山のように残っていたし、その合間に仲間さえも偽ってみせなきゃならないし、水前寺は記憶を消したはずだってのに妙なカンの良さでいらない首を突っ込んできては余計な仕事を増やしてくれた。
 何日も風呂に入れないような激務の日々が相変わらず続いて、伊里野と浅羽のバカはどうやら上手いことやったらしく断片的な情報すら耳に入ってこなくなって、気がつけば数年の月日が流れている。

 そんなゴタゴタが一段落したある日、ふと思いついて軽く調べてみる。
 観光地にすらなっていないような、世界の辺境。英語圏。でもって、地元で最近評判になっている床屋。
 妙な確信に導かれ、あてずっぽうで条件を絞り込んでいったら、見事にビンゴ。
 どうやらそれっぽいものを見つけたおれは、休暇を取って尾行を撒いて、単身その地に辿り着く。
 地球を半周ほどした先にある、世界の果て。CIAの衛星写真にも載っていないような小さな南の島。
 店は、繁盛していた。
 妻を早くに亡くして独り者だという、現地人のオーナー。
 そして、聞いたこともないような遠くの国からやってきた、少年と少女。
 遠目に見ても青年は日焼けして背も伸びて見違えるほど逞しくなっていて、女の方もここの清浄な空気と風と日差しが肌に合ったのか、少しばかり髪の色が戻ってきている。
 おれはド派手なアロハシャツの裾を翻し、何もない店内に入り、椅子に座ってサングラスを押し上げる。
 よお浅羽、久しぶりだな。
 あいつは気弱そうな笑みを浮かべただけで、何も答えない。
 代わりに黙っておれの髪に櫛を通し、ハサミを入れる。
 もう戦争は終わった。人間同士のトラブルもあらかた片付いて、もう心配することは残っていない。揃って国に帰りたいなら、いますぐにでも手配してやるぞ。
 おれがそう言うと、浅羽は静かに首を振る。この島での暮らしは穏やかで、幸せで、自分も言葉を覚えたし伊里野も床屋仕事が板についてきた。この店のオヤジは最初から親切だったし、自分の持ち込んだ最新の髪形は島で評判だし、伊里野は島の男たちのアイドルでみんな3日とおかずに店に来てくれる。
 だから、このままでいい。
 そうか。おれは散髪代を支払って店を出る。物価の違いのせいか酷く安い。一回あたり、日本円にしてほぼ百円。均一料金で明朗会計の浅羽直之理髪店だ。なんだおめえ、まだ値上げしてねえのかよ。腕はいいんだからよ、もうちっと欲出せよ。
 伊里野のことをよろしくな。
 おれは背を向けたまま手を振って、その島から立ち去って、以後、二度と奴らの顔を見ることはない。

 風の噂に、ただ、2人が正式に結婚したらしい、という話を聞いたきりだ。









 ――そんな、夢のような、夢。








    ◇   ◇   ◇


 肉を刃が抉る時ってのは、漫画みたいに派手な音はなかなか出ないもんだ。
 致命傷を喰らった時ってのは、悲鳴すらも上げられないもんだ。
 一瞬、意識が飛んでいたような気がする。白昼夢でも見ていたような気がする。

「……しくじった」

 血の塊と一緒に、おれは小さく吐き捨てる。
 油断してたつもりは、なかったんだがな。いや、やっぱりこいつは油断か。
 おれはゆっくり視線を下げていく。

 目が見えずよろけた、ふりをした、伊里野が持ってた刺身包丁が、おれの腹に深々と突き刺さっていた。

 位置的に見て、こりゃ肝臓か。
 吐血があったってことは、胃も一緒に破けてるかもしれん。
 衛生兵もいないこんな場所じゃ、間違いなく致命傷だ。
 痺れる頭で、他人事のように考える。
 伊里野は何度でも刺すつもりだったようだが、しかし無理な力を受けた細身の包丁は、抜いてみたら途中からぽっきりと折れてしまっていた。刃の半ば以上はなおもおれの腹の中にあって、グチャグチャに内臓をかき回し続けている。

 と、伊里野が顔を上げた。
 おれの吐いた血を真正面から浴びて、鮮血まみれでてらてらと光る顔で、でも、おれが未だかつて見たこともないような、無垢で純粋でまっすぐな、どこか照れたような笑みを浮かべて、こう言った。

「こんどは、うまくいった」

 ……ああ。畜生。
 可愛いなあ、こいつ。
 こんな笑顔、できるようになったんだなあ。

 こいつになら、殺されてもいいや。

 最後にこいつに殺されるなら、それでもいいや。
 どうせ浅羽のヘタレじゃ、おれ1人殺すこともできねえだろうしな。
 地獄には、おれが行くべきだ。
 おれは、地獄に行くべきだ。
 これで世界が滅びるなら、そんな世界、滅びちまえ。
 いくらでも、滅びちまえ。
 もうおれは知らん。
 後は木村のアホやその他大勢で、なんとかしてくれ。
 おれはもう、知らん。

 おれは無様に崩れ落ちる。
 乾いた音を立てて転がったベレッタを、伊里野が拾う。
 少し迷った様子を見せた後に、安全装置を外して銃口をおれの方に。
 慈悲をもって楽にしてくれるつもり――ってわけでもねえか。
 単に、確実を期すつもりだな、こりゃ。
 ゴロリとその場で大の字になったおれは、
 最期の最期、
 引き金が引かれ、
 撃鉄が落ちる瞬間、
 声にならない声で呟いた。

 ――浅羽のアホに、よろしくな。

 全て言い切る前に、容赦なく銃口から飛び出した9mm×19mmパラベラム弾が、おれの脳天を撃ち砕いた。


    ◇   ◇   ◇


 ……榎本にとどめを刺したわたしは、まだ硝煙の上がる銃口を下ろすと、彼の持っていた荷物を調べた。
 出てきたのは、手榴弾と、刃物と、知らない名前の書かれた10人分の名簿。
 包丁は折れちゃったし、武装も強化したかったからちょうどいい。
 この名簿も、いつどこでどう役に立つか分からない。捨てちゃうにはちょっと早い。
 全部貰っていくことにする。
 拳銃も、こっちのイタリア製の銃の方が使い勝手がいい。
 トカレフは予備のバックアップ用として、荷物の中にしまっておくことにした。

 わたしは考える。
 目が見えなくなることはあっても、そう長く見えないまま、ってことはないらしい。
 なら、まだ戦える。
 まだ、あさばのために、あさば以外を殺せる。
 全ての荷物をまとめて、わたしは立ちあがる。返り血を浴びたまま、立ちあがる。

 そのまま、次のターゲットを探して歩き出したわたしは、

 ふわり、と吹き抜けた風に、一瞬だけ振り返った。

 なぜか、どこか遠い、どこか懐かしい、南の島の匂いがした。






  【榎本@イリヤの空、UFOの夏  死亡】




【D-6/一日目・早朝】

伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康。返り血で血まみれ。たまに視力障害。
[装備]:ベレッタ M92(15/15)、『無銘』@戯言シリーズ、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフTT-33(8/8)、トカレフの予備弾倉×4、
     べレッタの予備マガジン×4、ポテトマッシャー@現実×3、10人名簿@オリジナル
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。
1:他の人間を探す。
2:晶穂も水前寺も躊躇いも無く殺す
3:さっき逃がした2人組を追いかける? それとも後回し?
[備考]
 ごくたまに視力障害をおこすようです。今のところ一過性のもので、すぐに視力は回復します。

[備考]
 初期支給品の1つ「刺身包丁@現実」は、榎本を刺した際に折れたため、その場に捨てていきました。

【『無銘』@戯言シリーズ】
 榎本に支給された。
 シリーズ後半において、いーちゃんの手元にあった刀子。
 外科用メスにも例えられる鋭さと、向こうが透けて見えそうなくらいの薄さを併せ持つ、小ぶりの刃物。
 刃物の扱いは専門ではなかったいーちゃんにとっても、かなり「扱いやすい」ものだった。

【ポテトマッシャー(M24型柄付手榴弾)@現実】
 榎本に支給された。
 『ポテトマッシャー』(じゃがいも潰し)の愛称で知られる、第二次世界大戦時代のドイツ軍の手榴弾。
 特徴的な長い木の柄は、投擲の際の飛距離を伸ばすためのもの。
 安全用キャップを外し、着火用のヒモを手首などに巻いた上で投げることで、ヒモが引かれて空中で発火、
3~4秒後に爆発する。これらの使い方は同封の説明書に詳しく書かれている。
 3本で1セット。

【10人名簿@オリジナル】
 榎本に支給された。
 共通支給品の名簿では伏せられている、10人の名前が記されていた名簿。
 10人分の名前しか載っておらず、また、名前以外の情報は一切載っていない。


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