人外と人間

老竜と少女 2

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老竜と少女 2 1-15様

「まあっ、雪ですか? それは楽しみですっ」
「……見たことがないのか?」
「はい。竜さんは雪を見たことが?」
「嫌というほど見てきたよ。そんな浮かれるほど良いものではないぞ?」
「あら、竜さんは嫌というほど見てきたからそんなこと言えるんですよ。わたしは初めてですからわくわくできるんです。
竜さんだって、最初雪を見たときはわくわくしたんじゃないですか?」
「さて……どうだったかな。昔過ぎて忘れてしまったよ」
「そうですか、それは残念です。……ああ、雪。どんなものなんでしょう。雨と違ってふわふわと舞い降りてきて
地面を白くきらきらと輝かせると聞いたことがあるけれど、実物はもっと幻想的なのでしょうね」
 少女はほくほく顔で雪が積もった後のことを色々と計画している。
 その一方で老竜は、違うことを考えていた。
(……そうか。この娘がここに来て、もうすぐ一年が経とうとしているのか)
 最初に少女がここに現れたのは、春の訪れに小鳥が歓喜の鳴き声を上げる頃だった。
 偶然見つけたこの空洞で余生を過ごすことを老竜が決めて数年、もうすっかり日向ぼっこしながら昼寝が春の習慣と
なっていた老竜は、その時も春の陽光を浴びてうとうととまどろんでいた。
 と、空洞に一つだけあった横穴に、人間が立っているのが見えた。
 まだ夢心地だった老竜は、ああ人間なんて久しく見ていなかったなぁとか、そんなぼやけた思考しか
働いていなかった。横穴の前に立っていた人間は老竜を見て驚いているようだった。老竜は、そうだろうなぁこんな所で
竜とあったら驚くだろうなぁとか、そんな間抜けな考えしか浮かばなかった。人間は老竜へと近付いてくる。
『うわっ、大きい!』とかそんな当たり前のことを叫ぶ人間。老竜は、それはそうだろう竜はそういう種族なんだから、
とかそんな当たり前のことを考えていた。人間はゆっくりと老竜の体に手を伸ばす。触れると『……冷たい』と
当たり前のことを呟いた。そうだろうなぁだけど日向ぼっこしてるからもうそろそろ温かく――と、ここに来て
やっと老竜は覚醒し目の前の状況に驚いた。老竜が覚醒したとき思いっきりがばっと頭を上げたので、それに
人間は驚いた。
 老竜と人間は驚き顔のまま、お互いに見合った。
 人間は、年端も行かぬ少女だった。驚きで大きく見開かれた、蒼く澄んだ瞳が印象深かったことを
老竜はまだ記憶している。
 先に驚きから抜け出し口を開いたのは、情けないことに少女の方だった。
『ご、ごめんなさい! 起こすつもりは無かったんですけど! でも、竜なんて初めて見るから興奮してつい……!』
 ぺこぺこと何度も深くお辞儀をする少女。その微笑ましい光景を見て老竜は更に驚きを深くする。
今までも老竜を恐れ、敬い称える人間は何人も見てきた。しかし少女はそれら人間が浮かべていた畏怖の表情は
どこにもなかった。本当に、ただ悪いことをして親に謝る子供のような申し訳なさしか感じられなかった。
 だが、そうして驚いてばかりではいられない。この場所に人間が来たからには追い出さなければならない。
 と、そこまで考えたは良かったがまだ寝惚けて頭がよく回っていなかったのか、いつもなら咆哮の一つでも上げて
追い払うのが常だった老竜だったが、そのときに限って人語を掛けてしまった。
『……娘、ここはお前の来る所ではない。早々に――』
『わぁっ! すごい、竜さんは喋れたんですか!?』
 結果、少女に更に興味を持たれてしまい、挙句の果てに懐かれてしまった。老竜も別に人間が食料というわけでもなく
人間が憎いとかそういうこともなかったので、少女を無碍に扱うことができなかった。







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