巫女研究所に存在する職員でも中々立ち入ることの出来ないエリア。秘匿された区域。
フェニックスの人柱、メラ・イモータルを保存及び保管する場。死すこともできなくなった少女を維持し続けるためだけの部屋。
研究所の資料で読んだことはあった。しかし実際に行くことは始めての場所。
そこに上司からの推薦で私は足を踏み入れることになった。
フェニックスの人柱、メラ・イモータルを保存及び保管する場。死すこともできなくなった少女を維持し続けるためだけの部屋。
研究所の資料で読んだことはあった。しかし実際に行くことは始めての場所。
そこに上司からの推薦で私は足を踏み入れることになった。
「お待ちしておりました。影浦 静様。こちらへどうぞ。まずは全身を洗浄してもらった後、衣装を着替えてもらいます」
管理者の青年の指示に従い、シャワーを浴びてから着替える。
なぜこのような工程が必要かというと、メラ・イモータル以外の人柱には瘴気を振りまく等有害なものへ変化してしまった症例もいるのだという。そのために厳重な浄化や研究者であれ巫女の同伴は必須となっていた。
なぜこのような工程が必要かというと、メラ・イモータル以外の人柱には瘴気を振りまく等有害なものへ変化してしまった症例もいるのだという。そのために厳重な浄化や研究者であれ巫女の同伴は必須となっていた。
「終わったわ」
「では案内いたします。ついてきてください」
「…………………………」
「では案内いたします。ついてきてください」
「…………………………」
人柱のその性質は亡者の物とよく似ている。
少なくともそう私は感じた。
そちらについてはあまり関わったことはないが死者の変質によるものだと資料に目を通したことがある。
少なくともそう私は感じた。
そちらについてはあまり関わったことはないが死者の変質によるものだと資料に目を通したことがある。
そのように思考を巡らせているうちにやがて案内人の青年から専属の巫女へと変わっていた。
そして、メラ・イモータルの眠る深き地下へと更に更に降りていった末に。
そして、メラ・イモータルの眠る深き地下へと更に更に降りていった末に。
「ここね」
目的地へとたどり着く。
「それであれが……」
ベッドの上に横たわり、様々な機械に繋がれている女性。
不死鳥もしくはフェニックスの人柱、メラ・イモータルがそこにいた。
■■年は経過しているはずなのに巫女となった当時と何ら変わらない外見年齢。
痩せ細っている体。意志を感じさせない瞳。か細い心拍。
資料に記されているだけのデータと実際に見るのではまるで違う。
痩せ細っている体。意志を感じさせない瞳。か細い心拍。
資料に記されているだけのデータと実際に見るのではまるで違う。
「ご覧になってください。これが『実験対象』の特異性です」
「あ────待」
「あ────待」
すると突然、案内の巫女がナイフを取り出してメラへと振り下ろした。
制止しようとする私に構わず、彼女はメラの体にナイフをそのまま突き入れて切り裂く。
人道的な配慮を無視した行動に私は絶句して傍らの巫女に掴みかかった。
制止しようとする私に構わず、彼女はメラの体にナイフをそのまま突き入れて切り裂く。
人道的な配慮を無視した行動に私は絶句して傍らの巫女に掴みかかった。
「何をしているの!?彼女はこんな状態であっても生きているでしょう!物言わぬ死体なんかじゃないわ!そもそも死体であってもこんなこと許されるわけが……」
「ご心配なさらず。『いつものこと』なので。それにほら、この通り」
「?」
「ご心配なさらず。『いつものこと』なので。それにほら、この通り」
「?」
私に強い剣幕で詰められても意に介さず、案内の巫女はメラ・イモータルを顎で指す。
それに連れられて視線を送ると驚くべき光景が広がっていた。
それに連れられて視線を送ると驚くべき光景が広がっていた。
「刺された箇所が、塞がって……」
それはまさにベットに横たわるメラ・イモータルが確かに巫女であったという証拠であった。
いや、今もなお巫女なのだと感じさせる現象が起きていた。
巻き戻した逆再生映像のように彼女が負っていたはずの痛々しい傷がみるみるうちに再生していく。
いや、今もなお巫女なのだと感じさせる現象が起きていた。
巻き戻した逆再生映像のように彼女が負っていたはずの痛々しい傷がみるみるうちに再生していく。
「フェニックスの権能が効果を発揮している……?」
資料に書かれていた通りなのだが、いざ実際に目撃するとその異様さは際立っていた。
せめてのもの慈悲で殺そうとしても殺し切れなかったその不死性が目の前で示されたのだから。
せめてのもの慈悲で殺そうとしても殺し切れなかったその不死性が目の前で示されたのだから。
「えぇ、すぐに元通りになるのです。刺そうが、撃とうが、燃やそうが。いかなる方法を持ってしてもこの被検体の完全な殺傷は現在のところ我々には不可能です」
「…………………………」
「…………………………」
案内の巫女の無機質な解説を聞きつつも、私の脳裏にはある巫女が浮かんでいた。
『アタシは、人が神を選ぶ神降ろしを無くす!人柱も、適合しなかったことによる消滅も!二重三重の神を下ろして引き起こした破裂(バースト)も!赦すつもりは!無い!』
そう叫びながら神装巫女の儀式を襲撃し新人神装巫女候補達を含めた複数人を殺害し逃走した巫女。
彼女の行為が正しいとは決して思わないし、許されることではないと思う。
神装巫女研究者として、この研究は世の中のためになる。
巫女になりたくても巫女になれなかった私のような人間を少しでも減らせして救うことが出来るはずだから。そう信じている。
彼女の行為が正しいとは決して思わないし、許されることではないと思う。
神装巫女研究者として、この研究は世の中のためになる。
巫女になりたくても巫女になれなかった私のような人間を少しでも減らせして救うことが出来るはずだから。そう信じている。
あの『モノリス』の巫女や目の前にいる彼女のような犠牲となった存在が必要だったとは言わない。
仮にそれが研究行為としては正しかったとしても、「やむを得なかった」とただ正当化して美談として飾り立てて終わりで済ましていいはずがない。
仮にそれが研究行為としては正しかったとしても、「やむを得なかった」とただ正当化して美談として飾り立てて終わりで済ましていいはずがない。
(けれど……)
だからといってそれとは正反対に研究をスッパリ止めることもまた正しいとは思わない。
歩みを止めて全てを「なかったこと」にしてしまえば、それこそ積み上げてきた犠牲から目を背けて無駄にしているのと同義なのだから。
歩みを止めて全てを「なかったこと」にしてしまえば、それこそ積み上げてきた犠牲から目を背けて無駄にしているのと同義なのだから。
(まったく、難儀な生き物ね。私たちは)
知的好奇心と倫理観の狭間。
「人々の幸せを願って」という崇高な目的を掲げおきながら、その多くの犠牲を築いていく。
きっと研究者という人種はそうした矛盾や二律背反の呪いを背負って生きていく者たちを指すのだろう。
そのような事実を今こうして、実際に研究の犠牲となっている存在と対面して噛み締めることができたのは、今後の研究に生かせるし心構え的にもきっと役に立つ。
「人々の幸せを願って」という崇高な目的を掲げおきながら、その多くの犠牲を築いていく。
きっと研究者という人種はそうした矛盾や二律背反の呪いを背負って生きていく者たちを指すのだろう。
そのような事実を今こうして、実際に研究の犠牲となっている存在と対面して噛み締めることができたのは、今後の研究に生かせるし心構え的にもきっと役に立つ。
(待ってて。必ずあなたを助けるから)
誓いを新たに気を取り直してフェニックスを降ろした時の状況を聴取や経過観察書類を見せてもらった後、他の棟も少し見学させてもらってから帰路についた。
秘匿されていただけに有益な情報は多く得られた。
帰宅したら早速これらをパソコンのデータベースに移すだけでなく、日記に所感を書かなければ。
帰宅したら早速これらをパソコンのデータベースに移すだけでなく、日記に所感を書かなければ。