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浅羽直之の人間関係【改】

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浅羽直之の人間関係【改】 ◆LxH6hCs9JU



 浅羽直之は聡い少年である。

 この拉致事件の首謀者が宇宙人であることや、その実態が殺し合いであることは、始まってすぐに理解できた。
 だから浅羽は機関銃を手に取った。知り合いを前にしても、引き金を引く覚悟を決めたつもりでいた。
 仕方ないじゃないか。生き残れるのは一人だけなんだ。だったら晶穂も部長も殺すしかない。仕方ないじゃないか。
 五十八人も他人がいて、一人しか自分がいないのだったら、浅羽にとっては一択だ。生き残ろう。浅羽は決意した。

 誰か、自分を犠牲にしてでも守りたい女の子がいれば、違ったのかもしれない。

 そんな仮定の話はともかくとして、浅羽は虎に襲われた。グレイでもプレデターでもなく、虎。タイガーだ。
 浅羽直之は聡い少年ではあるが、機関銃が一丁あれば相手がエイリアンだろうと戦争してやるぜと粋がれるほどのタフマンではない。
 顔見知りの女の子と、見た目とは裏腹な凶暴性を秘める手乗りタイガーのタッグ相手に、乱射魔を演じきることはできなかった。
 生きることに懸命で、生き延びることに必死な、どこにでもいる普通の少年。浅羽は自他共に認める一般人だったのだ。

 虎から逃れた浅羽は、川を流れて病院にたどり着いた。一般人である浅羽にとって、そこは病院というより武器庫だった。
 現実的に考えて、機関銃を構えるのと毒薬を相手に飲ませるの。どちらが気持ち的に楽だろうか。浅羽は後者だと思ったのだ。
 そうだ、ぼくは毒薬使いになろう。機関銃を捨てた浅羽は、毒のエキスパートになろうと決意した。矢先、忍者に襲われた。
 虎に忍者に、おかしな人間が多い世の中だとつくづく思った。浅羽はこんなにも普通なのに、他のみんなは普通じゃない。ずるい。
 けれど、その忍者はすぐに死んだ。浅羽の持っていた毒を、自分で飲んで自分で死んだ。たぶん事故か自殺だ。浅羽はやってない。

 その後も、浅羽はいろんな場所を巡り歩いた。訪れた飛行場では、外国の女の子に出会った。不思議と言葉は通じた。
 先の毒死忍者の一件で半狂乱に陥っていた浅羽は、このとき男子中学生ならではのちょっとした情動にかられたりもした。
 具体的に言うと、親しげに話しかけてくれた外国の女の子を襲った。服を剥ぎ、裸にして、レイプしようとした。
 今を思えば、馬鹿なことをしたと反省している。だって目論見はすぐに失敗して、浅羽は彼女の彼氏に殺されかけたのだから。
 でも仕方がない。あの子は、やたらやかましいクラスの女子たちに比べればずっと魅力的だったのだ。襲いたくもなる。不可抗力だ。

 結局のところ、浅羽は決意などできていなかったんだと思う。彼の手は、人を殺めるにはあまりにも小さすぎたのだ。
 浅羽にはなにもない。守りたいものも、貫き通したい意地も。我が身だけがかわいい。そんな不幸な少年だった。
 精神的疲労困憊。緊張臨界点突破。活動機能無期限停止。ふと、浅羽はゼンマイの切れたからくりみたいに止まった。

 道端で榎本が死んでいた。
 そのせいでもあるのだろう。

 浅羽と榎本という男は、ちょっとした知り合いだった。中学二年の夏休み最後の日、夜の学校で知り合った。
 それなりの交友関係はあったと思うが、正直なところ浅羽は榎本のことが嫌いだったし、榎本も浅羽を好いてはいなかったように思える。
 そんな微妙な関係であるはずのに、榎本は不思議と浅羽にコンタクトを取ってくることが多く、彼の仕事につきあわされることも結構あった。
 と言っても、そのほとんどは雑用だ。別に浅羽でなくともできる、そんな類の。誰に誇れることもやっていない。と思う。
 詳細は、よく教えてもらっていないのだ。浅羽にとっても、いろいろと謎の多い男なのである。この、榎本という死体は。

 知った顔の死に様というのは、想像以上に来るものだった。なにが来るって、まず嘔吐感だ。続いて吐瀉物。気持ち悪い。
 しかし、浅羽は耐えた。精神的にはもういっぱいいっぱいどころか満杯といったところだが、ここで野垂れたら死んでしまう。
 そんな極限状態の最中、浅羽は白い髪の女の子に出会った。白い髪の女の子には同行者がいて、その子は浅羽を助けようとしてくれた。
 だが、白い髪の女の子は浅羽を敵視したのだ。まるで、当初の浅羽の決意を断罪するかのように。浅羽は怖くなって、卒倒した。

 次に目を覚ましたとき、周りにはたくさんの人たちがいた。例の白い髪の女の子もいたし、金髪の外人男性もいたし、喋る猫までいた。
 数えてみると、浅羽を除いて四人と一匹。この四人と一匹は、生き延びるためにグループを組んでいるようだった。
 浅羽にはこれといった目的がない。ただ生き延びたい。しかし他の人を傷つけることは、できるなら避けたい。
 そう正直に主張したおかげかどうかはわからないが、浅羽はそのグループの一員になることができた。孤独からの脱却だった。

 団体行動を取るなら、浅羽もなにか仕事をしなければならない。働くもの食うべからずというやつだ。
 アリとキリギリスの話を知っていた浅羽は、みんなのためにせっせと働くことにした。最初の仕事は、物資の調達だ。
 目的と仕事を得て、訪れた百貨店の軒先では、男が死んでいた。例の白い髪の女の子の知り合いらしかった。
 白い髪の女の子はすごくすごく悲しんだが、金髪の外人さんがどうにかそれを慰めた。浅羽にはなにもできなかった。
 百貨店には危険な人間がいるかもしれないので、物資の調達は他所で行うことになった。
 車に乗って帰る直前、浅羽は道端に取り残されるように置かれていたデイパックを発見し、これを回収した。

 浅羽たちのグループは、しばらく北の飛行場に留まり休息を取ることになった。が、次なるアクシデントはすぐにやってきた。
 白い髪の女の子が、いなくなったのだ。誰にもなにも言わず、忽然と消えた。たった一匹、喋る猫だけを連れて。
 知り合いが死んだショックで、情緒不安定になってしまったのかもしれない。と浅羽は思った。
 すぐさま捜索が開始される。浅羽も白い髪の女の子を捜すために飛行場を出たのだが、一人で動いたのがいけなかった。
 いつぞや、浅羽がレイプしようとした外国の女の子。彼女の彼氏と鉢合わせになり、身柄を拘束されてしまったのだ。
 出来心だった。ついカッとなってやった。大事なところには触れていないのだから無罪だ。だって仕方がないじゃないか。
 浅羽は必死に弁明して、遅れてやって来た被害者本人から一応の許しを得た。あれは許しというより、単なる侮蔑だったのかもしれないが。
 他人の心象などどうでもいい。浅羽はどうにかこうにか助かった。それでいい。今は白い髪の女の子を捜すのが先決だ。

 走って捜し回るという体力的に酷く効率の悪い捜し方をしていた浅羽の前に、十字マークを掲げた救世主が現れる。
 それはたぶん、浅羽にとって一番親しいと言える人間だった。彼と再会した瞬間、胸中にどれだけの安らぎを得たか。
 事情を話すと、彼は浅羽に一台の自転車を提供してくれた。ママチャリだ。そして、白い髪の女の子を捜すための最終兵器だ!
 浅羽は自転車を漕ぎ、北から南へ一気に南下した。南を目指す理由はただ一つ。その方角に映画館があるからだ。
 白い髪の女の子がどこに向かったかはわからない。だけど、浅羽の頭の中には予感があったのだ。
 彼女は――なんだかすごく、映画を見たがっていたような気がする。気がするというだけの根拠で、浅羽はペダルを漕ぎ続けた。 
 もうすぐ、日が暮れる。白い髪の女の子が姿を消してから、結構な時間が経過しているようにも思えた。
 浅羽が懸命に自転車を漕いでいる一方で、他の仲間たちがとっくに捜索を終えているという場合も考えられる。でも。
 浅羽は己の予感に抗えなかった。そこにいる気がしてならない。確かめてみなければ気が済まない。それが少年を突き動かす原動力だ。

 ふと思う。
 なんでこんなに必死になってるんだろう?


 ◇ ◇ ◇


「あれ?」

 映画館に到着してまず浅羽が口にした言葉は、疑問符を単なる音にしただけのものだった。

「誰もいない……やっぱり、ぼくの気のせいだったのかな」

 白い髪の女の子――ティーは、きっと映画を見たかったはずなんだ。
 そう考えてはいたものの、いざ現地を訪れてみれば、どうしてそんな考えに至ったのかが我ながらに理解できない。
 結論として、映画館にティーはいなかった。というより、浅羽以外には誰もいない。まったくの無人だった。
 隠れている……なんて可能性も抱けない。よく探してみたわけでもないが、不思議と、それはないんじゃないかと思えたのだ。

「はあー、無駄足だったかー」

 映画館入り口のロビー。そこに備えられたベンチに、浅羽は腰を下ろす。
 北の街から南の映画館まで、休憩も挟まず自転車を漕ぎ続けてきたから、足がパンパンだ。しばらくは動けそうにない。
 それに、浅羽はもともと怪我人でもある。容態は打撲に擦過傷、歯の欠損や単純骨折と、まさに全身傷だらけ。
 体調も悪く、頭がガンガンする。これでよく自転車なんかに乗れたな、と自分のバイタリティに呆れてしまう。

「とんだ骨折り損のくたびれ儲けだよ」

 それだけ、ティーのことが心配だったのだろうか。浅羽は自分の行動の意味が、よくわからなかった。
 だって浅羽は最初、彼女のことを怖がっていたのだ。
 こちらの心を覗き見してくるようなティーの視線に、得体のしれない不気味さを感じて恐れた。
 なのに今は、そんな彼女の存在を仲間と認め、骨身を削って捜し出そうとしている。しかも、こんなに遠出をしてまで。

「……あ」

 ふと、浅羽はロビーの柱にかかっていた時計を見る。
 時刻は夜の六時を示していた。
 あの男の放送の時間だ。

「ティー……まさか……」

 浅羽は嫌な予感がした。が、その予感は結果的には杞憂に終わる。
 今回の脱落者の数は、なんとたったの三名。その中に、行方不明のティーは入っていなかった。
 よかった。急にいなくなったからもしかして、と心配していたのだが、誰かに殺されたりなんてことはなかったようだ。
 とはいえ、たったの三名とはいえ今回も脱落者は出たのだ。この世界の活動範囲も確実に狭まっている。迂闊に安心はできない。

古泉一樹、シズ、御坂……あ、この二人って!」

 名簿を広げ、脱落者の名前に線を引く作業の途中で、浅羽はあることに思い至った。
 今回脱落した、シズという人物。この人は確かティーの知り合いで、百貨店の前で死んでいた男ではなかったか。
 残された少女はもちろんそのことを知っているだろうし、今さらどうということはない。ただ、確認はできた。
 やっぱり、ティーは知り合いを亡くしたショックで飛行場を去ったのではないだろうか。だとしたら、今頃は……。

「戻ったほうが、いいのかな」

 浅羽がそう思う理由は、他にもある。御坂美琴という名前だ。彼女は確か、ティーの同行者である白井黒子の先輩だったはず。
 具体的な人物像は知らないが、白井黒子は御坂美琴のことをやけに慕っている様子だった。
 ならば、そのショックも計り知れない。もしかしたら、ティーと同じような選択をしてしまうかも……と、浅羽は心配になる。

「……やっぱり戻ろう。部長たちもティーを捜してくれるって言ってたし、今頃はみんな集まってるかも」

 一人でティーを捜索する途中、浅羽は同じ中学校の先輩である水前寺邦博と再会した。
 映画館の表に停めてあるママチャリも、彼から譲り受けたものだ。
 いつも必要以上に頭が回り、無駄に行動力のある部長のこと。他のみんなを差し置いてティーを見つけていても不思議はない。
 うん、きっとそうだ。そうに違いない――とそこまで思って、浅羽はまた、疑問符を音にする。

「あれ?」

 本当に、そうだろうか?
 覚え違いかもしれないが、水前寺にはティーのことをきちんと話していなかったような気がする。
 ただ白い髪の女の子を捜していると、そんな風に説明したような……どうにも、記憶が曖昧だ。浅羽は首をかしげる。

「頭が痛い……やっぱり、もうちょっとここで休んでいこうかなあ」

 いまいち記憶が判然としないのは、この頭痛のせいかもしれない。時間はまだまだある。休養は必要だろう。
 それにせっかく遠出をしたんだから、このままトンボ帰りというのも格好がつかないのではないか。
 このあたりの探索をしてみるというのもいいかもしれない。付近には、立ち寄っていない施設がいくつかある。
 たとえば診療所。ここには薬や医療器具が置いてあるだろうから、調達しておけばいろいろと便利だ。
 それと摩天楼。ここで武器を調達したという話を仲間から聞いたことがある。なにか探してみるのもいいかもしれない。
 もしくは温泉。湯に浸かって疲れを癒す。日本人ならではの発想だ。あの夏休み最後の日みたいに、めちゃくちゃ気持ちいいかも。

「どうしよっかなあ」

 なに、あせることはない。
 浅羽には、誰かを守りたいという想いも、守りたいと想える存在も、守らなければならない約束も、なにもない。
 仲間が増えた今でも、我が身が一番かわいい。自分自身には嘘がつけない。生き延びたい、というのが切実な願いだ。
 あせることなんて、ないのだ。

「うーん……」

 それを思えば、あのグループに留まっているのは懸命ではないのかもしれない。
 だってあの人たちは、誰も最後の一人になることを目指してはいなかったのだ。
 脱出するための方法を探したり、仇討ちをしようとしたり、そのために協力しよう手を取り合おう、そんなことばかり言っていた。
 すぐに別れてしまったが、きっと水前寺もそんな考えでいるはずだ。しかし、さっきの放送であの男が言っていたことを考えると……。

「…………」

 考えて、考えて、考えて……浅羽はいつの間にやら、ベンチの上に横になってしまっていた。
 このまま眠ってしまうのもいいかもしれない。とにかく疲れた。成果は得られなかったが、壮大な一仕事を終えたような気もする。
 なんといっても、今の浅羽には大切なものがない。その存在は欠けてしまったから、あせることもない。空虚だった。
 まるで、なにかが抜け落ちてしまったような。けれどそれは、きっと錯覚にすぎないんだろう。浅羽は元からこうだったのだから。

 ……本当に?

 足りない。
 なにかが。
 なにかが。


【E-4/映画館・ロビー/一日目・夜】


【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形、右手単純骨折、右肩に銃創、左手に擦過傷、(←白井黒子の手により、簡単な治療済み)
     微熱と頭痛。前歯数本欠損。肉体疲労(大)。
[装備]:毒入りカプセルx1、ママチャリ@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、ビート板+浮き輪等のセット(少し)@とらドラ!
     カプセルのケース、伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏、伊里野のデイパック、トカレフTT-33(8/8)
[思考・状況]
 基本:生き延びたい。
 0:疲れた。
 1:周辺の施設に寄ってみる?
 2:少し休んだら飛行場に戻ろうかな。
 3:ティーや白井黒子のことが心配。

[備考]
 参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
 伊里野のデイパックの中身は「デイパック、支給品一式×2、トカレフの予備弾倉×4、インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)」です。


 ◇ ◇ ◇




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             lj.  i .l゙`i. l!. | ヽ. i  i  |`l i´  ̄ `丶,. -‐ '-!,ノ     `ー一'′
            | i ハj 0 ヽjヽl0 V!  j.、 l⌒l!   0     0  /!
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        「::.:`!.j| [:.:.´:!. }、   \ .:L_,.. -{  /  ,'   /      r' ,!  ノ
        ゝ--'、,)__丶::;jノ_,)_,. -─ `‐-ゝ._ノ-'-‐--'─'───‐---'─-- '

          「狩人のフリアグネ!!」  「なんでも質問箱!!」



マリアンヌ(以下マ)「みなさん、こんにちはー!」
フリアグネ(以下フ)「本コンテンツは、私と私の可愛いマリアンヌが、読者の疑問質問に答えていく由緒正しきコーナーだ」

マ「フリアグネ様、とうとうやりましたね! ついに私もラノロワ・オルタレイション進出です!」
フ「ああ、苦節167話、ついに私たちの愛の巣が完成したというわけだ。これもひとえに、私たちの愛の力――マリアンヌ!!」
マ「んぎゅうう~、フ、フリアグネ様~嬉しいのは私も同じですけど、まずは貰ったお仕事をキッチリしないと~」
フ「そうか、そうだね……うん、がんばろう、私の可愛いマリアンヌ!」
マ「はい!(こっちのフリアグネ様は、本編からは考えられないほどの可愛さです……)」

フ「今回のテーマは『伊里野加奈の存在が消失したその後の世界について』だ」
マ「中には、設定が複雑すぎて訳がわからない、という人もいるかもしれませんからね」
フ「このコーナーは、そういった読者のための解説枠だね。ではマリアンヌ、お便りを読んでくれるかな」
マ「了解です! ではさっそく、質問のお手紙を読みまーす!」


 Q:マ『「存在が消える」のと「死ぬ」のって、どう違うんですか?』
 A:フ『存在の喪失は死と違って、その人の居た証がすべて消えてしまうんだよ』


フ「ただ死んだり、殺されたりしただけなら、周りの人間は故人を悼んでくれるし、時には思い出してももらえるだろう。
  しかし『この世に存在する根源の力』である“存在の力”をなくすと、『この世における存在が消える』。つまり……」
マ「最初からいなかったことになる?」
フ「そのとおりだよ、マリアンヌ。いなくなっても、誰も悲しまない。思い出されることも絶対にない。
  あらゆる『存在した証』も消えてしまう、完全なる消滅だ」
マ「でも、消えた人間が周囲に与えた影響はある程度残ってしまうため、いなくなったことによる矛盾や不自然な現象が発生する。
  それを『世界の歪み』というんですね」
フ「そうだ。その増大と蓄積による決定的な破綻を『大災厄』と呼んで恐れる“紅世の王”たちが、
  フレイムヘイズに力を与え、同胞を殺して回っている、というわけさ」
マ「なるほどー。ではフリアグネ様、この物語……ラノルタの中で『存在が消える』ケースといったら、なにが考えられるでしょう?」
フ「現状では、二通りのケースが考えられるね。一つは、“紅世の王”である私が、人間の“存在の力”を喰らうケース。
  もしくは、炎髪灼眼のおちびちゃんや『万条の仕手』らフレイムヘイズが、人間の“存在の力”を故意に糧とするケースだ」
マ「あれ? ということはつまり、今後フリアグネ様が手を下した人間はみんな、伊里野加奈のように『存在が消える』のですか?」
フ「いいや、そういうわけではないさ。『存在が消える』のは、あくまでも“存在の力”を刈り取った場合のみだよ。
  たとえば、私が致命傷を負わせてあとは放置した“剣士”がいるだろう? 彼は“存在の力”を失ってはいないから、
  死んだ今になっても皆の記憶からは消えていない。要は殺害方法の問題だね。人間のやり方で殺すか、“紅世”のやり方で殺すかの違いさ」
マ「そうだったんですね~。では、続けて次の質問を読みましょう」


 Q:マ『トーチになったから存在が消えるのではないんですか?』
 A:フ『「存在が消える」という事象にトーチは実のところ関係ないんだよ』


フ「よく『伊里野加奈はトーチ化したから存在が消えた』と誤解されがちだが、存在の消滅にトーチ化という過程は必要ない。
  そもそもトーチを作る目的はなにかと言えば、“紅世の徒”が作る場合とフレイムヘイズが作る場合で意味合いが違ってね。
  フレイムヘイズは『世界の歪み』の衝撃を和らげるため、“紅世の徒”はフレイムヘイズへの目眩ましのため、トーチを作成するのさ」
マ「確かトーチは、人間を喰らう際“存在の力”を少しだけ残しておいて、その残り滓を使って作り出すんでしたよね?」
フ「そのとおり。たとえるなら、今日の晩ご飯を残しておいて明日の朝食にしてしまおうという魂胆だよ。
  この手法を使えば、手作り料理にうるさいフレイムヘイズにも手抜きをしているとは思われにくい」
マ「フリアグネ様、そのたとえは逆にわかりにくいと思います……」
フ「そうかい? ではもっと簡潔に説明しよう。先の質問にかかってくる話だが、存在が消滅すると『世界の歪み』が発生する。
  この『世界の歪み』はフレイムヘイズたちにとって察知しやすいものなので、“徒”も極力起こしたくないものなんだ。
  “紅世の徒”とフレイムヘイズは因縁関係にあるからね。食事をするたびに文句を言われては、誰だって参ってしまう」
マ「派手に暴飲暴食してると、またこんなところで食い散らかしてるなー、と注意されてしまうわけですね」
フ「いい例だ。困ったことに、注意を通り越していきなり殺しにかかってくるのが同胞殺しのフレイムヘイズという生き物だがね。
  そうやって文句を言われることを防ぐ、または見つかるのを遅らせるために作るのが、“徒”にとってのトーチなのさ」
マ「トーチを作っておけば、“徒”が人間を喰らったと、フレイムヘイズはすぐにはわからないわけですね」
フ「そういうことだよ、マリアンヌ。では問題だ。私が伊里野加奈やステイル=マグヌスのトーチを作ったのは、なぜだと思う?」
マ「この物語の中に登場する“紅世の王”は、“天壌の劫火”や“夢幻の冠帯”を除けばフリアグネ様ただ一人。
  もしそんな状況下で存在の消滅が起これば、『フリアグネ様が人間を喰らった』ということがフレイムヘイズにすぐバレてしまう……だからですか?」
フ「さあて、どうだろうね」
マ「えー、正解は教えてくれないんですか~!?」
フ「うふふ、正解はマリアンヌにだけ、あとでこっそり教えてあげるよ。さて、このあたりでまとめようか。
  今回の場合、存在の消滅は、正確には『私が伊里野加奈を喰らった瞬間』に起こっている。つまり、彼女の存在はもう随分前に消えていたのさ。
  しかしながら、私は『伊里野加奈のトーチを作る』ことでその発覚を遅らせた。トーチを目眩ましと言ったのは、そういうことなのだよ」
マ「トーチとは、存在の消滅という事実の発覚を遅らせるものでしかない……それじゃあ、もしフリアグネ様がトーチを作らなかったら?」
フ「第148話の時点で、『この世の本当のこと』を知る者以外は伊里野加奈のことを忘れていただろうね」
マ「彼と彼女のラブシーンも、描かれなかったわけですね……」


 Q:マ『「存在した証」が消えるって、具体的にどのくらい消えるんですか?』
 A:フ『今回の伊里野加奈の例で検証してみよう』


フ「マリアンヌ。今回の伊里野加奈の喪失で変わった最もたることといえば、なんだと思う?」
マ「はい、それはみんなの記憶です! この浅羽直之は特に伊里野加奈と縁が深かったですから。記憶がごっそり改竄されています」
フ「大正解だよマリアンヌ。『存在した証』、その最もたるものは『存在する者の記憶』なのさ」
マ「ですがフリアグネ様。私にはわからないことが一つあります」
フ「なにかな?」
マ「『浅羽直之と榎本の人間関係』についてです。本来、この二人は伊里野加奈の存在がなかったら出会うこともなかったはず。
  でも今回のお話を見ると、浅羽直之は榎本のことまで忘れてしまったわけではないようですが……」
フ「一人の存在が消えたところで、他の存在まで消えてしまうということはないのさ。浅羽直之と榎本は知り合い。この結果は覆らない。
  ただ、二人の出会いの形は、伊里野加奈を介さないまったく別のものになってしまうがね。そういう風に記憶が書き換えられる」
マ「でも、それって俯瞰的に見ればおかしいことなんですよね」
フ「ああ。だから今回のお話でも、浅羽直之は榎本との関係に違和感を拭えないでいる」
マ「記憶以外には、どんなものが挙げられるんでしょう?」
フ「本人の映っている映像や写真、直前まで身につけていた衣服、名簿などの記録媒体からも痕跡がすべて消える。
  本編の名簿からも、伊里野加奈の名前はきちんと消えているだろう?
  他にも、監視映像みたいなものがあれば、そこからもいなくなっているだろうね」
マ「あれ……でも、フリアグネ様」
フ「どうしたんだい、可愛いマリアンヌ」
マ「伊里野加奈の存在した証、まだ残っています。『彼女の支給品』ですよ。これ、浅羽直之が持ったままです」
フ「ああ、これか。よく気づいたね、マリアンヌ。しかし、伊里野加奈の支給品は彼女が存在した証にはならないのだよ」
マ「え、なぜですか?」
フ「浅羽直之の持つ伊里野加奈の支給品が、誰も伊里野加奈に配られたものだと認知できていないからさ。
  彼の記憶の上では、この支給品は拾った荷物。百貨店に立ち寄った際、道端に落ちていた――そういうことになっている。
  それは彼が百貨店を訪れるずっと前から置いてあったのかもしれないし、そもそも支給品ではなかったのかもしれない」
マ「支給品ではないって……でも、これの中身は他のみんなが持っている支給品と同じものですよ?」
フ「そうだね。ただ、それでもこれが伊里野加奈のものであるという証明にはならない。中身など些細な問題なんだよ。
  だからこそこの支給品は、世界からは『伊里野加奈が存在した証』とは見なされず、消えることもなかったのさ」
マ「それじゃあ、支給品は本来、一人につき1セット。だから59人いれば59セットあるはずなのに、実際にはなぜか60セットあると?」
フ「そういうこと。もっとも、そういった支給品の数に気づいている者など、誰一人として存在しないだろうがね」
マ「物語を俯瞰的に眺めている唯一の人物が、修復する力に巻き込まれているようですからね……」
フ「彼の言葉や感覚を信じるなら、という仮定の話だけどね」
マ「でも、どうにも釈然としない矛盾です。本編内のみなさんは、疑問に感じないんでしょうか?」
フ「それが『世界の歪み』というものなのさ。疑問程度には思うかもしれないが、それは勘違いと切って捨てられる程度のものだ。
  ただ、今後こういったことが頻繁に起こったとすればどうか……『世界の歪み』はそれだけ大きくなり、世界は破綻する。
  これが、フレイムヘイズと契約した“紅世の王”の恐れる『大災厄』だね。具体的にどうなるのかは、神のみぞ知るというところかな」
マ「あれ……フリアグネ様ー。私、消えていないものをもう一個見つけてしまいました」
フ「ほほう。それはなんだい、マリアンヌ?」
マ「『伊里野加奈のパイロットスーツ』です! これは支給品ではなく、物語が始まったとき、彼女が身につけていたものです。
  そのあとはすぐに脱ぎ捨てていますけど、そのあと巡り巡って浅羽直之のところに……これもセーフなんですか?」
フ「ふむ。それについてはいろいろと考察できるね。仮説だが……これはひょっとしたら、伊里野加奈のものではないのかもしれないよ?」
マ「ええ!? こんなにはっきり『伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏』って書いてあるのにですか?」
フ「それはメタ発言だよ、マリアンヌ」
マ「それを言ってしまったら、このコーナー自体がメタ企画です」
フ「フフフ、それもそうだね。話を戻すと、このパイロットスーツは伊里野加奈が消えた時点でまだ世界に残っていた。
  ということはつまり、これも『伊里野加奈が存在した証』にはならないということさ。結果論かもしれないがね。
  では、このパイロットスーツはいったい誰のものなのか……仮説にしかならないが、伊里野加奈以外の誰かのものなのだろう。
  伊里野加奈は存在しないのだから、このパイロットスーツを着ていたのも伊里野加奈以外の誰かということになる。
  いや、着ていたとも限らないか。まあ、深い問題でもないさ。このパイロットスーツは灯台に落ちていて、白井黒子が回収した。
  彼らにとってはそれだけのものでしかないのさ。わかったかな、マリアンヌ?」
マ「真相は闇の中……ということはわかりました。やっぱり、釈然としませんけど」
フ「世界とはそういうものなのさ。さあ、最後のお手紙を読むとしようか」


 Q:マ『伊里野加奈が初めからいなかったことになるのなら、榎本は誰に殺されたことになるのですか?』
 A:フ『「もうここには存在しない伊里野加奈」だよ』


マ「……えっと、つまりどういうことですか?」
フ「真相は闇の中、さ」
マ「えー!?」
フ「存在が消えても、消えた人間が周囲に与えた影響はある程度残ってしまう。榎本の死は、まさにそれだね。
  伊里野加奈が消えても、榎本が誰かに殺されたという事実は覆らない。となると、彼を殺害した人物は誰かという話になる。
  ここで伊里野加奈以外の誰かが榎本殺害の実行犯になる……というわけではない。そういう風にはならないんだ。
  では、どういう風になるのか。どういう風にもならない。榎本は『誰か』に殺された。そういうことにしかならないのさ」
マ「釈然としません!」
フ「そうだろうね。だからこその『世界の歪み』だ。放置していれば災厄が起こってしまう……そうさせないのが、フレイムヘイズなのだよ」
マ「今回の一件で、『炎髪灼眼の討ち手』や『万条の仕手』はフリアグネ様を狙うでしょうか?」
フ「さあ、どうだろうね。彼女たちが私の意図を正しく読み取れれば、あるいは……?」
マ「なんにせよ、世界はこういう風に修復された。そこに疑問や違和感が生じるのは当然で、それが『世界の歪み』というものなのですね」
フ「素晴らしいまとめだね、マリアンヌ。つまりはそういうことなのさ。
  さて、質問もこれで終わりかな? ではここから先は私とマリアンヌの愛の語らいのコーナーということで――」
マ「……残念ですが、フリアグネ様。どうやらそろそろ、お別れの時間みたいです」
フ「な、なんだって……!? そうか……そうなのか……それは……残念だな……」
マ「そんなに気を落とさないでください、フリアグネ様。きっと次の機会がありますよ」
フ「……そうだね。よし、では最後は元気よくしめようか!」

マリアンヌ「では読者のみなさん、今回はこのあたりでお別れです!」
フリアグネ「また諸君に、私とマリアンヌの愛溢るる日々を見せられるよう願っているよ」





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