人外と人間

女霊能者×悪霊 1 パラレル日本怪奇

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女霊能者×悪霊 1 1-570様

カラスの鳴き声は人のそれに酷似している。
だから亜里は、カラスを嫌う。
鉄格子越しの小さな空色は澄んでいたが、まるで別の世界のように遠い。
この灰色の独房に届くのは不快な鳴き声だけだった。
アア、アアとわめくその声は、気の触れた人間が囃立てているように陽気に響き渡る。
うるせぇな
亜里は胸中で吐き捨てた。


昭和は、苛烈を極めた戦争の傷も癒え、めまぐるしく発展を遂げていた。
街も人も豊かになったが、至る所に残る戦争の遺物は今更退けるのも困難な程、この国に強固に根をはっている。
山岸亜里が74号という名で収容される研究所も、戦時中に建てられた遺産の一つだ。
各地で稀に生まれる“霊能者”を集めて収容し、軍事に役立てられないかと研究されたのだ。
国際社会では一笑に付されるのだろうが、元来湿った風土のこの国では、呪いや祟りといった物が深く信仰されている。
国がそれを軍事に利用せんとしたのも、霊能者達がお国の大事じゃ仕方がないと大人しく収容されたのも、滑稽だが本当のことだ。
そして、とうに終戦を越えた今日も、亜里は未だにこの研究所に居座っている。

「74号、出ろ」

看守の鋭い声に、亜里は真っ黒な瞳をグルリとそちらへ向けた。
格子の扉の向こうには、顔馴染みの女看守が立っている。
女の収容人には、女の看守。
亜里は楽しそうに目を細め、椅子から立ち上がった。
拘束衣で両腕は体に巻き付けられているが、足は自由に動かせる。
扉へ向かいノソノソと緩慢に歩んだ。
「看守さん、今日のお客さんはどんな方ですか?」
亜里は看守に笑顔で問う。
形こそ西洋人形のように整ったその顔に、黒々とした日本人の瞳が填め込まれているのが不釣り合いで薄気味悪い。
看守の背には冷気が這ったが、彼女は厳しい表情を取り繕ろった。
「余計な私語は慎め。黙って進め」
「はい…はい…」
唇を笑みで吊り上げたまま亜里は独房を出る。

二人の女の足音が遠ざかれば、また、カラスも飛び去ったのか。
生き物の声はかき消え、主を失った部屋には静寂が満ちた。







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