鎧騎士×少女 1-735様
突然村を襲った帝国軍の襲撃。
焼けた家から少女が一人足を引きずりながら逃げ出した。
喉が痛い、もう走れない。
脳裏にみんなの悲鳴が響いている。
円を描くように上空から彼女を狙っている怪鳥がいるのにも気づかず、少女は村から離れた丘にへたり込んだ。
頭上で風を切る音がする。
次の瞬間地面真っ二つになった怪鳥と騎手の肉塊が転がった。
「ひっ…!」
肉塊は足元に転がったため、血しぶきは少女の元に飛んだ。
足に着いた血しぶきを必死に拭おうとする少女の目の前に鎧の騎士が立つ。
帝国の騎兵イアゼムだ、その姿に息を飲んだ少女は逃げようとするが腰が抜けて立てない。
「こっ…来ないでっ…!」
「怖がらなくていい、俺は君の味方だ」
そういうと騎士は怪鳥を真っ二つにした剣を捨て、少女に跪いた。
「君を探していたんだ」
焼けた家から少女が一人足を引きずりながら逃げ出した。
喉が痛い、もう走れない。
脳裏にみんなの悲鳴が響いている。
円を描くように上空から彼女を狙っている怪鳥がいるのにも気づかず、少女は村から離れた丘にへたり込んだ。
頭上で風を切る音がする。
次の瞬間地面真っ二つになった怪鳥と騎手の肉塊が転がった。
「ひっ…!」
肉塊は足元に転がったため、血しぶきは少女の元に飛んだ。
足に着いた血しぶきを必死に拭おうとする少女の目の前に鎧の騎士が立つ。
帝国の騎兵イアゼムだ、その姿に息を飲んだ少女は逃げようとするが腰が抜けて立てない。
「こっ…来ないでっ…!」
「怖がらなくていい、俺は君の味方だ」
そういうと騎士は怪鳥を真っ二つにした剣を捨て、少女に跪いた。
「君を探していたんだ」
- ・・・・ ・・・・ ・・・・
まどろみから引き寄せられて少女は白い天井を仰ぎ見た。
あの時の夢だ。
寝返りをうって少女はシーツを握り締めた。
少しずつ自分の中の血が濃くなって来ているのが分かる。
漠然とした不安の中、少女はいま握りしめているシーツと同じ色のマントを翻す騎士の名前を呟いた。
「オーア…」
その呟きに応えるように部屋のドアが開いた。
鈍い金の鎧がきしんだ音をたて、少女の寝そべるベッドに近寄る。
「どうしたアマリエ。元気が無さそうだな」
「…少し、ね」
「ふーん」
その姿とは裏腹に人間味のある仕草で少女、アマリエを見下ろす鎧の騎士。
元帝国軍騎兵のイアゼム、オーア。
誰かが彼をそう呼んだので、いつの間にかそれが定着した。
「少し、ねえ…」
甲冑の隙間の空虚な黒が自分を見つめる。
アマリエはその視線が気まずいのかふいと目を反らした。
「元気でいてもらわなきゃ困るんだがな、何せ君は…」
「適合者だから、でしょ。もう何遍も聞いたわ」
「…そうそう、君一人の体じゃないんだ」
アマリエはオーアを睨みつけた。
彼の言い回しは時々気に障る。
それが強みになることも多いが、今のようにぴりぴりとした空気を持ち込むことも少なくない。
あの時の夢だ。
寝返りをうって少女はシーツを握り締めた。
少しずつ自分の中の血が濃くなって来ているのが分かる。
漠然とした不安の中、少女はいま握りしめているシーツと同じ色のマントを翻す騎士の名前を呟いた。
「オーア…」
その呟きに応えるように部屋のドアが開いた。
鈍い金の鎧がきしんだ音をたて、少女の寝そべるベッドに近寄る。
「どうしたアマリエ。元気が無さそうだな」
「…少し、ね」
「ふーん」
その姿とは裏腹に人間味のある仕草で少女、アマリエを見下ろす鎧の騎士。
元帝国軍騎兵のイアゼム、オーア。
誰かが彼をそう呼んだので、いつの間にかそれが定着した。
「少し、ねえ…」
甲冑の隙間の空虚な黒が自分を見つめる。
アマリエはその視線が気まずいのかふいと目を反らした。
「元気でいてもらわなきゃ困るんだがな、何せ君は…」
「適合者だから、でしょ。もう何遍も聞いたわ」
「…そうそう、君一人の体じゃないんだ」
アマリエはオーアを睨みつけた。
彼の言い回しは時々気に障る。
それが強みになることも多いが、今のようにぴりぴりとした空気を持ち込むことも少なくない。
「で、何の用なの?」
「あっ。あー…、んー…今の君に言いたかないんだけど」
「構わないわ」
アマリエのきつめの口調にたじろぎつつも、しっかりと彼女を見据えてオーアは話を切り出した。
「二人目の適合者が見つかったんだ、年は君よりも下だけど、血が完全に混ざり次第…」
オーアはそこで言葉を切った。
アマリエの目が今にも泣きそうに見開かれていたからだ。
「…辛いだろうが、君を助けたときから言っていたことだし、もちろん御子が無事生まれたらすぐに君を解放…」
「そんなことじゃ、ないわ」
大きく瞬きした目からついに大粒の涙が零れ落ちる。
それが白いシーツににじんでいくのを、オーアは困惑しながらアマリエが何か話を切り出すのを待った。
「あなたに助けてもらって、ここに連れてこられたときからそれぐらい覚悟してたわよ。それに神の血選ばれるなんて光栄なことだし…でもねオーア。今まで私、普通の女の子だったのよ?これからも、本当はそのままでいたかった…」
「それは…いや、俺が謝っても仕方ないな。君は、どうしたいんだ?」
「いくら覚悟してることだって、あなたの口から聞きたくなかったのよ!」
アマリエは突っかかるように寝台から立ちあがり、まくしたてた。
声がかすれてせき込む彼女に歩み寄り、背中をさすってやる。
しきりに涙をぬぐっていた小さな手が、服の裾を握りしめて震えた。
「オーア…私あなたが好きなのよ」
「え?」
オーアはたじろいで、手を引こうとしたがアマリエはそれをしっかり掴んだまま自分よりずっと背の高い鎧を見上げた。
緑の目がじっと、何かを探り当てるようにオーアを見つめる。
体は金属だろうと、タンパク質の肉体がないだけで目の前の少女と同じように彼にも感情の起伏がある。
もし彼が人間ならば表情が見てとるようにわかるぐらいに困惑していた。
「私はあなたが好きなの、あなたがいいの、なんで…」
アマリエその言葉の先を飲み込んでうつむき、すがるように言葉を繰り返す。
彼はどこまでわかるのだろう、自分のこの抑えきれないぐらいの何かを。
言葉ぐらいしか彼に伝わるものなんてないんじゃないだろうか、でもこんな時に使える言葉なんて、たかが知れてる。
「あっ。あー…、んー…今の君に言いたかないんだけど」
「構わないわ」
アマリエのきつめの口調にたじろぎつつも、しっかりと彼女を見据えてオーアは話を切り出した。
「二人目の適合者が見つかったんだ、年は君よりも下だけど、血が完全に混ざり次第…」
オーアはそこで言葉を切った。
アマリエの目が今にも泣きそうに見開かれていたからだ。
「…辛いだろうが、君を助けたときから言っていたことだし、もちろん御子が無事生まれたらすぐに君を解放…」
「そんなことじゃ、ないわ」
大きく瞬きした目からついに大粒の涙が零れ落ちる。
それが白いシーツににじんでいくのを、オーアは困惑しながらアマリエが何か話を切り出すのを待った。
「あなたに助けてもらって、ここに連れてこられたときからそれぐらい覚悟してたわよ。それに神の血選ばれるなんて光栄なことだし…でもねオーア。今まで私、普通の女の子だったのよ?これからも、本当はそのままでいたかった…」
「それは…いや、俺が謝っても仕方ないな。君は、どうしたいんだ?」
「いくら覚悟してることだって、あなたの口から聞きたくなかったのよ!」
アマリエは突っかかるように寝台から立ちあがり、まくしたてた。
声がかすれてせき込む彼女に歩み寄り、背中をさすってやる。
しきりに涙をぬぐっていた小さな手が、服の裾を握りしめて震えた。
「オーア…私あなたが好きなのよ」
「え?」
オーアはたじろいで、手を引こうとしたがアマリエはそれをしっかり掴んだまま自分よりずっと背の高い鎧を見上げた。
緑の目がじっと、何かを探り当てるようにオーアを見つめる。
体は金属だろうと、タンパク質の肉体がないだけで目の前の少女と同じように彼にも感情の起伏がある。
もし彼が人間ならば表情が見てとるようにわかるぐらいに困惑していた。
「私はあなたが好きなの、あなたがいいの、なんで…」
アマリエその言葉の先を飲み込んでうつむき、すがるように言葉を繰り返す。
彼はどこまでわかるのだろう、自分のこの抑えきれないぐらいの何かを。
言葉ぐらいしか彼に伝わるものなんてないんじゃないだろうか、でもこんな時に使える言葉なんて、たかが知れてる。
「…オーア」
アマリエは深く息を吸ったあと、振り絞るように彼の名前を呼んだ。
消え入りそうなほど小さな声だったが、オーアはそれをしっかりと聞きとった。
あの時のように跪いて、震える小さな肩に手を置く。
「俺は…こんな時なんて言えばいいのかわからないけど。イアゼムを抜けて、かつての同士にはじめて剣振るった時や、オーアと呼ばれた時よりも落ち着かない感じだ」
「君は俺がいいと言ってくれたが…」
オーアはためらいがちに彼女に手を伸ばしかける。
アマリエはその手をとっさに握って口を開いた。
「全部よ。この手も、体も、声も、今言葉に迷っている心も。全部…」
握られた手をそっと上に引いて彼女の頬の輪郭をなぞってみる。
涙に濡れて冷えた肌が、確かにそこにあるんだろう。
それが熱でしか感じられないのが惜しいが―
「…もう少し、君に触れてもいいかな」
アマリエは少し驚いたように目を見開いて、それから微笑んだ。
「もちろんよ、オーア」
アマリエは深く息を吸ったあと、振り絞るように彼の名前を呼んだ。
消え入りそうなほど小さな声だったが、オーアはそれをしっかりと聞きとった。
あの時のように跪いて、震える小さな肩に手を置く。
「俺は…こんな時なんて言えばいいのかわからないけど。イアゼムを抜けて、かつての同士にはじめて剣振るった時や、オーアと呼ばれた時よりも落ち着かない感じだ」
「君は俺がいいと言ってくれたが…」
オーアはためらいがちに彼女に手を伸ばしかける。
アマリエはその手をとっさに握って口を開いた。
「全部よ。この手も、体も、声も、今言葉に迷っている心も。全部…」
握られた手をそっと上に引いて彼女の頬の輪郭をなぞってみる。
涙に濡れて冷えた肌が、確かにそこにあるんだろう。
それが熱でしか感じられないのが惜しいが―
「…もう少し、君に触れてもいいかな」
アマリエは少し驚いたように目を見開いて、それから微笑んだ。
「もちろんよ、オーア」
- ・・・・ ・・・・ ・・・・
寝台にこしかけたオーアの膝の上に腰かけた。
ちょうど少し見上げた所にオーアの顔が見える。
薄い部屋着一枚だったので、金属の冷たさが太ももから上ってきて思わず身震いをした。
「寒いなら暖炉に火を入れるが…」
「ううん。このままでいいわ」
オーアはアマリエの黒い巻き毛を注意深く触っていた手を薄い肩に回してそっと力を込める。
涙で火照った頬が鎧の胸に押しつけられてひんやりと心地いい。
継ぎ目に刺された機械油のにおいと金属のにおいが立ち上ってくるのにアマリエは深いため息をついた。
オーアは自分の鎧の隙間に彼女のやわらかな指や髪を挟まないように慎重に身をかがめて、髪の毛に頬(にあたる部分)をうずめる。
アマリエの震えをひとつひとつすくいあげるように頭をなでてやりながら、何もかもが足りない自分の五感を総動員させて震える少女のできる限りを抱きしめた。
アマリエは自らの部屋着のボタンをはずしそうになった手をとどめて、帝国の紋章をかき消すように傷だらけのオーアの胸に手を置いて、もう一度今度はこっそり泣いた。
本当はこの先どこまでいっても虚しいだけだとしても、二人同じものを信じていたい。
「 」
「…アマリエ?」
オーアの問いかけには答えず、アマリエは涙を振り切るように目を閉じた。
ちょうど少し見上げた所にオーアの顔が見える。
薄い部屋着一枚だったので、金属の冷たさが太ももから上ってきて思わず身震いをした。
「寒いなら暖炉に火を入れるが…」
「ううん。このままでいいわ」
オーアはアマリエの黒い巻き毛を注意深く触っていた手を薄い肩に回してそっと力を込める。
涙で火照った頬が鎧の胸に押しつけられてひんやりと心地いい。
継ぎ目に刺された機械油のにおいと金属のにおいが立ち上ってくるのにアマリエは深いため息をついた。
オーアは自分の鎧の隙間に彼女のやわらかな指や髪を挟まないように慎重に身をかがめて、髪の毛に頬(にあたる部分)をうずめる。
アマリエの震えをひとつひとつすくいあげるように頭をなでてやりながら、何もかもが足りない自分の五感を総動員させて震える少女のできる限りを抱きしめた。
アマリエは自らの部屋着のボタンをはずしそうになった手をとどめて、帝国の紋章をかき消すように傷だらけのオーアの胸に手を置いて、もう一度今度はこっそり泣いた。
本当はこの先どこまでいっても虚しいだけだとしても、二人同じものを信じていたい。
「 」
「…アマリエ?」
オーアの問いかけには答えず、アマリエは涙を振り切るように目を閉じた。