人外と人間

河童と村娘 1−2

最終更新:

monsters

- view
管理者のみ編集可

河童と村娘 1 859 ◆93FwBoL6s.様

 夏が訪れようとも、山の水は冷たい。
 それは、冬の間に降り積もった大量の雪が溶けて作り出した水だからであり、いつの時代も変わらない。膜の張った四本指で触れた少女の肌は青白く、体温は内側からじわりと感じられる程度に下がっていた。体温を水に吸い取られた体を暖めるために清美が焚き火を起こしたので、タキは彼女の背後に座っていた。水から生まれた神であるタキは、火に近付くことは厳禁だ。下手をすれば、焼き尽くされて死ぬかもしれない。人智を越えた存在であろうとも、弱点ぐらいある。バスタオルを被った清美はくしゃみをし、大きく身震いした。
 清美に流される形で泳ぎを教える羽目になったタキは、清美と共に川に入り、泳ぎを見せることになった。清美は元々泳ぎは上手い方なのだが、やはり河童には敵わず、タキの滑らかな泳ぎを見て感嘆していた。手本を見せた後は実習に移り、清美の泳ぎの無駄や甘さを指摘してやると、清美の泳ぎは更に良くなった。だが、長時間川の水に浸かっていたため、清美の体温は奪われてしまい、顔色もすっかり青ざめてしまった。なので、清美は水から上がって焚き火を起こしたが、煙が見つかると厄介なのでタキもそれに付き合った。この川は水神の領域であり、現世とは隔絶された常世の場所だが、何かの弾みで見つかってしまっては困る。だから、タキは僅かばかり神通力を解放し、煙が木々の上へと流れ出ている空間を歪めて煙を消していた。

「さむぅ…」
「だから言ったではないか、水は凍えておると」

 タキが呟くと、清美は紫色の唇を歪めた。

「タキが平気なんだから、平気だと思ったんだよ」
「儂とおぬしは違うものよ。儂はいかなる水にも馴染むが、おぬしはそうではない」
「うぅー…」
 清美は水に濡れて乱れた髪を拭ってから、もう一度くしゃみをし、タキに寄り掛かった。

「冷やっこい」
「だから、儂とおぬしは違うと何度申せば」
「でも、水よりはあったかい気がする」

 清美はバスタオルを落とすと、タキのぬるりとした腕にしがみついた。

「ね、あっためてよ」
「無理を申すな」
「映画とか漫画でよくあるじゃない、こういうシチュエーション」
「儂は存ぜぬことよ」
「だからって、何もしないんじゃダメだよ。神様のくせしてさぁ」
「それとこれとは関係がないと思うのだが」
「理屈っぽいなぁ」
「おぬしこそ、いちいち絡むでない。やりづらいではないか」
「なんで?」

 清美に上目に見上げられ、タキは口籠もった。

「それは…」
「ねえ、なんで?」

 清美は腕を放して身を反転させると、タキの首に日に焼けた細い腕を回してきた。

「なんで?」

 じいじいじいじい。ちいちいちいちい。りいりいりいりい。あらゆる生き物の声が、涼やかな囁きに入り交じる。音は絶えず鼓膜を叩いているのに、静寂が広がる。清美の濡れた鳶色の瞳に、緑色の異形が映り込んでいた。冷え切った薄い肌からはほんのりと汗が滲み出し、苔と水の匂いが芯まで染み付いた体を音もなく侵してくる。
 人の肌は熱い。炎よりは優しく、湯よりは柔らかく、水で成された身を煮溶かすほどの熱は持たないが、熱い。人と関わりを持つべきではないのに、清美を惑わして村に送り返せない理由は、タキが一番良く理解していた。体は煮えなくとも、頭は煮えたからだ。その証拠に、ウロコに覆われた指先が清美の青ざめた唇をなぞっていた。
 透き通るように白くなっていた頬に僅かに赤みが戻り、水気を帯びた指先が舐められ、生温い唾液が絡んだ。清美は躊躇いもなくタキの指を口に含むと、川底の藻の切れ端が張り付いた爪までもを丁寧に舐めていった。薄い水掻きは唇で甘く噛まれ、くすぐったい。タキが目を下げると、太い指を銜える少女の表情は一変していた。無邪気な眼差しには身の丈に似合わない艶を帯び、愛撫の合間に漏れる吐息は隠微な熱が籠もっていた。
 清美が濡れた唇を指先から放すと、とろりとした糸が引いて切れ、唇の端から伝い落ちた唾液が石を叩く。タキは清美の顎をなぞってやると、清美はタキにしなだれかかり、薄い布を隔てた硬い乳房を押し付けてきた。

「この前よりは、ちょっとは大きくなったんだよ。嬉しい?」
「解らぬ」
「嬉しいくせに」
「…ふん」

 タキは川辺の石で肌を傷めないように清美を膝の上に載せると、くるりと反転させ、背後から抱き締めた。

「やだ、顔見ながらしたいのに」
「この前は見るなと申したではないか」
「あれは…うん…」

 清美が言葉を濁すと、タキの水滴の残る指がスクール水着に包まれた乳房を撫で回した。

「大して変わりはせんが」
「そんなことないって、ちゃんと毎日計ってんだから!」
「おぬしの血筋の娘は、それほど大きくならんと決まっておるのだが」
「そんなことない、きっとすぐに大きくなるもん!」
「さあて、どうだかな」

 タキの手が手応えの強張った乳房を弱く掴むと、清美は唇を緩めた。

「あ…」
「随分と良い声を出すようになったではないか。最初の頃など、触れただけで痛いと申しておったのに」
「な、慣れてきたから…」

 くぅ、と喉の奥で声を殺して清美は太股を閉ざそうとしたが、タキの左手がぬるりと太股を割ってきた。川の水が浸った布地に粘り気を持った指が触れ、新たな染みを作り、柔らかな肉の窪みをまさぐってきた。人間のそれに似た爪先が、股間部分の縫い目のすぐ上に位置している肉芽を潰すと、清美は悶えた。

「あ、うぅっ」
「して、今日はどうしてやったものか」
「し、しながら考えないでよぉ…」

 清美が弱々しく抗議すると、タキは水掻きを広げて清美の太股を撫でた。

「手間は惜しまぬ質でな」
「そういうの、なんか、困る…」

 清美は太股を撫でさする腕に縋るが、今度は乳房を弄んでいた手が襟元からぬめりと滑り込んできた。潤滑油のように粘液を纏っている水掻きの付いた手は、引っ掛からずに侵入し、乳房を直接握ってきた。布越しに触られる時とは異なり、タキの手の冷たさが肌に染み入り、その温度だけで小さな乳首が強張る。目線を下げると、名札が縫い付けられた胸元を押し上げるように蠢く手が見えて、無性に恥ずかしくなった。自分でも解るほど頬が紅潮してしまい、清美は目を逸らそうとしたが、顔の横にずいっとクチバシが現れた。

「これ、どこを見よる」
「濡れても大丈夫な服だからって、これ見よがしにやらしいことしないでよ!」

 清美が精一杯言い返すが、タキはクチバシを開いてずらりと並んだ短い牙を覗かせた。

「この方が、脱がすよりも早かろう」
「穴とか、開けたりしないでよね。プールの授業、まだあるんだから」
「承知の上よ」

 タキはクチバシの隙間から厚みのある舌を伸ばし、清美の薄い耳朶を舐め、襟足へと滑り下ろさせた。出会った当初は色気のないショートカットだったが、時が経つに連れて髪が伸び、今では背中の中程だ。量は多めだが妙なクセは付いておらず、川の水に長く浸っていたためかタキと同じ匂いが零れ出した。清美自身の匂いも混じっているが、水の匂いに溶けている。水に馴染む良い娘だ、とタキはつくづく思った。生け贄として差し出されたら、タキは良い神通力を得るだろうが、受け取るか否かを決めるのは山神だ。そして、清美は生け贄ではなく、山に棲まう水神と近しくなってしまったというだけの現世の娘なのだ。
 だから、名を呼べない。それを内心で悔しく思いながら、タキは硬く張り詰めた男根を体内から押し出した。異物を尻に感じた清美は、ひゃっと一瞬高い声を出したが、それを怖れるどころか唇を締めて待っている。性欲よりも羞恥心が勝っているらしく、ねだることはしなかったが、悩ましげな声を喉の奥で堪えていた。

「ん…」
「して、どうする」
「ちょっと、面白いこと思い付いちゃった」

 清美はかすかに息を荒げながら、スクール水着の足を通す穴の片方を広げた。

「体は緑なのにコレだけ赤いなんて、不思議だよね」
 清美は少し笑いながら、タキの股間から屹立した赤黒い男根に手を添え、それを水着の中へと導いた。だが、陰部へは収まらず、スクール水着と肌の間に挟まっただけだった。その上から、清美はさすってくる。

「どう?」
「どう、と問われてもな」

 布越しに細い指先の愛撫を感じながら、タキは目元を歪めた。これといって、何が変わるというわけでもない。タキの答えが不満なのか、清美はちょっとむくれたが、タキの男根を下から上へと撫で上げる手は止めない。最初に目にした時は戸惑い、怖れていたが、今となっては慣れたもので清美の方から頬張ることすらある。清美はそれほど手淫が上手いわけではないので、感触として良いのは無論口淫なのだが、文句は言えない。だが、いくら拙くとも、男根の裏筋を薄い爪で引っ掛かれながら、亀頭を抉られたりすれば反応してしまう。

「…ぐぅ」
「んふふ、感じちゃう? 神様のくせにぃ」

 清美はスクール水着にじわりと染み出してきたタキの体液を見、微笑んだ。

「ね、このまま出してみる? タキのアレって、水みたいだから、洗えばすぐに落ちちゃうし」
「だが、それは」
「出してよ、どうせ一回ぐらいじゃ萎れないんだからさぁ」

 清美の指が亀頭の穴をぐりぐりと穿ってきたので、タキは仕返しに清美の乳房を両手で握り締めた。

「水神を愚弄するでない」
「うあはぁっ!」

 びくんと震えた清美は、成長途中の乳腺を潰される痛みを超えた快感に涙を滲ませた。

「ちょっと、そんなのってない、ぃっ」
「おぬしの儂に対する敬いが足らぬのが元凶だ、責めるなら己を責めよ」
「だ、だって、河童なんだもん。神様だって思おうとしても、河童だからそう思えないんだもん」
「ならば、儂が龍であればおぬしは敬ったのか?」
「…かもしれない」

 清美がへらっと笑うと、タキは清美の両の乳首が埋まるほど押し潰した。

「いかなる姿であろうと、神は神だ。姿形で決め付けるべきではない」
「あぁ、あ、あぁああんっ!」

 いきなり訪れた強烈な刺激に清美が喉を反らすと、スクール水着と肌の間に挟まれていた男根が動いた。

「相も変わらず、淫蕩な娘よ」

 タキの体表面に劣らぬほど濡れていた陰部に男根を突き立てると、清美は仰け反った。

「あ、あふぁああっ」

 体の奥まで一気に突き上げられ、高ぶった神経が痺れた。清美の腰に冷たい腕が絡まり、押し込まれる。タキの腕力と清美自身の体重で更に奥へと至った男根に、清美は舌を出すほど喘ぎながら、言い返した。

「私にこんなことしてきたの、タキの、方じゃないぃ…」
「はて、そうだったか」

 タキがはぐらかすと、誤魔化さないでよぉ、と清美が上擦った声で文句を言ってきたが聞かなかったことにした。両腕が余るほど細い腰を押さえ付ける一方で真下から突き上げると、少女の小さな体など容易く揺さぶられた。長い髪が乱れて毛先が踊り、上下を繰り返すたびに川面の水音とは懸け離れた生臭く重たい水音が連なる。
 清美の熱い体液にタキの冷たい体液が混じり、両者の下に散らばる石の礫に滴り、太股を伝って落ちていく。胡座を掻いたタキの上で貫かれる清美の体からは、川の水よりも濃い汗が散り、いくつかタキの肌に降ってきた。
「あぁ、あぁああっ、はあっ、あ、ぁあっ!」

 少女らしからぬ甘ったるい嬌声を放ちながら、清美は腰を押さえるタキの腕を掴んできた。

「もう、ダメェ、いやぁっ、タキぃいいいっ!」
「構わぬ、儂も放つところよ」
「やぁ、あああああっ!」

 タキの低い囁きの直後に、冷たくも力強い飛沫に体の奥底を叩かれ、清美は一際激しく身を跳ねた。

「あ、あはぁ…」

 どろり、と清美の陰部に収まり切れなかったものが溢れ出し、濡れすぎて黒く変色した水着から滴った。

「抜いたら、どれだけ出ちゃうのかな。ふふふ」

 脱力した清美はタキに寄り掛かり、薄い胸を上下させた。

「どれほど儂が子種を注ごうと、おぬしは現世のもの。案じずとも、何も孕まぬ」

 タキが答えると、清美は不満げに眉を曲げた。

「ちょっとは余韻に浸らせてよ、気持ち良かったんだから」
「あまり無駄話をすると、儂の皿とおぬしの股が乾いてしまうではないか」

 タキが清美の体を持ち上げ、くるりと回して向き直らせると、清美は身を捩った。

「それダメェっ、擦れちゃうぅっ!」
「散々鳴いておいて、今更何を申すか」

 清美と向かい合ったタキは、達したばかりでも硬さを保っている男根を押し上げ、再び清美を突き上げた。先程の余韻が抜けていない清美はすぐに応え、鼻に掛かった声を上げるごとに男根を締め付けてきた。
 人間と比べると大きすぎるタキの逸物が、年相応に狭い清美の陰部に収まるのは常世だからだろう。そうでなければ、とっくに清美の陰部は裂けている。だが、清美は純血を失った時以外は苦しまなかった。もちろん、タキがそうしているからだ。現世の住人であろうとも、常世に引き入れてしまえばどうにでもなる。清美には常世のものは食べさせていないが、水は飲んでいる。だから、水神であるタキの体が馴染むのだ。
 タキに縋って快感にむせび泣く清美は、日差しよりも熱く、水よりも確かで、抗いがたい愛おしさを生む。だからこそ、常世のものを与えられず、現世に帰してしまうが、その度に後悔と安堵が胸中で渦を巻いた。帰してしまいたくないが、帰さなければならない。水神が人の温もりを求めるのは、余程世が荒れた時だ。だが、今はそうではない。人の世は年月と共に発達し、山に棲まう神々に守られずとも暮らせるようになった。
 けれど、清美が欲しい。名を呼んで言霊で縛り付け、川辺に棲まわせ、動かぬ時の中で生きていきたい。しかし、そんな愚行を誰が許そうか。清美やその家族だけでなく、山神や他の者達もタキを蔑むことだろう。
 神だからこそ、許されぬこともある。
 いつのまにか、焚き火は消えていた。
 水浴びをして身を清めた清美は、水泳とは根本的に違う疲労を全身に感じていたが、嫌ではなかった。何度となく擦り合ったせいで軽い痛みがある陰部も、足腰のだるさも、家に着く頃には綺麗に消えてしまう。タキのおかげだろうと解っているし、疲れが残らないことに感謝もしているが、本音を言えば余韻が欲しい。けれど、そんなことを言うのはせっかく気を遣ってくれるタキに悪いので、結局は何も言わずに帰っている。
 夏の日は長く、西日が空に広がる気配はない。だが、風が冷えてきたので、午後五時は過ぎたのだろう。水と諸々で汚れた水着を脱いで下着を身に付け、服を着た清美は、ぼんやりと木々の隙間の空を眺めていた。じゃぶ、と水音が響いたので振り返ると、川面から立ち上がったタキが両手に数匹のイワナを抱えていた。

「これで足りるか」
「充分だよ」

 清美は立ち上がると、リュックサックからキュウリを入れてきた袋を取り出し、その中にイワナを入れた。

「タキの捕まえてくるイワナ、おいしいから大好き」
「おぬし、また来る気か」
「当たり前だよ」

 清美はびちびちと跳ねるイワナをリュックサックに押し込んでから、ファスナーを閉めて背負った。

「だって、私、タキが大好きだから」

 じゃあまたね、と手を振りながら獣道を歩き出した清美は、がさがさと草を掻き分けながら進んでいった。清美の背が草むらに没する様を見送ってから、タキは疲労感と脱力感に襲われ、手近な岩に腰を下ろした。これで、また一週間は清美に会えないだろう。まだ夏休みが始まっていないから、土日しか休みがないのだ。平日は農作業の手伝いがあり、勉強もあり、友達付き合いもあり、清美を必要としている者達がいるからだ。己が山に棲まう神でさえなければ、一緒に山を下りることも出来るだろうが、神事の日でなければ下りられない。
 神は人を魅入るが、時として人も神を魅入る。清美が人でなければ、もどかしい思いは抱かなかっただろう。だが、人でなければ魅入られなかった。神の名とは異なる名を拒まず、清美に縛られたのも、己が望んだからだ。
 皿の水を零さぬように跳ねたタキは、太い木の枝に飛び乗り、斜面の下に散らばる集落の家々を見下ろした。山の麓から村へ下りていく清美の姿を見つめていたが、タキはふいっと顔を背け、冷え切った川へと身を投じた。
 山からの吹き降ろしが、木々を寂しく啼かせていた。






タグ … !859◆93FwBoL6s.
ウィキ募集バナー