老竜と少女 3 1-15様
こうして奇妙な共同生活は始まった。生活といっても日に三回、天井の穴から顔を出して近くに実った果物を毟り
取り少女に分け与えるぐらいしか動くことが無いが。
思えば皮肉なものである。疎まれ、憎まれ、怒りや恐怖で顔を歪めさせた人間と、今は笑みで緩ませた顔を
向けられながら余生をともに過ごすことになるとは。
老竜は少女の横顔を眺める。まだ雪のことについて楽しそうに語っている。
(……変わった娘だ。竜に恐怖を抱かぬとは)
老竜は思う。この少女は人として幸せな生まれ方をしなかったのではないかと。
でなければ、こんなところで老竜とは出会わぬだろうし、竜に恐れることを知っていただろう。
と、老竜がじっと見つめていたことに気付いた少女が言葉を切ってそちらへと顔を向ける。
「どうかしましたか?」
少女は小首を傾げ問い掛ける。肩に掛かっていた煤けた金髪が、ぱらぱらと何房か零れる。
「いや、前々から解せんと思っていてな。私を恐れぬとはいうことが」
今更隠し事をするような関係でもないので先程まで思っていたことを口に出した。
すると少女は当然のことのような顔で言ってのける。
「あら、恐れるはずありませんよ。だって――」
取り少女に分け与えるぐらいしか動くことが無いが。
思えば皮肉なものである。疎まれ、憎まれ、怒りや恐怖で顔を歪めさせた人間と、今は笑みで緩ませた顔を
向けられながら余生をともに過ごすことになるとは。
老竜は少女の横顔を眺める。まだ雪のことについて楽しそうに語っている。
(……変わった娘だ。竜に恐怖を抱かぬとは)
老竜は思う。この少女は人として幸せな生まれ方をしなかったのではないかと。
でなければ、こんなところで老竜とは出会わぬだろうし、竜に恐れることを知っていただろう。
と、老竜がじっと見つめていたことに気付いた少女が言葉を切ってそちらへと顔を向ける。
「どうかしましたか?」
少女は小首を傾げ問い掛ける。肩に掛かっていた煤けた金髪が、ぱらぱらと何房か零れる。
「いや、前々から解せんと思っていてな。私を恐れぬとはいうことが」
今更隠し事をするような関係でもないので先程まで思っていたことを口に出した。
すると少女は当然のことのような顔で言ってのける。
「あら、恐れるはずありませんよ。だって――」
少女は一片の恐れを持たず竜の体に触れた。鱗の鋼鉄のように堅く、冷たい感触が手から伝わってくる。
しかし少女は確かに感じた。この竜の持つ、柔らかさを。暖かさを。
しかし少女は確かに感じた。この竜の持つ、柔らかさを。暖かさを。
「――だってこんなに、優しいじゃないですか」
少女は花開くように顔を綻ばせた。
「……物好きな娘だな」
老竜は首ごと顔を反対へ背け、そのまま眠りの付こうとする。
「あら、もしかして照れてます?」
「照れておらん」
「もう、そんな隠さなくても良いじゃないですか。わたしは竜さんのこと大好きですよ」
「……娘、そういう言葉は易々と口にするものではないぞ」
「そんなことないです。こう見えて一途なんですよ、わたし」
「おやすみ」
「あ、逃げた」
そんなやり取りをして数分後、老竜が振り返ると少女は安心しきった顔で寄り添って寝ていた。
「ふん……全く」
正直な話、老竜は少女の笑顔が苦手だった。
今まで人間から怒りと憎しみしか買ったことが無かったので、さっきのように笑顔を向けられると
どうしていいか分からなくなってしまう。なんだかあの笑顔を見ていると、心がざらついて
落ち着かなくなる。今まで感じたことの無い感覚に、老竜は戸惑ってしまう。だがそれでも
一緒に居たいと思ってしまうのは、あの笑顔のせいなのではないかと老竜は思う。
少女は花開くように顔を綻ばせた。
「……物好きな娘だな」
老竜は首ごと顔を反対へ背け、そのまま眠りの付こうとする。
「あら、もしかして照れてます?」
「照れておらん」
「もう、そんな隠さなくても良いじゃないですか。わたしは竜さんのこと大好きですよ」
「……娘、そういう言葉は易々と口にするものではないぞ」
「そんなことないです。こう見えて一途なんですよ、わたし」
「おやすみ」
「あ、逃げた」
そんなやり取りをして数分後、老竜が振り返ると少女は安心しきった顔で寄り添って寝ていた。
「ふん……全く」
正直な話、老竜は少女の笑顔が苦手だった。
今まで人間から怒りと憎しみしか買ったことが無かったので、さっきのように笑顔を向けられると
どうしていいか分からなくなってしまう。なんだかあの笑顔を見ていると、心がざらついて
落ち着かなくなる。今まで感じたことの無い感覚に、老竜は戸惑ってしまう。だがそれでも
一緒に居たいと思ってしまうのは、あの笑顔のせいなのではないかと老竜は思う。