檄!皇室親衛隊・中

(投稿者:フェイ)


――皇室親衛隊陣営後方・クロッセル連合王国待機部隊――

「―――暇、なんだジェッ!」
「暇だねー」
「暇であります…」
「全くもって暇」

ぐでぐでになって座り込んだり寝転がったりな四人の小柄な少女達。
前線から遠く離れた後方で放置もされれば、腐りたくなる気持ちも少しは分かるというものである。

「気が緩んでいるぞコニー。ここも戦場の延長線上だということを、忘れないでくれたまえ」
「だあって隊長ぉ。………なにしてるんすか?」

起き上がったコニーが目撃したのは、自らが所属するルフトバッフェ赤の部隊隊長、シーアの姿。
ただし非戦闘状態のその背中に、象徴たる炎の翼はなく、その代わりに。

手にはタオル。
足元にバケツ。
右横に洗剤。
そして止めとばかりに背後に見えるは物干し竿。

「ふ…柔軟材はつかっていないさ」
「いや、そんなこときいてないです」

じゃぶじゃぶと涼しげな音を立てて綺麗になっていくタオルをしっかりと絞り、ぱんぱん、と引っ張って皺を伸ばしては物干し竿に掛けていく。
それを見て満足げにすると、再び新しいタオルを洗う作業に移行する。

「…なんで隊長がそんなことしてるかってことを」
「まもなく、エントリヒの皇室親衛隊の諸君が戦闘に入るだろう。そして戦闘が終わった時、おそらく彼らはどろどろに汚れてしまっているだろう……そこに! この心地よくふわふわで真っ白なタオルがあればどう思う! では解答をそこのフランシス君」
「へ?」

コニーの横でだらーっとしていたナイチンゲール三姉妹が長女、フランシスは起き上がってしばし思案。

「えーっと、やーらかくって気持ちいいとおもいまーっす」
「その通り。その時、彼らは私達に極上の笑顔を見せてくれることだろうね。……聞くところによると、私に会いたいといってくれている娘もいるようだし、こうタオルで包むようにしつつ引き寄せてだな…ふふふふふふ…」
「あー…また隊長の病気がはじまったジェ」

呆れたように肩を竦めるコニー。
引いていないかどうかちらり、とナイチンゲール三姉妹の様子を伺う。

「……なんで三人してそんな眼をキラキラさせてるんだジェ」
「だって…」
「私達の…」
「憧れのお姉さまであります」
「……………」

視線をシーアへと戻す。
怪しい笑みを浮かべながら洗い立てのタオルに頬擦りする姿はまさに『変態紳士(レッド・バロン)』である――ていうかヨダレ、折角洗ったのに。

と、その時、轟音が頭上を通り過ぎる。

「あ……」

空を仰げば、そこには数筋の飛行機雲が戦場に向かって伸びていた。

「『Si387B1』を投入した……間もなく、といったところか」
「あ、正気に戻った」

視線を戻せば、いつの間にか全てのタオルを物干し竿に掛けたシーアが、空を見上げていた。

「―――始まるようだね」

爆音が、響く。




超高空からの爆撃が、Gを蹂躙する。
数機の『Si387B1』による爆撃が山、谷ごとGを襲撃した。
燃え、吹き飛び乱れたGの集団の中に、真っ先に飛び込んでいく褐色の影が一つ。

「うーるららららららららららるあぁっ!!!!!」

大鉈を振りかざし飛び込むはレオ・パール。
威嚇の声をあげながら目の前のワモンを叩き割り、そのまま後に続くシザースへと踊りかかる。
その姿は当に野生の獣そのもの――勢いにのるレオ・パールは次々とGを駆逐しながら敵陣奥へ奥へと突き進んでいく。
後ろから追うメディシスは、その様子と立ち回りを見、苛立ちに顔をゆがめながら。

「あ、んのケダモノッ、少しは作戦とかいうものを理解して動いたらどうですの全く! 孤立して食われてしまえばいいのですわ…!」
「め、メディシスさん、それは…」
「わかってますわよ!! 私がフォローに入りますわ、プロミナは道をお開けなさい!!」
「は、はいっ!」

杖を構え、さらに加速するメディシスの背を見ながら、プロミナは精神を集中する。
この度イメージするのは、2mの剣――炎が生み出す、全てを薙ぎ払う長剣。
突き出した掌へと集まる熱を感じ、それが容をなす様にコアエネルギーを注ぎ創造する。
―――来た。

「メディシスさん、いきますっ!」
「っ!」

メディシスが飛ぶと同時に回転させるように一気に掌を右から左へと振り抜く。
その動きをトレースするかのように、掌から真っ直ぐ伸びる炎の剣がGの集団を一機に焼ききっていく。
剣をやり過ごしたGのうち、数匹のシザースがプロミナ目掛けて走り出し。

「はぁぁっ…!!」

振りぬいた両腕から、右腕だけを再び振りぬく。
瞬間、長剣が二つに割れ、右腕に残った片刃の剣が、再びGに襲い掛かる。
意標を突かれたシザース二匹が焼ききられ、残りも警戒したのか、間合いを取り直す。
その様子を見、コアエネルギーの消耗から荒い息をつきつつ、プロミナは叫ぶ。

「ど、どうだ……え、っと……必殺“ツインフレイムブリンガー”!!」
「余裕持ってないでさっさと戦いなさいな!!」
「は、はいっ!!!」
「全く…!」

炎剣を避け、飛び上がったメディシスは着地際に踵を立て足元のワモンの頭部を踏み抜くと、姿勢を下げ後ろからのウォーリアの一撃をかわす。
振り向きざまに杖の先端でウォーリアの顔面を打ち抜き砕き、地を蹴って宙返り。
襲い掛かろうとしていたもう一匹のウォーリアを眼下に納めながら、メディシスは杖を構え、名を呼ぶ。

「カドゥケウス!!」

杖が注ぎ込まれたコアエネルギーに反応し、鎌状の刃を形成していく。
さらにその刃をコアエネルギーが包み込み、凶暴な輝きを放つ。
身体をひねると同時に、軽く、しかし最速の動きで鎌を振りぬいて着地、次の目標に向かう間にウォーリアが背後で二つになって倒れていく。
構うことなく、前へと飛び出し、腕の振りだけでマンティスの首を狩り、返す刃で迫っていたマンティスの鎌を叩き斬る。
攻撃手段をなくしたマンティスの腹部を後方から突き出された炎の槍が貫くのを振り返らず、前方を走るレオ・バールを見据え。
前方に立ちふさがる、ウォーリアの群隊に向かう。

「邪魔は邪魔ですけど……群れてくれるとは、楽で良いですわ…ね!」

相手の反応速度を超え最適のポジションへと滑り込むと、振りかぶった横薙ぎの一閃がウォーリア達を切り裂いた。



「――――」

双眼鏡を覗き込む瞳。
頭部に生えた特徴的な耳が二度三度動き、周囲の様子を探っていく。

「…現状、風向きは西、爆撃の影響による上昇気流有――湿度、低め」
「…はい」

見つめる先には、十数匹の飛行型Gと、それを食い止めるべく舞うスィルトネートの姿。
隣で狙撃銃を構えるカッツェルトと、ゆっくりと呼吸を合わせていく。
一匹のフライが、その戦場を離れようと動く。

「ターゲット、前方より+30度、仰角+18度」
「はい」

言われたとおりに向きを変え、銃口を軽く上へ。

「――ゆっくり。落ち着いて」

カッツェルトは一度、深く息をすって、吐く。

捕捉える。

「撃ちます」



フライが的確に頭部を撃ち抜かれ落ちていく。
それを傍目に捉えながら、スィルトネートは右手を突き出し、延長線へと剣鎖を伸ばす。

二番(ツヴァイ)射出―――一番(アイン)回収完了、二番(ツヴァイ)命中確認、回収開始)
「っとと…」

目の前に急降下してくるフライ。
ステップを踏むように後退、距離を詰めすぎたことを反省しつつ、戻ってきた左手の剣鎖でなぎ払う。

「スルーズ?」
「わかっている」

後ろからハンドガンで援護をしているスルーズの元へ向かわせることは出来ない。
あくまで彼女の仕事は指揮であり、迎撃を任されたのは自分なのだ。
故に、出し惜しみはそうそう出来ない。

三番(ドライ)四番(フィーア)射出 二番(ツヴァイ)――射出量追加、軌道変更!)

なぎ払った左手の剣鎖が伸びきった状態からさらに伸び、不自然な軌道を描いてフライを貫いていく。
それに驚いたか、動きを止めたフライを腰から射出される剣鎖が次々と貫き団子にしてく。

三番(ドライ)、命中貫通 四番(フィーア)、命中貫通 拘束完了)
「このまま――!」

思わず口に出しながら、捉えたフライ達を一気に地面へとたたきつける。

三番(ドライ)四番(フィーア)回収開始 周辺敵残数―――)
「スィルトネート、間も無くジークフリート達第二陣を投入。後、我々も援護に突入する」
「タイミング合わせたほうがいいのでは?」

自分の遅れの所為だろうか、と思いながら今更ではあるものの剣鎖の回転数を上げていく。
が、スルーズは首を横に振る。

「ジークフリート達には奥深くまで突入してもらう必要がある。必然的に、後ろを勤める第一陣は先を進む第二陣と自分たちの両方を守る必要が出てくる」
「第一陣の援護か、第二陣の援護かを見極めてから動く、というわけですのね」
「そうだ。――それに」

一機のフライを撃ち落としながら、スルーズは続ける。

「援軍は織り込み済みだ」



「………………………………………………スルーズからの連絡か」
「んー?」
「………………出る」
「やぼーる」

ぎし、と音を立てながら、鞘より巨大な大剣が引き抜かれる。
常人では扱いきれないような剣を器用にくるり、とまわし地面につきたて、眼を閉じる。
軽く精神を集中した後に、ゆっくり眼を開き、剣を構える。

「出る?」
「……………………そうだ。ベルゼリアも、用意を」
「ん」

もそもそ、と胸元に抱きしめた兎のぬいぐるみ――うーくんへと腕を通す。
続いて、背中に手を回してさーちゃんを手に取り、腕に通そうとして。

「……うー」

右腕がうーくんに入っているため、うまく通すことが出来ず、うーくんをはずしてさーちゃんをつけて。

「…………うー」
「……………………………………………ぁ、ベルゼ……」

左腕がさーちゃんに入っているため、うまく通すことが出来ず。
思わず声を掛けようかと思いつつもどう掛けたらいいかわからずおろおろとする――エントリヒの英雄MAID、『鉄壁ジーク』、ジークフリート。

ベルゼリア、こう」

身をかがめたアイゼナが、ひょいとうーくんとさーちゃんを持ち上げて、腕を通す側をベルゼリアにむけてやる。
それに気づいたベルゼリアは、うーくんとさーちゃん両方に手を通して。

「あいぜな、ありがとー」
「やぼーる」

にっこりと笑顔を向けると、ひょいと飛んでアイゼナの肩に乗る。
そのままちょこんと座り込んで。

「おっけ」
「やー」
「……………………………………………」
「じーく?」
「…………………………………………………………………………………………。行こう」

ジークフリートの背中がどこかちょっとだけ哀愁の満ちた感じなのはおそらく気のせいであると思われる。
ともあれ。

ジークフリート、出陣。




最終更新:2008年11月26日 23:23
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