i/doll ◆yX/9K6uV4E
――――××××でいたい。 ××なんて、嫌だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――――お前達は所詮、商売道具でしかないんだよ。
私にとって何よりも忘れる事ができない言葉が、それでした。
キラキラと輝いていたものに憧れていた幼い私に、私を育てるプロデューサーが先ずいった言葉が、それで。
憧れてるか何かはしらないが、精々頑張って稼いでくれ。
それがお前の役目なんだからなと。
何も知らなかった私はただ戸惑い、恐怖しました。
そんな――
岡崎泰葉のデビューは、こんな、暗い事を知って始まったのです。
光があるところには、闇がある。
そんな当然のことも、私は知らなかったんですよ。
だから、私はそんな同じ仲間同士の蹴落としあいが信じられませんでした。
零落れたら、心の底から嘲笑う人がいて、もうびくびくして。
そして、私を育ててくれる人はそういう零落れた人を見て、
ああなったら終わりだぞと強く、私に言ったんです。
その言葉がプレッシャーになったと同時に、私は悟りました。
ああ、この人は、私に価値が無くなったら容赦なく切り捨てるんだって。
それからは、死に物狂いで、私はしがみつきました。
憧れていたから、憧れていたんだから。
キラキラ輝いていた筈のものに。
どんなに暗く辛いものでも、私は頑張ってそこに居ました。
おかげで、デビューしてから少しの間は、人気を博す事が出来たんです。
でも、それと同時に、私の中で消えていくものがあって。
それは、光とか温かいものというか、一言では言えないものだけれど。
ただ、何だろう。凄い憧れていたのに。
全然、楽しくありませんでした。
そうやって、私は磨耗していったんです。
何時か私も蹴落とされるかもしれない。
何時か私もあの世界には入れなくなるかもしれない。
そんな恐怖に襲われながら、それでも、何故か、私はしがみ付いていました。
何故だか……何故だか。
蹴落とされる誰かになりたくないから。
私は泣きたくないから。
商売道具として、生きればいい。
そう思って、私は色んな人を蹴落としてきました。
そう思って、私はいろんな人泣かしていきました。
そんな、私の瞳はとても、とても冷たかったと思う。
そんな、私の心に感情なんて、無かったんですよ。
だから、私の前のプロデューサーは、私に言ったんです。
―――ははっ……お前は本当、俺の素晴らしくいい人形だな。
と。
ああ、そういうものかと。
何故か、すとんと落ち着きました。
そうして、私の憧れた世界は。
そんなものだと思ったんです。
ああ、全部、そういう勝ち負けで動いて、其処には光なんてありはしないんだと思いました。
そうして、私は彼の言うとおりの商売道具……いえ、いう事を聞くだけの人形に成り下がりました。
だって、彼の言う通りの世界だと思ったから。
だから、何もかも捨て去ろうと思いました。
ただ、世界に縋って、輝く夢をみていたい。
それだけを願って。
私はただ、人形で居ました。
蹴落とし、蹴落とし続けました。
時には卑怯な事で、苛烈な手で。
残酷に、無残に、ライバルを蹴落としていきました。
楽しくなんて、有りませんでした。
でも、それでも、限界はあって。
私自身より、私が所属していたプロダクションの経営が苦しくなってきたのです。
強引な手を使っていた天罰があったのかもしれないですね。
その頃でした。
私の前のプロデューサーやそのプロダクションのプロデューサー達に変化がでました。
なりふり構わなくなったといえばいいでしょう。
私達を、完全に生き残るための道具として、扱い始めました。
ある人は見込みがあるのに切り捨てられ。
ある人は、お得意先に……媚を売れと。
私も、そう、言われました。
ですが、私は、それだけは嫌だった。
何故か知らないけど。
人形だったはずだったのに。
それだけは、断りました。
夢を見て居たかったからかも知れません。
輝いていた夢を。
そうしたら、元プロデューサーは。
――ふん……お前の代わりに、俺のほかの配属がなるだけだが……それでもいいんだな?
それは、私の友人で。
暗い世界でも励ましあった友人でした。
大切だったかもしれません。
でも、それでも、私は、それに。
こくんと頷いたんです。
そしたら、彼は笑って。
――はははははっ! やっぱりお前は俺の一番の人形だ! いいぞ! 何れお前も俺みたいに、なるぞ! あはははははははっ!
まるで、同属を見るように、笑いました。
私の目は、輝いて無かったと思います。
そう頷いて、友達が実際そうなったかはわかりません。
なってないかもしれません。
でも、友達を切り捨てたのは、事実として、残ったんです。
そうして、私は夢を見る代わりに、友達を捨てて。
やがて、プロダクションは潰れて、元プロデューサーは行方は知れず。
私は、アイドルとして別のプロダクションに拾われました。
けれど、未だに、私はあの人の言葉を。
一度たりとも忘れた事がありません。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………ふう、疲れた」
「何もしてませんよねぇ?」
「動くのも疲れるんだよ、本当」
そういって、
双葉杏はソファに深く身を沈めた。
今は、水族館の事務室にて、やっとの安寧の時を手に入れることができたのだ。
本当、無駄に疲れている。
藤原肇についていって、一悶着あって。
そして、今やっと横になれたのだ。
「やれやれ……」
肇の事も気になるといえば、気になるけど。
今はただ、休みたかった。
未だに、杏を誹る声は止まらなくて。
だから耳をふさぎたいくらいに、眠りたい。
杏はそれだけをただ、願っていたのに。
「ねぇ、杏ちゃん」
「何?」
「いくつか、いいですかねぇ?」
先程から、元々水族館に居た、肇の仲間――
喜多日菜子が煩い。
もう一人の仲間、岡崎泰葉は肇の嘘を聞いて、意気消沈してるというのに。
逆に日菜子は何か活力をもらったかのように、杏に絡んでくる。
「えーめんどくさい」
「そんな事言わずに……むふ」
「うわっ……わかったよ」
日菜子は、杏の目を見て、ずっと離さない。
のんびりとした喋り方の癖に、何処か鋭くて。
このまま逃げ続けても、逃げれないだろう。
はぁ、やだなあと杏は思いながらも、気だるげな声で返事をした。
身から出た錆の癖に、という誹りは無視をする。
「杏ちゃんは、こう、街を彷徨ってたんですよねぇ」
「うん、そうだよ」
「それで肇ちゃんに会ったんですよねぇ」
「うん」
うん、間違っていない。
杏は心のなかでその言葉を繰り返す。
実際、その通りなのだから。
「そうなんですかぁ……」
「うん、もういい?」
なのに、日菜子は納得してるようなしていなのような感じで。
うろんげな目を、杏に向けるのだ。
それが、とても苛立たしい。
恨まれる様な事は、していなのに。
大嘘つきという言葉が、聞こえたけど。
「肇ちゃんが本当の事いった時……怖かったですよねぇ……」
「……はっ?」
「だって、肇ちゃん、人を殺してたんですよぅ? 杏ちゃんのこと騙してたんですよねぇ」
「そ、そうだ! こ、怖かったぞ!」
日菜子のぼそっとした、つぶやきに杏自身がハッとする。
肇が本当に人を殺したという事を見せるというなら、怖がらないとダメなんだ。
肇に義理が無くても、杏自身を疑わせない為に。
けど、自然とその事を杏は忘れていた。
人を殺した人間の傍に居る事は、怖い。
その事に、杏自身が人殺しであるが故に、気づかなかった。
だって、自分自身が殺してるのに、なんで怖がる必要があると思っていた。
この事が、もう杏が既に、あちら側の人間だという事を如実に示してるようで。
杏は胸が締め付けられるような感覚に襲われてしまう。
それはどうしようもなく哀しい程に。
自業自得だよという誹りの合唱が、痛い。
「…………ねぇ、杏ちゃん」
日菜子の視線が不意に、定まる。
それはまっすぐ杏の目を見ていて。
何か言葉を発しようとして。
杏は息を飲んで。
「本当は――――」
「――――えっと……岡崎泰葉さんと喜多日菜子さんで……いいのかな……って杏?」
その瞬間、ガチャリと事務室のドアが開いて。
杏にとっては見慣れた人物が、入ってきた。
後ろには、眼鏡をかけた知的そうな人もいて。
「……凛?」
「杏……久しぶり」
闘志をたたえた目をした少女、
渋谷凛が微笑んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……成程、こんな水族館があったら、あの街は無理やり観光に力入れないといけない訳ね」
時間は少し戻って。
水族館の案内図を見ながら、
相川千夏は感心半分、呆れ半分でいた。
案内図を見て、千夏は思わずため息を吐いてしまう。
「アクア・シャングリラ……水の理想郷ねぇ。立派な水族館ではあるけど」
とりあえずネーミングセンスはいまいちねと千夏は、独り愚痴りながら、改めて地図をよく眺める。
建物の構造を言うと、真四角のビルに、平べったいビルがくっついている形といえばいいか。
其処に、、真四角のビルから繋がって、其処からいける、イルカメインとした、小さな屋外展示がある感じだ。
平べったい建物は、いわばエントランス棟だ。
其処に入って、入場する棟でエレベーターに乗り、真四角のビル――展示棟に入る形になっている。
展示棟は八階もの建物で、八階、回廊式になってゆっくりと下っていく展示形式だようだ。
太平洋と熱帯の魚をコンセプトにして、ジンベイサメ、マンボウすらいるらしい。
魚を一望できるトンネルもあるらしい。そして、下の階には、ミュージアムショップなどみたいだ。
なるほど、力が入っている水族館だ。水の理想郷にふさわしいだろう。
(アクアはフランス語……シャングリラは英語だったかしら……なんで統一されてないのかしら?)
ネーミングだけは、ちょっと疑問であったが。
それは些細な事だ。
「さて、これだけの水族館なら……何処がで有名なっても可笑しくないんだけど……」
そう、有名になっても可笑しくはないのだが。
千夏が知る限り、この名前の水族館は記憶には無い。
ならば、この水族館は一体……?
そうやって頭を悩ましている時に
「…………貴方も、水族館に用事?」
「っ!?」
「わっ……大丈夫、殺し合いに乗ってないよ」
「……そ、そう。私もよ」
キッと、何かが止まった音がして。
千夏はあわてて振り返ると、
自転車に乗っている少女が居た。
完全に虚をつかれて、あわてるが、どうやら、殺し合いに乗っていないらしい。
千夏は冷や汗をかけながら、その少女を見る。
その凛とした顔は、見覚えがあった。
「……渋谷凛?」
「あ、うん。そうだよ……貴方は?」
「相川千夏よ……貴方は用事があってきたのかしら?」
「うん……まあ、そうかな……多分この中にいるだろうし」
凛のその言葉を聴いて、僥倖だと千夏は思う。
人を探して、此処に着たが予想が的中したらしい。
ならば、
「私は用が有ったわけじゃないわ……どうすればいいか解らなくて、彷徨ってるうちに此処に着たわ……」
「そう……じゃあ、とりあえずこの中に一緒に入る?」
「ええ……そうするわ」
後は、上手く取り入るだけだ。
凛はそのまま水族館に入るらしい。
だったら、一人で行くより無駄な心配されないだろう。
上手く事が進んでいる。
そう感じて、千夏は笑って、凛についていく。
(さて……どうなるかしら)
どうなろうと、自分が望む最良の結果を得るしかないのだけれど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そう……肇ちゃんはきらりちゃんと一緒にいるんですねぇ……よかった」
「うん……後はさっき言った通りなんだけど、小梅って子は拓海って子ら三人と合流して病院に……で、出来ればこっちに着て欲しいと……それが伝えて欲しいといわれたことだね」
「涼って人の足の治療って事ですねぇ……大切な人と会えて、本当よかったですねぇ」
「…………っ」
「千夏さん?」
「なんでもないわ」
そして、時は戻って今に至る。
渋谷凛がもたらした情報は、日菜子達にとって、とても有益だった。
仲間達が無事という事は喜ばしいし、小梅が涼と再開できたのは、とてもいいことだ。
朗報が舞い込んで、泰葉が喜ぶかなと日菜子は泰葉を見るが
「………………」
相変わらず、何処かふさぎこんでいるようだった。
小梅達の安否を聞いて、頷いてはいるが、言葉にする事は無かった。
また、その話を杏も聞いていて、
「きらりが………………近くに?」
そう呟いているのが、少し気になっていた。
けど、深く突っ込む事が出来ずに、そのまま凛についてきた千夏の話も聞いた。
もっとも彼女も、杏とおなじようなものだったけれど。
ただ街を彷徨っていて、特に何も無いままといっていた。
街でひっそりこもっていて、禁止エリアが指定されて、あわてて出てきたと言う事らしい。
その話を杏が聞いていて、首を捻っていたが、日菜子にはよく解らなかった。
「……じゃあ、私も何があったか話そうかな」
そういって、続けて、凛が話し始める。
渋谷凛という少女を日菜子が知っている事といえば、ニュージェネレーションというグループに居るという事だけだ。
で、そのグループの一人が死んでいた事は教えてもらった死者の放送で知っている。
「……私はグループ組んでた三人と一緒でさ、山のてっぺんで三人仲良くスタートだったんだ」
「それは幸運なんですかねぇ……?」
「どうだろ……そうして、拡声器で呼びかけて、集まったのが三人」
拡声器で呼びかける。
それを聴いた瞬間、日菜子は危険なんじゃないかと思って。
また、その予想は当たって。
前者の二人の名前に、泰葉が激しく身体を震わせた。
はたから見ても驚くくらいに。
「里美さんは、美波さんと一緒で……凄いおびえていたんだ……なんか、凄い何かを怖がるように……はたから見ても酷かったよ」
「……っ……ぁ……」
「で、そこでゆかりさんが……襲撃して、私の仲間の友達の……未央がそこで殺された」
「…………」
その話を聞いて、日菜子他、杏や千夏すら押し黙っていた。
紛れも無く、目の前で殺されたんだろう。
凛は淡々と話すが、感情を必死に抑えていた。
けれど、それと同時に、泰葉がありえないくらいに青ざめていて。
日菜子はそっちの方も気になっていて。
「そして、卯月がその場から逃げて……里美さんも追いかけたみたいなんだけど……はぐれたのかな……」
「でも、彼女呼ばれてたわよね……ゆかりって人も」
「うん……ゆかりさんは解らないけど……里美さんははぐれて……ころされ……御免よくわからないや」
「…………ぅぅ」
「……続けるね。それで、新田さんもその時、殺された……彼女は、最初……里美さんと私達を利用するといっていて……実際――――」
凛が、言葉を続けようとした時。
ガタンッと、強い音が響いた。
日菜子は振り向くと、
「あはっ……あははっ……あはははははははははっっっ」
壊れたように、笑う、岡崎泰葉が、いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ああ。
私は、きっと何も変わっていなかった。
アイドルを願い、アイドルで居たいと思った私は。
「――――結局、私は、人形でした」
あの頃から、何も、変わらない、人形でしかなかったの。
私は変われたと思ったのに、変われると思ったのに。
何も変われなかったんですね。
ああ、あの何も無い人形の頃から。
私は何も変われてなかった……っ!
「あはは……ははっ……」
声が、聞こえる。
私の前のプロデューサーの声が。
――はははははっ! やっぱりお前は俺の一番の人形だ! いいぞ! 何れお前も俺みたいに、なるぞ! あはははははははっ!
そう、私は、あの人のようになってしまってたんですね。
なっちゃったんだぁ……
私は、榊原里美を、追い詰めた。
蹴落とした、アイドルじゃないと。
あの人のように、アイドルを人形だと思って。
商売道具のようなものだと思って。
私は苛烈に、残酷に、切り捨てた。
アイドルじゃないものに、呵責無く。
だって、彼女はアイドルじゃないって思ったから……
ただの普通の人だと思って。
けど、そうじゃなくて、
私が、人形だったから。
人形のまま、彼女を切り捨てて、
結果、彼女は、誰も信じれず、誰からも手をさし伸ばされず。
死んでしまった。
あの時と同じように
――――夢を、輝きを信じて、私は人形のように、アイドルを切り捨てたんですね。
あはは……ははっ。
そうだあの時、私は言っていたじゃないか。
私は理解していたじゃないか。
アイドルじゃないって。
楽しくないって。
――無意識の内に、私は、あの人のようになっていた。
使えないものは切り捨てて。
そして、利用していて。
そして、小梅ちゃんすらも切り捨てようとした。
あの苛烈な本性こそが私で。
私は冷たい、人形のままなんだ。
喜多さんを救えたって。
きっと、
私はアイドルである事に縋って。
歩く屍になっていたに、過ぎない。
背伸びしていた子供無く、私は、人形で。
だから、こんなにも、私の所為で人が死ぬ。
私が――人形が、誰かを切り捨てて、死んでいく。
「あはは……うぇ……ぇ……うわぁぁあぁぁぁ」
泣いた。
涙が溢れた。
感情が止まらなかった。
自分の本性を曝け出された気がした。
だって、あの日見た夏は、幻想、妄想でしかなかったら。
この世界は、誰かを蹴落とし、誰かを笑顔にする傍らでライバルを泣かすしかない世界のままでした。
一人ぼっちの頂点に、たった一人に、なりにいくしかない世界ないでした。
アイドルなんて、アイドルなんて、その程度の存在で。
だから、私は、人形でしかないのでした。
「あの時、輝いていた新田さんも……所詮、そう。彼女の輝きも、道具が、人形が、見せる、偽りでしかない」
新田美波。
あの夏、素晴らしく輝いていた。
アイドルだと信じていた。
アイドルとして、尊敬していた。
自然な笑顔で、自然な輝きだと信じていた。
「此処は、この島は……そんなものすら、明らかにしてしまう。私が夢見たものは、結局『夢』でしかない」
けど、違った。
彼女は、そんな笑顔の下で。
誰かを利用しようしていた。
結局、私が人形の時していた事と、何も変わらなかった。
夢は、夢でした。
違うと叫びたい。
諸星さんや、市原さんが見せた輝きは違うんだって叫びたい。
……でも、できないっ!
何故か……何故か!
私が、人形だと自覚したから。
アイドルなんて、存在しないかもしれない。
そう、思ってしまうぐらいに。
「泰葉ちゃん……」
喜多さんが、私を見る。
心配する目を。
私を。
――友達を裏切って、いろんな人を、冷たく切り捨てた私を。
「い、いやっ……見ないで……こんな私を……こんな……『人形』をっ!……見ないでよぉぉ!」
私は、顔を覆って。
そうやって、逃げ出した。
「うぁ……あぁあぁ……うわぁぁぁん」
泣いていた。
意味も無く。
私は――――でいたかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
岡崎泰葉と喜多日菜子の出会いを思い出してみます。
泰葉ちゃんは、移籍というか拾われてきた子で。
来た当初は、とても冷たい目をする人でした。
感情も無いように、同じアイドルの皆を見下すように見て。
自分で出来る事は自分でやろうとして。
そうやって、笑うことが少なかった子だったんです。
日菜子の事もまるで、興味なさげにみていました。
そういう子なんだと思いました。
けれど、違うんだと、段々感じてきました。
岡崎泰葉は普通の少女なんだって。
甘いものが好きで。
それでも、珈琲はブラックにしたがって。
そんな背伸びをする子で。
趣味のドールハウスは完璧を目指して。
でも褒められると凄く嬉しそうにはにかんで。
そんな、普通の子で。
だから、日菜子は逃げずに、向き合ってました。
日菜子が妄想しても、彼女は興味なさげにしてました。
でも、逃げずに、私を見ていてくれて。
笑っていくれました。
侮蔑ではなく、友達に向けるような笑みを。
そうして、彼女と過ごすうちに。
泰葉ちゃんは、笑い始めました。
素直な純粋な笑みを浮かべ始めました。
私と出かけたりもしました。
そして、一緒に仕事したときも。
彼女は、本当に、楽しそうに笑うようになったんです。
夢を見ているようだと、嬉しそうに。
だから、日菜子は言ってあげたんです。
――夢は、叶えましょう! 叶う為にあるんですよ! 夢見てるだけじゃ、止まらない! むふふ♪
そしたら、彼女は驚いて。
でも、嬉しそうに、泰葉ちゃんは言ったんです。
――そうですね、輝いて……夢が叶って、何時までも輝く……それがアイドルなのかな。
日菜子は頷いて。
だから。
――――叶えましょう! いっしょに!
そして、泰葉ちゃんは、はにかんで。
――――はいっ。
と。
……だから、だから!
「……違いますよぅ……違うの……泰葉ちゃんは……人形じゃない」
私は、泰葉ちゃんが逃げ出した場所を見つめる。
水族館の中だ。いかなきゃ、行こう。
だって、だって。
「泰葉ちゃんは『アイドル』なんだから。」
だから。
泰葉ちゃん。
今度は、日菜子が。
「泰葉ちゃんを覆ってる、闇を……妄想を、とりはらってあげますっ」
日菜子が、泰葉ちゃんを救わなきゃ、ダメなんです。
私が救われたように。
今度は私が救わなきゃ、ダメだ。
「…………なんか、余計な事を話しちゃったかな?」
「ううん、何時か泰葉ちゃんが解決しないといけない問題だったんですよぅ」
「そうなのかな……」
「はいっ」
「なら、教えなきゃ……新田さんの本当の姿を」
凛ちゃんは。
尊敬するように、真実を告げました。
「彼女は、最後に……女神のように、アイドルとして輝いていた。私を逃がしてくれた」
「……そうなんですかぁ」
「だから、彼女は、アイドルだ。絶対に証明する」
「……わかりました」
ほら、きっと思い込みですよう。泰葉ちゃん。
貴方が信じた、憧れたものは。
何も変わってないんです。
「ありがと……凛ちゃん、その卯月さん……探してるんですよねぇ?」
「……そうだけど?」
「トモダチなんだから……行ってもいいですよぉ……行きたそうだもの」
「……えっ」
トモダチを思う姿は誰も変わらないですねぇ。
日菜子も、凛ちゃんも。
そして、泰葉ちゃんも。
「日菜子は行きます」
「彼女の所へ?」
「はいっ」
それが。
「岡崎泰葉を誰よりも知ってる、喜多日菜子の役目なんですから♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「友達か……」
私は、水族館に入っていた日菜子を見つめながら、考える。
行ってもいいといわれた。
確かに、今も探したい。
大切な友達を。
けど
「見届けたい……そんな気もする」
喜多日菜子と岡崎泰葉の結末を。
友達同士の結末を見届けたい。
そうすれば、私達も、解りあえるかもしれない。
そんな、気がしたから。
選択肢のなかで、私は迷い。
そして、決断する。
【D-7・水族館/一日目 午後】
【渋谷凛】
【装備:折り畳み自転車】
【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】
【状態:軽度の打ち身】
【思考・行動】
基本方針:私達は、まだ終わりじゃない
1:どうしようかな。
2:卯月を探して、もう一度話をする
3:奈緒や加蓮と再会したい
4:自分達のこれまでを無駄にする生き方はしない
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あーぁ……面倒だなぁ)
二人が去っていた先を見て、杏はそう思う。
本当面倒なことになった。
泰葉達は言うまでもないし。
何より、
(相川千夏……ねぇ……思いっきり嘘ついてるじゃん)
ついてきたこの女。
どーかんがえても嘘ついてるね。
だって、私が眠気眼でも聞いたあの音。
爆発するような音。
なんで、気づいてないのさ。
禁止エリアに指定される前に逃げるはずじゃん。
怖がってるなら、さ。
だから、嘘ついてる。
キナくさいなぁ。
うーん。
きらりも近くにいるんだよねぇ。
会いたくないなぁ。
会ったら……怖いよ。
弱虫?
逃げるな?
外野がうっさいよ。
本当……面倒だなぁ。
【D-7・水族館/一日目 午後】
【双葉杏】
【装備:ネイルハンマー】
【所持品:基本支給品一式×2、不明支給品(杏)x0-1、不明支給品(莉嘉)x1-2】
【状態:健康、幻覚症状?】
【思考・行動】
基本方針:印税生活のためにも死なない
1:一応信用できそうなので、泰葉達と共に行動する?
2:自分の罪とは向き合いたくない。
3:肇の選択は理解できない、けれどその在り方に……?
4:千夏は怪しい
※二度の放送内容については端末で確認しています。
また、それにともなって幻覚に
城ヶ崎美嘉が現れるようになっています。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(焦るな……焦るな)
私は心のなかで、そう繰り返す。
まさか一人も殺してないと思わなかった。
三人いた内、二人残ってたのは、わかっていたが。
流石に一人も仕留めていないとは。
私の姿は詳しくは見られてない筈だ。
だから焦る必要性はないのだ。
けど……殺せてないのは事実だ。
その事に……ちひろが動くのだろうか。
そう考えると……不安に襲われる。
大丈夫だ。
まだ、焦る必要性はない。
けど
この岡崎泰葉達の騒動を利用すれば、一気に殲滅出来るかもしれない。
そう思うと、鼓動が早くなるのが止まらない。
……本当、感情って、面倒臭いわ……本当に。
【D-7・水族館/一日目 午後】
【相川千夏】
【装備:チャイナドレス(桜色)、ステアーGB(18/19)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×8】
【状態:左手に負傷(手当ての上、長手袋で擬装)】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。生還後、再びステージに立つ。
0:焦るな
1:泰葉達のグループに紛れ込み、次の放送までは様子を見つつ休息?
2:1が上手くいったら、さらに次の放送後、裏切って効率よくグループを全滅させる策を考える?
3:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
水槽のなかで、雄大に泳いでいた。
飼われてる、モノが。
私は、それを、同情するように、眺めていた。
これらも、私と一緒だ。
商売道具で、人形と変わりない。
その為に、飼われてる。
そういうものなんでしょう?
なのに……どうして、こんなに、哀しくなるんでしょう?
私は人形なのに。
そして、私を探す喜多さんが見えて。
私は、また、哀しくなった。
お願いだから。
曝け出された、私を。
人形の、私を探さないで。
【D-7・水族館 ???の水槽前/一日目 午後】
【岡崎泰葉】
【装備:スタームルガーMk.2麻酔銃カスタム(10/11)、軽量コブラナイフ】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:?????】
【思考・行動】
基本方針:??????
0:人形の私を見ないで。
※サマーライブにて複数人のアイドルとLIVEし、自分に楽しむことを教えてくれた彼女達のことを強く覚えています。
【喜多日菜子】
【装備:無し】
【所持品:無し】
【状態:疲労(中)】
【思考・行動】
基本方針:『アイドル』として絶対に、プロデューサーを助ける。
1:泰葉を救う。
2:それまで、他の事は保留
最終更新:2013年06月26日 14:54