人外と人間

鎧騎士系モンスター×幼女 非エロ

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善意の果てに── 1 1-59様

 鎧である。
 西洋の甲冑を思わせる流麗なカーブが美しいフォルム。
しかし、その中にも厳格な趣を窺わせる。色は烏のように全身が漆黒に彩られていて、降り始めた太陽の光を吸収してしまうほどに禍々しい。唯一は兜に施された羽飾りの深紅だけである。
 その鎧が険しい山道の中、小鳥の餌を待ち焦がれさえずる鳴き声や風に揺れ木の葉が擦れ合う音に混じって、継ぎ目同士がかち合う音を鳴らしながらずんずん登っていた。
 季節は夏である。時間にして暑さは最高潮を迎える頃だというのに、黒々した鎧を纏ったその男はそんなことお構いなしに軽快な足取りで登り続けている。見ている者がいればそちらが暑くなってしまいそうな装いだというのに、である。
 それもそのはずだった。男は暑さを感じない。そもそも感じる体を持ち合わせていない。
 というより、鎧そのものが彼の体だった。
 何の因果か何処ぞの誰かの怨念が鎧に宿り、俗に言うモンスターとして生を受けた彼は中身が空っぽの鎧男なのだった。
「おじちゃん、あつくないの?」
 そのモンスターの傍ら、のはるか下方から弦を弾いたように高い声が聞こえた。
 歳にして五歳の少女だ。栗色の髪を短く白のリボンで二つに括ったセミロングの髪型がとても可愛らしい。顔はマシュマロを思わせる美白と柔和さを持ち合わせ、頬がふっくらとして
幼さを強調している。服装は水色の半袖シャツにピンクのスカートで、鎧男と比べたら涼しげで、且つ少女の愛らしさに拍車を掛けている。
 少女はいつもなら爛々と輝かせているアーモンド型の目を、不安げに細め鎧男に向けている。
どうやら少女は鎧男の格好が暑くないか心配しているようだった。
「大丈夫だよ。おじちゃんは暑いのはへっちゃらだからね」
「えー、いいなー。わたしもうへとへとだよぉ」
 少女の首筋に汗の珠がいくつも並んでいることから、少女の感じている暑さと疲れがいくらか察せられた。
 鎧男は先述通り暑さを感じないし疲れも感じない。少女を気遣いゆっくり歩いてはいたが、やはりこういった些細な機微には気付き難い。
「そうだね。もう大分歩いたし、ここらで少し休憩しようか」
「やったぁ!」
 休むことを提案すると同時に少女は体全体で跳びあがり、休める場所がないかと辺りをちょろちょろと走り始めた。
 さっきまでぐったりしていたというのに急に元気になったり、子供というのは本当に気分屋だな、と鎧男は無い口で苦笑した。
 と、少女がこちらへ戻ってきて、鎧男の手を掴むとまた走り出した。
「おじちゃん、むこうに大きな木があったよ! あっちでやすもー!」
「こらこら、そんな慌てなくても木は逃げないよ」
 少女のパタパタと駆ける音と鎧男のカシャカシャと鎧をかち鳴らす音が重なって、山に木霊した。







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