女の戦い ◆ElBBuB18Y2
少女が走っていた。
内なる想いに押されるまま、ただひたすらに。
恋人。
想い人。
心の底から愛している人。
何時までも一緒に過ごしていたい人。
玄野計。
唐突に始まった、災厄を現実にしたかのような事態。
巨大なロボットや武器を装備した巨人が、人々を無慈悲に殺害していく光景。
赤色に染まった空と、赤色に染まった地面。
何十年もの年月を掛けて造り上げた東京という都市は、瓦礫だらけの死体置き場と変わった。
巨人の襲撃にあった学校でも、何十人もの生徒が虫けらのように殺された。
地獄のような世界。
だが、そんな世界であっても彼は守ってくれた、戦ってくれた、救ってくれた。
まるで物語の中のヒーローのように、たった一人で巨人達へと立ち向かい、守ってくれた。
温もりを感じるように抱き合い、二人で夜を迎えた。
絶望しかない世界で二人の存在を確かめ合うかのように抱き合い、明日を目指した。
未来を掴む事を選択した。
内なる想いに押されるまま、ただひたすらに。
恋人。
想い人。
心の底から愛している人。
何時までも一緒に過ごしていたい人。
玄野計。
唐突に始まった、災厄を現実にしたかのような事態。
巨大なロボットや武器を装備した巨人が、人々を無慈悲に殺害していく光景。
赤色に染まった空と、赤色に染まった地面。
何十年もの年月を掛けて造り上げた東京という都市は、瓦礫だらけの死体置き場と変わった。
巨人の襲撃にあった学校でも、何十人もの生徒が虫けらのように殺された。
地獄のような世界。
だが、そんな世界であっても彼は守ってくれた、戦ってくれた、救ってくれた。
まるで物語の中のヒーローのように、たった一人で巨人達へと立ち向かい、守ってくれた。
温もりを感じるように抱き合い、二人で夜を迎えた。
絶望しかない世界で二人の存在を確かめ合うかのように抱き合い、明日を目指した。
未来を掴む事を選択した。
そして目を覚ました時には、この殺し合いの場へと連れて来られていた。
殺し合いをしろと言われ、修道服を着た外人の女性が惨殺された。
殺害された少女と同様に、君達の頭の中にも爆弾を埋め込んだと言われた。
分からない、何もかもが分からない中で……彼を見つけた。
驚愕と困惑をごちゃ混ぜにした表情で、凄惨な言葉を雄弁に語る少女を見つめていた。
手を伸ばしたかった。でも、何故だか身体が動かない。
恐怖に震えて声を出す事もできなかった。
そうこうしている内に足元から身体が消えていき、気付けば見覚えのない街中にいた。
ポツポツと点在する街灯だけが、周囲を照らす。
薄暗い街並は言いようのない恐怖を発する。
涙が浮かび、思考が止まった。
ただ一人、玄野計の存在だけが思考を支配する。
殺害された少女と同様に、君達の頭の中にも爆弾を埋め込んだと言われた。
分からない、何もかもが分からない中で……彼を見つけた。
驚愕と困惑をごちゃ混ぜにした表情で、凄惨な言葉を雄弁に語る少女を見つめていた。
手を伸ばしたかった。でも、何故だか身体が動かない。
恐怖に震えて声を出す事もできなかった。
そうこうしている内に足元から身体が消えていき、気付けば見覚えのない街中にいた。
ポツポツと点在する街灯だけが、周囲を照らす。
薄暗い街並は言いようのない恐怖を発する。
涙が浮かび、思考が止まった。
ただ一人、玄野計の存在だけが思考を支配する。
「ケイちゃん……」
会いたい。
会って、一緒に過ごしたい
もう一度あの日常に戻りたい。
少女は想い人を求めてがむしゃらに足を動かしていた。
ケイちゃん、ケイちゃん、ケイちゃん。
理解の追い付かぬ殺し合いの中で、心に浮かぶその少年だけが標(しるべ)であった。
暗闇の市街地を不用心にも駆け抜ける。
想いのままに、少女は走る。
息をきらせて、汗を垂らして、深夜の市街地を走り続ける。
そして、出会った。
会って、一緒に過ごしたい
もう一度あの日常に戻りたい。
少女は想い人を求めてがむしゃらに足を動かしていた。
ケイちゃん、ケイちゃん、ケイちゃん。
理解の追い付かぬ殺し合いの中で、心に浮かぶその少年だけが標(しるべ)であった。
暗闇の市街地を不用心にも駆け抜ける。
想いのままに、少女は走る。
息をきらせて、汗を垂らして、深夜の市街地を走り続ける。
そして、出会った。
「少女よ―――君は何故そんなに焦っている」
商店街にて一定間隔に設置された街頭の上。
足場とするには余りに狭すぎる数十センチ程の空間にて、不思議なポージンングをとる男と。
足場とするには余りに狭すぎる数十センチ程の空間にて、不思議なポージンングをとる男と。
「まずは落ち着きましょう。アナタ、とても辛そうな顔をしているわ」
歩道を挟んでその対面、商店街に並ぶ店の看板。
これまた足場とするには狭すぎる板の上にて、堂々と立ち尽くす女性。
良く分からない登場を果たした二人組と、少女―――小島多恵は遭遇した。
これまた足場とするには狭すぎる板の上にて、堂々と立ち尽くす女性。
良く分からない登場を果たした二人組と、少女―――小島多恵は遭遇した。
それは、少女の行く末を大きく変える出会い。
何の変哲もないただの少女が二人の魔法使いと出会い、そして、物語は始まる。
何の変哲もないただの少女が二人の魔法使いと出会い、そして、物語は始まる。
「クロノ・ケイか……すまないが、まだ見掛けていないな」
「この玄野君以外に誰か知っている人は?」
「いえ、いません……」
「この玄野君以外に誰か知っている人は?」
「いえ、いません……」
そして数分後、商店街にある店の一つにて、三人の男女が円を描いて座っていた。
様々な種類の野菜が売られている店の更に奥、居住空間でちゃぶ台を囲んで座る。
簡潔ながら互いに自己紹介を行っている最中であった。
様々な種類の野菜が売られている店の更に奥、居住空間でちゃぶ台を囲んで座る。
簡潔ながら互いに自己紹介を行っている最中であった。
「そうか。じゃあ、鹿目まどか、暁美ほむら、佐倉杏子という名の女性には会わなかったか?」
「会ッてないです……その、初めて出会えたのがロットンさんとマミちゃんなんで……」
「そう……でも、安心して下さい。私達がいる限り、あなたに危害は及ばせないわ」
「会ッてないです……その、初めて出会えたのがロットンさんとマミちゃんなんで……」
「そう……でも、安心して下さい。私達がいる限り、あなたに危害は及ばせないわ」
ああ、と多恵は思う。
この人達は強い人なんだと、心底から思った。
こんな絶望的な状況にあって、それでも他人を気遣う余裕を併せ持ち、状況の打開を目指す。
あの時の彼と似ていた。
謎の巨人による殺戮劇。
何時も通りの日常が送られていた世界は、一瞬で死骸で埋め尽くされていた。
高層ビルをも一撃で破壊するロボットに、何十の人々を根刮ぎに殺戮する巨人。
学校の屋上から見えた光景は、まるでSF映画のように絶望的なものであった。
そんな光景を前にして、彼は笑っていた。
それは日常の中で一度と見せる事のなかった表情。
好戦的な笑みに、瞳は戦意で輝いていた。
誰もが困惑や絶望を想う中で、彼だけが未来を見ていた。
絶対に生き延びる。彼は表情でそう語っていた。
そんな彼に、絶望の中で前を見続ける彼に、ほんの少しだけこの二人がダブって見えた。
自分には無い力だと、多恵は無意識の内に理解していた。
この人達は強い人なんだと、心底から思った。
こんな絶望的な状況にあって、それでも他人を気遣う余裕を併せ持ち、状況の打開を目指す。
あの時の彼と似ていた。
謎の巨人による殺戮劇。
何時も通りの日常が送られていた世界は、一瞬で死骸で埋め尽くされていた。
高層ビルをも一撃で破壊するロボットに、何十の人々を根刮ぎに殺戮する巨人。
学校の屋上から見えた光景は、まるでSF映画のように絶望的なものであった。
そんな光景を前にして、彼は笑っていた。
それは日常の中で一度と見せる事のなかった表情。
好戦的な笑みに、瞳は戦意で輝いていた。
誰もが困惑や絶望を想う中で、彼だけが未来を見ていた。
絶対に生き延びる。彼は表情でそう語っていた。
そんな彼に、絶望の中で前を見続ける彼に、ほんの少しだけこの二人がダブって見えた。
自分には無い力だと、多恵は無意識の内に理解していた。
「……ケイちゃん……」
小島多恵は、もう何度目か分からない呟きを再度吐いた。
彼を想い浮かべると、思わず瞳に涙が浮かぶ。
彼を想い浮かべると、思わず瞳に涙が浮かぶ。
「多恵さん……」
何度も呟かれたケイちゃんという名前。
その様子からマミやロットンにも、小島と玄野の関係性が伺い知れる。
余程親密の仲なんだろう。
こんな殺し合いの場で真っ先に想い浮かべる程に、二人の心は繋がっている。
マミは静かに涙を流す小島を、優しく抱き締めた。
孤独の辛さは知っている。絶望の怖さも知っている。
話を聞くに、小島多恵はただの一般人のようであった。
魔力も感じない。銃を撃った事もなければ、勿論殺し合いなんてした事もないだろう。
命懸けの状況、というもの自体が始めてなのだろう。
マミは憤りを感じずにはいられなかった。
自分やロットンはまだ良い。
これまでに命懸けの争乱を繰り返してき、少なからず争いというものを知ってきた。
だが、眼前の少女は本当にただの女の子。
魔法少女でもない、平凡な何処にでも行る女子高生なのだ。
その様子からマミやロットンにも、小島と玄野の関係性が伺い知れる。
余程親密の仲なんだろう。
こんな殺し合いの場で真っ先に想い浮かべる程に、二人の心は繋がっている。
マミは静かに涙を流す小島を、優しく抱き締めた。
孤独の辛さは知っている。絶望の怖さも知っている。
話を聞くに、小島多恵はただの一般人のようであった。
魔力も感じない。銃を撃った事もなければ、勿論殺し合いなんてした事もないだろう。
命懸けの状況、というもの自体が始めてなのだろう。
マミは憤りを感じずにはいられなかった。
自分やロットンはまだ良い。
これまでに命懸けの争乱を繰り返してき、少なからず争いというものを知ってきた。
だが、眼前の少女は本当にただの女の子。
魔法少女でもない、平凡な何処にでも行る女子高生なのだ。
「心配しないで、多恵さん。絶対に再会させてみせます。玄野さんと多恵さんを」
巴マミの中で決意は固まっていた。
目の前の少女と玄野計を再会させる。
戦いは確かに怖く、殺し合いという状況も怖い。
美樹さやかを殺害した罪悪感だって心に巣くっている。
一度は折れ掛けた魔法少女としての心。
だが、それでも巴マミは決意した。
魔法少女として人々を守り、助ける。
自分の罪が許されるとは思わない。
美樹さやかという一人の魔法少女を殺害した罪は、一生涯背負っていく事になるだろう。
それでも、いやだからこそ、人々を助けるのだ。
戦いの果てに魔女となるにしても、戦い続ける。
魔法少女としての運命を、犯してしまった罪を、全てを背負って前へ進むのだ。
目の前の少女と玄野計を再会させる。
戦いは確かに怖く、殺し合いという状況も怖い。
美樹さやかを殺害した罪悪感だって心に巣くっている。
一度は折れ掛けた魔法少女としての心。
だが、それでも巴マミは決意した。
魔法少女として人々を守り、助ける。
自分の罪が許されるとは思わない。
美樹さやかという一人の魔法少女を殺害した罪は、一生涯背負っていく事になるだろう。
それでも、いやだからこそ、人々を助けるのだ。
戦いの果てに魔女となるにしても、戦い続ける。
魔法少女としての運命を、犯してしまった罪を、全てを背負って前へ進むのだ。
「そうだ。力無き事は罪ではない。力無き者をこのような戦場に参戦させる事が罪なのだ。君の守護に、君と玄野計の再会に、俺も協力しよう」
マミの言葉に続けてロットンが口を開いた。
迷いのない冷静な一言である。
その冷静さが多恵に、マミにも頼もしさを感じさせる。
迷いのない冷静な一言である。
その冷静さが多恵に、マミにも頼もしさを感じさせる。
「マミちゃん、ロットンさん……」
魔法使いと魔法少女。
弱者の救済を信条として掲げる者達と小島多恵は出会う事ができた。
それは小島にとってとても幸運な事で、停止状態にあった思考へ冷静さを取り戻させた。
小島多恵もまた、決意する。
絶対に生き延びる。生き延びて、玄野計と再会する。
そして、二人でこの殺し合いを脱出してみせる。
二人の魔法使いによりもたらされた強固な決意。
恐怖はあり、この先どうすれば良いのかも分からない。
だが、絶対に生き延びる。
そう小島多恵は決意し、未だ涙の止まらぬ瞳で奇妙な二人組を見つめた。
弱者の救済を信条として掲げる者達と小島多恵は出会う事ができた。
それは小島にとってとても幸運な事で、停止状態にあった思考へ冷静さを取り戻させた。
小島多恵もまた、決意する。
絶対に生き延びる。生き延びて、玄野計と再会する。
そして、二人でこの殺し合いを脱出してみせる。
二人の魔法使いによりもたらされた強固な決意。
恐怖はあり、この先どうすれば良いのかも分からない。
だが、絶対に生き延びる。
そう小島多恵は決意し、未だ涙の止まらぬ瞳で奇妙な二人組を見つめた。
「すみません……お願いします」
多恵の言葉にマミは優しく微笑み、ロットンは無言でサングラスのブリッジを押し上げる。
こうして二人の魔法使いに、何の力もないただの少女が追加された。
こうして二人の魔法使いに、何の力もないただの少女が追加された。
「タエ、この服を着ると良い」
そして、数分後の三人。
三人は未だ小さな商店の店内にいた。
ロットンが小島多恵へと、自身が着込んでいたガンツスーツを渡したのだ。
ガンツスーツを着ていれば多少の事では怪我すらしないだろうし、全く戦闘力のない小島をそのままにする訳にもいかない。
あの死人の街の住人とは思えぬ行動だが、彼にとっては仔細なかった。
彼は自分の想うがままに行動する。
三人は未だ小さな商店の店内にいた。
ロットンが小島多恵へと、自身が着込んでいたガンツスーツを渡したのだ。
ガンツスーツを着ていれば多少の事では怪我すらしないだろうし、全く戦闘力のない小島をそのままにする訳にもいかない。
あの死人の街の住人とは思えぬ行動だが、彼にとっては仔細なかった。
彼は自分の想うがままに行動する。
「この服は装着している者の身体能力と耐久力を引き上げてくれる。これを着ていれば銃で撃たれても死にはしない。俺よりも君が着ているべきだろう」
ガンツスーツについてロットンが説明をするが、多恵の意識はまるで違う所にあった。
多恵は、この服に見覚えがあった。
玄野計が学生服の下に着込んでいた黒色の下着。
襟元と手の部分しか見えなかったが、このガンツスーツとやらは確かにそれだ。
感じていた疑問がほんの少しだけ解消された気がした。
自分を抱えて学校の屋上から飛び降りて無事だったのも、素手で巨人を殴り倒したのも、このスーツの恩恵なのだろう。
彼が何処でこのスーツを入手したのかは分からない。
でも、彼はこのスーツを着て、守ってくれた。
スーツを着ていたとしても、例え身体能力を引き上がっていたとしても、恐怖はあっただろう。
多恵はそのスーツを抱き締めた。
まるで愛する者を抱くかのように、優しく、愛おしく、包容する。
絶対に生き延び、再会する。
決意が深まっていくのを感じた。
多恵は、この服に見覚えがあった。
玄野計が学生服の下に着込んでいた黒色の下着。
襟元と手の部分しか見えなかったが、このガンツスーツとやらは確かにそれだ。
感じていた疑問がほんの少しだけ解消された気がした。
自分を抱えて学校の屋上から飛び降りて無事だったのも、素手で巨人を殴り倒したのも、このスーツの恩恵なのだろう。
彼が何処でこのスーツを入手したのかは分からない。
でも、彼はこのスーツを着て、守ってくれた。
スーツを着ていたとしても、例え身体能力を引き上がっていたとしても、恐怖はあっただろう。
多恵はそのスーツを抱き締めた。
まるで愛する者を抱くかのように、優しく、愛おしく、包容する。
絶対に生き延び、再会する。
決意が深まっていくのを感じた。
「でも、それじゃあロットンさんは……」
そう聞いたのは巴マミであった。
その瞳は心配げに揺れ、ロットンを見詰めている。
その瞳は心配げに揺れ、ロットンを見詰めている。
「問題ない。俺にはコイツがいる。それに―――」
マミの言葉に、ロットンは何時も通りの淡々とした口調で答えていく。
コイツとは拳銃の事なのだろう、拳銃の刺さった辺りを軽い調子で叩き、次いでマミへと視線を送る。
サングラス越しに、ロットンの瞳がマミを捉えた。
言葉や態度と同様に、迷いの無い瞳である。
コイツとは拳銃の事なのだろう、拳銃の刺さった辺りを軽い調子で叩き、次いでマミへと視線を送る。
サングラス越しに、ロットンの瞳がマミを捉えた。
言葉や態度と同様に、迷いの無い瞳である。
「巴マミ、君もいる」
続く言葉に、マミは目を見開いた。
このタイミングで自分の名が出るとは思っていなかった。
予想外の回答に呆けるマミへと、ウィザードは更なる答えを紡いでいく。
このタイミングで自分の名が出るとは思っていなかった。
予想外の回答に呆けるマミへと、ウィザードは更なる答えを紡いでいく。
「俺は信じている。君なら過去を受け入れ、乗り越えられるだろう。過去を乗り越えた時、そして破滅の未来すら受け入れられた時、君は誰よりも強く気高い魔法少女となっている筈だ」
出会ってまもない女性へと全面の信頼を押し出す。
それは、彼の気取り屋としての一面から出た言葉なのだろうか。
彼特有のカッコ付けの言動から、このような言葉が出て来たのだろうか。
だが、例えそうだとしてもマミが受けた衝撃は絶大なものであった。
あんな事をした自分を、絶望に圧し負け美樹さやかを殺害した自分を、こんなにも信じてくれている。
そう思うだけで、身体中から力が溢れ出る感覚がした。
それは、彼の気取り屋としての一面から出た言葉なのだろうか。
彼特有のカッコ付けの言動から、このような言葉が出て来たのだろうか。
だが、例えそうだとしてもマミが受けた衝撃は絶大なものであった。
あんな事をした自分を、絶望に圧し負け美樹さやかを殺害した自分を、こんなにも信じてくれている。
そう思うだけで、身体中から力が溢れ出る感覚がした。
「……分かり、ました。そのスーツは小島さんが着た方が良さそうです」
「奥の方で着替えてくると良い。着替えたら、行こう」
「は、はい」
「じゃあ、私は少し外を見張ってくるわ。万が一があったらいけないからね」
「奥の方で着替えてくると良い。着替えたら、行こう」
「は、はい」
「じゃあ、私は少し外を見張ってくるわ。万が一があったらいけないからね」
再会まで生き残るを、信頼に応える事を、二人の少女は決意した。
信頼に応える事を決意した少女は、心中の感情に従い行動を始める。
外を見張り、危険人物の襲来を避ける。
また保護を求める参加者がいないかを確認する。
信頼に応えなくては、という思いがマミに行動を取らせていた。
二人に背を向け、店先へと歩を進めるマミ。
信頼に応える事を決意した少女は、心中の感情に従い行動を始める。
外を見張り、危険人物の襲来を避ける。
また保護を求める参加者がいないかを確認する。
信頼に応えなくては、という思いがマミに行動を取らせていた。
二人に背を向け、店先へと歩を進めるマミ。
そして、その瞬間―――事態が急変する。
急変の事態に対応できたものは居なかった。
一般人の小島多恵は勿論、異変の間近にいた巴マミも、用心深さで知られるロットンすらも、その異変には対応できない。
ザン、という小さな音が響いた。
瞬間、マミは背中に唐突な重みを感じた。
いきなり誰かが背中にのし掛かってきたかのような感じだ。
兎も角、いきなりであった。
いきなり重みが現れ、一瞬で消える。
何が起きたのだろうと、マミが後方に振り返った時には全てが終わっていた。
其処には有り得る筈のない人物が、立っていた。
美樹さやか。
死んだ筈の少女が、そこにいた。
肩から断裂した左腕をブラブラと漂わせ、制服のすべてを鮮血に染め、それでも美樹さやかはそこにいた。
破壊された筈の右手にサーベルを握り、呆然と目を見開く多恵の前に立っている。
一般人の小島多恵は勿論、異変の間近にいた巴マミも、用心深さで知られるロットンすらも、その異変には対応できない。
ザン、という小さな音が響いた。
瞬間、マミは背中に唐突な重みを感じた。
いきなり誰かが背中にのし掛かってきたかのような感じだ。
兎も角、いきなりであった。
いきなり重みが現れ、一瞬で消える。
何が起きたのだろうと、マミが後方に振り返った時には全てが終わっていた。
其処には有り得る筈のない人物が、立っていた。
美樹さやか。
死んだ筈の少女が、そこにいた。
肩から断裂した左腕をブラブラと漂わせ、制服のすべてを鮮血に染め、それでも美樹さやかはそこにいた。
破壊された筈の右手にサーベルを握り、呆然と目を見開く多恵の前に立っている。
「あ、」
思考が、止まる。
寸前の喜びも、決意すらも何処かへ消え去っていた。
眼前に現れた『罪』そのものに、巴マミは動きを止めてしまう。
ロットンさんは―――と、気付けば頼れる仲間の姿を探し求めていた。
彼なら、こんな状況でも何とかしてしまうのではないか。
あの魔術師なら。
寸前の喜びも、決意すらも何処かへ消え去っていた。
眼前に現れた『罪』そのものに、巴マミは動きを止めてしまう。
ロットンさんは―――と、気付けば頼れる仲間の姿を探し求めていた。
彼なら、こんな状況でも何とかしてしまうのではないか。
あの魔術師なら。
「あ、」
と、そこまで考えた所で、頼れる魔術師の姿をマミは発見した。
魔術師は仰向けで倒れていた。
胴体に斜めの線を刻まれ、その線から夥しい量の血液を噴出させ、魔術師が倒れていた。
魔術師のその姿に、今度こそ、マミの思考は完全に静止した。
思考停止の魔法少女を置いて、事態は変化していく。
さやかが剣を投げ捨て、多恵の持っているスーツを掴んだ。
掴み、そして奪い取る。
いや、奪い取ろうとして、失敗した。
多恵がスーツを離さなかったのだ。
渾身の力で抱き締め、決して離そうとしない。
構わず、さやかはスーツを引っ張った。
どれほどの力で引っ張たのだろうか、スーツごと多恵の身体は振り回された。
洗濯物の皺を伸ばすかのようにスーツが振るわれ、それに伴い多恵の身体も振るわれる。
一瞬宙を浮いた身体が、勢いに任せて畳へと叩き付けられた。
癇癪を起こした子どもが玩具を叩き付けたかのようだ。
ゴキリとも、メシャリとも取れる不思議で鈍い音が響く。
そしてそれでも、多恵はスーツを手離さなかった。
痛みに顔を歪ませ、恐怖に瞳を閉じきり、しかしそれでもスーツを離さない。
魔術師は仰向けで倒れていた。
胴体に斜めの線を刻まれ、その線から夥しい量の血液を噴出させ、魔術師が倒れていた。
魔術師のその姿に、今度こそ、マミの思考は完全に静止した。
思考停止の魔法少女を置いて、事態は変化していく。
さやかが剣を投げ捨て、多恵の持っているスーツを掴んだ。
掴み、そして奪い取る。
いや、奪い取ろうとして、失敗した。
多恵がスーツを離さなかったのだ。
渾身の力で抱き締め、決して離そうとしない。
構わず、さやかはスーツを引っ張った。
どれほどの力で引っ張たのだろうか、スーツごと多恵の身体は振り回された。
洗濯物の皺を伸ばすかのようにスーツが振るわれ、それに伴い多恵の身体も振るわれる。
一瞬宙を浮いた身体が、勢いに任せて畳へと叩き付けられた。
癇癪を起こした子どもが玩具を叩き付けたかのようだ。
ゴキリとも、メシャリとも取れる不思議で鈍い音が響く。
そしてそれでも、多恵はスーツを手離さなかった。
痛みに顔を歪ませ、恐怖に瞳を閉じきり、しかしそれでもスーツを離さない。
「……ケイちゃん……」
多恵は、痛みの中で、恐怖の中で、想い人の名を呟いた。
さやかが僅かに動きを止める。
数秒の静寂が流れ、直後さやかは多恵を右手で掴み上げた。
掴み上げ、疾走する。
壁をぶち壊し、多恵を掴んで、死体の如く傷付いた身体を走らせる。
残されたのは茫然自失の魔法少女が一人。
一分前までは確かな暖かみのあった世界が、まるで色を変えていた。
さやかが僅かに動きを止める。
数秒の静寂が流れ、直後さやかは多恵を右手で掴み上げた。
掴み上げ、疾走する。
壁をぶち壊し、多恵を掴んで、死体の如く傷付いた身体を走らせる。
残されたのは茫然自失の魔法少女が一人。
一分前までは確かな暖かみのあった世界が、まるで色を変えていた。
「多恵、さん……ロットンさん……あああっ!」
青ざめた表情で声を上げながら、巴マミは血を流すロットンへと近付いていった。
傍らにて膝を付き、ロットンの状態を確認する。
止めどなく流れる鮮血を見て、最悪の結末が思わずマミの脳裏によぎった。
殆ど祈るかのように、マミは自身が持つ治癒魔法を施行する。
癒やしの魔法。魔法少女として彼女が身に付けた固有の力だ。
迅速な選択が幸をそうしたのだろうか、出血は直ぐに弱まり、ロットンの顔色も心無しか良くなっていくように見えた。
これならば助かる、と巴マミの心に安堵感が浮かび上がる。
同時に僅かな冷静さを取り戻した思考に、安堵感とまるで別の感情が沸き上がった。
傍らにて膝を付き、ロットンの状態を確認する。
止めどなく流れる鮮血を見て、最悪の結末が思わずマミの脳裏によぎった。
殆ど祈るかのように、マミは自身が持つ治癒魔法を施行する。
癒やしの魔法。魔法少女として彼女が身に付けた固有の力だ。
迅速な選択が幸をそうしたのだろうか、出血は直ぐに弱まり、ロットンの顔色も心無しか良くなっていくように見えた。
これならば助かる、と巴マミの心に安堵感が浮かび上がる。
同時に僅かな冷静さを取り戻した思考に、安堵感とまるで別の感情が沸き上がった。
生存していた美樹さやか。
そして、美樹さやかに連れ去られた小島多恵。
美樹さやかは殺し合いに乗っていた。
ならば、今すぐにでも多恵を救う為、追跡を開始せねばいけないだろう。
だが、駄目だ。
美樹さやかを思い出すと、身体が縛り付けられたかのように動きを止める。
ロットンを治癒しなければと心が逃げ道にすがりつく。
元々の傷が深くなかった事もあり、ロットンの治癒はそれなりに進んでいた。
正直に言えば、もう山は越えていた。
勿論更なる治癒は必要だが、緊急性は初期と比較して遥かに落ちている。
優先度は、今この瞬間にも危機的状況にある小島多恵の方が高い。
その筈だし、巴マミもその事実を察知していた。
だが、動けない。
美樹さやかと再び対峙する事を、自分の『罪』の証そのものと対峙する事を、拒絶する。
そして、美樹さやかに連れ去られた小島多恵。
美樹さやかは殺し合いに乗っていた。
ならば、今すぐにでも多恵を救う為、追跡を開始せねばいけないだろう。
だが、駄目だ。
美樹さやかを思い出すと、身体が縛り付けられたかのように動きを止める。
ロットンを治癒しなければと心が逃げ道にすがりつく。
元々の傷が深くなかった事もあり、ロットンの治癒はそれなりに進んでいた。
正直に言えば、もう山は越えていた。
勿論更なる治癒は必要だが、緊急性は初期と比較して遥かに落ちている。
優先度は、今この瞬間にも危機的状況にある小島多恵の方が高い。
その筈だし、巴マミもその事実を察知していた。
だが、動けない。
美樹さやかと再び対峙する事を、自分の『罪』の証そのものと対峙する事を、拒絶する。
「う、ううう……」
結局は、ロットンの治癒を逃避の為の口実にしてるに過ぎない。
その事実を巴マミも認識していた。
認識し、理解し、それでも動けないのだ。
情けない、心底から情けなくなる。
人々を助けると決意した矢先のコレだ。
巴マミは涙を流しながら、ロットンの治癒を、自身の『罪』からの逃避を続けていく。
その事実を巴マミも認識していた。
認識し、理解し、それでも動けないのだ。
情けない、心底から情けなくなる。
人々を助けると決意した矢先のコレだ。
巴マミは涙を流しながら、ロットンの治癒を、自身の『罪』からの逃避を続けていく。
【 D-5・商店街・店内/1日目・黎明】
【 罪深き魔術師と罪を背負いし魔法少女 】
【ロットン・“ザ・ウィザード”@ブラック・ラグーン】
【状態】 右肩から左脇に掛けて斬傷(治癒中)、中程度の失血、気絶中
【装備】 普段着(漆黒のコート)、サングラス@GANTZ、
コルト・パイソン(6/6)@魔人探偵脳噛ネウロ、予備弾薬(12/12)
【持ち物】 支給品一式、壊れたサングラス@ブラック・ラグーン
【思考】
基本: クールに行動する。
0:気絶中
1: ……空の月は罪を購い得ない。俺もまた同じだ。
2: マミとタエを守る。
3: シェンホア、ソーヤー……彼女達もまた、俺の庇護を必要とする女性だ。探さねばなるまい。
4: この銃の“命名の儀”を行わなくては。
【備考】
※参戦時期は原作9巻終了後のどこか。
※D-5周辺の道路がベアリングロードであることを確認しました。
※マミと情報を交換し、魔法少女や鹿目まどか、暁美ほむら、美樹さやか、佐倉杏子についての知識を得ました。
※“命名の儀”が終わらなければ銃は抜いても撃ちません。
【状態】 右肩から左脇に掛けて斬傷(治癒中)、中程度の失血、気絶中
【装備】 普段着(漆黒のコート)、サングラス@GANTZ、
コルト・パイソン(6/6)@魔人探偵脳噛ネウロ、予備弾薬(12/12)
【持ち物】 支給品一式、壊れたサングラス@ブラック・ラグーン
【思考】
基本: クールに行動する。
0:気絶中
1: ……空の月は罪を購い得ない。俺もまた同じだ。
2: マミとタエを守る。
3: シェンホア、ソーヤー……彼女達もまた、俺の庇護を必要とする女性だ。探さねばなるまい。
4: この銃の“命名の儀”を行わなくては。
【備考】
※参戦時期は原作9巻終了後のどこか。
※D-5周辺の道路がベアリングロードであることを確認しました。
※マミと情報を交換し、魔法少女や鹿目まどか、暁美ほむら、美樹さやか、佐倉杏子についての知識を得ました。
※“命名の儀”が終わらなければ銃は抜いても撃ちません。
“命名の儀”とは?
戦いの極限状況に於いてこそ得られる詩想により、愛銃に相応しい名を付ける儀式のこと。
これが終わらないうちは一発の弾丸も放つことはしない。
ロットンが銃を撃たない、いや撃てない理由である。
戦いの極限状況に於いてこそ得られる詩想により、愛銃に相応しい名を付ける儀式のこと。
これが終わらないうちは一発の弾丸も放つことはしない。
ロットンが銃を撃たない、いや撃てない理由である。
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【状態】 首を貫く二つの刺し傷(リボンで止血済み)。魔法少女に変身中。
【装備】 ソウルジェム(微量の穢れ)@魔法少女まどか☆マギカ。マスケット銃(1/1)@魔法少女まどか☆マギカ
【持ち物】
【思考】
基本: 罪を背負い、正義を行う。
0: 私は……
1: ロットンを治癒する
2: ロットン治癒後、美樹さやかを追い掛ける。……追いかけなくてはいけないのだが……
2: ロットンと共に行動する。
3: 鹿目さん、暁美さん、佐倉さんを探す。
【備考】
※参戦時期はアニメ10話鹿目まどかにソウルジェムを砕かれた後です。
※他にも魔法少女が居るかもしれないと思っています。
※肉体が支給品扱いなのかは不明です。
※魔法少女の真実に気付きました
※さやかの脱出に伴い、デイバックが破壊されました。基本支給品一式×2、痛みはね返りミラー@ドラえもん、思いきりハサミ@ドラえもん、不明支給品一つ(確認済み)は室内に散らばっています。
【状態】 首を貫く二つの刺し傷(リボンで止血済み)。魔法少女に変身中。
【装備】 ソウルジェム(微量の穢れ)@魔法少女まどか☆マギカ。マスケット銃(1/1)@魔法少女まどか☆マギカ
【持ち物】
【思考】
基本: 罪を背負い、正義を行う。
0: 私は……
1: ロットンを治癒する
2: ロットン治癒後、美樹さやかを追い掛ける。……追いかけなくてはいけないのだが……
2: ロットンと共に行動する。
3: 鹿目さん、暁美さん、佐倉さんを探す。
【備考】
※参戦時期はアニメ10話鹿目まどかにソウルジェムを砕かれた後です。
※他にも魔法少女が居るかもしれないと思っています。
※肉体が支給品扱いなのかは不明です。
※魔法少女の真実に気付きました
※さやかの脱出に伴い、デイバックが破壊されました。基本支給品一式×2、痛みはね返りミラー@ドラえもん、思いきりハサミ@ドラえもん、不明支給品一つ(確認済み)は室内に散らばっています。
◇
美樹さやかは薄暗闇の中で膝を折り畳んでくるまっていた。
身動き一つ取れない閉塞感に、上方から僅かな光しか差し込まない薄暗闇。
余りの閉塞感に思わず、自分は死んでしまったのかと考えてしまうさやかであったが、違う。
声が聞こえてくるのだ。
巴マミの声と、聞き覚えのない男と女の声。
聞こえてくる声に、美樹さやかは自身の生存を再確認する。
試しに、断絶状態にあった痛覚を元に戻してみると、身体中を信じられないような激痛が走った。
身動き一つ取れない閉塞感に、上方から僅かな光しか差し込まない薄暗闇。
余りの閉塞感に思わず、自分は死んでしまったのかと考えてしまうさやかであったが、違う。
声が聞こえてくるのだ。
巴マミの声と、聞き覚えのない男と女の声。
聞こえてくる声に、美樹さやかは自身の生存を再確認する。
試しに、断絶状態にあった痛覚を元に戻してみると、身体中を信じられないような激痛が走った。
「ガアアっ……!」
思わず苦悶が漏れるが、これで確信できた。
痛覚があるという事は、死んでいないという事だ。
再び痛覚を断絶させ、美樹さやかは思考する。
あれだけの弾丸を食らっても、魂を内包する宝具さえ無事であれば死ぬ事のない身体。
やはりゾンビだなと自嘲する一方で、感謝も覚える。
この身体がなければ、魔法少女としての力がなければ、この殺し合いを勝ち抜く事は到底できないからだ。
だから、この一時だけは感謝をしよう。
上條恭介の元に帰る為、元の人間に戻る為、この身体は最大限に活用させて貰う。
美樹さやかは身体の治癒に専念しながら、少しばかりの休息を取った。
光が差し込む上方から聞こえてくる声。
身体の回復に努めながら、会話に耳を傾ける。
聞こえてきた会話は、さやかにとって僥倖以外の何物でもなかった。
痛覚があるという事は、死んでいないという事だ。
再び痛覚を断絶させ、美樹さやかは思考する。
あれだけの弾丸を食らっても、魂を内包する宝具さえ無事であれば死ぬ事のない身体。
やはりゾンビだなと自嘲する一方で、感謝も覚える。
この身体がなければ、魔法少女としての力がなければ、この殺し合いを勝ち抜く事は到底できないからだ。
だから、この一時だけは感謝をしよう。
上條恭介の元に帰る為、元の人間に戻る為、この身体は最大限に活用させて貰う。
美樹さやかは身体の治癒に専念しながら、少しばかりの休息を取った。
光が差し込む上方から聞こえてくる声。
身体の回復に努めながら、会話に耳を傾ける。
聞こえてきた会話は、さやかにとって僥倖以外の何物でもなかった。
「タエ、この服を着ると良い。この服は装着している者の身体能力と耐久力を引き上げてくれる。これを着ていれば銃で撃たれても死にはしない。俺よりも君が着ているべきだろう」
「でも、それじゃあロットンさんは……」
「でも、それじゃあロットンさんは……」
会話の中に出て来たガンツスーツというアイテム。
何とそのスーツは着用するだけで身体能力を飛躍的に引き上げるらしい。
恐らくは現在両手に装着されているスーパー手袋と同系統のアイテムなのだろう。
身体の治癒に魔力を大きく使用した今、これ以上の魔力消費は避けたい所である。
その矢先に知る事のできたガンツスーツというアイテム。
幸運だ、と美樹さやかは素直に感じていた。
そのガンツスーツとスーパー手袋があれば、それだけで驚異の力を得る事ができる。
いざとなれば魔法少女の力も平行活用できる。
ガンツスーツ、スーパー手袋、魔法少女としての力。
その全てが重なり合い、導かれる力は想像する事すら難しい。
出だしは蹴躓いたが、運は此方に傾きつつある。
何とそのスーツは着用するだけで身体能力を飛躍的に引き上げるらしい。
恐らくは現在両手に装着されているスーパー手袋と同系統のアイテムなのだろう。
身体の治癒に魔力を大きく使用した今、これ以上の魔力消費は避けたい所である。
その矢先に知る事のできたガンツスーツというアイテム。
幸運だ、と美樹さやかは素直に感じていた。
そのガンツスーツとスーパー手袋があれば、それだけで驚異の力を得る事ができる。
いざとなれば魔法少女の力も平行活用できる。
ガンツスーツ、スーパー手袋、魔法少女としての力。
その全てが重なり合い、導かれる力は想像する事すら難しい。
出だしは蹴躓いたが、運は此方に傾きつつある。
「奥の方で着替えてくると良い。着替えたら、行こう」
加えて現在ガンツスーツは誰にも着用されていないようであった。
合流した別の参加者にスーツを着せようとしているらしい。
チャンスだ、とさやかは思う。
身体は全快には程遠いが、痛覚を遮断し魔力を注ぎ込めばまだギリギリで稼働する。
スーパー手袋も外されていない。
会話からするにスーツを渡されている参加者はただの一般人のようである。
ならば、いける。
魔力で強化した身体で接近し、スーパー手袋も利用して、スーツを奪う。
たったそれだけの簡単な動作だ。
問題はない。ない、筈だ。
決意は容易に固まり、さやかは即座の行動を選択した。
魔力でサーベルを発現させ、唯一の出入り口らしき光の差し込む隙間へと刃を走らせる。
縦に刃を振り抜いた。
それだけで閉塞感に満ちた薄暗闇の空間が崩壊し、外の世界へと移る事ができた。
ドシャ、と僅かな距離を不恰好に墜落し、さやかは周囲の状況を確認した。
視界の中には二人の人物。
サングラスを掛けた外人と、黒色の何かを抱える少女が一人。
会話によると、元々男性が着ていたガンツスーツを、巴マミ以外の少女へ着るように勧めたようだ。
あのサングラスが元々ガンツスーツを着用していた男で、少女がガンツスーツを手渡された。
つまりは、あの少女が抱えてている黒色の何かが、ガンツスーツなのだろう。
合流した別の参加者にスーツを着せようとしているらしい。
チャンスだ、とさやかは思う。
身体は全快には程遠いが、痛覚を遮断し魔力を注ぎ込めばまだギリギリで稼働する。
スーパー手袋も外されていない。
会話からするにスーツを渡されている参加者はただの一般人のようである。
ならば、いける。
魔力で強化した身体で接近し、スーパー手袋も利用して、スーツを奪う。
たったそれだけの簡単な動作だ。
問題はない。ない、筈だ。
決意は容易に固まり、さやかは即座の行動を選択した。
魔力でサーベルを発現させ、唯一の出入り口らしき光の差し込む隙間へと刃を走らせる。
縦に刃を振り抜いた。
それだけで閉塞感に満ちた薄暗闇の空間が崩壊し、外の世界へと移る事ができた。
ドシャ、と僅かな距離を不恰好に墜落し、さやかは周囲の状況を確認した。
視界の中には二人の人物。
サングラスを掛けた外人と、黒色の何かを抱える少女が一人。
会話によると、元々男性が着ていたガンツスーツを、巴マミ以外の少女へ着るように勧めたようだ。
あのサングラスが元々ガンツスーツを着用していた男で、少女がガンツスーツを手渡された。
つまりは、あの少女が抱えてている黒色の何かが、ガンツスーツなのだろう。
状況を確認し終え、さやかは即座に行動に移った。
謎の空間から脱出する為に振るったサーベルを握り締め、まず初めにサングラスの男へと接近する。
男は驚愕に呆然としながらも、殆ど反射的といった様子で腰部へと手を伸ばしていた。
武器か何かを隠し持っているのか、と思考しつつ、さやかは躊躇いなくサーベルを振るった。
男の動作は俊敏なものであったが、それでも不意を付いた分、圧倒的にさやかの方が早かった。
男を、右肩から袈裟懸けに斬り裂く。
斬られた勢いそのままに仰向けで倒れ伏す男。
倒れた男には目も向けず、さやかは床を蹴り抜いた。
謎の空間から脱出する為に振るったサーベルを握り締め、まず初めにサングラスの男へと接近する。
男は驚愕に呆然としながらも、殆ど反射的といった様子で腰部へと手を伸ばしていた。
武器か何かを隠し持っているのか、と思考しつつ、さやかは躊躇いなくサーベルを振るった。
男の動作は俊敏なものであったが、それでも不意を付いた分、圧倒的にさやかの方が早かった。
男を、右肩から袈裟懸けに斬り裂く。
斬られた勢いそのままに仰向けで倒れ伏す男。
倒れた男には目も向けず、さやかは床を蹴り抜いた。
次にさやかが接近していったのは、ガンツスーツらしきアイテムを抱える少女。
一瞬で距離を詰め、ガンツスーツを掴み、スーパー手袋にて強化された腕力に任せて、奪い取る。
が、ここで予想外の事態が発生する。
一瞬で距離を詰め、ガンツスーツを掴み、スーパー手袋にて強化された腕力に任せて、奪い取る。
が、ここで予想外の事態が発生する。
少女がガンツスーツを離そうとしないのだ。
離さず、ガンツスーツごと振り回され、背中から床へと叩き付けられる。
墜落の勢いは凄まじく、床に敷かれていた畳がへし折れ、めくれ上がる。
墜落の音はもはや爆発音のようであった。
内臓の一つでも損傷したのか、少女の口元から鮮血が零れる。
口から血を零し、表情を苦悶に歪めながらも、少女はスーツを手離さなかった。
何なのだ。
この女は何故ここまでこのスーツに執着する。
自身の身体能力を引き上げると知っているから?
だが、このままスーツを抱えていれば女は死ぬ。
それでは元も子もない筈だ。
執着の理由は、別の所にある。
そう、さやかは察知した。
離さず、ガンツスーツごと振り回され、背中から床へと叩き付けられる。
墜落の勢いは凄まじく、床に敷かれていた畳がへし折れ、めくれ上がる。
墜落の音はもはや爆発音のようであった。
内臓の一つでも損傷したのか、少女の口元から鮮血が零れる。
口から血を零し、表情を苦悶に歪めながらも、少女はスーツを手離さなかった。
何なのだ。
この女は何故ここまでこのスーツに執着する。
自身の身体能力を引き上げると知っているから?
だが、このままスーツを抱えていれば女は死ぬ。
それでは元も子もない筈だ。
執着の理由は、別の所にある。
そう、さやかは察知した。
「……ケイちゃん……」
そして、さやかは聞いてしまった。
少女の呟きを、想い人に向けて放たれた呟きを、聞いた。
その瞬間、感情が噴出する。
抑えがたい感情が噴出し、さやかの思考を奪い去った。
血反吐を吐きながら呟かれた、『ケイちゃん』という言葉。
死の寸前にあって紡がれる名前とは、つまりそういう事なのだろう。
何より、その表情が女と『ケイちゃん』の関係性を物語っている。
恋人。
想い人。
『ケイちゃん』という名の者と、この地味な女はそういう関係なのだろう。
そう認識すると同時に、さやかの心中でとある感情が急速的に膨れ上がった。
感情に任せて、さやかは少女を掴み上げた。
まるで買い物袋でも持つかのような気軽さで少女を持ち上げ、そのまま走り去る。
今のさやかに出口など関係なかった。
突き当たりの壁を思い切り蹴破り、崩壊させ、新しい出口とする。
蹴りの際に治癒しかけの足から再出血が見られたが、さやかは気にも止めない。
少女を右手にぶら下げたまま、夜の市街地へと駆けだしていった。
そして始まるのは、女の戦いであった。
恋しか知らない女と、愛を知る女との、戦い。
夜の市街地にて、死闘が繰り広げられる。
少女の呟きを、想い人に向けて放たれた呟きを、聞いた。
その瞬間、感情が噴出する。
抑えがたい感情が噴出し、さやかの思考を奪い去った。
血反吐を吐きながら呟かれた、『ケイちゃん』という言葉。
死の寸前にあって紡がれる名前とは、つまりそういう事なのだろう。
何より、その表情が女と『ケイちゃん』の関係性を物語っている。
恋人。
想い人。
『ケイちゃん』という名の者と、この地味な女はそういう関係なのだろう。
そう認識すると同時に、さやかの心中でとある感情が急速的に膨れ上がった。
感情に任せて、さやかは少女を掴み上げた。
まるで買い物袋でも持つかのような気軽さで少女を持ち上げ、そのまま走り去る。
今のさやかに出口など関係なかった。
突き当たりの壁を思い切り蹴破り、崩壊させ、新しい出口とする。
蹴りの際に治癒しかけの足から再出血が見られたが、さやかは気にも止めない。
少女を右手にぶら下げたまま、夜の市街地へと駆けだしていった。
そして始まるのは、女の戦いであった。
恋しか知らない女と、愛を知る女との、戦い。
夜の市街地にて、死闘が繰り広げられる。
◇
「ぐッ……!」
何処からともなく現れた少女に連れ去られて、数分ばかりの時間が経過した時であった。
小島多恵は屑ゴミのような扱いで、地面へと無造作に投げ捨てられた。
鈍痛に占領された背中へと更なる衝撃が加わり、多恵の呼吸が止められる。
それでもガンツスーツは手放さず、その小さな身体で抱き締めていた。
恐怖に目を閉じきり、小動物のように身体を震わせる。
それでもガンツスーツだけは手離さない。
彼が着ていたものと同様の、漆黒のスーツ。
それを手離す事だけは出来なかった。
小島多恵は屑ゴミのような扱いで、地面へと無造作に投げ捨てられた。
鈍痛に占領された背中へと更なる衝撃が加わり、多恵の呼吸が止められる。
それでもガンツスーツは手放さず、その小さな身体で抱き締めていた。
恐怖に目を閉じきり、小動物のように身体を震わせる。
それでもガンツスーツだけは手離さない。
彼が着ていたものと同様の、漆黒のスーツ。
それを手離す事だけは出来なかった。
「ねえ、アンタに話があるんだけど」
問答無用で襲撃をしてきた筈の少女が、何故だか話し掛けてきた。
投げ掛けられた言葉に、多恵は身体を震わせながらも瞼を開く。
其処には青髪の少女がいた。
身体中の至る所を血に染めた、素人目にも満身創痍だと分かる少女。
だが、少女は自身の負傷などまるで気にしない様子で多恵へ言葉を飛ばしていた。
その様子はまるで、パニック映画に出て来る怪物のようだ。
どんな傷を負っても活動を取り続ける存在。
刺しても、撃っても、何をしようと進撃を止めない化け物。
少なくとも多恵の目には、少女がそのような存在と同列のものに映った。
恐怖で喉が干上がり、声も出せない。
背中の鈍痛も重みを増していく。
多恵は手中のガンツスーツを強く強く握り締めた。
投げ掛けられた言葉に、多恵は身体を震わせながらも瞼を開く。
其処には青髪の少女がいた。
身体中の至る所を血に染めた、素人目にも満身創痍だと分かる少女。
だが、少女は自身の負傷などまるで気にしない様子で多恵へ言葉を飛ばしていた。
その様子はまるで、パニック映画に出て来る怪物のようだ。
どんな傷を負っても活動を取り続ける存在。
刺しても、撃っても、何をしようと進撃を止めない化け物。
少なくとも多恵の目には、少女がそのような存在と同列のものに映った。
恐怖で喉が干上がり、声も出せない。
背中の鈍痛も重みを増していく。
多恵は手中のガンツスーツを強く強く握り締めた。
「何だっけ……さっきのケイちゃん、だっけ? それってアンタの彼氏?」
少女の質問は、現在の状況からかけ離れたもののように思えた。
何を意図してこのような質問をするのかが分からない。
恐怖と混乱がぐちゃぐちゃに入り混じり、多恵は答えを返す事ができなかった。
何を意図してこのような質問をするのかが分からない。
恐怖と混乱がぐちゃぐちゃに入り混じり、多恵は答えを返す事ができなかった。
「答えろ」
「ッ!? アアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ッ!? アアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
無言に対する懲罰は凄惨なものであった。
何時の間にやら少女の右手に握られていたサーベルが、多恵の右太腿を貫いたのだ。
サーベルにより太腿と地面とを縫い付けられ、恐怖に役目を忘れていた筈の喉から絶叫が溢れ出た。
痛い。
背中の鈍痛など欠き消えてしまう程の激痛だ。
何時の間にやら少女の右手に握られていたサーベルが、多恵の右太腿を貫いたのだ。
サーベルにより太腿と地面とを縫い付けられ、恐怖に役目を忘れていた筈の喉から絶叫が溢れ出た。
痛い。
背中の鈍痛など欠き消えてしまう程の激痛だ。
「あー、うっさいわねえ。早く答えろっつてんのよ。アンタとケイちゃんは恋人同士なのか、早く言えよ」
涙が流れ、汗が噴き出す。
痛い、痛い、痛い。
痛みに何も考えられなくなる。
思考が止まり、ただ意味もなくもがく。
それで痛みがどうにかなる訳でもないのに、もがく。
痛い、痛い、痛い。
痛みに何も考えられなくなる。
思考が止まり、ただ意味もなくもがく。
それで痛みがどうにかなる訳でもないのに、もがく。
「おい」
バシリと、頬を叩かれた。
多恵と同様の細い腕で、加えてボロボロの身体だというのに、その平手打ちは脳を揺らす程の威力があった。
口の中にドロリとした感触が広がっていく。
どうやら口の中を切ってしまったようだ。
多恵と同様の細い腕で、加えてボロボロの身体だというのに、その平手打ちは脳を揺らす程の威力があった。
口の中にドロリとした感触が広がっていく。
どうやら口の中を切ってしまったようだ。
「そ……そう、です……」
痛みと恐怖の中で、もはや多恵は少女に従う他なかった。
揺れる視界に足の激痛が相成って、吐き気が込み上げてくる。
小島多恵は感じていた。
ひたひたと間近に迫る死の感覚を、幼いその胸中に感じ取っていた。
漆黒のスーツを、握り締める。
揺れる視界に足の激痛が相成って、吐き気が込み上げてくる。
小島多恵は感じていた。
ひたひたと間近に迫る死の感覚を、幼いその胸中に感じ取っていた。
漆黒のスーツを、握り締める。
「へぇー、そうなんだー。彼氏ねぇー、愛し合ってるんだー」
顔中に脂汗を浮かべ、苦悶の表情で屈み込む多恵を尻目に、少女は軽い調子で頷いていた。
なる程なる程と何度も頷き、何かを考え込んでいるようであった。
数秒程の思考の末に、少女が多恵の方へと手を伸ばす。
いや、正確に言えば多恵が背負っていたデイバックへ、か。
少女はデイバックを掴むと、腕力に任せてその肩紐をぶち切った。
なる程なる程と何度も頷き、何かを考え込んでいるようであった。
数秒程の思考の末に、少女が多恵の方へと手を伸ばす。
いや、正確に言えば多恵が背負っていたデイバックへ、か。
少女はデイバックを掴むと、腕力に任せてその肩紐をぶち切った。
「えーと、確かに入ってた筈なんだよなあ」
奪取したデイバックを漁り始める少女。
少女が取り出したのは一枚の紙であった。
その紙を上から下へと目を通していく。
少女が取り出したのは一枚の紙であった。
その紙を上から下へと目を通していく。
「あぁ、あったあった。アンタの言うケイちゃんって、この玄野計って奴でしょ」
少女の口から出た愛する人の名前に、多恵は嫌な予感しか感じなかった。
途轍もない、嫌な予感。
自分は何かを間違えてしまったのではないか、と思わず考えてしまう。
途轍もない、嫌な予感。
自分は何かを間違えてしまったのではないか、と思わず考えてしまう。
「ねぇ、今ケイちゃんを呼んでみてよ。出来るだけ大きな声で叫んでさ、助けを求めてみてよ。
そしたらアンタは助けてあげるよ。ケイちゃんが来ても、来なくてもね」
そしたらアンタは助けてあげるよ。ケイちゃんが来ても、来なくてもね」
そして、少女の言葉に多恵は予感の的中を理解した。
この少女は、玄野計を殺害しようとしている。
何故、少女がこのような行動を取るのかは分からない。
何故、少女が玄野の殺害を決意したのかは分からない。
ただ一つだけ、この少女が玄野に対して殺意を抱いている事だけは確かであった。
少女は言った。
玄野を呼び出せば、来る来ないに関わらず、多恵の命を奪わないと。
だが、それは裏を返せば、玄野を呼ばねばお前を殺すという事だ。
会場は広大だ。
加えて多恵が全力で叫んだ所で、声の届く範囲などたかが知れている。
その範囲に玄野がいるとも限らない。寧ろいない可能性の方が遥かに高い筈だ。
玄野が来ずとも、この少女は助けてくれると言った。
ならば、叫んでしまえば良い。
一度だけ、大きな声で、助けを求めれば良い。
この少女は、玄野計を殺害しようとしている。
何故、少女がこのような行動を取るのかは分からない。
何故、少女が玄野の殺害を決意したのかは分からない。
ただ一つだけ、この少女が玄野に対して殺意を抱いている事だけは確かであった。
少女は言った。
玄野を呼び出せば、来る来ないに関わらず、多恵の命を奪わないと。
だが、それは裏を返せば、玄野を呼ばねばお前を殺すという事だ。
会場は広大だ。
加えて多恵が全力で叫んだ所で、声の届く範囲などたかが知れている。
その範囲に玄野がいるとも限らない。寧ろいない可能性の方が遥かに高い筈だ。
玄野が来ずとも、この少女は助けてくれると言った。
ならば、叫んでしまえば良い。
一度だけ、大きな声で、助けを求めれば良い。
「ほら、早くしなよ」
でも、何故だろう。
小島多恵は言葉を発する事ができなかった。
恐怖と痛みに身体を震わせ、瞳から涙を流して、それでも口を閉ざす。
叫んでしまえば、助けを求めてしまえば、何かが終わってしまう気がした。
少しでも、万が一にでも、玄野を危険に巻き込む可能性がある。
そう思うと、声は止まっていた。
呻き声すら漏らさない。
スーツを抱き締めて、多恵は完全に口を閉ざした。
小島多恵は言葉を発する事ができなかった。
恐怖と痛みに身体を震わせ、瞳から涙を流して、それでも口を閉ざす。
叫んでしまえば、助けを求めてしまえば、何かが終わってしまう気がした。
少しでも、万が一にでも、玄野を危険に巻き込む可能性がある。
そう思うと、声は止まっていた。
呻き声すら漏らさない。
スーツを抱き締めて、多恵は完全に口を閉ざした。
「……おい、シカトすんな」
グサリと、身体の内側を通して音が聞こえた。
先程刺された右足と反対。左脚の太腿にまた別のサーベルが生えていた。
両脚から生える二本のサーベルは多恵に壮絶な痛みをもたらした。
絶大な痛覚が身体を支配し、だが、それでも多恵は無言を通す。
先程刺された右足と反対。左脚の太腿にまた別のサーベルが生えていた。
両脚から生える二本のサーベルは多恵に壮絶な痛みをもたらした。
絶大な痛覚が身体を支配し、だが、それでも多恵は無言を通す。
「早く言えって」
左太腿を貫通するサーベルをグリグリと捻り、多恵から絶叫を引き出そうとする。
無様に泣き叫び、玄野計へ助けを求めるように促す。
だが、叫ばない。
言葉を漏らさぬよう、スーツに歯を立てて痛みに耐える。
こいつは何なのだ、と少女は憤りと苛立ちに任せてそう思っていた。
先程までは痛みに怯え、泣き、叫んでいた普通の少女だった筈だ。
それが何故、この状況になって口を閉ざす。
声を出さないよう、必死に堪えている。
無様に泣き叫び、玄野計へ助けを求めるように促す。
だが、叫ばない。
言葉を漏らさぬよう、スーツに歯を立てて痛みに耐える。
こいつは何なのだ、と少女は憤りと苛立ちに任せてそう思っていた。
先程までは痛みに怯え、泣き、叫んでいた普通の少女だった筈だ。
それが何故、この状況になって口を閉ざす。
声を出さないよう、必死に堪えている。
「おい!」
左太腿のサーベルを引き抜き、また突き刺す。
太腿の別の箇所に思い切り振り下ろす。
サーベルを引き抜かれた傷跡から鮮血が噴き出し、地面を真っ赤に染める。
新たに刻まれた傷から少量の血が飛び散り、少女の身体に掛かる。
小島多恵は、口を開かない。
歯を食いしばり、必死の形相で耐えていた。
太腿の別の箇所に思い切り振り下ろす。
サーベルを引き抜かれた傷跡から鮮血が噴き出し、地面を真っ赤に染める。
新たに刻まれた傷から少量の血が飛び散り、少女の身体に掛かる。
小島多恵は、口を開かない。
歯を食いしばり、必死の形相で耐えていた。
「呼べよ!」
多恵の耐える姿が、少女をどうしようもなく苛立たせる。
救済という餌をちらつかせて尚、この女は玄野計を呼ぼうとしない。
死地にあって自己より他者を優先する。
それは愛する者を守ろうとする女の姿であった。
自分には、ゾンビ同然の姿となった自分には、到底なし得ない姿。
身体を傷付けられてさえも、死の寸前にあってさえも貫き通す愛の形。
その姿が、腹立たしい。
ただひたすらに腹立たしい。
救済という餌をちらつかせて尚、この女は玄野計を呼ぼうとしない。
死地にあって自己より他者を優先する。
それは愛する者を守ろうとする女の姿であった。
自分には、ゾンビ同然の姿となった自分には、到底なし得ない姿。
身体を傷付けられてさえも、死の寸前にあってさえも貫き通す愛の形。
その姿が、腹立たしい。
ただひたすらに腹立たしい。
「呼べ」
サーベルを抜き、突き刺す。
女は口を開かない。
女は口を開かない。
「呼べ」
サーベルを抜き、突き刺す。
女は口を開かない。
女は口を開かない。
「呼べ」
サーベルを抜き、突き刺す。
女は口を開かない。
女は口を開かない。
「呼べ」
サーベルを抜き、突き刺す。
女は口を開かない。
女は口を開かない。
「―――呼べよぉぉぉおおおおおおおおおオオ!!!」
サーベルを抜き、突き刺す。
そして、遂に女は口を開いた。
口を開き、言葉を発した。
そして、遂に女は口を開いた。
口を開き、言葉を発した。
「ゴメンね……ケイちゃん」
助けを求めるものではない、心底からの謝罪の言葉を、小島多恵は零した。
そして、それきり多恵は動かなくなった。
死んだのだ。
最期の最期まで恋人を守る為に声を上げず、最期の最期まで恋人を想って、小島多恵は死亡した。
恋しか知らない少女へ愛の強大さを見せ付け、多恵は死亡した。
そして、それきり多恵は動かなくなった。
死んだのだ。
最期の最期まで恋人を守る為に声を上げず、最期の最期まで恋人を想って、小島多恵は死亡した。
恋しか知らない少女へ愛の強大さを見せ付け、多恵は死亡した。
「は? 何? 何なの?」
死んだ多恵を前に、少女の憤りは晴れる事はなかった。
最期まで折れる事のなかった多恵。
本当の恐怖を前にすれば愛なんて矮小なものだと、教えてやりたかった。
保身のために恋人たる男を差し出す女の姿を見たかった。
その筈だったのに、逆に見せ付けられたのだ。
愛の強大さを。
恋しか知らぬ少女の矮小さを。
小島多恵という何の力も持たない女に、見せ付けられた。
最期まで折れる事のなかった多恵。
本当の恐怖を前にすれば愛なんて矮小なものだと、教えてやりたかった。
保身のために恋人たる男を差し出す女の姿を見たかった。
その筈だったのに、逆に見せ付けられたのだ。
愛の強大さを。
恋しか知らぬ少女の矮小さを。
小島多恵という何の力も持たない女に、見せ付けられた。
「何なのよ、アンタはあああああああああああ!!」
死体に向けて、何度も何度もサーベルを振り下ろす。
振り下ろせば振り下ろす程、自身の矮小さが際立つと知らずに、少女はサーベルを振るった。
意味のない、自虐とすら取れる行動は十数分に及んだ。
刃を振り下ろした体勢のまま、少女は肩で大きく息をする。
変わらぬ苛立ちに心をざわつかせたまま、少女はサーベルを消失させた。
振り下ろせば振り下ろす程、自身の矮小さが際立つと知らずに、少女はサーベルを振るった。
意味のない、自虐とすら取れる行動は十数分に及んだ。
刃を振り下ろした体勢のまま、少女は肩で大きく息をする。
変わらぬ苛立ちに心をざわつかせたまま、少女はサーベルを消失させた。
「……早く、元の私に戻らなくっちゃ」
もはや何が何だか分からない程にグシャグシャとなった死体から、黒色のスーツを引きずり出す。
流石にもう抵抗はなかった。
血と肉まみれになったスーツを奪取すると、少女は視界に入った適当な民家に侵入した。
そして血塗れの服を脱ぎ、血塗れのガンツスーツを着用する。
手の部分には、スーツの上から更にスーパー手袋を装着した。
流石にもう抵抗はなかった。
血と肉まみれになったスーツを奪取すると、少女は視界に入った適当な民家に侵入した。
そして血塗れの服を脱ぎ、血塗れのガンツスーツを着用する。
手の部分には、スーツの上から更にスーパー手袋を装着した。
「そうよ、私だって人間の身体があれば……」
装備を整え、少女は行動を再開した。
身体の治癒も大部分が完了していた。
目的のスーツも入手したし、スーパー手袋もある。
この二つのアイテムさえあれば、魔法少女のような強大な敵を相手にしても魔力を使わずに戦い抜く事が可能であろう。
身体の治癒に相当な魔力を消費してしまった今、何よりも魔力の節約が重要だ。
スーツやスーパー手袋では倒せないような参加者と出会った時は、切り札として魔法少女の力を平行して使用する。
スーツと手袋は、魔法で強化された身体を更なるものに押し上げてくれる事だろう。
身体の治癒も大部分が完了していた。
目的のスーツも入手したし、スーパー手袋もある。
この二つのアイテムさえあれば、魔法少女のような強大な敵を相手にしても魔力を使わずに戦い抜く事が可能であろう。
身体の治癒に相当な魔力を消費してしまった今、何よりも魔力の節約が重要だ。
スーツやスーパー手袋では倒せないような参加者と出会った時は、切り札として魔法少女の力を平行して使用する。
スーツと手袋は、魔法で強化された身体を更なるものに押し上げてくれる事だろう。
「待っててね恭介……私、直ぐに元通りになるから……」
血濡れの少女が暗闇を行く。
未来の道具により歪められた心を更に歪曲させて、少女―――美樹さやかは殺し合いの場に再び立つ。
愛の力を垣間見た、恋しか知らない少女。
結局、彼女は自分を取り戻す事ができなかった。
醜悪な嫉妬心に任せて行動し、願い事を叶える為に尚も殺し合いを続けようとする。
これが、真実。
未来の道具により歪められた心を更に歪曲させて、少女―――美樹さやかは殺し合いの場に再び立つ。
愛の力を垣間見た、恋しか知らない少女。
結局、彼女は自分を取り戻す事ができなかった。
醜悪な嫉妬心に任せて行動し、願い事を叶える為に尚も殺し合いを続けようとする。
これが、真実。
恋に溺れた人魚姫が、足掻いて足掻いて深海を進んでいく―――、
【小島多恵@GANTZ 死亡】
【 D-4・市街地/1日目・黎明】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【状態】 右手破壊、左肩断裂、心臓、腹部、左大腿部、その他体中に銃創(大部分が回復しました、治癒中)。
ソウルジェムが濁り始めている。 痛覚遮断。
【装備】血濡れのガンツスーツ@GANTZ、スーパー手ぶくろ@ドラえもん、腕時計
【持ち物】 ソウルジェム(中程度の穢れ)@魔法少女まどか☆マギカ(上着のポケットの中)、小島多恵のデイバック(支給品一式、不明支給品1~3)
【思考】
基本:生きて帰る。優勝し、元の身体を手に入れる
1: 魔力の消費をできるだけ抑えて、参加者を殺害していく。
2: 強敵と遭遇したら、魔法少女の力も使用する
3: 殺害した少女(小島多恵)に対して苛立ち
【備考】
※参戦時期は7話で志筑仁美から上条恭介に告白すると宣言された後、8話で仁美が恭介に告白する場面を目撃する前。
※肉体が支給品扱いなのかは不明です。
※美樹さやかのデイバッグの中に入っています。
※美樹さやかのデイバッグは巴マミのデイバッグに入っています。
※マミの話を聞いたかもしれません。
※思い切りハサミの説明書は消滅しました。
※デイバックからの脱出の際、美樹さやかのデイバックを破壊しました。
【状態】 右手破壊、左肩断裂、心臓、腹部、左大腿部、その他体中に銃創(大部分が回復しました、治癒中)。
ソウルジェムが濁り始めている。 痛覚遮断。
【装備】血濡れのガンツスーツ@GANTZ、スーパー手ぶくろ@ドラえもん、腕時計
【持ち物】 ソウルジェム(中程度の穢れ)@魔法少女まどか☆マギカ(上着のポケットの中)、小島多恵のデイバック(支給品一式、不明支給品1~3)
【思考】
基本:生きて帰る。優勝し、元の身体を手に入れる
1: 魔力の消費をできるだけ抑えて、参加者を殺害していく。
2: 強敵と遭遇したら、魔法少女の力も使用する
3: 殺害した少女(小島多恵)に対して苛立ち
【備考】
※参戦時期は7話で志筑仁美から上条恭介に告白すると宣言された後、8話で仁美が恭介に告白する場面を目撃する前。
※肉体が支給品扱いなのかは不明です。
※美樹さやかのデイバッグの中に入っています。
※美樹さやかのデイバッグは巴マミのデイバッグに入っています。
※マミの話を聞いたかもしれません。
※思い切りハサミの説明書は消滅しました。
※デイバックからの脱出の際、美樹さやかのデイバックを破壊しました。
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| もう何も迷わない (後編) | 美樹さやか | Night of the Living Dead |
| 巴マミ | 銃弾 | |
| ロットン・“ザ・ウィザード” | ||
| 行動開始 | 小島多恵 | 死亡 |
時をかけた男