Wild mummys人物紹介
天才アイドル
死者の書
テレサ•メロディ
カルキノスの神装巫女
『Wild mummys』のマネージャー兼リーダー。
前回までのあらすじ
エジプト崩壊から2000年。
全ての黒幕である神「セケル」はヒエロの体を乗っ取り、再びアザリーの力を解放させようと計画していた。
時を同じくしてレイナ•ブラックローズは自分の直感を信じアザリー達の後をつける。
一方、ヒエロの魂は冥界で歌って踊っていた。
それぞれの運命が今、交錯する。
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崖下のとある洞窟の広場。大きく広がる穴からは月が輝く海が見えている。
でオリーブ色のコートにジーパンを着た青年が、手足を縛られ、意識を失っていた。
その端で、白いセーラー服を着たポニーテールの少女。ヒエロの外見をしたセケルは、海風に当たって、虫の鳴き声を気持ちよさそうに聞いていた。
「トート様、儀式の準備が整いました」
漆黒のローブに身を包んで、仮面を付けた女性が報告する。
セケルがトートの名を騙るのは２つの理由があった。
一つは、その広く伝わった信仰を
自分の力にする為。
一つは、アザリーを見つける為。
アザリーは、2000年前トートの巫女であるシファと特別仲が良かった。
なので、アザリーはトートの巫女を見つけたらから自分から接触してくるだろうと推測した。
エジプト周辺に100人以上にも渡る巫女を作り、その中でも騙しやすそうな少女数人には楽園アアルの事を話し、洗脳した。
だが、残念な事に、一番アホなヒエロにアザリーが出会ってしまったのだった。
黒いローブを身にまとったセケルの巫女達が、2人の少女を連れてきた。
「ヒエロ…？」
一人は淡い赤のツインテール、カルキノスの神装巫女テレサ。
もう一人、褐色黒髪の白の衣装を着た、アザリー。
「やっほー。アザリー。
元気してた？」
セケルはヒエロがいつもするように軽く声をかけた。
「お前がヒエロ？嘘をつくな。
私の邪眼はごまかせんぞ。」
テレサはヒエロを鼻で笑い、睨みつけた。
ヒエロはほっほっほっと笑い
「あぁ、この肉体は今このワシ「トート」が操っておる。
ヒエロは今楽園におるよ。」
アザリーが顔を歪めた。
「楽園？」
トートに対して不信感を覚えたが、
2000年前シファと共にあった神なので、警戒を解いていた。
テレサが周囲に目を通す。
彼女らを取り囲んでいる黒いローブの少女は全員で5人。
おそらくヒエロと同じトートの巫女。
「ここで何をするつもりだ？
足元のそれは中々いいデザインだと思うが。」
広場の奥に、半径5メートルほどの魔法陣がちらっと見えた。
それは赤く光る古代の文字らしきもので描かれていた。
「あれは」
アザリーは魔法陣を見て目を剥いた。
それは、2000年前にアザリーに施された儀式のものと同じだったからだ。
ヒエロは声を荒げた。
「アザリー！単刀直入に言おう！
再びギリシャで光の雨を降らせるのだ！」
「まさか、ギリシャで異変を起こしたのは、トート様なのですか？」
アザリーは困惑していた。
そもそも、なぜ今になってトート神が自分を利用しようとするのかがわからなかった。
「エジプトの奴らは今も死後の世界で幸せに暮らしておる！
彼らに会いたくはないか！？」
テレサは目の前の少女が何を言っているのか理解できなかった。
「死後の世界…？」
「お断りします。
ギリシャの人達は楽園に行くことを望んでいませんので」
「ならば」
セケルは黒ローブの少女一人に合図をして、
一人の男を連れて来させた。
手と足を縛られ、意識を失っているニキアス•グリフだった。
「この男と、ヒエロ。
こいつらはどうなっても良いのか？」
「なっ！？どうして…」
「リーダーに何をした？」
「いやいや、まだ何もしとらん。
だがなアザリー。人の寿命は短い。
こいつらと、永遠の時を過ごしたくはないか？望むなら、お主も楽園に連れて行ってやるぞ？」
実質、人質だ。
テレサは今がとても危険な状況であると理解した。
ふと、黒いローブの少女の一人が、キッとアザリーの後ろの方を睨みつけた。
「部外者はお引き取り願います。
ここはトート様の儀式の場ですので」
皆そこに視線を移す。
ひょっこりと、紫のゴスロリ衣装を着た少女が顔を出した。
「レイナさん…？」
「いやぁ、ごめんね。
邪魔するつもりはなかったんだけど」
オリュンポスの少女がぺこりと頭を下げると
同時に。
地表に亀裂が入り、大きく裂けた。
その中から巨大な樹木が姿を現し、大きくうねり、その周辺の巫女を叩きつけた。
足場が崩れ、ヒエロも体勢を崩す。
そこを目がけてレイナは華麗に跳躍し、カマに変形したハルペーを身軽に振り回した。
刃は誰にも当たらなかったが、
その近くにいたニキアスを縛る紐を切断した。
「トート様の邪魔を！」
咄嗟に3人の黒ローブが、手のひらに黒いオーラをまとわせレイナに突撃する。
すかさずレイナは腰元に仕込んでいた種に魔力を注ぎ込む。
「バイオプラント」
そう唱えると種はイバラのツタとなって四方に炸裂し、巫女のゆく手をさえぎる。そして
「受け取って！！」
レイナは伸びたツタをニキアスに巻き付かせ、その体を放り投げる。
それを上手くキャッチしたテレサは、レイナの意志を汲み取り、アザリーに向かって指示する。
「敵の狙いはアザリーだ！
逃げるぞ！」
ニキアスをかかえ浮かび上がり、逃げ出す。
さらに2人の黒ローブが邪魔してきたが、レイナが樹木を操りながら、縦横無尽に駆け巡り、敵の動きを牽制する。
1人で5人の巫女を相手にしていた。
「流石はペルセポネの巫女」
ヒエロが空を見上げ呟いた。
「じゃが」
ヒエロはビー玉サイズの眼球をいくつも生成し、それをアザリーとテレサ目がけて発射する。
それに気づいたテレサは、ニキアスを投げ飛ばし、とても早口で詠唱する。
「くそっ！！仄暗き宿を住処とする 凍れる偽神書よ。黄昏に逢う魔が時〈トワイライト•ナイトフォール〉！！！」
テレサの腕からカニの甲殻が生成され、アザリー達を覆い尽くす円形の盾になった。
眼球は赤黒い光を帯びて爆風を巻き起こした。なんとかもちこたえる。
ニキアスが転げ回り、その拍子に目を覚まして慌てふためく。
「え！？ここはどこ！？
ななにこの状況！？」
ヒエロがじりじりと近づいてくる。
「アザリー！
ギリシャに居場所はないぞ！
国がお主に処刑を言い渡したんじゃからな！！」
アザリーはヒエロの目を真っ直ぐ見て言い返す。
「…はい。ですので私はギリシャを離れ、
エジプトを取り返しに行きます。」
テレサが驚いた顔をする。
「…エジプトだと？」
「うん。テレサちゃん、ごめん。
私はwild mummysから離れる事にした。」
アザリーは長い間、自分の生き方を探していた。
2000年もの間隔離され続けてきた自分の故郷、エジプトを取り戻す。
それが彼女が見つけた答えだった。
アフリカ周辺ではエジプトの奪還を目標に掲げる団体が活動してあるらしく。
アザリーはそこを訪ねてみたいと思っていた。
「やめておけ」
"死ぬぞ。"そう言われた気がした。
空から樹木のクズや流れ弾が飛んでくる。
「おぬしは知らんと思うが、ある時からエジプトを根城に住み着いた奴がいてな。
ソイツはエジプト全体に、人知を超えた異常気象を巻き起こした。
運悪くソイツに出会した者は、誰も生きて帰る事はできなかった。」
ヒエロの中にいる者がクツクツと笑い、
本性を見せた。
畏怖の念を込めて警告する。
「エジプトにだけは手を出すな。
それは神をも恐れさせる"異質の存在"だ。」
ヒエロの言葉は、それがまるで実在するかのような、真実味を帯びた言い方だった。
アザリーは身震いする。
だが、答えは決まっていた。
「…もう、決めた事なので。」
シファはアザリーに「未来の世界を生きろ」と言った。
自分の意思に従わなければ、生きているとは言えないだろう。
アザリーは足を広げ、右手を構える。
「ソウルブレイン！」
辺りが吹き荒ぶほどの魔力を放ちながら、アザリーの右手が青白く光り、鋭利な獣の鉤爪に変形した。
「そうか、やはりダメか」
ヒエロもアザリーと同様右手を構え、呟く。
「脈動」
右手は赤黒く蠢めき、象の牙を模したような、禍々しい大剣に姿を変えた。
「では力づくだ」
目にも止まらぬ速さで跳躍する2人。
両者共に互いの得物に衝突し、火花を散らせた。
「ぐぐっ」
ヒエロはとてつもない力で大剣を振り下ろし、アザリーを弾き飛ばした。
アザリーは岸壁に激突し、その衝撃で瓦礫が崩れ落ちた。
片や、神装巫女。戦闘経験なし。
片や、人間の肉体にかかる負担を無視して、
最大限の力を引き出している神。
力の差は歴然であった。
テレサはアザリーのサポートにまわり、瓦礫から守った。
「くっ。まずいな？」
テレサが周囲を見渡すと、いつの間にか辺り一面に巨大な花や樹木が生え渡っていた。
レイナの能力だ。
召喚された植物達は思い思いに動き、敵を食べようとする。
その花に気を取られている、黒いローブの巫女の1人に種を打ち込んだ。
「バイオプラント」
黒いローブの巫女は全身から花を咲かせ、爆発した。
「まずは1人と、…だけど」
レイナが思うより敵は厄介だった。
ヒエロと戦った時とはまるで違う、権能を使いこなしている印象を受けた。
すると、先程倒したと思われる1人に、他の4人が寄り集まり。
体をぐちゃぐちゃに変形させ合体した。
「うえぇっ」
赤黒い物体がグニョグニョと蠢き、次第にそれは真っ赤な巨人になった。
レイナはあわてて手持ちの遺継装具で対処法を探す。
その時
レイナの視界の端に、赤い光がうっすら光った。
ヒエロの放ったレーザービームだった。
紅蓮の球体を核とした棒状のエネルギー波。
その線は、まるでトーナメント表のようにヤマガタに広がり、
全方向の巨大な花、植物をすべて破壊した。
それが、一瞬で起きた。
レイナも流石に唖然としていた。
「あ、あはは」
その一瞬の隙、後方の巨人がその赤黒い手でレイナを鷲掴みにする。
巨大な手はグッと力を入れる。
「ガッ」
赤黒い巨人は腕を振りかぶって、地面に叩きつけた。
そのまま足を大きくあげ、
ぐしゃり
踏み潰した。
不快なほどに生々しい音が、辺り一面に鳴り響いた。
「レイナさん！」
顔面蒼白にしたテレサが、飛び出す。
レイナはかろうじて体の形を保っていたが、
いろいろな骨が折れ、微動だにしない。
「おのれ！」
そんなテレサの死角から、腕を大剣に変形させたヒエロが近づいて来ていた。
テレサは気づいていない。
アザリーは満身創痍で立ち上がろうとしていた。
唯一、ニキアス•グリフだけは叫び、
駆け出していた。
「テレサ！あぶねぇ！」
瞬間。
ヒエロは声のする方に顔を向けた。
無表情に、まるで能面のように。
くるりと方向転換し、急加速する。
ヒエロはニキアスを抱き寄せた。
右手の凶器は、
確かにその体を貫いていた。
