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人外と人間

人外アパート 機械系人外×女の子 アンダーグラウンド 4

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monsters

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アンダーグラウンド 4 903 ◆AN26.8FkH6様

 極秘開発プロジェクト『イシオス』。近接特化戦闘用バイオノイド、イシオスシリーズ100体は全て廃棄された。それは念入りに処理された。だから、現存しているはずがないし、勿論市井で平和に暮らしているはずがない。戦闘用バイオノイドの開発プロジェクトの中でも、イシオスプロジェクトだけは別格だ。コストがかかりすぎる。元々がプレ開発なのだ。後続機を作るための試作機で一応の完成を見たら、全てを廃棄、後続プロジェクト『バークル』に引き継がれる。徹底的に彼ら『イシオス』は廃棄された。最初から廃棄される為に生れ落ちたと言ってもいい。
 だから、何故ここで一体だけ残っているのか。『私』はそれが知りたい。おそらく、彼女もだろう。どこにも記載されていない、正真正銘最後の生き残り、そして、生き証人。彼の存在は、致命的な物証だ。非人道的極まるプロジェクトである事を開発者達は勿論承知していた。


 それでは、再開しよう。

パーシヴァルwrite

 泣かせて、追い出して、そのままにしておけばいいのに余計な罪悪感とか、そんなどうしようもないものに追い立てられて結局探しに行く自分が滑稽すぎて涙が出そうだ。
 ああもう、二次元の住人になりたい。多少のドタバタと結末の決まったぬるま湯の作品で苦労せずモテモテになったり女の子に取り合いされたりパンツ見て怒られたり転んで胸をもみし抱いたりしながら最後には本命の子とくっついて幸せに暮らしました的なエンディングを迎える主人公になりたい。ごめん嘘をついた、特にはなりたくない。ああいうのは外からそのぬるま湯具合を楽しむがいいのであって当事者になんてなりたくない。
 そうだ、俺は全然全く当事者にも主人公にもなりたくなんてないんだ。エンディングなんて来ない。ゴールなんてない。人生は死ぬまでクソみたいなシナリオのまま延々と続いていく。底辺に居ても底辺なりに何もかも続いていくのだ。だから俺は、何にもなりたくない。意味のあるものになんて全く。


 俺の視界の中にリサが居た。仕事帰りに作業着のままで散々周辺の公園だの繁華街だのを探し回って、最後にもしやと思って回ってみた例のゴミ処理場。遠くからでも集音マイクが拾った悲鳴を聞きつけて走った。ああもうちくしょう、ヲタに運動させんな、余計なエネルギー消費すんだろうがバカ野郎! ただでさえ燃費が悪いのだ。毒づいて、入口のフェンスをくぐったその向こう、数人の同僚がノロノロとゴミ山を掘っていた。その目には何の光もなく、意思もなく、ゾンビのようだった。そして、その奥にはぐったりと横たわった半裸のリサと、その上に覆いかぶさろうとしていた黒ブルゾンのバイオノイド。どこかで見たことがあるような、ないような。
 そいつは、俺のほうへゆっくりと顔を向けた。

「ん?お前も混じりにきたのか? 俺が全部の穴に突っ込んでからなら回してやってもいいぜ」
「うるせえ黙れ死ね」

 反射的に返して、足元にあったひん曲がったパイプを拾う。外見はそこらの作業用バイオノイドと大差ない。だが、わかる。識別信号も認証コードも一切俺からは読めないが、こいつは俺の、同類だ。軍用バイオノイド。周りのゾンビ化した同僚達。あれは多分強制コードで徴兵されているのだろう。軍用、それも士官クラスになると、周囲の民間バイオノイドを強制徴兵することができる。意思のない、忠実な兵隊として。だが様子を見る限り、戦闘プログラムを叩き込まれた戦力としてではあるまい。


「あんたさあ、アレだろ? アレ、ほら、廃棄された例のシリーズ。何で民間にいんの? 
一体残らず処分されたって聞いてたぜぇ?」

 ヘラヘラと黒ブルゾンが笑う。その下でリサは意識を失ったままだった。唇が切れて流血し、頬が赤く腫れ上がり、腹も似たような状態だった。ひどく殴りつけられたのだろう。クソ、女殴ってんじゃねえよ、どういう教育プログラム通ってきたんだコイツ。下手したら内臓破裂して死ぬっての。俺がイライラとパイプを握り直したのと、周囲のゾンビ達が一斉に襲い掛かってきたのは同時だった。それまでのノロノロした動きからは想像も出来ないような素早さで飛び掛ってくる。

 ガキィン!!

 俺は手前の奴の足を払い、そいつの背を踏み台に横から来た奴の頭を蹴り飛ばして走り出した。

「へえ? 回路焼かれてねーの?」

 面白そうな声で醜悪な性器をおったてたまま、黒ブルゾンがリサの上から立ち上がる。俺にも同じのついてんだけどな。あーちくしょう、イシオス系の後継機でビンゴだ。考えてみてもくださいよ、同系機体があるとするじゃないですか。シリーズ最新機と旧モデルプロトタイプで単純比較した場合スペック差がどんくらいあるかって話ですよ。
 スラックスのジッパーを上げる奴の首めがけて振り降ろしたパイプが途中で止まった。黒ブルゾンが首を捻ったまま、肩口で受け止めたのだ。奴の両手は塞がっていたが、そのまま余裕でジッパーを上げ、ベルトまで調えやがった。

「なーんだ、やっぱ制限されてんのかよダッセ。そんなんで俺をどうにかできんのかセンパイさん」
「るせェ、女置いて巣に帰れクサレガキ!!」

 我ながらDQNなセリフを吐いて俺は右膝で奴の腰を蹴り上げた。ジョイント部分をひっかけるようにして蹴り飛ばすと「うぉ?!」と間抜けなセリフを吐いて黒ブルゾンが吹っ飛ぶ。
 いくらこいつが同じモーションや同じ格闘ソフト積んでたって、経験だけは埋めようがない。それだけが俺の有利な点か。有難すぎて涙出るわボケ。
 格闘技の達人と同じモーションを入れたところで、一瞬で同じような達人になれるかというと別な話だ。俺達は便利な入れ物ではあるが、自分の身体で体験していないことってのは結局借り物でしかないのだ。その分技術を研鑽し、習得していくしかないってこった。とはいえ戦闘プログラムに行動制限かけられた俺がどのぐらいやれるかっていったら可能性はかなり低い。なんとかリサを抱えて逃げ切れたらミッションクリアってか。クソシナリオにも程がある。シナリオライターのリコールを要求する。もしくはセーブポイント。
 俺はブルゾンが吹っ飛んだと同時にリサのところへかけよった。わずかに上下している薄い胸が、彼女の生存を示していて、俺は安堵の余り息を吐いた。呼吸なんかしてないのにな。
 素早く彼女を肩に担ぐと、足元に影が落ちた。ゴミ山の一つが、こちらへ倒れこんできていた。三階建ての建物ほどもありそうな小山が、ガラクタの山がゆっくりと雪崩れ込んでくる下を俺は喚きながら全力で駆け出した。サーフボードでもあればジャンク・ライドできるかもな、試そうとは思わないが。


「馬鹿野郎! 生身の人間がいるんだぞ巻き込むつもりか!!」

 俺の前に飛び出してきた同僚の頭に、足元に転がってきた小型炊飯器を叩き込む。ゴガッといい音がして転がるその身体を踏み台に、足元にスライディングしてきたもう一体のタックルを避け、その背中を蹴りつけた。大変申し訳ない。申し訳ないのだが、俺には彼らの徴兵用強制コマンドをキャンセルするのは無理だった。
 俺が両足と片手でやりあっている間にも、肩に担いだリサの身体は力なく揺れていて、このままぐんにゃりと滑り落ちるんじゃないかとヒヤヒヤする。軽くて、冷たくて、本当に生きてんのか不安になってきた。人間はモロくて死に易い。

「リサ! リサ起きろ、起きろってば!!」
「無理じゃね? そいつ、アバラとか多分バッキバキじゃね?」

 俺に掴みかかっていた一体が、表情の乏しいはずの顔を歪めて笑った。転がっていた何体かが、痛めた関節を無視してガクガクと無理やり立ち上がってくる。全員、笑っていた。

「テメェ……まさか」

 ゾンビだった彼らは、一様に同じ表情で同時に喋りだした。黒ブルゾンと同じ、嫌らしい喋り方で。

「同期に時間かかっちまったけど、もう完璧に掌握したぜコイツら」
「大人しくソレこっちに寄越すなら、アンタは見逃してやってもいいぜ?」
「なーんて嘘に決まってっけどな、クハハハハ!!」
「アンタの手足ブチ折って頭引っこ抜いて、目の前で女の腹パンパンになるまで出しまくって、ぐっちゃぐちゃにぶち込んでやっからよ」
「その為の集団ボディ……ってこいつら作業用だったっけ。チンコなかったわ、まーそこらに落ちてるモン適当に拾ってつっこんでみるってのも面白いかもな?」

 ゲラゲラと下卑た笑い声を立てて、同じ顔で笑っていたそいつらはもう同僚じゃなかった。戦闘用ならともかく、一般作業用バイオノイドの人工脳はそこまで大容量じゃない。上から黒ブルゾンのコピー人格を上書きされたのだろう。彼らの元の人格もメモリもぶっ飛んだはずだ。
 こいつは、なんなんだ? 戦時下でもないのに、街中で強制コマンドを発令する権限を持ち、徴兵したバイオノイドの頭ぶっとばしてもどうとも思わない粗暴で攻撃的な人格持ちで。とても軍属だとは思えない。倫理プログラムがこいつの頭の中に入ってるようにはとても見えない。
 イシオスの後続機? 冗談じゃない、『俺達』は、少なくともマトモだった。『俺達』は『兵士』だった。『俺達』はーーーーーー……何だったんだろうな?



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