選択肢は二つあった。一つは山を「登る」選択。もう一つは、山を「降りる」という選択。
一歌には知る由もないが、予測する材料はあったのだ。一歌が自身の踏切と夕焼けの領域をさまよったように、本来領域に果てはない。果てのないはずの領域が閉じられていないということは、逃走が可能であるということ。
領域の中心から離れ、山を降りれば、領域が負わせた傷も傷口を保ってはいられない。万全の状態で再度、挑むこともできた。
だが、そうはならなかった。一歌は血を流すことになる。凄絶な痛みとともに。
一歌には知る由もないが、予測する材料はあったのだ。一歌が自身の踏切と夕焼けの領域をさまよったように、本来領域に果てはない。果てのないはずの領域が閉じられていないということは、逃走が可能であるということ。
領域の中心から離れ、山を降りれば、領域が負わせた傷も傷口を保ってはいられない。万全の状態で再度、挑むこともできた。
だが、そうはならなかった。一歌は血を流すことになる。凄絶な痛みとともに。
一歌は追い詰められていた。神社は山の上、まだ見えない距離にあり、周囲は蛇に包囲されている。
片足も潰され、歩行すら不可能な状況である。
片足も潰され、歩行すら不可能な状況である。
「ッだああああッ!」
近づいてくる蛇を手当り次第に叩き散らす。幸い、蛇自体は通常のものと違いはない。ただその牙が幽霊に致命的な影響を与えるというだけ。振り払えば、麻縄のように軽く飛んでいく。
兎にも角にも数が多すぎた。音も立てずに、磁力に引き寄せられるスクラップじみて忍び寄る蛇の大群は恐怖の光景である。
必死の形相で周囲を警戒し、蛇に対処し続けなければならない。その歩みは遅い。
片足が既に死んでいるために、這って進むような形になる。
兎にも角にも数が多すぎた。音も立てずに、磁力に引き寄せられるスクラップじみて忍び寄る蛇の大群は恐怖の光景である。
必死の形相で周囲を警戒し、蛇に対処し続けなければならない。その歩みは遅い。
片足が既に死んでいるために、這って進むような形になる。
「クソッ! キリがねえ! 一斉に襲いかかってこないのは不幸中の幸いってやつか……でもこのままじゃラチがあかねえぞ」
滂沱と流れる汗が雫となり苔むした石段に暗い斑点を作った。
その様子を、山頂で見ているものがいる。領域の主である、幽霊の少女である。
名前を、秋雛古詠といった。
名前を、秋雛古詠といった。
「詰み、じゃな」
その声に熱はなく、氷のように冷ややかだった。
傲りでなく、虚勢でなく、事実として。秋雛の“目”には、もはや一歌に打つ手はないように思えた。どのような手札があろうとも、この状況から脱出する手段は、ない。
いつまでも蛇を退けられるわけでもない。どこかで必ず、一歌の迎撃をすり抜ける牙がある。噛まれればさらに防御は脆くなり、転がり落ちるように、瞬く間に死ぬだろう。
傲りでなく、虚勢でなく、事実として。秋雛の“目”には、もはや一歌に打つ手はないように思えた。どのような手札があろうとも、この状況から脱出する手段は、ない。
いつまでも蛇を退けられるわけでもない。どこかで必ず、一歌の迎撃をすり抜ける牙がある。噛まれればさらに防御は脆くなり、転がり落ちるように、瞬く間に死ぬだろう。
しかし、まだその時は来ない。
「! こやつ……」
蛇の視界の先、一歌はまた上り始めていた。一歩一歩、遮断桿を杖にして。
立ち上がっている。その周囲には線路が結界のように円を描いていた。一歌を囲む線路の上をぐるりと電車が埋め、走り、回転し続けている。
一歌は領域を作っていない。踏切の領域に閉じこもることは神社への道を自ら閉ざすことを意味する。領域の中の物体だけを作り出していた。
立ち上がっている。その周囲には線路が結界のように円を描いていた。一歌を囲む線路の上をぐるりと電車が埋め、走り、回転し続けている。
一歌は領域を作っていない。踏切の領域に閉じこもることは神社への道を自ら閉ざすことを意味する。領域の中の物体だけを作り出していた。
地を這う蛇はその断絶によって一歌に近づくことができない。その結界に侵入しようとすれば、車輪に巻き込まれ、あるいは速度で弾かれ、撥ねられる。接近を試みた蛇はことごとく弾かれていた。
「はっ、成功! バーが出せんならよぉ、線路だって出せるよな、領域ん中なんだからよォ! んで……」
円の端まで進むと、その先にもう一つ線路の円を作る。その中に踏み出せば、一歌は守られたまま、進むことができた。
「よし! 攻略したッ! このままてっぺんまで登ってやんよ!」
激痛と神経の混濁により顔から脂汗が滴っているが、一歌は快哉を叫んだ。もう憂いはない。一歩は遅くとも、活路は開けた。
しかし全身に毒が回りきるのとどちらが早いかはわからない。こればかりは一歌には知りえないことであり、急がなければ、間違いなく死ぬ。
しかし全身に毒が回りきるのとどちらが早いかはわからない。こればかりは一歌には知りえないことであり、急がなければ、間違いなく死ぬ。
だから、もう一咬みたりとも蛇の毒牙を受けるわけにはいかない。
そう思った一歌の肩に冷たい重みが落ちた。
そう思った一歌の肩に冷たい重みが落ちた。
「……?」
反射的にそちらを見遣る。振り返る。そこには、至近距離で一歌を見つめる黒曜の眼球があった。肩から背に、冷たい鱗が蠕動している。
「何……ッ!? 蛇……どこか…………ら……」
答えはすぐに出た。問いながら目線を動かした頭上に、枝が伸びていた。
蛇は木を登ることができた。見れば、枝先に成るように、行く手の頭上に点々と蛇の双眸が待ち構えている。
蛇は木を登ることができた。見れば、枝先に成るように、行く手の頭上に点々と蛇の双眸が待ち構えている。
「クソッ……甘かったってことかよ」
『その通り。甘いんじゃよお主は』
「……あ!?」
『その通り。甘いんじゃよお主は』
「……あ!?」
少女の声がどこからともなく響いた。その出処は判然としなかったが、頭上にある蛇の喉から発せられているように思われた。
一歌の肩を這う蛇が、長い胴を一歌の首に回していく。
一歌の肩を這う蛇が、長い胴を一歌の首に回していく。
「テメェがこの領域の幽霊か」
『それもまた、その通り、じゃな。やれやれじゃ。期待はずれもいいところよ。あの藍島銀一の弟子とは思えぬな』
「ハッ、そうかよ。ずいぶんあのオッサンは……有名人なんだな」
『然り。幽霊の数など生者に比べるべくもないが、それでも噂が広がるほどに、強く、古い幽霊じゃ。じゃからその弟子と聞いての、さぞ面白い奴だと思うたのじゃが……弱すぎるの』
「うるせえな……まだ、ここから……だっつーんだよ……」
『それもまた、その通り、じゃな。やれやれじゃ。期待はずれもいいところよ。あの藍島銀一の弟子とは思えぬな』
「ハッ、そうかよ。ずいぶんあのオッサンは……有名人なんだな」
『然り。幽霊の数など生者に比べるべくもないが、それでも噂が広がるほどに、強く、古い幽霊じゃ。じゃからその弟子と聞いての、さぞ面白い奴だと思うたのじゃが……弱すぎるの』
「うるせえな……まだ、ここから……だっつーんだよ……」
一歌はまた一歩を踏み出した。震える手で、首にまとわりつく蛇を掴み、引き剥がして投げ捨てる。
『左様か。じゃがの、終わりじゃ』
影が差した。雨よりもまだらに一歌に降り注いでくる。
ぼとぼと、と蛇が群れを成して一歌を覆った。頭上から、避けようもなく。今度は一歌の体を這い回る間もなく、一斉に牙を突き立てる。首に、胸に、肩に、腕、腹、足。
鋭利に湾曲した先端が皮膚を刺し破り、全身を激痛が貫いた。注射器のように牙を通って毒液が流し込まれた。ぴんと張った糸が切れるような、不可逆的で致命的な感覚が溶解する細胞の中を駆け巡る。
ぼとぼと、と蛇が群れを成して一歌を覆った。頭上から、避けようもなく。今度は一歌の体を這い回る間もなく、一斉に牙を突き立てる。首に、胸に、肩に、腕、腹、足。
鋭利に湾曲した先端が皮膚を刺し破り、全身を激痛が貫いた。注射器のように牙を通って毒液が流し込まれた。ぴんと張った糸が切れるような、不可逆的で致命的な感覚が溶解する細胞の中を駆け巡る。
「うっ、あっ、ああああっ!」
魂を破壊する痛みが今度は全身を貫き、本能が悟った。これが、領域の死者がかつて経験した死の痛み。致死の記憶。
“致命攻撃”。
電撃じみた痛みに、一歌は後ろにのけぞった。しかし片足が死んでいる。のけぞって、止まることはできない。
落ちる。一歌はその勢いのまま、背後に身を投げ出した。一歌の全身が墜落の激突を待たずに解け、血を迸らせながら泥のように流れ出そうとしている。
蛇の瞬膜が冷たく眇められ、静かに見ていた。
落ちる。一歌はその勢いのまま、背後に身を投げ出した。一歌の全身が墜落の激突を待たずに解け、血を迸らせながら泥のように流れ出そうとしている。
蛇の瞬膜が冷たく眇められ、静かに見ていた。
(……落ちてゆけ。浮世ならぬ朧の夢に、迷い込んだ娘よ。……哀れではないか。ただ虫のように殺し合わされ、虫のように無為に死んでいく。あるいは儂のように、蘇りも消えもできずに漂う存在になるか……まあ、慈悲ではないがの……)
もはや一歌は死んだものと、秋雛は確信していた。
石段から落下するにせよ、蛇の毒に蝕まれるにせよ、もうまもなく死はやってくる。二度目の死が。
しかし転落の刹那、一歌の双眸が大きく開いた。
石段から落下するにせよ、蛇の毒に蝕まれるにせよ、もうまもなく死はやってくる。二度目の死が。
しかし転落の刹那、一歌の双眸が大きく開いた。
「……ひゅっ、がはっ! っの、ぉ!」
極度の痛みに息が詰まっていた。毒牙を中心に溶け広がっていく無数の穴を穿たれながらも、一歌はようやく呼吸を取り戻した。
急角度の石段を落下する一歌は、しかし、激痛の中、滞空の最中に遮断桿を呼び出し、掴んだ。それは長く伸びて石段を突き、支えの形になる。
しなる棒を全身で押せば、一歌の体はバネに弾かれたように押し上げられた。
急角度の石段を落下する一歌は、しかし、激痛の中、滞空の最中に遮断桿を呼び出し、掴んだ。それは長く伸びて石段を突き、支えの形になる。
しなる棒を全身で押せば、一歌の体はバネに弾かれたように押し上げられた。
『! 何を』
「来いぃっ! 電車あっ!」
「来いぃっ! 電車あっ!」
石段を駆け上がるように線路が伸びた。直後、鳴り響く警報に呼ばれるように、高速の鋼鉄立方体がけたたましく麓から駆け上ってくる。
『なにっ!』
轟と蛇を蹴散らしながら、木々と木々の間を、本来の電車にありえない急斜面を高射砲弾のように走る。落ちる影も溶けて線になった。
「だっ」
血の轍を引いて跳ねながら、一歌は電車の上を転がった。もはや全身を朱に染めながらも、噛み付いた蛇も剥がれて落ちる。
正面衝突すれば即死となる、“致命攻撃”の電車。それが一歌を救った。
正面衝突すれば即死となる、“致命攻撃”の電車。それが一歌を救った。
「ご、ごほっ……咄嗟に……思い、ついて、助かった……でも馬鹿、だな。最初っから、こうしてりゃ……早かったのによ…………」
血を吐きながら、一歌は仰向けに転がった。水飴のように後方へ流れていく景色も相まって、一歌は半ば夢遊の気分だった。
ただ線路を生み出し、上へ上へと電車を走らせる。混濁する意識の中、考えるのはそれだけ。
ただ線路を生み出し、上へ上へと電車を走らせる。混濁する意識の中、考えるのはそれだけ。
『ぐっ…………』
鉄の大蛇が、樹上の蛇の視界を瞬く間に流れていく。葉を散らし、降り注ぐ蛇を風圧に巻き込んで吹き飛ばし、視野から小さく消えていく。
すなわち、蛇の本体、領域の主、秋雛のもとへ。
すなわち、蛇の本体、領域の主、秋雛のもとへ。
『まずい! 視界をあちらに戻さねば……すぐにでも! 奴が来る!』
毒で一歌が完全に絶命するのと、どちらが早いかわからない。それほどの速度だった。
視界を蛇から引き戻すと朱塗りの門が映る。見下ろす下に、がたん、ごとん、と激しく鉄道の鳴る音。それはもうすぐそばに、風すら感じるほど…………。
瞬間、木々の合間から、金属質の鈍い塊が見えた。
視界を蛇から引き戻すと朱塗りの門が映る。見下ろす下に、がたん、ごとん、と激しく鉄道の鳴る音。それはもうすぐそばに、風すら感じるほど…………。
瞬間、木々の合間から、金属質の鈍い塊が見えた。
「───っ!」
ぞわりと粟立った皮膚の悪寒に、秋雛は背後へ跳んだ。一瞬の後、凄まじい重量と運動エネルギーに射出された先頭車両が大鳥居を真っ二つに引き裂いて破壊しながら秋雛の眼前に飛び出した。
破壊音が響き、無数の木片が散乱した。破城槌のようなそれが、そびえるように、高く影を落とす。
破壊音が響き、無数の木片が散乱した。破城槌のようなそれが、そびえるように、高く影を落とす。
「よ、う。着いた、ぞ。蛇野郎……ッ!」
「……っ! なめるでないぞ、小娘ェッ! 甕!」
「……っ! なめるでないぞ、小娘ェッ! 甕!」
飛びすさりながら秋雛が吠えると同時、中空より陶器の大きな甕が、逆さに降って秋雛をすっぽりと隠した。
さらにほとんど同時に、本殿を破壊しながら巨大な白蛇が現出した。その大きさは電車と同等、どころか、一回り大きい。
さらにほとんど同時に、本殿を破壊しながら巨大な白蛇が現出した。その大きさは電車と同等、どころか、一回り大きい。
「!」
「呑め!」
「呑め!」
くぐもった声が甕の中から響くと、声に応じて大蛇がうねり、一歌に向かって矢のように迫る。
「まずっ……! くそ……っ!」
(やべえ……動けねえ! 電車走らせてなんとか……!)
(やべえ……動けねえ! 電車走らせてなんとか……!)
「待て待て、ストップだ。古詠、やめろ」
男の声が聞こえた。途端、一歌に噛み付く直前で白蛇が動きを止める。
一歌は目だけをなんとか動かして、声の主を見た。
一歌は目だけをなんとか動かして、声の主を見た。
「……おい、クソ師匠……。満足か?」
「んー、まあ、ギリギリ赤点回避、ってとこだな。なんとか日暮れ前に神社にたどり着けた。及第点をやろう」
「んー、まあ、ギリギリ赤点回避、ってとこだな。なんとか日暮れ前に神社にたどり着けた。及第点をやろう」
黒いコートの男。藍島銀一である。藍島はごくゆったりと境内を歩いて一歌のほうへやってきた。
動きを止めていた白蛇が黒く淀み、霞のように消える。一歌がそちらを見れば、甕も消え、そこに神官服の少女が立っていた。
動きを止めていた白蛇が黒く淀み、霞のように消える。一歌がそちらを見れば、甕も消え、そこに神官服の少女が立っていた。
「なんじゃ、儂の負けか?」
「神社まで来れたらクリアって言わなかったか? くっくっく。おい、今にも死にそうで面白いから領域解いてやれ」
「おおう、そうじゃ。毒が入っとったな。ほれ」
「神社まで来れたらクリアって言わなかったか? くっくっく。おい、今にも死にそうで面白いから領域解いてやれ」
「おおう、そうじゃ。毒が入っとったな。ほれ」
ぱん、と手を叩くと同時に、周囲の木々から青葉が消えた。赤黄の紅葉 が舞い散り、風は乾いて軽く速くなった。
そして、一歌の全身を蝕んでいた激痛も消える。
そして、一歌の全身を蝕んでいた激痛も消える。
「ひゅっ…………がはっ、げほっ! う、ぐ……ああーっ、しんどかったぜマジ……」
一歌は気だるげに起き上がり、電車と線路、呼び出した領域の一部を消して飛び降りた。
「まあとことんやってもよかったけどな、あたしは」
「たわけ。お主はもう死ぬところじゃったろうが」
「たわけ。お主はもう死ぬところじゃったろうが」
けろりと言い放つ一歌へ秋雛は呆れ顔で視線を返した。敵意は感じられず、もう周囲には蛇もいない。一歌は、もう秋雛は攻撃を仕掛けてこないと思い警戒を解いた。
代わりに、じろりと眉根を寄せて恨めしそうに見る。
代わりに、じろりと眉根を寄せて恨めしそうに見る。
「お前が蛇女だな。このオッサンとどういう関係なんだ?」
「小娘、儂の名前は秋雛古詠じゃ。この神社の主で……銀一とはまあ、腐れ縁じゃな」
「コイツは情報屋だ。俺と違ってヒマだからな、幽霊の居場所なんかを探らせてる」
「なんちゅー言い草じゃ。儂の厚意で教えてやっとるちゅうに」
「小娘、儂の名前は秋雛古詠じゃ。この神社の主で……銀一とはまあ、腐れ縁じゃな」
「コイツは情報屋だ。俺と違ってヒマだからな、幽霊の居場所なんかを探らせてる」
「なんちゅー言い草じゃ。儂の厚意で教えてやっとるちゅうに」
確かに二人は気安い仲のようだった。それを見ながら、一歌は藍島の前まですたすたと歩いてくる。
言わなければならないことがある。
一歌の脳裏には、父と友の姿があった。
ずいぶん背の高い男を見上げるような形になった。
言わなければならないことがある。
一歌の脳裏には、父と友の姿があった。
ずいぶん背の高い男を見上げるような形になった。
「あたしを弟子にしてくれ」
「あ? もう弟子だろうが。クーリングオフは効かねえぞ。泣いても喚いても、死んでもな」
「おう、師匠。ま、癪だけどさ。あたしもぜってー生き返んなきゃならなくなってよ。こういうのは、弟子から頼むもんだろ。鍛えてくれよな」
「あ? もう弟子だろうが。クーリングオフは効かねえぞ。泣いても喚いても、死んでもな」
「おう、師匠。ま、癪だけどさ。あたしもぜってー生き返んなきゃならなくなってよ。こういうのは、弟子から頼むもんだろ。鍛えてくれよな」
まっすぐに言い放つ一歌を奇妙なものを見る目で見ていた藍島だが、すぐに愉快そうな笑みを浮かべた。
「くっくっく! おい、毒が効いたみたいだぞ、古詠。おもしれーや」
「あんだよ」
「なんじゃろなあ……ま、よかったの、銀一。稽古つけてやれ」
「あんだよ」
「なんじゃろなあ……ま、よかったの、銀一。稽古つけてやれ」
秋雛はどうでもよさげにひらひらと手を振った。
「まずは素振り1000回、いや、10000回だな。やれ!」
「おい、テキトーに言ってるだろ」
「いいからやるんだよ。基礎は裏切らねえらしいから」
「もう用はないか? 儂は寝るぞ」
「おい、テキトーに言ってるだろ」
「いいからやるんだよ。基礎は裏切らねえらしいから」
「もう用はないか? 儂は寝るぞ」
怪訝な目で藍島を見ながらも、遮断桿を地面から引きずり出してぎこちなく構える一歌。剣の構えなど習ったこともない。
藍島もなかった。
藍島もなかった。
「そうだ振れ振れ。斬って殺すことを考えて振るんだぞ」
「合ってんのかコレで!? なんか、やり方教えてくれよ!」
「それはあれだ、自分で考えなきゃ意味がねーってやつだ」
「合ってんのかコレで!? なんか、やり方教えてくれよ!」
「それはあれだ、自分で考えなきゃ意味がねーってやつだ」
藍島を見る一歌の目からみるみるうちに信頼が失われていく。
(……しかし、あの状態からここまでたどり着くとはの。銀一が弟子にしたがるだけはあるわ。最後の最後まで諦めない。幽霊の資質、か)
「これからどうなるかはわからぬがな。気張れよ若人」
「これからどうなるかはわからぬがな。気張れよ若人」
二人をよそに、秋雛は本殿に帰っていった。
たびたび藍島が適当に口を挟んで中断させることもあり、素振りは夜中まで続いた。
たびたび藍島が適当に口を挟んで中断させることもあり、素振りは夜中まで続いた。