人外と人間
悪魔×少女 オカンな悪魔 2
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オカンな悪魔 2 0-14様
『これで冷やせ。』
何故か自分を見て玄関の作り付けの下駄箱に頭を思いっきりぶつけた少女に冷凍庫のアイスノンを手渡す。
『…ありがとう。』
第一印象のショックが大き過ぎたせいか、少女はそれ以上騒ぐことはなくあっさりと礼を言って受け取り、頭に乗せて『本当に出て来ちゃった…。』と顔を顰めた。
やはりな…。
モウンは赤い瞳を歪めた。
キッチンの床に残っていた稚拙な魔方陣の跡、あんなモノで本当に悪魔が呼び出せるはずがない。
召還の呼び掛けもごく軽いモノだった。本当に、ちょっとした遊びだったのだろう。
キッチンの床に残っていた稚拙な魔方陣の跡、あんなモノで本当に悪魔が呼び出せるはずがない。
召還の呼び掛けもごく軽いモノだった。本当に、ちょっとした遊びだったのだろう。
だが、利用させて貰う。
少女に見えないように口端に小さい曲線を描く。
モウンの男爵家は元は古代妖魔との戦いで数々の武勲を揚げた侯爵だった。だが時代が流れ、古代妖魔を地下に封印し、魔界に温い時が流れるようになった今、未だに忠誠心を失わない多くの魔獣軍を持つ侯爵家はその力を恐れる中央の貴族達の姦計に乗せられて没落、辺境の田舎貴族と成り果てている。
モウンの男爵家は元は古代妖魔との戦いで数々の武勲を揚げた侯爵だった。だが時代が流れ、古代妖魔を地下に封印し、魔界に温い時が流れるようになった今、未だに忠誠心を失わない多くの魔獣軍を持つ侯爵家はその力を恐れる中央の貴族達の姦計に乗せられて没落、辺境の田舎貴族と成り果てている。
魔王達に媚を売ることしか能が無い連中にここでちょっと一泡噴かせてやるのも面白い。
モウンはゆっくりと口を開いた。
『契約を言え。どんな望みも叶えてやる。だが、望みを果たしたらお前は俺の「お嬢様」コレクションになって魔界に来て貰うことになる。』
『望み?どんなことでも良いの?』
少女はアイスノンを頭から外して置くと周囲を見回した。片付き過ぎた部屋に小さく息を吐くと考え込む。
顔立ちは悪くない。スタイルはこれから発育させれば良い。肌が浅黒いのは日焼けだ。襟元の肌の白さときめ細やかさに思わず笑みが零れる。それにこの魂の輝きときたら…。
『あたしの望みはね…。』
少女が口を開いた。黒い牛の顔の割烹着をきた大男を見上げ、くすりと笑う。
『あたしをいっしょにこの家で暮らしてくれること。』
こうして悪魔と少女の奇妙な共同生活が始まった。
薄く立ち上る線香の煙の中、黒いワンピース姿の優香が灰色の墓石に白房の数珠を掛けた両の手を合わせている。
蝉時雨が鳴り渡る墓地の、大小様々な墓の間の狭い通路をぶらぶらと歩きながら、モウンは石の弾く強い夏の日差しに顔を顰めた。
八月半ば、旧盆の昼前。気温は今日も殺人的にグングンと上がり、花活けに飾られた供花がぐったりと項垂れている。
蝉時雨が鳴り渡る墓地の、大小様々な墓の間の狭い通路をぶらぶらと歩きながら、モウンは石の弾く強い夏の日差しに顔を顰めた。
八月半ば、旧盆の昼前。気温は今日も殺人的にグングンと上がり、花活けに飾られた供花がぐったりと項垂れている。
…まあ、磨けば光る原石だとは思っていたがな。
墓石の間から、ここ五ヶ月間の自分の仕事の成果を眺め、彼は満足げに鼻を鳴らした。
外出の為、モウンは人間の男に変化している。浅黒い四角い顔に大きな鼻、角刈りの身長二メートルはありそうな黒いスーツの大男が『「お嬢様」は箸より重いものを持ってはいけない。』という彼の信念から、優香の可愛らしい女性向けのバックを手に歩いているのを見て、すれ違う参拝客が顔を強張らせ、こそこそと道を譲っていく。
今日は二人は優香の祖母の墓参りに来ていた。
マンションを出てから、途中の花屋で白い小菊の花束を買い、墓についてから周囲の草むしりと掃除をし、花を活け、ロウソクと線香を手向けた。その間中、周りの注目を集めまくる連れに、
外出の為、モウンは人間の男に変化している。浅黒い四角い顔に大きな鼻、角刈りの身長二メートルはありそうな黒いスーツの大男が『「お嬢様」は箸より重いものを持ってはいけない。』という彼の信念から、優香の可愛らしい女性向けのバックを手に歩いているのを見て、すれ違う参拝客が顔を強張らせ、こそこそと道を譲っていく。
今日は二人は優香の祖母の墓参りに来ていた。
マンションを出てから、途中の花屋で白い小菊の花束を買い、墓についてから周囲の草むしりと掃除をし、花を活け、ロウソクと線香を手向けた。その間中、周りの注目を集めまくる連れに、
『モウン、悪いけど少し離れていて。』
と優香が困った顔で頼み、彼は彼女に日傘を離さないよう、しつこいくらい言い聞かせると側を離れたのだ。
しかし…五ヶ月でここまでになるとはな。
少女の横顔を眺め、目を細める。
パサついていた黒髪は光沢を帯び、浅黒く焼けていた肌はうっすらと白さを取り戻している。
発育不良気味だったスタイルも少しは育ち、へこむところはそのままに、出っ張らなければならないところは若干サイズアップしている。面立ちも最初に会った頃に比べ、更に明るくなり、時折浮かんでいた不安げな表情が消えて、落ち着きが漂うようになった。
パサついていた黒髪は光沢を帯び、浅黒く焼けていた肌はうっすらと白さを取り戻している。
発育不良気味だったスタイルも少しは育ち、へこむところはそのままに、出っ張らなければならないところは若干サイズアップしている。面立ちも最初に会った頃に比べ、更に明るくなり、時折浮かんでいた不安げな表情が消えて、落ち着きが漂うようになった。
このまま育てれば…。
自分を小馬鹿にしている連中のコレクションの「お嬢様」を思い浮かべ、ほくそ笑む。
ただ見栄えばかりが良い白痴美人等、比べ物にもなるまい。金と権力の乳母日傘の下ぬくぬくと育ち、悪魔の保護下で蝶よ花よとふわふわと生きている「お嬢様」等、俺の優香に比べれば…。
モウンが自分を呼び出した二人の少女のうち、彼女を選んだのは魂の輝きの違いからだった。
父母にこれだけ存在を無視され、ただ金だけを与えられている娘なのに、優香は明るさを失わない。
金銭は豊富にあるのだから父母への反抗に堕ちようと思えばいくらでも堕ちられるのに、むやみに乱れることもない。
父母にこれだけ存在を無視され、ただ金だけを与えられている娘なのに、優香は明るさを失わない。
金銭は豊富にあるのだから父母への反抗に堕ちようと思えばいくらでも堕ちられるのに、むやみに乱れることもない。
よほど祖母とやらの育てが良かったのだな。
自分が育てた「お嬢様」に他の悪魔達が目を剥く様を描き、モウンは彼女の前の墓に感謝の意を投げ掛けた。
後はあれに女の色香が漂えば…。
白い肢体を腕に抱く様を思い浮かべる。あの小さなピンクの唇と柔らかな口内を厚い青黒い舌で、思う存分蹂躙し、知識と拙い自分の手ぐらいでしか知らないだろう悦びを一つ一つ、身体に教えて込んでいく。そして、いずれは黒い瞳を潤ませ、甘い息を吐きながら擦り寄るように…。
そこまで想像してモウンは奥歯を噛み締めた。ギリッと鈍い音が頭の中に響く。
そこまで想像してモウンは奥歯を噛み締めた。ギリッと鈍い音が頭の中に響く。
どうかしている…「お嬢様」は無垢でなければならないというのに…。
欲望と快楽は悪魔の専売特許。だからこそ、「お嬢様」を手元に置くことにはコレクションとしての意義がある。
清らかなモノを汚し堕落させたいという悪魔の本能を押さえ、どこまで「清い」まま手元に置き続けられるか、これもコレクターの評価の大きな一つなのだ。
清らかなモノを汚し堕落させたいという悪魔の本能を押さえ、どこまで「清い」まま手元に置き続けられるか、これもコレクターの評価の大きな一つなのだ。
なのに…。
あの晩以来、自分の中に澱のように溜まっているもどかしい思いにモウンは顔を顰めると深い息を吐き出した。
「ん…?」
今は周囲に合わせて黒色に変えているモウンの瞳が微かに歪む。
「呼ばれてきたか…。」
夏の日差しに照り光る墓の周りがいくつか陽炎のように揺らめいている。燃えるような暑さの中、陰気な気配がうっすらと辺りに漂った。
死者の念だ。幽霊と呼ぶにも至らない、残留思念のようなモノである。たぶん、盆参りの人々の故人への呼び掛けに釣られて出てきてしまったのだろう。蝉時雨と眩しいまでの陽光の中をいくつもふわふわと浮いている。
モウンは鼻を鳴らして、足早に歩き出した。悪魔にしてみれば羽虫ほどにもならない、空気の揺らぎ程度のものだが、精神的に弱っている人間には悪い影響を与えることもある。
念の為、自分の契約主の少女の元に戻る彼の前を念が過ぎった。
手で払うまでもない、通り過ぎるだけで悪魔に触れたそれはあっけなく消えてしまう…が、周囲をいくつも漂うそれが一箇所に集まりつつあるのを感じ、モウンは顔色を変えた。
死者の念だ。幽霊と呼ぶにも至らない、残留思念のようなモノである。たぶん、盆参りの人々の故人への呼び掛けに釣られて出てきてしまったのだろう。蝉時雨と眩しいまでの陽光の中をいくつもふわふわと浮いている。
モウンは鼻を鳴らして、足早に歩き出した。悪魔にしてみれば羽虫ほどにもならない、空気の揺らぎ程度のものだが、精神的に弱っている人間には悪い影響を与えることもある。
念の為、自分の契約主の少女の元に戻る彼の前を念が過ぎった。
手で払うまでもない、通り過ぎるだけで悪魔に触れたそれはあっけなく消えてしまう…が、周囲をいくつも漂うそれが一箇所に集まりつつあるのを感じ、モウンは顔色を変えた。
「…優香…。」
その先には優香がいた。祖母の墓の前にうつむいている。胸の前で数珠を握り締めた手が小さく小刻みに震えているのが見えた。漂う陰気な念は次々と集まり、そんな彼女に纏わり付こうとしている。
「優香!!」
鋭い声で少女の名を呼ぶが聞こえてないのか、顔をあげない。暗い気を背負った少女に引き寄せられるように念は集まり、その気配を濃くしていく。濃くなった念は徐々に死霊へと変化する。
死霊は弱った人間に憑くと、憑かれた者を更に弱らせ、自分達と同じ世界…死の世界へと誘う。
死霊は弱った人間に憑くと、憑かれた者を更に弱らせ、自分達と同じ世界…死の世界へと誘う。
「優香!!」
死霊に囲まれつつある少女を抱き寄せ、近づくものを目だけ元に戻した悪魔の赤い瞳で追い払う。
しかし数が多い。墓地のあちらこちらから旧盆の迎え火に便乗してやってきた念が次々と集まり彼等を包む。
しかし数が多い。墓地のあちらこちらから旧盆の迎え火に便乗してやってきた念が次々と集まり彼等を包む。
「おばあちゃん…。」
優香の口からポツリと呟きがこぼれた。彼女の立っていた足元がこの暑さの中濡れている。
小さな顎に手を掛けると指がぬるりと濡れた。顔を上げさせるとうつろな黒い瞳が彼を見上げる。
頬全体が濡れ、わななく口から祖母を呼ぶ声が漏れる。
モウンは奥歯を噛み締めた。どうやら糸が切れたらしい。たった一人、彼女を愛してくれた祖母を亡くして一年半。
ずっと一人で頑張ってきた張りがプツリと切れたようだ。無理もない、まだ14歳、普通でも不安定な年頃だ。
小さな顎に手を掛けると指がぬるりと濡れた。顔を上げさせるとうつろな黒い瞳が彼を見上げる。
頬全体が濡れ、わななく口から祖母を呼ぶ声が漏れる。
モウンは奥歯を噛み締めた。どうやら糸が切れたらしい。たった一人、彼女を愛してくれた祖母を亡くして一年半。
ずっと一人で頑張ってきた張りがプツリと切れたようだ。無理もない、まだ14歳、普通でも不安定な年頃だ。
「…おばあちゃん…おばあちゃん…。」
祖母を呼ぶ声が、嘆きと悲しみの念が、祖母ではなく周りの陰気な念を呼び、死霊へと変えている。
モウンは小さく舌打ちをすると口の中で力ある言葉を呟いた。
モウンは小さく舌打ちをすると口の中で力ある言葉を呟いた。
『優香!!』
遠くで呼ばれる声が少女の頭を通り抜けた。
墓参りに来た彼女の目に映ったのは灰色一色の祖母の墓だった。
旧盆も終わりの一日、周りの墓は花が飾られ、ロウソクと線香が上げられた跡が残っているというのに、祖母の墓には何一つ置かれていない。
墓参りに来た彼女の目に映ったのは灰色一色の祖母の墓だった。
旧盆も終わりの一日、周りの墓は花が飾られ、ロウソクと線香が上げられた跡が残っているというのに、祖母の墓には何一つ置かれていない。
おばあちゃんもひとりぼっちなんだ…。
そう思った途端、何かが自分の中で壊れた。
おばあちゃんもひとりぼっち…あたしもひとりぼっち…。
祖母の墓に祈っているうちにいつしか涙が溢れてきた。
何も無い墓に、たったひとりで暮らしていたころの自分が重なる。
何も無い墓に、たったひとりで暮らしていたころの自分が重なる。
きっとあたしがあのまま一人で死んじゃってもお父さんもお母さんも、おばあちゃんのように放って置くんだろうな…。
両親には家族など何の意味も持たない。その事実が彼女を只一人愛してくれた祖母の墓にはっきりと印されていた。
『優香!!』
また声がした。と、同時に何か大きくて暖かいものが自分を抱き締める。
太い腕が背中をしっかりと抱える。顎を軽く摘まれ持ち上げられた。
太い腕が背中をしっかりと抱える。顎を軽く摘まれ持ち上げられた。
もう、いやだ。こんなところいやだ。おばあちゃんのところへ行きたい…。
「…おばあちゃん…おばあちゃん…。」
祖母を呼ぶと小さな舌打ちの音が聞こえた。少し間を置いて、すっと蝉時雨の音が遠のく。
『…優香…。』
小さな、だが優しい声が耳に響くと唇に大きな暖かなモノが重なった。
暖かい…。
自分を包み込むモノが重なるモノが暖かくて、手を大きな何かに回してギュッとしがみ付く。
何かが自分の背中を優しく撫でている。
何かが自分の背中を優しく撫でている。
…手…?
大きな手が自分の背中の感触を味わうように上下している。上から下へ、下から上へ、ゆっくりと背骨にそって太い指が動く。
「…あ…。」
気持ちが良い。ぞくぞくするような感覚が背中を駆け上り、息が軽く乱れる。小さく漏れた声を重なる大きな唇が吸い取る。
「…あ…ん…。」
手は一つはしっかりと優香の腰を抑え、もう一つは彼女の反応に答えるように更に下に下がる。
黒いワンピースのスカートの上から、大きな手が今度は彼女の小ぶりな尻を撫で回す。
黒いワンピースのスカートの上から、大きな手が今度は彼女の小ぶりな尻を撫で回す。
「う…ん、…あ…。」
気持ち良さと恥ずかしさに小さく身じろぎをするが腰の手ががっちりと彼女を抑えていて動けない。
手は撫でるだけでなく、指で弾力を楽しむように柔肉を押してくる。
手は撫でるだけでなく、指で弾力を楽しむように柔肉を押してくる。
「…やっ…だめ…。」
押される度に甘い感覚が沸き起こる。喘ぎつつ抗議するが声は全て吸い取られてしまう。
しかし、それはしっかり相手には伝わっているらしく、手の動きは段々大胆になっていく。
しかし、それはしっかり相手には伝わっているらしく、手の動きは段々大胆になっていく。
「…やだ…あん…は…ふ…。」
尻全体を揉みしだかれる。太い指が割れ目に入り柔肉を押し広げなから上下する。
撫でられる度に感覚がますます鋭くなり、ビクリ、ビクリと背中が震える。
いやらしいことをされていると解かっているのに抵抗が出来ない。包み込むような逞しい胸が暖かくて、重なっている唇が心地良くて、腰に回された手が優しくて、気持ち良くてたまらない。
しがみ付く手に力が篭る。息がますます荒くなってくる。下腹部と足の付け根がだんだんと熱を帯びて、そこも触れて欲しくなる。
熱い息を吐きながら優香は目を開けた。いつもの黒い牛顔の自分の悪魔の顔がそこにある。
顔を見下ろす赤い瞳は何故か怖いくらい真剣だ。優香は再び目を閉じると自分から伸びをして唇を押し付けると囁いた。
撫でられる度に感覚がますます鋭くなり、ビクリ、ビクリと背中が震える。
いやらしいことをされていると解かっているのに抵抗が出来ない。包み込むような逞しい胸が暖かくて、重なっている唇が心地良くて、腰に回された手が優しくて、気持ち良くてたまらない。
しがみ付く手に力が篭る。息がますます荒くなってくる。下腹部と足の付け根がだんだんと熱を帯びて、そこも触れて欲しくなる。
熱い息を吐きながら優香は目を開けた。いつもの黒い牛顔の自分の悪魔の顔がそこにある。
顔を見下ろす赤い瞳は何故か怖いくらい真剣だ。優香は再び目を閉じると自分から伸びをして唇を押し付けると囁いた。
「…モウン…もっと…。」
その声に手がスカートの中に入り込む。ゆっくりと太ももを外から内側に指が這い上がる。
「…あ…あん…!」
さやさやと鳴る衣擦れの音がひどく恥ずかしい。なのに身体はもっと強い刺激を欲しがる。
そっと閉じた足の力を抜く。それを合図のように指がショーツの縁に掛った。
そっと閉じた足の力を抜く。それを合図のように指がショーツの縁に掛った。
『お母さん!早く!!』
パタパタと軽い足音が聞こえてくる。小さな男の子の声が側を駆け抜け、次の瞬間二人は慌てて離れ、互いに飛び退いた。
大きく深呼吸をすると優香はスカートの乱れを直した。ちらりと横目でモウンを見上げると彼は顔を背けて眉を顰め、何かブツブツと呟いている。
「「お嬢様」は「清らか」でないといけないんじゃなかったの!?」
気持ち良さに負けてつい自分から誘ってしまった恥ずかしさから、つい責める口調で文句を言うと悪魔はやむえない手段だっただの、不可抗力だの、もそもそと言い訳を始める。
パシン!!
突然、空気の鳴る音がした。さっき自分達を邪魔して…もとい、止めてくれた親子連れが薄い膜のような揺らぎの向こうで驚いた顔でこちらを見ている。
「調子ついてきたな。」
モウンが周囲を睨み、舌打ちする。
「あっ〜!!」
突然、優香が悲鳴を上げた。
「モウン、元の姿に戻ってる!!それに、もしかしてさっきの皆に見られてた!?」
「…今頃、そこに気が付くか?」
「…今頃、そこに気が付くか?」
呆れた声に優香は周囲をきょろきょろと見回した。親子連れの他にも墓地にはちらほらと花や桶、ヒシャクを持った参拝客の姿が見える。少女の顔が真っ赤に染まった。
「やだあ!!もうお嫁に行けない!!」
「行かんでいい!!お前は俺のコレクションだろうが!!」
「行かんでいい!!お前は俺のコレクションだろうが!!」
何故か大声を出した後、モウンが眉間を揉む。
「大丈夫だ、ここは元の世界から薄紙一枚程隔てた異空間だ。こちらからは外が見えるが、向こうからは見えない。」
その答えに優香は赤い頬を両手で押さえつつ、ほっと息をついた。
パシン!!バチン!!
また音が鳴る。バンバンと壁を手の平や拳で叩くような音が重なる。
気味の悪さに慌ててモウンに飛び付くと、彼はしっかりと彼女の肩を抱き寄せた。
気味の悪さに慌ててモウンに飛び付くと、彼はしっかりと彼女の肩を抱き寄せた。
「ラップ音だ。死霊が調子ついて鳴らしている。こちらの空間に気付いて、入り込もうとしているモノもいる。」
「死霊?」
「なんなら見るか?今、目の前に沢山並んでいるぞ。ちょっと霊感を高めれば見れるが。」
「…夜、眠れなくなるから辞退致します。」
「死霊?」
「なんなら見るか?今、目の前に沢山並んでいるぞ。ちょっと霊感を高めれば見れるが。」
「…夜、眠れなくなるから辞退致します。」
ぶるりと身震いして優香が丁重に断る。
「そうか。なに、お前が正気に戻ったなら心配は無い。追い払うから待っていろ。」
優香の肩を抱いたまま、モウンは軽く手を振った。ゴウッと音がして参拝客の悲鳴が上がる。
熱い風が墓地を吹き抜ける。墓の前の供花達が大きく揺れた。
風に音が次々と消える。恨みがましい悲鳴のようなものが聞こえ、優香は彼にしっかりとしがみ付いた。
モウンが指を鳴らす。目の前の揺らぎが消え、つんざくような蝉時雨が降ってくる。
熱い風が墓地を吹き抜ける。墓の前の供花達が大きく揺れた。
風に音が次々と消える。恨みがましい悲鳴のようなものが聞こえ、優香は彼にしっかりとしがみ付いた。
モウンが指を鳴らす。目の前の揺らぎが消え、つんざくような蝉時雨が降ってくる。
「もう、大丈夫だな。」
ギュッと肩を抱く手の強さに隣の悪魔を見上げると、いつの間にか人の姿に変化し直した彼は大きな手でワシワシと優香の頭を撫でた。
風に流された日傘を探しに行った悪魔が戻ってくる。
「ちゃんと差していろ。紫外線は肌の大敵だ。」
「うん。」
「うん。」
大きな手からそれを受け取ると優香はモウンの顔を見上げた。
小さく日傘を回して微笑む。
小さく日傘を回して微笑む。
「おばあちゃん…。」
優香は祖母の墓に向き直った。
「あたし、もうひとりぼっちじゃないから。」
甘えるように隣の悪魔の腕に腕を絡める。
「ねえ、モウン。」
「…まあな。」
「…まあな。」
むすっと答えるモウンに明るい笑顔を向けると腕を離し、もう一度日傘を回して歩き出す。
「お昼食べに行こう!この近くのカレー屋さん、インド風のチキンカレーとナンがおいしい店を教えて貰ったんだ!」
「ああ。」
「ああ。」
優香の細い足が弾むように石畳を蹴る。さっきの暗い気から立ち直り、笑顔ではしゃぐ少女を、悪魔が眩しそうに見詰める。
優香の日傘が細い道を曲がり、木造りの寺の門へと消えた。
優香の日傘が細い道を曲がり、木造りの寺の門へと消えた。
「…まさか…この俺がな…。」
モウンの口から真剣な声が漏れた。頭に浮かんだ認めたくない答えに首を振ると、ふと背中に揺らぎを感じる。
優香の祖母の墓、日差しにキラキラと煌く小菊の間に陰気を帯びない念が揺らめきながら現れる。
悪魔は黙ってそれを眺めた。大きく息を吐く。
優香の祖母の墓、日差しにキラキラと煌く小菊の間に陰気を帯びない念が揺らめきながら現れる。
悪魔は黙ってそれを眺めた。大きく息を吐く。
「早く〜!!何してるのぉ〜!!」
優香の声が自分を呼んでいる。クルリと踵を返し、そちらに足を向ける。
「心配するな。もう決して一人にはしない。」
低い呟きともとれる声が蝉時雨の中、しっかりと響いた。
(了)