(投稿者:フェイ)
<ワレ 膨大ナル 数ノ G侵攻ヲ 発見セリ。繰リ返ス ワレ 膨大ナル 数ノ G侵攻ヲ 発見セリ>
<ソノ数 判断不能 判断不能―――地表ガ見エズ 繰リ返ス 地表ガ見エズ>
「さて………」
「親衛隊がこれだけの数揃うのも、G大襲来故なんて皮肉なものですのね」
「まったくですわ…」
頷く『水の都の女神』
メディシスを始め、狙撃手と観測手であるヴォルフェルト、カッツェルト。
ザハーラ戦線に出向していたレオ・パールに、後方における指揮担当のスルーズ。
さらには胸元に兎型のぬいぐるみを抱きかかえた
ベルゼリア、内燃式重装義肢装備の
アイゼナ、火炎制御の
プロミナ。
そして――『エントリヒの守護女神』こと、
ジークフリート。
「そして私、『騎士姫』スィルトネート。……皇室親衛隊、ここに在り、と」
グレートウォール戦線東部、エントリヒ帝国の国境沿いにおいて大規模なGの侵攻が観測された。
これまでにない程の数で押し寄せるG。その未曾有の危機に際し
テオバルト・ベルクマンは非常招集を掛ける。
皇室親衛隊――精鋭のMAIDをグレートウォール戦線へと集結させたのである。
さらに、合同でグレートウォール戦線を保つ
クロッセル連合王国から後援として部隊を呼び寄せ、待機させる。
だが、あくまでクロッセルの部隊は後詰めであり、本陣はこちら―――皇室親衛隊なのだ。
(まぁ、我が王や長官の考えはどうあれ…私達はGを撃退するのが仕事ですものね)
「……………スルーズ、指揮を」
ジークフリートがぼそりと告げると、ガスマスクを被ったままのスルーズが頷く。
「今回の作戦は我らに一任されている。飛行型Gの数は少数。圧倒的大多数は
ワモン、
ウォーリア、シザースに
マンティスなどを中心とした陸戦部隊だ。――これを、正面より撃破する」
「えぇっ!?」
「ちょっと待ってくれませんこと!?」
メディシスとプロミナが慌てて声をあげる。
「大部隊相手に正面からなんて…馬鹿げてますわ! ワタクシ達に討ち死にして来いと仰るの!?」
「長官の決定したことだ。『皇室親衛隊のMAIDであればこの程度の数に劣るわけもなし。必ず我が国に勝利を掲げてみせよ』…一片の迷いもなく、我らを信用した上での誇りたかき言葉だった」
「……そして私達の勝利は、帝国の有能性を示すプロバガンダにもなる、ということですわね?」
「……。当然、我々はMAIDとしてその信用に答える必要がある。全力を以ってしてだ」
「…………」
言外に肯定され、メディシスは不満げながらも口を噤む。
運河都市
フロレンツの顔役としてそういったことに精通しているメディウスには、その意味と重要性がよく分かるのだろう。
また、長官の言葉も『やってみせろ』――そういう類の挑発の言葉はメディシスに対し効果が大きいのを分かっての言葉だろう。
メディシスが反論するのを予測しての言葉であろうことに、スィルトネートは密に長官へ賛辞を送る。
「メディ」
未だ不満そうに腕を組むメディシスのスカートをくい、くいと引っ張る小さな手。
メディシスが視線を斜め下に向けると、ベルゼリアがんー、んー、とスカートを引っ張っていた。
思わずちょっと和みながらも。
「ちょっと、引っ張らないで下さる?…………それで、なんですの? ベルゼリア」
「こわい?」
「なっ……! そんなわけないでしょう! ワタクシを愚弄するつもりですの?!」
「…んー」
ぶんぶん、と首を横に振ると、とてとてと歩いていってカッツェルトの横にならび、手をつなぐと一緒に手をぶん、と振り上げる。
「なら、ベルゼリア、がんばるっ。メディも、がんばる」
「ぼ、ぼくもがんばりますっ」
「……はぁ、もういいですわ。わかってますわよ、それぐらい」
「メディも、この二人にかかっては形無しだな」
「やぼーる」
「余計なお世話ですわヴォルフェルト! アイゼナも肯定しないでくださいませんこと!? スィルトネートは何を笑っていますの!!」
「ツンデレはツッコミ役に廻らないといけないから大変ですのね」
「っだからワタクシはツンデレじゃないと何度言えば分かりますの?! 理解できますのその脳は?!」
「…………」
「ジーク! 鉄面皮の癖に何いきなり微笑ましいものを見るように頬が緩んでますの!!」
「……………いや………私は…………」
「まったくメディ、ジークにいきなりあたったらかわいそうでしょう?」
「……………スィルトネート…………その、頭を撫でるのは…………/////」
「……………。カッツェルト、おいで」
「あ、はいおねーちゃん……ってわぶ、あう」
「チビネコ、オオカミにつかまった!」
「わ、……カッツェルトちゃんいいなぁ」
「プロミー」
「はい? …って、プロミーって私のことです? ベルゼリアちゃん」
「ん。プロミー、ほかほか」
「あ、は、はい。ほかほかですよ?」
「んー♪」
「あ、わわ、ベルゼリアちゃ…え、えっと……」
「プロミナ、あったかいか!」
「やぼーる。プロミナの熱能力」
「え、あ、あわわわ」
「あったかいはいいな! レオもあったかいは好きだ!」
「わーっ!?!?」
「プロミナ。押し競饅頭」
「………こほん、話を続けて良いか」
「あ、ええ、お願いします、スルーズ」
器用にガスマスク越しに咳払いをしてみせて一度皆を落ち着かせると、スルーズは改めて地図を広げてみせる。
詳細な地形図が書き込まれた地図の南西を示して。
「Gの侵攻はこちらから。ただし、陸上型が真っ直ぐこちらに向かうにはこの山脈が妨害となる」
間にある山岳にバツマークをつけ、そこを迂回するように山と山の間を通る進路にペンでルートを示す。
そして改めて山岳の上を通るルートにもペンを入れて。
「そのため、陸上型はこちらの渓谷を抜けてくるだろう。それとは別に一部の飛行型は偵察をかねて直接山脈の上を抜けてくるものと思われる」
「飛行型が少ないならば、ワタクシ達前衛は陸上型を叩きに。ヴォルフェルトとカッツェルトに飛行型を叩いてもらえばよいのではなくて?」
「それでは山脈が遮蔽になって前衛部隊に対する援護を行えない。そこで…ここだ」
スルーズは山脈の一部に丸をつけてそこからGの進行方向と、渓谷のルートに向けて線を延ばす。
ヴォルフェルトはそれを確認するとカッツェルトにも見せて、頷く。
「確かにここなら飛行型への射線もとれるし、前衛部隊への援護にも高度が取れる分有利だ。だが…」
「はい、Gの進行速度からいくと、この位置だと近接戦闘に持ち込まれる危険性が高いと思いますけど…」
「そうだ、良く言えたな、良い子だカッツェ。…それで、スルーズ。その件はどうする? 近接戦闘も遅れは取らんが後衛が攻撃されるのは戦略的にどうだ」
「問題ない。…カッツェルトとヴォルフェルトを除いた中で対空戦闘を行えるのは…スィルトネートだったな」
「ええ、最長まで伸ばして10m…やりようによっては20mまでなら対処できますが」
話を振られたスィルトネートは答えと共に腕にまき付かせた鎖をじゃらり、と鳴らして見せる。
その様子にスルーズは一度頷き。
「スィルトネートは私と共に後衛の護衛に残ってもらい、飛行型の殲滅が完了次第、前衛に加わってもらう」
「お任せを」
「ヴォルフェルト、カッツェルトは飛行型の撃破と前衛の援護。前衛部隊はメディシスを筆頭にレオ・パール、プロミナを第一陣として奇襲をかけ、混乱したところをベルゼリア、アイゼナ、そしてジークフリートの第二陣で叩く事とする。異論は」
スルーズが全員の顔を見回し、どの顔にも決意が充ちていることを確認する。
自らの銃を、グラブを、大鉈を、義肢を、鎖を、杖を、そして剣を持ち構える。
号令が、かかる。
『Voran! Voran! Voran! Wir sind dem Sieg verschworen!(前進、前進、前進!我らは勝利に挺身する!)』
『Es geht um Endlich Gloria! Gloria! Gloria!(エントリヒの栄光! 栄光! 栄光こそが肝要なのだ!)』
『Sieg Heil! Sieg Heil! Endlich! Sieg Heil! Endlich!(万歳!万歳!勝利あれ!ジークハイル、エントリヒ!)』
「総員出撃!」
『Jawohl!!』
前衛部隊から離れた山中、一組の男女が気配を押し殺し、双眼鏡を覗き込む。
一人は狙撃銃を構えた老年の男性。
もう一人は、背中に蝙蝠のような翼を持つ、若き女性。
油断なく構えていた狙撃銃から身を離し、ハインツは装備を片付け始める。
その様子を見てサバテも撤収の用意を進める。
「取り越し苦労だったか」
「はい、あとは、ジーク達にがんばってもらいましょう…」
「……そうだな」
ハインツは、一度MAID達が自陣を組んでいる方向を見ると、敬礼を決める。
慌ててサバテが習い、しばらくの間敬礼を続けた後に、二人は戦場から姿を消した。
最終更新:2008年11月26日 23:35