人外と人間

河童と村娘 2

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河童と村娘 2 859 ◆93FwBoL6s.様

 待ち遠しかった夏休みが、この瞬間から始まった。
 清美は教科書や辞書が詰まっている重たい通学カバンをものともせずに、全速力で走っていた。ツタの絡んだ校門を抜け、擦れ違った同級生達に別れの挨拶をしてから、アスファルトを蹴っていく。通学カバンのせいで半袖ブラウスの背中は透けるほど汗が染み、膝丈のプリーツスカートが煩わしい。かかとを履き潰してしまったローファーは走るのに向いていないので、何度か脱げてしまいそうになった。見たくない通知票も受け取り、煩わしい宿題も渡され、一学期の終業式も終わり、後は家に帰るだけだ。毎年楽しみな日だったが、今年は格別だ。昼食を食べて着替えたら、すぐにタキのいる川に向かおう。
 舗装の良い道路を外れ、青く茂った稲穂が揺れている田んぼの間に伸びたあぜ道に駆けていった。満遍なく砂利が敷かれているので少々足場は悪いが、山歩きに慣れた清美にはどうということはない。

「おい、清美!」

 すると、道路側から名を呼ばれ、清美は仕方なく立ち止まった。

「なーにぃー?」

 振り返ると、そこには幼馴染みの耕也が立っていた。

「私、急いでるんだけど」

 清美がむっとすると、耕也は大股に歩み寄ってきた。

「お前、最近どこに行ってんだよ。まさか、山ん中じゃないだろうな?」
「どこだっていいじゃん。耕也には関係ないもん」
「良くない。夏場は山ん中に入っちゃいけねぇって言われてるだろ、いつも」
「暑くなると、変な虫とか毒草が増えるからでしょ」
「それもそうだけど、山神様に祟られちまうんだぞ」
「えー、神様なんているわけないじゃん」
「いないかもしれないけど、いるかもしれないだろ。神様なんだから」

 耕也は視線を左右に彷徨わせてから、躊躇いがちに清美に向いた。

「遊ぶんだったら、街に出ようぜ。その方が面白いしさ」
「気持ちは嬉しいけど、用事があるから。じゃ、またね!」

 清美は耕也に手を振りながら、駆け出した。耕也は引き留めようと手を伸ばしてきたが、届かなかった。複雑な表情の耕也を目の端で捉えながら、清美は砂利の敷かれた太いあぜ道から細いあぜ道に入った。何か言いたげだったが、きっとこの前の水泳大会のことだろう。タキのおかげで、清美は耕也に勝てたのだ。
 家が近かったため、幼い頃から一緒に過ごしてきた耕也とは、やはり幼い頃から何かと競い合ってきた。先日の水泳大会もその一つで、運動会の百メートル走で負けてしまった腹いせに必ず勝つと決めていた。だから、わざわざタキに泳ぎを教えてもらい、耕也に勝てたばかりか水泳大会で優勝までしてしまった。
 今日はその賞状も持っていこう。キュウリも一杯持っていこう。言葉だけでは、礼を尽くせる気がしない。とにかく、一刻も早くタキに会いたい。清美は力一杯走りながら、動悸とは異なる痛みを胸に感じていた。
 それが、なんとなく恥ずかしかった。


 目の前に突き付けられた紙の向こう側で、清美はだらしなく笑っていた。
 上質な長方形の紙には金色の縁取りが印刷され、中心に大きく、総合優勝、との文字が書かれていた。その下には、村立中学二年一組河野清美、と書き記されていたが、タキにはこの紙の意味が解らなかった。清美の名が書かれているので、清美が手に入れたものであることは解るのだが、何の紙か知らないのだ。だから、どんな言葉を返すべきか迷った挙げ句、タキは何も言えずに清美と紙を交互に見比べてしまった。

「なんか言ってよぉ、タキ」

 河童からの反応がないため、不満に思った清美が唇を尖らせた。

「すまぬ、だが儂には何のものか解らぬのでな」
 タキが正直に述べると、清美はくるくると賞状を丸めて輪ゴムを掛けた。

「いいもん、褒めてもらいたかったわけじゃないから。見てもらいたかっただけなんだから」

 丸めた賞状をリュックサックに突っ込んだ清美は、明らかに拗ねていた。つまり、褒められたかったのだ。あの賞状は称賛に値することなのだろうが、意味も解らずに褒めるのは良くないのでは、とタキは思った。だが、何も言わないでおくのはもっと良くない。タキが清美の横顔を見つめていると、強い風が迫ってきた。
 ごう、と分厚く力強い空気の波が押し寄せ、木々の枝葉が大きく波打ち、無数の木の葉が舞い上がった。突然のことに驚いた清美は目を閉じたが、タキは目を見開き、猛烈な風を帯びて空を駆ける者を見据えた。

「天狗か」
「え、どこどこ?」

 目元を拭った清美が空を見上げるが、タキは首を横に振った。

「もう遅い、山神の山へと至っておる」
「なんだぁ、それじゃ見えるわけないや」

 天狗見たかったなぁ、と清美が頭上を仰ぎ見ていると、雲もないのに太陽が陰り、空気がすうっと冷えた。二人の頭上に影が落ち、先程の強風とは異なる風が漂った。その風が触れると、ぞわりと肌が粟立った。その影が音もなく頭上を過ぎると、腹の底から響くほどの震動が起き、そこかしこから野鳥が羽ばたいた。

「ダイダラボッチだ。あやつも山神の元へ向かうようだ」

 タキが影の主の名を口にすると、清美は目を凝らした。

「んー…。やっぱり何も見えないや」
「みだりに常世の者が見えては、おぬしの神経が参る。見えぬ方が良かろう」
「でも、ちょっと残念かも」

 清美は真上を見上げたまま、ダイダラボッチと思しき影を追って後退ったが、かかとが石に引っ掛かった。

「うひゃあ!?」

 裏返った悲鳴の後、派手な水音と共に盛大な水柱が上がり、タキはぎょっとして身を乗り出した。背中から川の中に落ちた清美は、水面から顔を出すと、げほげほと咳き込んでから濡れた髪を払った。

「あーびっくりしたぁ…」
「それは儂の申すことよ」

 タキは川に踏み入ると、全身ずぶぬれの清美を川辺に引っ張り上げた。

「今日は着替え持ってきてなかったのにぃ…」

 清美はスニーカーを脱ぎ、ひっくり返すとびしゃびしゃと大量の水が落ちた。

「仕方ない、乾かすか」

 滴るほど水を吸ったTシャツを捲り上げた清美は、その手を止めてタキを見やった。

「…見るの?」
「今更、何を隠す」
「そりゃそうだけど、でも、なんか」

 清美がTシャツの裾を握って俯くと、タキは眉間を歪めた。

「訳の解らぬことを」
「解らないのはそっちだよ!」
 清美は頬を染めながら言い返したが、濡れた服が貼り付く感触は気色悪く、耐えられそうになかった。それに、このままではいずれ風邪を引いてしまう。少しばかり迷ったが、結局脱いでしまうことにした。
 裾の長いTシャツ、ジーンズのハーフパンツ、スポーツブラ、それと揃いのショーツ、靴下、スニーカー。それらを大きな岩の表面に貼り付けた清美は、一糸纏わぬ自分に恥じ入りつつ、タキの傍まで戻った。リュックサックに入っていたフェイスタオルで水気は拭ったが、それでも髪は生乾きで、肌も湿っている。タキの手で脱がされるのも恥ずかしいが、これはこれで物凄く恥ずかしいので、清美は俯いてしまった。

「すっごくやりにくい…」
「儂にとっては目新しいものではないが」
「それでも恥ずかしいんだってば!」

 清美はタキに背を向けたが、水掻きの付いた足が背後に歩み寄り、冷たい腕が体に回された。

「目新しくはないが、見て飽きるものでもない」
「だったら、いいんだけど」

 清美は背中に直に感じるタキの重みに鼓動を速め、意味もなく目線を落とした。

「ねえ、タキ」
「何用か」
「山神様って、どんな人なの? あ、人じゃないか」

 清美は腰と肩に回されたタキの腕に手を添えて、滑らかなウロコを撫でた。

「毎年毎年、村のお祭りで崇めているけど、どんな神様なのか知らないんだもん」
「山神は、儂や今し方通っていった天狗やダイダラボッチよりも古い神だ」

 タキは清美を抱き締めたまま腰を下ろし、胡座を掻いた。

「おぬしの住む村を含めた一帯を治めておられる神で、この地方で最も高き山に棲まわれている。儂も時節ごとに山神の山に参り、変わりなきことを伝えている。遠き昔は荒ぶる神ではあったが、今では落ち着かれているので儂としても気が楽だ」
「山神様はヒステリックってこと?」
「噛み砕いた言葉で申せばそうなるやもしれぬが、くれぐれも山神の前では口にせんでくれぬか」
「あ、やっぱり山神様って女の人なんだ。だから、私がタキのところに来るのが面白くないんでしょ?」
「うむ。おぬしの村で伝えられておるように、山神は女だ。故に、怒らせると手が付けられぬ」
「解る解る。うちのお母さんだって、一度怒ると大変だもん。家のこと、なーんにもしなくなっちゃう」

 腕の中で清美が小さく笑ったので、タキはクチバシを薄く開いた。

「解っておるのであれば、それで良い。だから、おぬしが関わるのは儂だけにしてくれぬか」
「うん。山神様を怒らせちゃうのは良くないもんね」

 清美は頷くと、タキの湿った肌に頬を寄せた。

「あのね、私、タキに御礼がしたいの」
「礼、とな」
「水泳大会で優勝出来たの、タキのおかげだから。だから、賞状見せたんだよ?」
「すまぬ、あれの意味はまだ良く解らぬ」
「あれは、もういいや。だって、私も優勝したことよりもタキに会えた方が嬉しいから」

 清美はタキの腕の中で身を捩ると、タキに向き直り、はにかんだ。

「じっとしててね。何もしちゃダメだからね」
「うむ」
 タキは清美を戒めていた腕を緩め、下げた。清美は少し照れくさそうに笑んでから、肌を押し付けてきた。冷えた肌と暖かな肌が重なり、分厚い胸の上で薄い乳房がぬるりと滑り、清美は熱っぽい息を漏らした。ウロコに包まれた肌とは違い、頑強な甲羅に手を回した清美は、タキのぬめりを用いて己の肌を滑らせた。凹凸の少ない体は難なく上下していたが、清美は体を下げて、胡座を掻いた足の間に伏せる形になった。石に膝を付けては痛かろうと、タキは胡座を解いて清美を両足の上に載せてやってから、両手を放した。何もするなと言われているのだから、妨げてはいけない。それに、清美から肌を寄せられるのも悪くない。
 タキの股間の真上に身を伏せた清美は、乳房と呼ぶには幼すぎるものを寄せようとしたが、無理だった。自分で乳房を押すと痛むらしく、顔をしかめていたが、すぐに諦めて乳房ではなく胸全体を擦り付けてきた。タキの肌を覆うぬめりを帯びた清美の胸がぬるぬると股間を這うと、硬く尖った小さな乳首が引っ掛かった。

「んぁ…」

 清美は甘ったるい吐息を零すと、タキの男根が収まっている部分に薄い唇を寄せ、音を立てて吸った。すると、分厚い皮膚の奥に引っ込んでいた男根の先端が飛び出し、清美は赤黒く丸い亀頭を舐めてきた。同じ水音なのに川の水音に紛れない淫靡な音が放たれ、少女の丸っこい頬に異物による膨らみが出来た。そんなことを繰り返されると、男根の全体が現れたので、清美は可能な限り口に収めたが全部は入らない。せいぜい半分程度しか口に入らないので、口からはみ出した部分はやはり濡れた両手で擦り上げてきた。口と手を使った愛撫がしばらく続くと、男根がびくりと脈打ち、奥から放たれた冷たい液体が喉で弾けた。
 男根から顔を上げた清美は、口にたっぷり溜まった精液を嚥下したが、苦みはほとんど感じなかった。自身の唾液とタキの体液で成された糸が引いたので、拭い、清美は表情の窺いづらい河童を見上げた。

「ね、どうだった? ちょっとは上手くなった?」
「大して変わらぬ」
「えー、頑張ったのにぃ」

 清美がむっとすると、タキは身を屈めて手を伸ばし、丸い尻の間に滑り込ませた。

「して、おぬしはどうだ」
「うぁ、ああっ」

 太く冷たい指にぐじゅぐじゅと陰部を掻き混ぜられ、清美は身震いした。

「ふむ。儂のものを含んでおるだけで、もう潤っておるのか」

 ずぶり、と一息に指を根元まで入れられ、清美は喘いだ。

「あぁ、あ、あっ!」
「どれ、おぬしの児戯に応えてやるとしんぜよう」

 一旦指を抜いてから、タキは清美を抱き上げて太股に座らせると、今度は前から陰部に指を差し込んだ。緑色の指が熱した胎内に飲み込まれると、清美は喘ぎながらタキの首に腕を回し、甲羅を握り締めてきた。ぐいっと指を曲げると清美は仰け反り、回してやると首を振って喚き散らし、肉芽を抉ると悩ましげに鳴いた。狭い陰部が大分解れてきたので、もう一本の指も陰部に押し込んでやると、清美の反応は激しさを増した。

「あ、うぁ、あぁあああっ!」
「存分に鳴くが良い。おぬしに奉仕されるより、余程良い礼となる」
「えっちぃ…」

 弱々しく呟いた清美に、タキは二本の指を引き抜いた。

「どちらがだ」
「あ…」

 陰部から異物が消えたことに気付いた清美が物欲しげにタキを見上げると、タキは清美の腰を持ち上げた。そして、強張った男根の上に導いてずぶりと奥まで突き立てると、清美は白い喉を反らして掠れた声を零した。
「あ、あぁ、ぁっ!」
「それほど欲しければ、いくらでもくれてやろう」
「うん、わたしぃ、タキの、だいすきぃっ!」

 荒っぽく突かれながら、清美はタキの腰に足を絡み付けた。

「儂の元に至るのはそのためか」
「これだけじゃないけど、でも、ちょっとはあるかもっ」
「何故に」
「だ、だってぇ、すっごくおっきいし、きもちいいからぁっああんっ!」
「つくづく、おぬしは淫蕩だ」
「だってぇ、すきなんだもん…」

 清美はとろけた眼差しでタキを見つめ、胸を上下させた。潤んだ鳶色の瞳は、快感と幸福に満ちていた。これを手元に置けたらどれほど至福か、とタキは僅かに考えたが、胎内にずんと強く男根を打ち込んだ。清美は髪を振り乱して引きつった声を迸らせ、ぎゅうっと陰部が収縮した後、だらりと細い手足が脱力した。うわごとのようにタキの名を繰り返し呼ぶ清美を抱き締めて支えてやりながら、その胎内に情欲を放った。
 水の如く、混じり合ってしまいたい。


 夏の日差しは強烈だ。
 事を終えた頃にはTシャツもハーフパンツも下着もスニーカーも靴下も乾いたので、清美は全て身に付けた。だが、着る前に一度水浴びをして肌を流した。汗はともかく、体を交えた状態のまま帰るわけにはいかない。人間のそれとは違って、タキの体液には匂いらしい匂いはないのだが、家族に感付かれては後が面倒だ。
 Tシャツの襟元から長い髪を引き抜いた清美は、リュックサックの中からコームを取り出し、梳いていった。幸い、妙なクセは付いてなかったので梳かしただけで元通りになったので、コームをリュックサックに戻した。

「どう? 結構伸びたでしょ?」

 清美が毛先を抓んでみせると、川辺でキュウリを囓っていたタキは目を向けた。

「それが何だと申すのだ」
「わっかんないかなぁー、お祭りだよ、お祭り」

 清美は毛先を背中に払うと、腰に両手を当てた。

「いとこのお姉ちゃんから浴衣のお下がりをもらったから、それに似合うように伸ばしたの。もちろん、髪は綺麗に結ってもらうんだ」
「だから、それが何なのだ」
「鈍いんだから。お祭りの時は、タキも神社まで下りてくるんでしょ? 会えなくても良いから、見てもらいたいの」
「浴衣をか?」
「そうだよ!」

 むきになった清美が顔を背けたので、タキは目を細めた。

「ならば、存分に拝むとしよう」
「楽しみにしててよね、綺麗になってやるんだから!」

 一瞬で機嫌が直った清美は満面の笑みを向けてから、リュックサックを背負い、手を振った。
「それじゃ、またね」
「うむ」

 タキが短く返すと、清美はがさがさと獣道を通り抜け、常世と現世の境界を越えて山を下りていった。位置は近くとも、世が異なると途端に清美の気配は遠くなり、風に混じる彼女の匂いも薄まってしまった。
 タキは清美が残してくれたキュウリを囓りながら、一週間後に控えている村の祭りのことを考えていた。清美の住んでいる村は、古くから山神を祀っており、その延長線上で水神であるタキのことも祀っている。目に見えるほど近くとも現世と常世に隔てられている村に下りられるのは、祭りの夜だけと決められている。山神を始めとした他の神々も、それぞれの村や町の祭りの日だけ、神社の境内に下りては人々と戯れる。長く生きすぎていたためか、近頃は祭りに面白味を感じなかったが、清美が来るのであれば話は別だった。
 得も言われぬざわめきを胸中に覚えながら、タキは無心にキュウリを喰らい、青臭い味を飲み下した。少年のような格好でも魅力に溢れる清美が着飾ったならどれほどのものか、思い描かずにはいられない。だが、そんな姿の清美を見てしまえば、どこまで抑えが効くものか。今度こそ、常世に隠すかもしれない。
 祭りが楽しみである反面、恐ろしくもあった。






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