人外と人間

サイボーグ×豹合成獣 機械×少女 主従・和姦

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サイボーグ×豹合成獣 機械×少女 1-318様

 錆び付いた蝶番が軋み、久方ぶりに扉が開かれた。わたしは前脚を折って頭を下げ、主に礼を示す。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
 彼は返事をせずにわたしの横をすり抜けて行く。此処へ買い取られてきてから、決して短からぬ年月を彼と共にした筈であるが、この瞬間に一度として何らかの反応を帰してきたためしはない。これからもそうであるに違いない。
 わたしはいつものように、主の三歩ほど後ろを進む。前を行く背から微かな血の臭いを嗅ぎ取って、ひどく不安になった。
 彼の血液である筈はない。主はアモルファス合金と人工筋肉、特殊ゴムで作られた皮膚と、僅かな臓器から成るサイボーグなのだから。その体は血液はおろか、味覚・嗅覚・体温といった人間らしい要素をひとつとして持たない。
 では彼はどこでこの臭いをつけてきたのだろう。

 体の自己メンテナンスを始めた主の足元にいつものように蹲り、その手元を覗き込む。手指、あれはわたしにはないもの。
豹の前脚には不可能な動きは、見ていて飽きるということがない。人は己の持たないものを求めるというけれど、合成獣であるこのわたしにもひとの心は宿るだろうか。
 ズボンをめくるように人造皮膚を引き剥がすと、内部の構造があらわになる。銀色の合金とすりガラスのような人工筋肉の間に挟まっていたのは・・・銃弾。
 不安が実体化したが如き塊を取り除き、いくつかの傷つき老朽化した部品を取り替える。全ての作業を終えてから、主ははじめて誰かがそこにいる事に気付いたと言うように、わたしに向き直った。

 鏡がわたしの姿を映す。これが置いてあるのは、普段わたしの使わない寝室だけ。わたしは鏡が大嫌いだから。
 自分の姿を目にする度に、なんと醜い体だろうと思うのだ。女の頭、豹の体。それぞれパーツとしては美しいと言えなくもないのに、その二つが組み合わさると何故こんなにも忌まわしいのか。
「――ペルラ」
 彼の呼び声がして、わたしを現実に引き戻す。つめたく体温のない手に引き寄せられ、レンズの瞳に覗き込まれた。
その眼は冷たい光をたたえている。そこに温度を求めるわたしの方が間違っているのかもしれないけれども。
 続いて押し当てられたくちびるもひんやりと冷たかった。キスの時はいつもすこし注意する。ざらついた舌と牙で彼の皮膚を傷つけてしまわないように。呼吸をしない相手との長いくちづけが終わり、人間のものより粘性の強い
唾液を引きながら顔が離された。
 彼の指が荒々しく髪を掻き回す。まるで猫でも撫でているような。喉元をゆるやかに指先が滑り、上ずった声が漏れる。
前の時は言えなかった言葉がある。今日こそはこのまま流されてしまう前に言わねばならない。
「あかりを消してください・・・」
 主の表情に乏しい顔が僅かに笑みを浮かべ、部屋の照明が落とされた。

 サイボーグである主は生殖器を持たないが、戻って来る度にこうしてわたしをベッドに招く。おそらく、彼は性欲ではない何か別の衝動に突き動かされているのだろう。そしてこうしている時だけは、彼は普段からは考えられないほど饒舌に、表情豊かになる。彼は性交によって、かつて人間だったときの事を思い出しているのかもしれない。わたしにはわからない。人間だった事などないから。
「なかなか人間らしい台詞を吐くようになったじゃないか。キメラ如きが」
 言いながら顔を寄せ、喉元に歯が立てられた。喰いちぎろうとするように歯が食い込み、ぞくぞくとした感覚が背筋を駆け上がる。押しのけようともがく前脚はあっさりと押さえつけられ、新たな場所を咬まれた。むしろ彼の方が豹のようだ。
 長い指が性器を貫く。愛撫というにはあまりに乱暴な行為を受け、それでもそこは濡れ始めていた。
「おまえは獣だよ、ペルラ。どんなに人間らしく装ってもな」
 主が喉を鳴らすように笑った。胎内でゆっくりと指先が蠢き、甘い吐息が漏れた。傷つけられながらも、浅ましく快楽を求める体。確かにわたしは獣なのだ、そんなことはわかっている。わかっている、けれど。
「けれど、何だ?言ってみろ」
 首筋の傷をなぞっていた指にふいに力がこもり、ぐいぐいと締め上げられる。同時に胎内の指も押し込まれ、体が痙攣しながらそれを締め上げる。

苦痛と快楽の淵で意識が暗転した。

 やけに重い瞼を上げると、目の前に主の顔があった。無言のまま胸元に引き寄せられて、体温が移り、僅かに暖かい指先が痣の残る頸を撫でる。その気味の悪いほど優しい動きに身を委ねる。
 動きが緩やかになり、やがて止まった。顔を見上げると主は目を閉じている。サイボーグとて疲労し、眠るのだ。肉体ではなく、精神が。
 毛布を引き上げるという、ただそれだけの動作でも、わたしにとっては非常に苦労を伴う物であったが、なんとかやり遂げて、冷たい体に頬を押し付けて目を閉じる。いつかわたしはこの人に殺されるのだろうか。それでもいい、と思った。

「ねえ、ロビイ、どう思う?」
 豪奢なドレスに身を包み、髪をきれいに結い上げて、キャシーは彼の前でくるりとターンして見せた。
「とてもよくお似合いです」
「そう、良かった」
 お父様のお好きだった服なのよ、と付け加えて、少女は鈴を振るような声で笑う。
 もちろんそんな事は承知している。ロビイは彼女の父親がまだ子供だったときから、執事としてこの家で仕えてきたのだから。しかし、それも今日で終わりだ。
「じゃあ、行こうか」
 ロビイは無言のままに身を屈め、少女が背に上がりやすいように脚の一本を突き出した。彼自身とキャシーが慣れ親しんできた、どこか愛嬌のある人間型ボディはすでに廃棄されている。今の体は対人間用兵器――ゲリラ戦等に使用されていたもの。
蜘蛛のような凶悪なフォルムを持つそれに、少女が跨ったのを確認して、ロビイは翼を展開すると、二対のエンジンをふかして空へと舞い上がった。

「ごめんね、ロビイ・・・」
 高速で飛行するロビイの背に身を伏せてキャシーが呟いた。
「あなたをこんな事につき合わせたくなかったわ」
 声がかすかに震えている。泣いているのだろう。古いボディのままであれば、彼女の涙を拭ってやる事もできただろうが、今の体ではそれもままならない。そもそも飛行中にそんな事を行おうと考える事自体無謀であるが。
「いいえ、お嬢様。貴方をお守りするのが私の務めであり望みなのです。貴方が気に病む事などなにもありません」
 実際、今の体への換装を希望したのはロビイ自身である。この体の元々の持ち主であった戦闘用AIはロボットと呼ぶにはあまりにも単純で、それに彼の電子頭脳を組み合わせる為には、莫大な時間と金と、ロビイ自身の苦痛を必要とした。
 キャシーの身を焼く復讐の念がどのようなものであるか、ロビイは知らない。機械には悲しむ事はできても、殺意を持つことはできないからだ。しかし、彼の小さな主を苦しめている感情を取り去ってやれるのならば、彼はその復讐に喜んで付き合ってやりたいと思うのだ。
「ごめんなさい、ロビイ」
 それが身の破滅を招くと分かっていても。

 殺人者の潜む家は、思っていたよりもずっと小さく貧相なものだった。座標を確認し直し、目的地への到着を告げる。
「殺して」
 冷え切った声で一言。指示に従い、ロビイはナパーム弾を投下した。

 着弾と同時に真っ赤な炎が吹き上がり、一瞬にして館を飲み込んだ。同時にロビイの電子頭脳が悲鳴を上げ、飛行軌道が激しく乱れる。単純なAIには理解できなかった、ロボット三原則の鎖が彼を縛っているのだ。
 刹那、炎のうちではなく、どこか遠くよりエネルギー弾が飛来して、動きの鈍った彼を直撃した。
「ロビイ!」
「大丈夫ですっ・・・!」
 何とか姿勢を保とうと努力しながら答を返した。金属の体は苦痛を感じないが、飛行するには損傷が大きすぎる。
 だが、戦闘には支障がない。ロビイは半ば落下するように着地すると、素早く脚を展開して地上戦闘態勢に入った。先程エネルギー弾が飛来した方向へ砲台を向け、索敵を開始する。
 ロビイのモノアイが敵の姿を捉えるのとほぼ同時に、二発目の砲撃が来た。今度はかわしてのけ、攻撃を返す。

 敵は人間のたっぷり二倍は重いはずの機械の体で、人間の範疇から外れた速さで移動しながら攻撃してくる。雨のように降ってくる銃弾全てを回避することは不可能だ。ロビイは少女を庇うように抱え込み、対人間用装備の一つである機関銃を起動させた。
 着弾した内の何発かがロビイの武装のいくつかを奪い、機関銃が根元からはじけ飛んだ。お返しに撃ち込んだグレネードランチャーが相手をぎりぎり捉えずに破裂する。ぱっと炎が燃え上がり、敵の姿を一瞬照らし出した。
「人間じゃない・・・」
 キャシーが押し殺したような声で呟く。何発か被弾して所々の人工皮膚を失い、悪趣味な模型のような骨格が露出している。
半ば千切れかけた足で時速90km以上をたたき出すサイボーグは、確かに人間とは呼べないだろう。
「あれは人間じゃないわっ!」
 少女がロビイの静止を無視して身を乗り出し、熱線銃を構えて引き金を引いた。当てずっぽうに何発か撃ち出されたそれは、サイボーグにはかすりもしなかったが、不意をつかれたのか一瞬動作に遅れが出た。ロビイはそれを見逃さない。

 グレネードランチャーの一撃を浴び、サイボーグは跳ね飛ばされて地面に叩きつけられた。左腕がほぼ完全に破壊され、顔面の皮膚が焼け爛れて煙を上げている。キャシーはまたもロビイの静止を振り切り、未だ立ち上がろうともがくそれに歩み寄って激しく蹴りつけた。
「人間じゃないあんたも痛みを感じるの?」
 肩の傷口に足先をねじ込んで踏みにじる。相手の口からくぐもった呻きが漏れた。
「リチャード・アレン・ベイツ。覚えてる?お父様は確かに善人じゃなかったわ」
 憎悪に瞳を燃やし、なおも痛めつけるキャシー。
「でもあんたに殺されるほど悪人でもなかった」
 少女はその手に不釣合いな熱線銃を構えると、照準を合わせ、ゆっくりと引き金に力をこめる。今度は外さない。

 ロビイのセンサーが、もう一つの生命反応を感知したのはその時だった。それはロビイの後方から一直線に、少女目指して信じられないような速さで駆けてくる。振り向いたロビイが見たのは、高く跳躍するネコ科の猛獣の姿。それは女の顔をしている。驚愕しながらも機械の体は瞬時に反応し、弾丸を振り撒いた。銃弾はあやまたず着弾し、スフィンクスの下半身を原型を留めぬまでに破壊したが、それは信じられない事にロビイの体を踏み台にして、上半身だけでさらに加速する。

 ざくり、と。それの牙が少女の喉を食い破り、血液が花火のように吹き上がった。キャシーは枯れ木のように倒れ、女豹の体はサイボーグの男を抱きかかえるような位置に落下して、止まった。
 ロビイは見た。一部始終を見てしまった。
「お嬢様ぁああアアア!!!」
 声の後半は超音波域へと達し、電子頭脳の自壊が始まる。人間を傷つけ、仕えるべき主を失ったという事態に、ロビイの意識は耐え切れなかったのだ。溶解する意識の中、ロビイは最後の判断を下す。
 体内の動力炉が激しく加熱・振動し、数秒後に爆発した。

 ずるりと機械むき出しの手が土を掻く。人工皮膚をあらかた焼き尽くされ、左腕に加え、千切れかかっていた右足を吹き飛ばされてもなお、男は生きていた。腕の中に抱いていたものを目の前に掲げ、彼はひとり問う。
「馬鹿め、何故来た」
 ペルラは答えない。彼に守られて、頭部だけは爆発に巻き込まれても燃え残ったのだ。その表情は奇妙に満足そうで、微笑みさえ浮かべていた。
 死体の唇の周りにこびりついた血を拭ってやりながら、男は咆哮するように慟哭したが、彼はサイボーグであったので、涙は一滴も流れなかった。






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