21世紀深夜アニメバトルロワイアル@ウィキ

誰が為にその命

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誰が為にその命 ◆dEjq8b.G0U


 走る、走る、走る、走る、走る、走る。
 脇目も触れず、全力で、限界を超えて走り続ける。
 瞼の奥底に焼き付いた光景を振り払うかのように。
 思い出すだけで吐き気のする光景を忘れるように。
 一心不乱に、出口の見えぬ通路を走り抜ける。

 筋肉が悲鳴を上げる――無視。
 心臓が悲鳴を上げる――無視。
 脳髄が悲鳴を上げる――無視。

 無視、無視、無視。

 軟弱な悲鳴を全て無視しして少女――宮村みやこは走り続ける。
 どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 滲む視界を必死に擦りながら、ほんの数分前までの事を思い出す。

 ▼

 「えと……これからどうしましょうか?」

 目の前の気弱そうな少年が不安気に話しかけてくる。


 この殺し合いに巻き込まれて初めて出会った相手なのだが、どうにも頼りない。
 互いにあの場所から飛ばされ、気が付いたらこの場所にいた、という訳だ。
 最初は警戒したものの、どうやら殺し合いをするつもりはないらしい。
 此方の強気な性格と相手の弱気な性格が上手く噛み合ったのか、淡々と話は進んでいった。
 まずはどちらからともなく自己紹介。名前を麻生蓮冶と言うらしい彼は、不安からか今にも泣きそうな顔をしていた。

 「そうね……取り敢えず、これかな?」

 そんな彼を励ましつつ、自分も自己紹介すると思い出したように二人してデイバッグを漁り始める。

 一つ目は、名簿の確認。
 二つ目は、食料の確認。
 三つ目は、武器の確認。

 これらを行う為、黙々と中身を確認していく。


 そして、一つ目の名簿の確認をしていると――

 「「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」

 示し合わせたわけでもなく、二人の声が重なる。

 「そんな……千尋までこんな所に連れて来られてるなんて……っ」

 「嘘……でしょ? 嘘だよね……広野、クン」 

 互いの声音に響くのは絶望。
 共通したソレに境遇を気付かされたのか、二人とも言葉を発さず――いや、発せずに一刻も早くと武器の確認を始める。

 結論から言うと、外れだった。
 自分に支給されたのは核鉄と呼ばれるらしい金属だったのだが、どうやら治癒の効果はあっても自分じゃ武器にできないらしい。
 そして、もう一つがイングラムM10と呼ばれるサブマシンガン。
 かなりの当たりアイテムのように思われたが――

 「弾が無いんじゃどうしようもないわよねぇ」

 そう、サブマシンガン自体は有るのだが肝心の弾がどこにも無かった。


 一応鈍器として使えなくも無いが、普通の女の子にそれを求めるのは流石に酷だろう。

 「はぁ……蓮治クンはどうだったの?」

 溜息混じりに問い掛けてみるのだが、結果を聞くまでも無く彼の表情には失望と落胆の色が浮かんでいた。

 「えっと、これといって武器になりそうなものは有りませんでした……」

 そんな事を言いながら、支給された物を見せてくる。

 絵本に、単三乾電池、使用済み制汗スプレー。

 ……こんな物でどう殺し合えと?

 ともあれ、いつまでも落ち込んでいるわけにもいかずに二人して顔を突き合わせて今後について話し合う。

 「えと……やっぱ二人とも探したい人がいるわけだし、捜し回った方がいいよね?」

 「そう、ですね。危険かもしれないですけど、こうしてる間に千尋もその広野さんも危険な目に遭ってるかもしれないし」

 「なら、最初はこの、中心部に有る警察と学校を目指したほうがいいと思うんだ!
 ほら……やっぱり二人とも学生なんだし、学校か警察に逃げ込むと思わない?」

 「うーん……確かに、僕も逃げるとしたらここかも……」

 「でしょ? だったら善は急げだよ! 早く行こうっ」



 「わわっ……ちょっ、待っ――」

 立ち上がるみやこに遅れまいと蓮治も立ち上がる。

 「――ッ、逃げてっ!!」

 だがしかし、二人の行動は突然の乱入者によって阻害される事になる。

 「聞こえないの!? 早く逃げて……っ」

 幼い体躯をした少女は、必死な形相で此方に向けて叫び続けている。
 どうやら、前後左右にあった扉の一つから入ってきたらしい。
 ふと見れば、日本人では無いように見える。
 欧州の可憐な少女、に見える少女の体を良く見ると至る所が焦げていた。

 「どうしたんですか!?」

 呆気にとられている私よりも早く蓮治クンが少女に駆けつける。
 一瞬遅れてみやこも続くのだが、少女は苛立ったように口を開く。

 「あァ……もう、死にたいのあなた達――」

 「フン、愚民どもが何を騒いでいる? 神であるこの僕に殺されるんだ――光栄に思え」

 しかし、少女の言葉が最後まで紡がれる事は無かった。
 古めかしい学ランと帽子を被ったやけに偉そうな男が入ってくると同時、体を炎に変化させた男が少女の体を焼き払った。



 一瞬で、室内に肉が焼け焦げる臭いが充満する。
 目の前の光景が信じられず、二人とも動くことが出来ない。

 人が、丸焼きになった。

 それは、様々な事情を抱えているとは言え、普通の生活を送ってきた二人には衝撃が強過ぎた。
 眼前の光景を理会する事すら出来ない。
 只単に、“死”を意識する。
 どうしようも無く、逃れ得ない“死”の存在を。

 (あぁ……私、死んじゃうんだ……)

 怯えでも恐怖でもなく、そういうものなんだとぼんやり理解する。

 「うげ……うげぇぇぇぇぇぇぇ」

 のだが、横から聞こえてきたその音でふと我に返る。
 意識は覚醒、恐怖に震える両足を叱咤激励して隣の相手へ向き直る。
 腐臭にやられて嘔吐しているらしい蓮治の手を強引に引くと部屋から脱出しようとする。

 「逃げるよ……早くっ!」

 だがしかし、現実はそんなに甘くは無い。

 「逃げられる訳が無いだろう……ブレイズオブグローリィィィィィ!!!」

 炎と同化した男の放つ業火が二人に襲い掛かる。
 半径250m・瞬間最大火力5100℃の炎の奔流。
 制限が掛けられているとはいえ只の一般人にこれを防ぐ術は無い。


 炎の速度からは逃げられず、その膨大な熱量に全身を焦がされながら死んでいくのみ。

 男は当然それを理解しているし、みやこもソレを理解した。理解させられた。
 理解した瞬間、走馬灯が脳裏を駆け巡る。

 「あは……走馬灯って、ホントにあるんだ」

 人が死ぬときはこんなものかと、妙に達観した意識のままみやこは目を瞑り炎を受け入れる。
 筈だったのだが。

 「宮村さん――逃げて下さい」

 自分が手を引いていた筈の相手から突き飛ばされ、開きっ放しの扉から外へ放り出される。

 「痛っ……蓮治クン!!?」

 何が起こったのか理解できない。
 でも、たった一つだけ聞こえた言葉に従いみやこは走り出す。

 ――逃げて下さい

 逃げるように、逃げるように、その手に六角形の金属を抱いて。



 ▼

 「……まだ、生きているか。存外、しぶといんだな……褒めてやろう」

 腐臭立ち込める室内で、炎と同化した男が全身黒焦げの男に声を掛ける。

 予想外、だった。

 逃げる獲物追って部屋に入ると、そこには更に二人の獲物が。
 意気揚々と殺しに掛かったはいいものの、咄嗟の判断と幸運――いや、悪運に邪魔をされ一人を逃がしてしまった。

 とは言え、最初の獲物ともう一人は仕留めたも同然であり、今すぐ追いかければ焼き殺すのは容易いだろう。
 ただ、それをする気にはなれなかった。
 自分自身にも良くわからない感情が、男をその場に残らせている。

 「まだ息があるのなら答えろ。……貴様、どうしてあの女を逃がした?
 お前が逃がしたように、あの女を盾にして部屋から飛び出せば助かった筈だろう?」

 そう。一人が逃げ出せるのなら、同じ方法で助かる事も出来た筈だ。
 なのにこの男はそれをしなかった。
 不思議そうに、どうでもよさそうに、興味深そうに、歯牙にもかけないように、問いかける。

 待てども、待てども。
 黒焦げの男からはヒューヒューと浅い息が漏れるばかりで応えられる様子も無い。

 当然か、と心中で言葉を漏らす。
 あれだけの炎をその見に受け止めて生きているのがおかしいのだ。



その上質問に答えろなど、無茶振りにも程がある。

 「つまらん……」

 一人呟いて男は黒焦げの物体に背を向ける。
 だがしかし。

 「た……け、の……に……――な、て……いらない……」

 最後の力を振り絞ったのであろう言葉が突き刺さる。

 「―――――――――――――」

 何も言わずに、振り返る。
 そのまま距離を詰めると、黒焦げになってしまった物を抱き締める。
 形は違えど、思いは違えどその心は美しかった。
 その心に敬意を表して力いっぱい抱き締める。

 「認めてやろう。貴様は、音無さんには及ばないが――美しい男だったよ」

 どれほどそうしていただろうか。
 男は炎を放ち、全てを灰に返す。

 「僕の意思の全ては、音無さんの為に。貴方の障害になる物は全て僕が焼き払います。
 貴方の意思を阻む物は全て僕が焼き払います。貴方を狙う物は全て僕が焼き払います。
 貴方に救われたこの魂この心、全身全霊をもって貴方の為に使わさせて貰います。
 だから待っていて下さい音無さん――僕が貴方を、救ってみせます」

 その身に刻む思いを吐き出し、男――直井文人は歩き出す。

【麻生蓮治@ef - a tale of memories./melodies. 死亡】
【ヴィクトリア・パワード@武装錬金 死亡】

【一日目 B-1 遺跡 深夜】

【直井文人@Angel Beats!】
[状態]:疲労(小)
[装備]:核鉄「ブレイズオブグローリー・アナザータイプ」@武装錬金
[道具]:基本支給品×1
[思考]
基本:音無さんの障害になるものを排除する。
1:音無さんを探しながら出遭った人物を皆殺し。
2:最後の二人になったら自殺して音無さんを優勝させる。
※:麻生蓮治、宮村みやこ、ヴィクトリア・パワードの荷物は燃え尽きました。


 こうして、宮村みやこは一人逃げ出した。

「うぅ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 滲む視界から抑えようも無く零れ落ちる雫を手の甲で拭いながら。
 罪悪感に襲われ、それでも必死に走り続ける。
 恐ろしき殺人者から逃れる為に、蓮治クンの想いを無駄にしない為に。

 そうして、全力で走り続ける事数分、外の光が漏れ出す場所が見えてきた。

 (……出口だ!)

 これでもっと広い場所に逃げられる。
 プラス思考で自分に言い聞かせながら月光であろう光に向かい走っていると、微かに人影が見える。
 もしかしたここに入って来ようとしているのかもしれない。
 恐ろしき殺人者が追ってきているかもしれないこの場所に。
 それは、駄目だ。絶対に駄目だ。
 これ以上犠牲者を増やしちゃいけない。
 そう心中で叫びながら人影の傍に駆け寄り、早口で危険を伝えようとする。


「来ちゃ駄目です! この先には殺し合いにのった変な男がいて、男が急に火になって
女の子も焼かれて……蓮治クンまで私を庇って焼かれちゃって、とにかく危険なんです!」

必死の形相で、それだけを伝えると返事を待つのも惜しいとばかりに手を引いて出口に向かおうとする。
ふと横を見てみると、袴らしき物を着た優しそうな男の人だ。
一瞬見惚れてしまったのも束の間、すぐさま駆け出そうとするのだが。

「それ……貰うよ」

不意に男の人が呟いたかと思うと、掴んだ手とは逆の手から核鉄を奪い取られた。
意図が理解できない。

「てっきり君も武装錬金の使い手かと思ったけど、この状況で使わないって事は違うみたいだね。
……これは、こうやって使うんだよ。――武装錬金」

私から奪い取った核鉄が日本刀に変わった。

宮村みやこが見た最後の光景は、それだけだった。

【宮村みやこ@ef - a tale of memories./melodies. 死亡】

 ▼

 「さて、と……心配していた武器も手に入った事だし、動こうかな」

 男――早坂秋水は、偶然得られた武装錬金――ソードサムライXを振りながら遺跡内部に足を進める。
 どうやらこの先には殺し合いに乗った男がいるらしい。
 その男が姉さんの障害になる前に――殺す。

 決意を新たに歩を進める秋水。
 だが彼は気付いていなかった。
 この遺跡には出口が二つ有るという事を。

【一日目 B-1 遺跡 深夜】

【早坂秋水@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:核鉄@武装錬金
[道具]:基本支給品×1
[思考]
基本:姉さん以外を排除する。
1:姉さんを探しながら出遭った人物を皆殺し。
2:最後の二人になったら自殺して姉さんを優勝させる。



005:芽生える光と闇の中で 投下順に読む 007:黄昏
時系列順に読む 008:女の子は世界に一人。だから彼女は神様だ
000:胎動 直井文人 018:死が二人を別つまで
早坂秋水
ヴィクトリア・パワード 死亡
麻生蓮治 死亡
宮村みやこ 死亡

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