騎士姫と女神達の邂逅

(投稿者:フェイ)

*


その日の皇帝謁見の間には、皇帝のほかに二人の皇族が。そして、二人のメードがいた。
一人は、黄金に輝く髪を頭の上で二つに留め、白く輝く鎧を纏ったメード、騎士姫、スィルトネート
一人は、黒く長くつややかな髪を立て巻に巻き、黒のドレスを纏ったメード、水の都の女神、メディシス
どこか対照的な二人は、それぞれギーレン・ジ・エントリヒユリアン・ジ・エントリヒを背に、皇帝へと膝をついていた。

「うぅむ、よぉくぞ参ったぁあ。二人ともぉ、面を、あげぇい…」
「…はっ」
「はい」

顔を上げる二人の眼に、皇帝の満足そうな頷き顔がうつる。
後ろに控えるギーレンはその顔をどこか憎憎しげに、一方のユリアンは苦笑いで見守る。

「メディシス、それにぃ、スィルトネート…よくぞぉ、誕生してくれたぁ…皇室親衛隊、及び我、第69代皇帝マキシムム・ジ・エントリヒはぁ、歓迎するぞぉ…」
「はっ、ありがとうございます」

再び二人は深く一礼。

「うぅむ、さがってぇ、よろしいぃ。また会える機会をぉ、心待ちにぃ、しておるぞぉ」

皇帝が手をかざすと、扉横に控えていた従者が扉を開ける。
メディシスとスィルトネートがしっかりと一礼し、その扉を先に出て行き、ギーレンとユリアンもまた、その後に続こうとして。
皇帝の言葉に呼び止められる。

「ギーレン、そしてぇ、ユリアンよ…」
「…なんでしょう、父上?」

振り返ったギーレンとユリアンに対し、先ほどのメード二人に対する緩んだ表情とは違い、立場を持つ『皇帝』の顔で語りかける。

「お前達二人が、メードを傍に置く事でぇ…よからぬ噂を、立てるものもいるだろぉう……」
「……」
「はぁ……」
「だがぁ…構うなぁ。メードを愛せぇ…。我が愛しのジークのように、必ずやぁ、お前達に力を貸してくれるだろう…」

眼を閉じ、感慨深いかのように深く頷く皇帝。
ギーレンはその言葉に苦い表情を浮かべると、顔を背けて部屋から出て行く。

「……ふぅむぅ……」

ユリアンもまた、肩を竦めると部屋を出た。



「では貴女はフロレンツの防衛を?」
「ええ。積極的に前線にでることはなさそうですわ。無論、有事には必ず前線へ赴かせて頂きますけど」
「ですがフロレンツからグレートウォール戦線は遠いですから…あまり会える機会がなさそうなのは残念ですね」

ギーレンとユリアンが皇帝と話す間、スィルトネートとメディシスは別室へと案内されていた。
出された紅茶を飲みながら、ゆったりと互いの連れを待つうち、二人は交友を深めていく。

「私達の世代は皆、特殊な役につくことが多いですものね」
「フロレンツ防衛の貴女、ギーレン様護衛の私…ヴォルケン中将、ベルンハルト少将付のレーニシルヴィ
「ベルクマン長官につくドルヒもそうですわ。他にも陸軍所属のキルシュ、あとは…」
「航空部隊にも一人いたはずです」
「正確には帝都防空飛行隊ですわね」
「あと国防軍本部所属にも一人いたはずですが」
「……中々詳しいですわね」
「立場上、そういったことに目を通す事も多いもので。直接会った相手はほとんどいませんが」
「…こう考えると、前線への追加人員は少ないですわね」

肩をすくめるメディシス。
そんな様子にスィルトネートは苦笑いを一つ。

「まぁ、かの軍神…ブリュンヒルデ様が抜けたとはいえ現状前線戦力は足りているでしょうしね…」

現在、グレートウォール戦線に駐在するメンバーを思い出しながら言う。
シュヴェルテや竜式、『阿修羅爵』イェリコらエントリヒの精鋭に加え、黒騎士タワーなどクロッセルのMAID等等。
そして――――。

「まだ実際にあったことはありませんが…ブリュンヒルデ様の後をついだ『エントリヒの守護女神』ことジークフリート――ですわね」
「前線維持にはたりているから国力増強を考えた結果ではないでしょうか?」

その言葉に、メディシスの眉がぴくり、と反応する。

「へぇ…つまり、ジークフリート達がいれば私達の力は前線には必要ないと…そう仰りたいんですの? スィルトネート」
「え…い、いえ、そういうつもりでは…」
「なら、どういうつもりでしたの? 詳しく説明いただきたいですわね」

あわてて手を振り否定するが、既に手遅れか。
今まで優雅に見えていたメディシスの笑顔は口元が引きつっていた。

「ですから、あの…メディシス?」
「そうですわ…試してみましょうかスィルトネート? 私の力が前線で通用しないかどうか」
「…! メディシス! MAID同士の私的な決闘は咎めの対象になります!」
「私的でなければいいのですわ。ユリアン様には私からお話します。貴女はギーレン閣下の許可をとっていただけます?」
「ギーレン様がそのような娯楽的な事をお認めになるわけがないでしょう」
「あら、これは歴とした訓練の一種ですわ。それとも…貴女のいう王は、自分所有のMAIDも出せないような…?」

当然ユリアン付のメードであり挑発上の常套句とはいえ、直接口に出せば皇族侮辱罪で罰せられる。
それ故メディシスの挑発も途中でぼやかすような発言で止められた。
しかし、それを聞いたスィルトネートの顔と頭はみるみるうちに赤に染まっていく。
―――これは、怒りだ。

「……いいでしょう…! その決闘を受けましょう。私の誇りにかけても貴女には負けません、メディシス!」





「…それで、こういう事になったのかい?」
「ええ」

くるり、と手にした杖を回しながらメディシスは答える。
ユリアンは呆れたような、感心したような表情で笑いながら、丘の上から見える景色を眺める。

「郊外の大型施設…それも一度Gに襲われて廃棄されたところなんて、ギーレンの手配があったとはいえよく見つけたものだね」
「ちょうどいい場所ですもの。この装備を送っていただけたのも、感謝しておりますわ」

まるで蛇が絡みついたような意匠の杖―――鎌杖カドゥケウス。
EARTHが完成させたものを、メディシスが気に入り取り寄せたものが決闘前に届いたのだ。
メディシスが力を込めれば刃を形成、鎌を形成する。

「想像していたよりは使い勝手がよさそうですわ。…まぁ今回は調整で刃は潰されているようですけど」
「はは…スィルトネートの方も装備は届いているみたいだよ……そうだね、ギーレン?」

その言葉にメディシスが振り返ると、ギーレン・ジ・エントリヒが歩いてくるところであった。
メディシスは優雅に一礼をしてみせる。

「スィルトネートも位置についた。いつでも始められるとの事だ」
「わかりましたわ。ではユリアン様、合図をお願いいたします」
「わかったよ」

ユリアンが信号弾を構えるのと同時に、メディシスは前傾姿勢にうつる。
そして。

「よーい……ドン」

信号弾が高く打ち出されるのと同時に、メディシスは駆け出す。
黒い弾丸のように真っ直ぐ、施設へと向かっていく。
その後姿を見送りながら、ユリアンは感心したようにつぶやいた。

「やる気だねぇ…しかし、許可するとは思わなかった」
「何……ちょうど良い機会だっただけだ」
「……?」
「(…スィルトネート……プラン・ナイトヘーレの核となりうるだけの性能を見せられるか…)」





「…………」

施設に向かう途中のスィルトネートは意識を集中させていた。
軽く口車に乗せられてしまったとはいえ、決闘を受けたからには勝たなければならない。
自分の誇りのためにも――なによりも、王、ギーレンの名誉のためにも。

「負けません…メディシス…!」

施設の入り口――を目の前にし、脚を止める。

「――来る…!」

両手に短剣を構え、油断なく周囲に眼を配る。
近づいてくるプレッシャーは、しかし平面状からではなく。

「……上!?」

施設の二階、バルコニーのように出っ張ったそこから、黒い影が飛び出す。
手に持った杖を振りかざし、飛び込んでくるのはメディシス。
その勢いを短剣で受け止めようとし、片手では止めきれないことに気づいたスィルトネートは、両手の短剣をクロスさせる。
短剣と杖が激突、金属音が、響く。

「くっ……!」
「なかなかの反応速度ですわね…」

スィルトネートに支えられる形で一瞬、メディシスの身体が空中で静止する。
が、勢いに押されたスィルトネートはこらえきれずに2、3歩よろけるように後退。
対するメディシスも突き放すように反動で間合いを取り直す。

「それが貴女の装備ですの? …見たところ、普通の短剣のようですけど」
「そちらこそ、見た目はタダの杖ですね」

互いにけん制しあう。
無論、相手の武器がただの杖やただの短剣で無いことは理解している――相手は、メードなのだから。

「かかってきてはどうです?」

再び手を交差させる形に短剣を構えるスィルトネート。
それをみたメディシスは警戒を強める。
―――どのような仕掛けがあるのか、皆目見当もつきませんわね。

「………ですが…!」

あえて地を蹴り、最高速へ加速、一気に距離を詰めにかかる。
姿勢を低くして杖を構え何時どのような攻撃にも対応できるようにしたまま、駆ける。

「っ…!!」

瞬間、スィルトネートがその手に構えていた両の短剣を投げつけた。
何故か鎖で篭手と繋がっているそれは正確な狙いで真っ直ぐメディシスへと襲い掛かる。
しかしあくまで直線的な動き――その程度、見切れぬわけも無い。
軽く杖を回し短剣を弾き飛ばすと、瞬時に武器を失ったスィルトネートの懐へと飛び込んだ。

「カドゥケウス!」

メディシスは武器の名を高らかと叫び、手から杖へとコアエネルギーを送り込む。
杖はその声に応えるかのように一度淡く光ると、その先端部より輝く刃を発生させ、次第にその光は落ち着き実体を持つ鎌となる。
そのまま地を滑らせるように低く構えた鎌が下から切り上げるようにスィルトネートに襲い掛かる。
手に武器のないスィルトネートにそれを防ぐすべはなく、腕についた篭手では速度ののった鎌の一撃はこらえきれない。
無論、演習扱いである上に潰されている刃では切り裂くことは出来ない。
だが『腕を失うほどの攻撃を与えた』というのは――事実上の勝利証明となる。

「これで終わりですわね、スィルトネート!」

振り上げようとした瞬間、メディシスはスィルトネートの表情に気づく。
―――諦めた顔ではない、これは―――。
ぞくり、と背筋を嫌な予感が駆け抜けた――とっさに攻撃を中断、飛び上がり背後からの気配を避ける。
先ほどまでメディシスがいた空間を、避けたはずだった二本の鎖付短剣が駆け抜けた。
続けて、スィルトネートの声が聞こえた。

三番(ドライ)四番(フィーア)!」

スィルトネートの腰部についた鎧のスカートが跳ね上がると、内よりさらに二本の短剣が飛び出し、メディシスへと直進する。

「おっとっ…!」

それを弾き、着地すると一度間合いを取るために速度をあげ走る。
すると、鎖でスィルトネートと繋がった短剣は即座に方向を変え、メディシスを追う。

「っ、なるほど……それが貴女の能力、というわけですのね…!」
「そう…そしてこれが操作系能力MAID用装備…剣鎖グレイプニールです…!」

スィルトネートが腕を構えると、その手の動きに従い四本の剣鎖が散開し包み込むようにメディシスへと襲い掛かった。
前方から遅い来る一本をバックステップでさければ、着地点へと飛び込んでくる二本目、三本目。
それを杖で捌くと、四本目が上から振り下ろされる。

「中々いやらしい攻撃ですわね…!」

しかしそれをも持ち前の瞬発力で避ける。
確かに様々な方向からの相手を裁かなければならないのは厄介だが――。
軽いステップと自らの直感を元に攻撃を避け続けるうち、メディシスは気づく。

「―――この速度なら、捌けますわよ…!」
「…っく…!」

グレイプニールの速度が、メディシスに追いつけていない。
もとよりメディシスは親衛隊随一のスピードの持ち主であり、広い空間でその速度を生かせる状況である。
いくら四人の相手がいようとも、速度が追いつかなければメディシスに手傷をおわせることはできない。

「それより…見た所あなたの装備数は四つ――今の貴女は無防備すぎますわ…!」
「!」

一度、グレイプニールを振り切ったメディシスは反撃に転じる。
右に、左に、揺さぶるようなステップで、しかし驚異的な速度でスィルトネートへと接近する。
スィルトネートは咄嗟に判断、グレイプニールに手元へ戻るよう指示を飛ばしつつバックステップ。
地を蹴ったときには、既に眼前にメディシスが迫っていた。
手元にまだ、短剣はない。

「ふっ……!!」

横薙ぎの鎌の一撃。
確実に胴を捉えたかと思われた一撃は、かろうじてスィルトネートの鎧の表面を削り取るにとどまる。
しかしメディシスは止まることなく、次の一歩を踏み込んだ。
鎌のもち手を回し、二撃目は下から斜め上へと切りあげる一撃。

「っ……!」

回避が間に合わないと判断したスィルトネートは右手の篭手から伸びる鎖を鎌と自分の身の間に挟みこむ。
一瞬の均衡の後、あっけなく鎖は断ち切られ、先端にあった剣が力を失い地に落ちる。
僅かな猶予はスィルトネートに回避の隙を与えた。
首を思い切り仰け反らせるとその目の前を鎌が通り過ぎていく。
今の一撃で決めるつもりだったメディシスは改めて三撃目の縦を振り下ろそうと構え、スィルトネートの手に短剣が戻ったのを見る。
構わず、鎌を振り下ろす。

「この程度…で!」

短剣で受け止めようとしたスィルトネートは、次の瞬間気づいた。

「刃が――――ない…!?」

実体化していた刃を消したカドゥケウスは短剣に留まることなく空を切った。
回された杖の石突が、スィルトネートのがら空きな胴部を強く叩く。

「っぐ、ぅ…?!」

衝撃を殺すために自らも後ろへ飛びながら考える。

―――この戦場は不利――!

地に足がつくと同時にメディシスに背を向けるように反転、施設へと向かい、その窓を破って中へと飛び込む。

「なっ…待ちなさいな!」





狭い通路を進むメディシスは油断なく杖を構え、周囲を確認する。
施設内に突入したスィルトネートは剣鎖を使い移動したらしく、メディシスが内部に入ったときには既に、壁や天井に残る傷跡のみが痕跡であった。

「どこに……。っ!!」

後ろに跳び退ったメディシスの目の前を、壁を突き破って出現した短剣と鎖が通過した。
そのまま片手を突きながらバク転――下から上から、それぞれ短剣と鎖が突き出され、通路を縫いとめるように鎖が張られる。
鎌で鎖を切り落とそうとする間に鎖は穴より戻っていく。

「―――小癪な攻撃をしてくれますわね、スィルトネート…!」
「それほどでもありませんよ!」
「っ!?」

後ろからの声に振り向きざま首を仰け反らせる。
突き出された短剣を避けると、好機とばかりに杖を背後のスィルトネートにむけて振りぬく。
が、すでに地面を蹴っていたスィルトネートは、はるか後ろの壁に突き刺さっている腰の鎖を巻戻し一気にメディシスからの距離を稼ぐ。
追いすがろうとするメディシスだが、再び背後から迫る剣鎖を叩き落すために一度反転。
剣鎖を叩き落したメディシスが振り返れば、そこにスィルトネートの姿は無い。
代わりに顔を出すは、剣鎖。

「小癪というより姑息ですわよ! 騎士姫の名が泣きますわね…!」
「ですが、効果的なのは確かでしょう?―――自分のフィールドに持ち込み、自らの王に確実な勝利を捧げる事こそ、私の忠義の騎士道です!」

身を仰け反らせ剣鎖をかわせば、即座に二撃目、三撃目が打ち出される。
鎖を断てば剣は力を失うが、現在カドゥケウスに刃はない。
そうでなくとも、このような狭い通路で長物は不利、この上に刃を発生させてはさらに取り回しが辛くなる。

「逃がしません――ギブアップしたらいかがですか、メディシス!」

一呼吸分の間をずらし飛び込んでくる剣を杖で叩き落とす。
気づけば、誘われるがまま施設の奥へ奥へと進んでしまっている。
どこかでペースを取りなおさなければ―――。

「――! 逃げる…そんなわけないでしょう? 甘く見ないでほしいものですわね…!」

床との摩擦で煙を立てながら急ブレーキ、急制動から一気に跳び施設の一室へと飛び込む。

「なっ…!?」

慌てたように剣鎖が角度を変え、メディシスを追う。
続けて飛び込んだスィルトネートは、その入り口で立ち止まる。

「ここを見て驚くようでは、下調べが不十分でしたわね、スィルトネート?」

飛び込んだ先は暗く、実験用の部屋のためか広大な空間となっており、窓から挿すはずの日差しは分厚い黒いカーテンに覆われていた。
警戒しながらもスィルトネートは少しずつ動き、視界を確保するために部屋の電気をつける。
明るくなった部屋の奥には、今当に実体化した鎌を改めて構えるメディシス。
障害物も殆ど無いこの部屋は既に彼女のテリトリーだった。

「……さて、私のフィールドですけど…逃げるなら追いませんわよ?」
「…いえ、ここで決着をつけさせてもらいます」

スィルトネートは周囲に剣鎖、グレイプニールを集結させ、覚悟を決める。
同じように、メディシスも鎌を握る手に力を込めた。


「「はあああああああああああああああああああああっ!!!」」


二人は同時に走り出す。
速度ではメディシスが遥かに早く。
リーチでスィルトネートは勝っていた。

しかし金属音の激突、それよりも早く頭上でガラスの割れる音が響いた。

「「…!?」」

分厚いカーテンが風に煽られ翻り、その奥から人影が飛び込む。
青い服、銀の鎧に身をつつみ、腰につけた金の装束つきの赤いリボンと三つ編みに結われた銀髪をたなびかせる少女。
その少女は飛び込んできた勢いそのままに、メディシスとスィルトネートの間に降り立った。

「…! 危ない!」
「おどきなさいな!」

既に突き出された互いの武器、二人は止まる事も出来ずにそのまま少女へと激突し。
強制的に、止められた。



「え……?」
「な…ん…………」



いつの間にか、少女の手元にあった剣が引き抜かれていた。
重厚な輝きをもつその剣がメディシスの掲げた鎌を受け止め。
引き抜かれた後ですら存在感を持ったその鞘がスィルトネートの剣鎖を受け止めていた。

「………………双方……そこまでに」

鋭い眼光と冷静な物言い。
そして、無理な体勢ながらもいくら力を入れようともびくともしないその腕力が、圧力となる。
メディシスは鎌を引きながらその少女から距離を取り、スィルトネートは剣鎖を呼び戻す。
そして互いではなく、新たに現れた少女へ対する構えを取る。

「……どなたかは知りませんが、私達の邪魔をするのなら」
「私、無粋な輩は嫌いですのよ?」
「………」

二人の言葉に、少女も改めて構える。
鞘を投げ、その剣を両手で持ち、眼前に構える。
その姿はスィルトネートとメディシスの二人を相手取っているのにも拘らず、隙がない。
じりじりと、隙を探るように位置を調整する二人の額に、汗が浮く。

「―――っ!」



「すぅおこぉむぁでぇぇぇいっ!!!!」


「!」

入り口から響いた声に三人は同時に動きを止めた。
少女がいち早く武器を置き膝を着いたのをみてスィルトネートとメディシスも振り向き、慌てて姿勢を正し膝をつく。

「………陛下」
「うぅむ、双方ともぉ、よい戦闘でぇあったぁ……だぁがぁ、怪我をしてはぁ…元も子も、なぁい」

尊大な様子で大げさに頷いてみせる、エントリヒ皇帝
そして、二人の間に乱入した少女へ顔を向け、顔をほころばせる。

「前線より戻ったぁばかりでぇ…ご苦労であったぁ……ジーク」
「……はっ」

深く頭を下げる少女を見て、スィルトネートとメディシスはようやく思い当たった。
巨大な剣を振るう、エントリヒ現行最強のMAID。
これが守護女神。


「「ジークフリート…!」」







ギーレン様の資料を整理していた際、懐かしい記録映像を見つけた。
許可を頂き、閲覧……そして若干の後悔、私もメディもまだまだ青かったということだろうか。
なによりも恥ずかしいのは、あんな挑発に乗るなんて、昔の私は何を考えていたんだろう…。

そしてもう一つ。
一年分の実戦経験があったとはいえ、ああも簡単にジークに攻撃を止められたこと。
今もまだ、追いつけてはいないだろうこの差。

まだまだ強くならなければならない。
<プラン・ナイトヘーレ>。
その実現のために。





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最終更新:2009年04月27日 22:22
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