「おやすみなさい」
「──ふふ」
やがて一区切りをつけた彼女は、相棒の亡骸を静かに手放し立ち上がった。
ここはレストラン、幸いにして終わらせるための手筈は簡単に整う。蘇は迷いなく厨房に立ち入った。適当な食用油を床にまき散らし、持参したマッチを取り出す。
彼女が選んだのは焼死。跡形も残らない死の形である。李の死体を遺して誰かに利用されることは二人の本意ではなく、一人遺された女が闇社会でどんな道を辿るかなど語るまでもない。その全てを、炎は消し炭に変えてくれる。
火のついたマッチを落とすと、あっという間に炎が広がり始めた。準備を終えた蘇は再び李の下に戻り、彼の衣服を整え、亡骸の隣に身を横たえる。
ここはレストラン、幸いにして終わらせるための手筈は簡単に整う。蘇は迷いなく厨房に立ち入った。適当な食用油を床にまき散らし、持参したマッチを取り出す。
彼女が選んだのは焼死。跡形も残らない死の形である。李の死体を遺して誰かに利用されることは二人の本意ではなく、一人遺された女が闇社会でどんな道を辿るかなど語るまでもない。その全てを、炎は消し炭に変えてくれる。
火のついたマッチを落とすと、あっという間に炎が広がり始めた。準備を終えた蘇は再び李の下に戻り、彼の衣服を整え、亡骸の隣に身を横たえる。
「焦らないで、すぐに逝くわ──」
炎が、全てを覆い隠す。
###
燃え盛る業火の中にその身を捧げた蘇は、自分の意識が覚醒していく奇妙な感覚を覚えていた。身を焼き焦がす痛苦を骨身で感じた。間違いなく死ぬ状況を整えたはずだ。
「どういうこと……? 炎は……」
だと言うのに、彼女の体はささいな傷一つ付いていない。美しい女の瑞々しい肢体がそのままに在った。そして、目の前に広がる光景はなんだ。そこにあるのは彼女が火を放つ前と寸分違わぬ光景、彼女がその命を散らしたレストランだった。
しかし、違わぬと言うには語弊があった。一つだけだが、最大の異変。
しかし、違わぬと言うには語弊があった。一つだけだが、最大の異変。
「──李?」
彼の姿が隣になかった。
立ち上がって周囲を見回しても、彼はおろか人っ子一人いない。まるで死の直前の光景だけを複写したかのような奇妙な状態の中で、蘇の視線が一点に止まる。それはテーブルの上に置かれていたレストランのメニュー表だ。ただし表紙には見慣れない言葉が書かれている。
立ち上がって周囲を見回しても、彼はおろか人っ子一人いない。まるで死の直前の光景だけを複写したかのような奇妙な状態の中で、蘇の視線が一点に止まる。それはテーブルの上に置かれていたレストランのメニュー表だ。ただし表紙には見慣れない言葉が書かれている。
「『死灵复活 』……?」
その内容を確かめようと表紙をめくると、簡潔な文章だけが書かれていた。
『1人殺せば1ポイント。100ポイントを集めた者は、生き返ることができる』
「…………なぁんだ。そういうこと」
蘇は愉快に笑った。事態にこそ困惑したが、分かってしまえば何ともない。死ぬ間際に交わしたように、地獄でも彼女らが遊ぶ準備が整っていた──ただそれだけのことだ。
「随分とお誂 え向きじゃない。いいわ、遊び尽くしてあげる」
自分がいるのだから彼がいないはずがない。ならばまずは彼を探し出すことから始めればいい。やることは至ってシンプルだ。
「あまり待たせないでね、小虎 」
亡者の世界で何をして遊ぼうか──女王の顔が愉悦に彩られた。
外の世界は彼女の時代から様変わりしていた。
空を突くように伸びる巨大な建造物に、様々な言語の人々が行き交う往来の様子は、蘇が生きた上海の時代を進めたかのようである。しかし周囲の言語から彼女はここが日本であると気付いた。
空を突くように伸びる巨大な建造物に、様々な言語の人々が行き交う往来の様子は、蘇が生きた上海の時代を進めたかのようである。しかし周囲の言語から彼女はここが日本であると気付いた。
「死んだ時代はあまり関係ないのね。そして亡者は死んだ瞬間の風景を再現する」
彼女はスクランブル交差点と雑踏を離れた場所から見つめながら、亡者となった自分に起こった出来事の整理を行う。物騒ないし奇特と思われかねない言葉を口にしても誰も気付くことがない。これは亡者と化したことの利点と言えなくもなかった。
だがそんなことはどうでもいい。当面の課題は『李との再会』『亡者の殺害』である。
亡者はどれだけいるのか? 100点集めれば蘇生すると言うならそれだけの数がいるのだろう。死人は日毎に増すだろうし、あまり考える意味がないかもしれない。しかして『亡者とどのように出会うのか』だけは謎である。
だがそんなことはどうでもいい。当面の課題は『李との再会』『亡者の殺害』である。
亡者はどれだけいるのか? 100点集めれば蘇生すると言うならそれだけの数がいるのだろう。死人は日毎に増すだろうし、あまり考える意味がないかもしれない。しかして『亡者とどのように出会うのか』だけは謎である。
「考えるだけ無駄ね。仮にこの雑踏に亡者がいるとして、それを見つける方法は……」
しばらく視線を宙に泳がせた後、彼女はにやりと笑った。亡者を見つける簡単な方法ならある。
蘇は人の流れに乗って雑踏に紛れ、スクランブル交差点の中央にまで進み、そこで足を止めた。程なくして彼女を通り過ぎて走っていく生者もいなくなり、彼女は交差点のど真ん中に取り残された。車が走る往来のど真ん中に女が立っているわけだが、それを見えているように視線を止める者はいない。逆に言えば、そんな異常な光景が認識できるものがいれば──
蘇は人の流れに乗って雑踏に紛れ、スクランブル交差点の中央にまで進み、そこで足を止めた。程なくして彼女を通り過ぎて走っていく生者もいなくなり、彼女は交差点のど真ん中に取り残された。車が走る往来のど真ん中に女が立っているわけだが、それを見えているように視線を止める者はいない。逆に言えば、そんな異常な光景が認識できるものがいれば──
「大赢 」
突如として空間が黒い幕に覆われていく。往来の光景を遮り、太陽の光を弾き出し、世界を塗り替えていく誰かの『陣地』。蘇は初めて直面する亡者との対面に胸を躍らせ──
「思いのほか……つまらないのね」
退屈そうに吐き捨てた。
変貌した風景は灰色のコンクリートが続く薄暗い空間。上下左右がコンクリートで打たれ、弱い明りの蛍光灯が点々と続き、そこかしこに自動車が止まっている。それを「地下駐車場」と呼ぶ知識が彼女には無いが、それが先程までの往来で見ていた車を停め置くための場所であることは即座に理解できた。
変貌した風景は灰色のコンクリートが続く薄暗い空間。上下左右がコンクリートで打たれ、弱い明りの蛍光灯が点々と続き、そこかしこに自動車が止まっている。それを「地下駐車場」と呼ぶ知識が彼女には無いが、それが先程までの往来で見ていた車を停め置くための場所であることは即座に理解できた。
「つまらなくてすいませんねぃ」
「!」
「!」
直後、銃声。即座に身をかがめると、彼女から数メートル離れた場所から硝子の砕ける音が響き渡った。戦いは一瞬の猶予もなく始まっていた。
(男の声……銃を持っている)
蘇は情報をまとめながらゆっくりと動き始めた。初弾の狙いこそ外れたが、方向は見当違いというほどでもなく、相手に位置を把握されている可能性は非常に高い。動くリスクより留まるリスクの方が高いと彼女は判断していた。幸いここは薄暗くて視認性が低く、そこら中に車が置かれている、掩体 には困らない。
そしてもう一つ、彼女には気になった点があった。すぐに動き出せるよう足元に細心の注意を払いながら、空間の反響に任せて声を上げる。
そしてもう一つ、彼女には気になった点があった。すぐに動き出せるよう足元に細心の注意を払いながら、空間の反響に任せて声を上げる。
「你是不是来自同一个国家 ?」
「哦,你也一样 ?」
「
やはり、同じ言葉で答えが返ってきた。相手は蘇と同じ、中国かそれに近い文化圏の相手である可能性が高まる。
「ねえ、同郷のよしみでしょう。見逃してくれないかしら?」
「そいつぁ無理な相談ですねぇ。あっしも生き返りたいもんで」
「一人くらい見逃しても変わらないでしょう?」
「残念ですが、食いついたら離さないのがあっしのやり方なもんでねぇ。ご婦人には死んでいただきたく」
「いやね、怖い人」
「そいつぁ無理な相談ですねぇ。あっしも生き返りたいもんで」
「一人くらい見逃しても変わらないでしょう?」
「残念ですが、食いついたら離さないのがあっしのやり方なもんでねぇ。ご婦人には死んでいただきたく」
「いやね、怖い人」
蘇は適当に会話を引き延ばしながら、足音を消すために靴を脱いだ。足裏から伝わるコンクリートの冷たさはまるで生きているかの如く彼女に錯覚させる。
彼女が靴を脱いだ一方で、相手の男の靴音は自己の存在を誇示するように地下空間中に響き渡っている。
周囲を見渡し武器として使えるものはないか確認する。身を預ける白い自動車のドアを最小限の力で音もなく開け中を覗き込むと、助手席にはお誂え向きに工具箱が置かれていた。中からドライバーをくすね、その場を素早く離れる。その間も相手の足音は止まらない。
彼女が靴を脱いだ一方で、相手の男の靴音は自己の存在を誇示するように地下空間中に響き渡っている。
周囲を見渡し武器として使えるものはないか確認する。身を預ける白い自動車のドアを最小限の力で音もなく開け中を覗き込むと、助手席にはお誂え向きに工具箱が置かれていた。中からドライバーをくすね、その場を素早く離れる。その間も相手の足音は止まらない。
「自己紹介でもしやしょうか。あっしは万 凱旋 。しがない売人でやした」
「ただの売人が銃を持っていたりしないでしょう。何を捌いていたのか、どうせなら教えてもらいたいわ」
「鋭いご婦人に応えて教えてあげやしょう。あっしはね、クスリを捌いてたんです。“幸せ”のクスリを、不幸な人々のために」
「……まあ」
「いずれはたくさんの人を幸せにしたい!なーんて思ってやしたが、いやはや理解されないもんで。色んな人に嫌われ、気付けばこんな場所でお陀仏でやした。頭に一発、この銃で」
「ただの売人が銃を持っていたりしないでしょう。何を捌いていたのか、どうせなら教えてもらいたいわ」
「鋭いご婦人に応えて教えてあげやしょう。あっしはね、クスリを捌いてたんです。“幸せ”のクスリを、不幸な人々のために」
「……まあ」
「いずれはたくさんの人を幸せにしたい!なーんて思ってやしたが、いやはや理解されないもんで。色んな人に嫌われ、気付けばこんな場所でお陀仏でやした。頭に一発、この銃で」
男──万 凱旋 が生前の話を終えると同時、空間に変化が生じた。蘇の視界の端、駐車場の片隅に赤い鉄製の箱が出現したのだ。周囲を警戒しながら近付くと、中には同じく鉄製の筒が入っていた。
(陣地が中身を変えた……? そういうこともあるのね)
「……おやご婦人。領域を広げないんで? ここはだいぶあっしに都合のいい場になってやすが、いいんで?」
「不要よ。生憎ヤワな鍛え方はしていなくてね」
「はっはっは、面白い人だ。ですが、あっしは既に死者を15人狩った──そう聞いても、冷静でいられやすか?」
「……おやご婦人。領域を広げないんで? ここはだいぶあっしに都合のいい場になってやすが、いいんで?」
「不要よ。生憎ヤワな鍛え方はしていなくてね」
「はっはっは、面白い人だ。ですが、あっしは既に死者を15人狩った──そう聞いても、冷静でいられやすか?」
覗き込んだ車のトランクの中に新しく物が出現する。彼が何かを語る度に、陣地の中の物が増えていく。原理は不明だが「そういう法則がある」と言うことだけを頭に刻み込み、蘇は着々と準備を進めていた。
「──笑わせてくれるわね」
そして潮時を見計らい、蘇はいよいよ攻撃に転じた。まずは言葉だけを姿なく投げつける。
「……ほぉ。何が愉快で?」
「15人殺した程度のことがそんなに誇らしいのね。可愛らしい。獲った鼠を持ってくる子猫のよう」
「……訂正しやしょうか。あっしは生前27人殺したんです。“不幸な人々”じゃあございやせんよ、もっと荒くれた方々です。怖い怖い大の男を、27人──」
「余計に面白くなったわ。そのまま続けてちょうだい。いずれ私が笑い死ぬかもしれないわ」
「何を──」
「数を誇っている内は三流よ、おのぼりさん」
「15人殺した程度のことがそんなに誇らしいのね。可愛らしい。獲った鼠を持ってくる子猫のよう」
「……訂正しやしょうか。あっしは生前27人殺したんです。“不幸な人々”じゃあございやせんよ、もっと荒くれた方々です。怖い怖い大の男を、27人──」
「余計に面白くなったわ。そのまま続けてちょうだい。いずれ私が笑い死ぬかもしれないわ」
「何を──」
「数を誇っている内は三流よ、おのぼりさん」
女の声が、間違いなく背後から聞こえた。
「な!?」
振り返ってすぐ発砲するが既にそこには誰もいない。薄暗闇だけがぽっかりと口を開けている。
(どこだ!? 女の体なら車の下か……!?)
万はすぐそばの車の下を覗き込むが、やはり誰もいない。油断なく立ち上がった──はずの彼の耳を即座に甲高い音が突き刺してきた。
「──!?」
クラクションの音だと気付いた時にはもう遅い。硬い板のようなものに全身を打ち据えられて、万はたたらを踏んで数歩後ずさる。
「うぐっ!? 何が……」
彼の体を叩いたものは車のドアだった。勢いよく開かれたそれに体を打たれた──クラクションで混乱したところを──つまり女は先程までその車の中に──
「クソッ!!」
当然姿はない。先制の一撃だけを見舞い、女はまた忽然と姿を消していた。
「クスリの売人はあなたみたいな間抜けでも務まるのかしら。いえ、口車に乗せられた方が愚かだったのかしら」
「黙れっ! 一発程度でいい気に──」
「黙れっ! 一発程度でいい気に──」
その時、万の背後で足音がした。過敏になっていた神経が彼を反射的に振り向かせる。
「私は殺しにかかっているのよ?」
しかしそこにあったのは女の姿でも痕跡でもなく、迫る鉄製の筒、消火器。消火器が宙を舞って、彼の眼前に迫っていた。例え女の細腕で放られたとしても、物が重ければ一定の威力がある。ましてや今は亡者、生前より膂力は向上している。
「ごっ──」
消火器は額にめり込み、続けざまに万の右手に何かが突き刺さる鋭い痛みが走った。
「──!?」
火花が散る視界の中、ようやく二度目、万の視界に女──蘇の姿が映った。
何のことはない。背後まで接近した彼女は脱いだままの靴を放り投げ、それが落ちて音を鳴らすのとほぼ同時に消火器を放り投げただけだ。万一手にした銃で撃たれることを警戒して距離を取ってはいたが、痛みを無視できるような相手でないことを確認し、彼の手にくすねておいたドライバーを突き刺した。それだけだ。蘇にとっては単純な殺しのパズル。
一方で、瞬間的に二つの攻撃を叩きこまれた万の頭は、あっという間に情報でパンクを起こしていた。その間も右手を突き刺す痛みは雨のように連続して続いている。穴だらけになった手に、銃を握るための握力などどこにも残っていなかった。それが転がる音も、今度は手にした消火器で頭をぶん殴られた万には聞こえていない。
何のことはない。背後まで接近した彼女は脱いだままの靴を放り投げ、それが落ちて音を鳴らすのとほぼ同時に消火器を放り投げただけだ。万一手にした銃で撃たれることを警戒して距離を取ってはいたが、痛みを無視できるような相手でないことを確認し、彼の手にくすねておいたドライバーを突き刺した。それだけだ。蘇にとっては単純な殺しのパズル。
一方で、瞬間的に二つの攻撃を叩きこまれた万の頭は、あっという間に情報でパンクを起こしていた。その間も右手を突き刺す痛みは雨のように連続して続いている。穴だらけになった手に、銃を握るための握力などどこにも残っていなかった。それが転がる音も、今度は手にした消火器で頭をぶん殴られた万には聞こえていない。
「か、かふ──」
潰れた息が喉から漏れる。それすら搾り取るように、蘇の回し蹴りが万の胴体に突き刺さった。体勢を崩し背中が車の側面にぶつかる。
「筋力が向上したのはいいことね。戦いやすいわ」
蘇はドライバーをドアの硝子面に押し当て、柄尻を掌底で叩き穴を開ける。その位置から割り広げるように肘を突き入れて硝子を完全に取り払うと、体に巻き付けておいた荷物固定用のロープを万の首にかけ、車の中へと飛びこむ。
「がえっ──」
「おしまい。あなたの負けよ」
「おしまい。あなたの負けよ」
大勢は決した。蘇は首を締め上げられて喘ぐ万の様子など一顧だにせず冷淡に問う。
「いくつか聞きたいことがあるの。答えてくれるわよね」
「あ、あぎ……」
「いい子ね。貴方、李 飛虎という男を知っている?」
「ひ、知らは、ひ……!」
「そう、次。あなたが昔話をすると風景が変わったわ。どういう手品?」
「し、死者は、存在を明確にぃっ、名前、死因、領域を、強く……っ!!」
「ああ確かに。あなたも名前と死因……頭を撃たれたと言っていたものね」
「あ、あぎ……」
「いい子ね。貴方、李 飛虎という男を知っている?」
「ひ、知らは、ひ……!」
「そう、次。あなたが昔話をすると風景が変わったわ。どういう手品?」
「し、死者は、存在を明確にぃっ、名前、死因、領域を、強く……っ!!」
「ああ確かに。あなたも名前と死因……頭を撃たれたと言っていたものね」
そこで蘇に一つの疑問が生じる。領域──彼女にとっての『陣地』を強化する術が知れた今、同じ手順で彼女の陣地を発生させるとどうなるのか。
「ちょうどいいわ。あなたで試しましょうか」
「な、へ、ま、やめ」
「蘇 蓮華」
「な、へ、ま、やめ」
「蘇 蓮華」
ようやく万が彼女の名前を知るのと同時、領域の光景が塗り替わる。戦前、中国でも有数の国際都市として栄えた上海の色を濃く残すレストランの風景へ。既にダメージを負い青息吐息の万には領域を強く維持するだけの力がない。
「ねえ、この乗り物は何で動いているのかしら。火気厳禁……もしかして可燃物?」
「~~~~~!!!!!」
「~~~~~!!!!!」
万の脳裏に最悪の予想が過ぎる。否、首を絞められた時点で既に生殺与奪は彼女の手中にあり、万は半ば死んでいるのと変わらないのだが、彼の危機意識はここに至ってようやくそのことを自覚した。しかし暴れても既に領域の支配、力の優位は蘇の方が圧倒的である。抜け出すことなど叶わない。
「ふふ。教えてあげましょう、私の死因は……『焼死』よ」
瞬間、豪炎が二人を取り囲んだ。レストランの内装を無慈悲に焼き払い炎が拡散していく。
「最後に。死因を述べたけれど……その『死因』の再現はどんな影響を及ぼすの?」
「む゛―――っ!! う゛―――――っ!!」
「そう、最悪なのね。分かったわ、ありがとう、“おのぼりさん”」
「む゛―――っ!! う゛―――――っ!!」
「そう、最悪なのね。分かったわ、ありがとう、“おのぼりさん”」
張り詰めたロープの端をシートに固く結びつけ、蘇は車を出る。轟々と燃え盛る炎はただの熱だけでなく、死んだ瞬間を再現するかの如く彼女に痛みを呼び起こさせる。
「私が触れたらきっと死ぬでしょうね。そして彼も、私の陣地にいる間は同じ影響を受ける」
死者同士の戦いのルールをあらかた理解した蘇は、炎の中に取り残された車に何の感慨も持たず、その中心でもがく男の名前が何だったかなど一時も思い出したりはせず、くるりと踵を返した。今、思うことはただ一つ、この炎に焼かれないよう気をつけなければ。
──爆発音。視界の中心に浮かぶ「1」。それだけだ。彼女にとって殺人など何の感情も起こさせない。全ての関心はただ一人だけ。
「さ、早く遊びましょう、小虎」
###
「よお、探したぜ」
「迎えに来るのが遅いんじゃないかしら。愛想尽かすわよ」
「ははは、勘弁してくれよ。……にしても、焼死たぁ思い切ったな。熱くなかったか?」
「大したことないわ。昂ってるあなたの方がよっぽど熱かったわよ、うふふ」
「おい、人のセックスを笑うなコラ。鳴かせまくって狂い死にさせてやろうか?」
「冗談よ。でも……あなたの熱を求めていたのは……冗談じゃないかもしれないわ」
「ハッ、死人に熱があるかよ。熱くなるなら……遊んでこそ、だろ」
「ええ、その通り。またあなたと遊べるこの時を──待っていたわ、小虎」
「それじゃあ期待にお応えして──やろうぜ、蘇」
「迎えに来るのが遅いんじゃないかしら。愛想尽かすわよ」
「ははは、勘弁してくれよ。……にしても、焼死たぁ思い切ったな。熱くなかったか?」
「大したことないわ。昂ってるあなたの方がよっぽど熱かったわよ、うふふ」
「おい、人のセックスを笑うなコラ。鳴かせまくって狂い死にさせてやろうか?」
「冗談よ。でも……あなたの熱を求めていたのは……冗談じゃないかもしれないわ」
「ハッ、死人に熱があるかよ。熱くなるなら……遊んでこそ、だろ」
「ええ、その通り。またあなたと遊べるこの時を──待っていたわ、小虎」
「それじゃあ期待にお応えして──やろうぜ、蘇」
###