再会の夜 4
マイケルは至って真面目な顔つきでベストの前を開き終えると、シャツの襟元に手を伸ばした。ボタンが一つ外されるたびに、ひんやりとした夜気が素肌を撫でる。そんな些細なことまでが、酷く鮮明だ。過去に誰かを抱いたときも同じように衣服を脱いでいたというのに、立場が変わるだけで、こうも落ち着かない気分になるものなのだろうか。或いは目の前にあるこの、熱に浮かされた懸命な目がいけないのだろうか。
いたたまれさに熱っぽい浮遊感が混ざり始めた奇妙な感覚の中で、ニールは逃げ場を求めるように手を彷徨わせた。とはいえ、身体ごと逃げ出しはしないのだから、届く範囲などたかが知れている。その手が、ふわりとした柔らかなものに触れた。先ほども弄っていた、黄金色の巻き毛だ。犬のようだ何だと散々にからかってきたが、ニールはこの髪をすこぶる気に入っている。手触りが良いだけでなく、触れていると酷く温かなもので胸が満たされるからだ。それは、相手への純粋な好意であり、かつて喪ったものへの懐かしさでもあるのだろう。欲求に逆らわず、ニールは両手を巻き毛に埋め、何度も梳いた。指の間を逃げる感触を楽しんでいるうちに、いたたまれなさが少しずつ宥められるような気がする。
ボタンを外す手を止めないまま、マイケルが喉仏に唇を落とした。急所を柔らかく吸われる感触に、反射的に身体が強張る。唇はそのままゆっくりと下に向かい、鎖骨を舐め、胸の尖りに辿りついた。かかる吐息がくすぐったいが、覚えるのはそれだけではない。まだ快楽とも呼べない淡い衝動が、背筋を這い上っていく。
「……ッ」
生温かく濡れた感触に包まれて、ニールは小さく喉を鳴らした。舐め上げられたかと思えば、尖らせた舌先で押し潰される。その度に、淡い衝動がはっきりとした快楽に形を変え、ニールの身体を訳もなく跳ねさせようとする。過去に夜を共にした相手にも、胸を弄られたことはあった。だが、これほどまでに強く熱を煽られたことは、ない。その事実がどうにも気恥ずかしくて、震えを押さえこむように、ニールは目の前の身体を強く抱き込んだ。
「ニール」
「うるせえ」
身動きが取れなくなったのだろう、咎める声がする。それを唸り声で切り捨てて、ニールは抱き込んだ相手ごと、無理矢理に身体を起こした。腿の上に跨る形になったマイケルの頭は、ニールよりも少し高い位置にある。その顔が、不満そうにニールを見下ろした。
「何だよ、さっき許してくれたばかりじゃないか」
「うるせえな、少しは俺にも触らせろ。触りたいのがお前だけだと思ったら大間違いだからな」
言いながら、相手の背に回していた腕を、身体の間に割り込ませた。表情こそ熱に浮かされているが、マイケルの着衣にはまだ少しの乱れもない。こちらは前をほとんど開けさせられているというのに、この落差はどうにも悔しく、それ以上にいたたまれない。問答無用で、ニールは子供のシャツに手をかけた。この数年こそ遠ざかっていたが、それまではしばしば行っていたことだ。他人のボタンを外す感覚など、指が覚えている。
マイケルは驚いた様子でニールを見た後、唇を引き締めた。頬の色が一層濃くなったように見えたのは、目の錯覚ではないだろう。
「……ニールに触られると、余裕がなくなるんだ。何がしたいのか、わからなくなりそうで」
そう呟いて、マイケルは怒った様子でニールに口付けた。あっさりと口を開けば、隙間からマイケルの舌が潜り込んでくる。互いの口内を探り合い、絡ませ合う。粘膜からじかに響く水音に、背筋が震え、簡単に息が上がった。
そうしている間に、ニールのシャツの裾が、スラックスから引っ張り出された。完全にボタンを外し終えて、マイケルがキスをしたまま少し得意そうに笑う。手はそのままニールの腹に押し当てられ、掌で腹筋をなぞった。そんな軽微な感覚さえ、吐息が震えるほど、いい。まだ大して触れ合っていないというのに、これまでのどんなセックスよりもいいと思ってしまう。それが嬉しいと同時に悔しくて、ニールは八つ当たり気味に、子供の下肢を腿で強かに押し上げた。
「ぅあッ」
意表を突かれたのか、子供は大きく体を震わせて、熱に揺らいだ声を上げた。数枚の布地に隔てられてなお、そこが硬く張りつめているのがわかる。素直な反応に気を良くして、ニールはボタンを外し終えた手を、そのままシャツの中に滑り込ませた。脇腹を掠め、背筋をゆっくりと撫で上げる。その度に子供が快楽を堪えようと顔を必死に歪めるのが、可愛くて仕方がない。いっそ、このまま体勢を入れ替えてやりたいほどだ。
笑っているのを隠しもせずにいると、子供は目元を染めたまま、強くニールを睨んだ。
「ッ、この、少しは大人しくしてろよっ」
「やなこった」
くつくつと喉を鳴らす。頬こそ膨らませはしないが、マイケルは目に見えて不貞腐れた。昔に図書室で子供扱いしたときのような反応が、懐かしく愛おしい。笑いながら、ニールはマイケルの背中をまさぐった。滑らかな肌の下で、綺麗に巻き付いた筋肉が緊張しているのがわかる。浮き出た肩甲骨の形を指で辿ると、腕の中の身体が耐えかねたように揺れた。
「本当にお前さんは可愛いな」
そう言ったニールに悪気はなかったし、全くの本心でもあった。だが、相手の雄としての矜持を打ちのめすには、十分すぎる言葉だったらしい。子供は酷く剣呑な光を目に灯すと、先ほどまで舌で愛撫していた胸の尖りに、手酷く噛みついた。
「ッ!」
突如走った痛みに、思わず身体が竦む。すると今度は、宥めるように優しく舌を這わされて、痛覚が性質の悪い熱に姿を変えた。子供の零す息が濡れた箇所にかかり、冷たさと同時に衝動がこみ上げる。段々と、他のことを考えて気を逸らす余裕がなくなっていく。
「ぅ、んっ」
下肢を押される感触と共に金属音が響いて、ニールは思わず呻いた。マイケルがニールのベルトを外しているのだ。先ほどからの触れ合いで、そこは大分張りつめてしまっている。布地に擦れる感覚さえ、かなり鮮明だ。窮屈さから解放されるのはいいが、どうしようもないことになっているだろう下肢を子供の目の前に晒すというのも、なかなかにいたたまれない。
だが、結局ニールが選んだのは、子供の手を振り払うことではなく、脱がしやすいように腰を浮かせることだった。下着ごとスラックスを下ろされ、腿の中程で溜まる。それがどうにも気持ち悪く、ニールはマイケルの身体を押した。意を汲んだマイケルが、大人しくニールの上からどく。ニールはスラックスを半ばまで脱ぐと、靴ごと行儀悪く蹴り飛ばした。靴下も、開けられたままだった上着も全て脱ぎ払い、床に放る。皺になるかもしれないという思いがちらりと頭を過ぎったが、そもそもベッドに押し倒された時点で、皺などとうに寄っているだろう。明日にでもアイロンを当てれば済む話だ。今はそれよりも、こみ上げる熱をどうにかしてしまいたい。
ニールが脱ぎ終えたのを見て、マイケルは再びニールに圧し掛かってきた。膝に手をかけて足を割らせ、その間に入り込む。かなりどうしようもないことになっている下肢を子供の眼前に晒している現実に、身体が羞恥で竦んだ。しかも、子供はやけに生真面目な顔つきでまじまじと見下ろしているものだから、余計にいたたまれない。
「しげしげ見んなっ」
思わず目の前の頭を軽く叩くと、マイケルは不満そうに顔を上げた。
「どうして? いいじゃないか、減るものじゃないんだし」
「いいや、減るね。主にオレサマの自尊心だとか男としての矜持だとか、その辺りが物凄え勢いで減る」
「何だよ、それ。誰がどう見たところで、ニールはニールに変わりないだろ」
なおも子供は納得していないようだ。ニールは深く溜息を吐くと、じろりと子供を睨んだ。
「だったらお前がそこに横になれ。今すぐに全部剥ぎ取って脚おっ開いて、泣いて謝るまで視姦してやるからな」
もしも抱く立場であれば、ニールはここまで狼狽えはしなかっただろう。多少の気恥ずかしさはあっても、可愛い悪戯だと笑って済ませられたはずだ。だが、この後に自分が更にどうしようもない姿を晒すことを思うと、募る羞恥も倍増する。そのくせ、勃ち上がったものは一向に萎えようとしないどころか、一層熱を帯びている気さえするのだから、本当にどうしようもない。
「あー……うん、それは確かに恥ずかしいな。ごめん」
ニールのいたたまれなさをようやく理解したのか、マイケルは少し頬を赤らめて頷いた。少し伸び上がった身体が、謝罪するようにニールの額に唇を落とす。同時に、指先がニールの下肢を捉え、そろりと撫で上げた。
「ぁ、あ」
たどたどしい手つきで、掌が幹を擦る。ただそれだけで、ニールの口からは酷く緩んだ音が零れた。久々の直接的な刺激に、急激に熱が引き上げられる。数年前と違って、白い指はあの頃よりも長く、骨ばっている。子供ではなく、成人した男の指だ。それが自分のものに絡みつき、括れをなぞっている光景に、筆舌に尽くしがたい落ち着かなさと昂揚を覚える。視覚から来る熱に耐えきれず、ニールは思わず目を閉じた。その途端、扱かれる感触が余計に鮮明になり、慌てて目を開ける。自分のことながら、慌ただしく落ち着かない。ひたすらに与えられる熱を誤魔化すこともできず、どうしようもなく持て余している。
「ぅあ、んっ」
先端を強く指で擦られ、思わず仰け反った。指がずるりと滑ったように感じたのは、錯覚ではないはずだ。わざわざ視線を向けなくても、粘着質な水音が嫌でも耳に入ってくる。見たいものでもないから見ていないが、とうにどろどろに蕩けてしまっているのだろう。子供の手も、動きが大分滑らかになっている。その事実に、自身から溢れる体液の量を思い知らされて、羞恥と熱が跳ね上がった。
下肢を弄る手はそのままに、マイケルが顔を寄せた。耳朶に舌を這わせながら、もう片方の手で胸の尖りを弄ぶ。生み出される熱が全て下肢に溜まっていく感覚に、ニールは耐えきれずに身を捩った。舌から離れた耳朶が、夜気に当たってすうすうとする。冷たさを覚えるはずなのに、身体の熱は反比例して上がり、落ち着くことを知らない。
浮わついた頭のまま、ニールはマイケルを見た。あの頃よりもずっと大人びた端正な顔立ちが、切羽詰まった表情で目元を染めている。視線に気づいたのか、トパーズの目がニールを捉えた。淫靡な熱を灯した目は、普段の清廉で明るい光を湛えたそれとは別物のようだ。そのどちらも、ニールは美しいと思う。どれほど成長しようと、どんな表情を浮かべようと、子供の根底にある輝きはいつも変わらない。きっとニールは、その輝きにこそ惚れ込んだのだ。だからこそ、こんないたたまれない行為も、結局は受け入れ、悦んでいる。
マイケルはニールが見ていたことに少し驚いた様子だったが、照れたように小さく笑った。触れ合うだけのキスを、何度も交わす。互いの吐息が唇を掠める感触が、また微かな熱を生んだ。
マイケルの頭が、ゆっくりと下降していく。唇が喉仏を舐め、鎖骨を食み、胸の尖りを嬲った。腹筋を舌でなぞられ、喉がおかしな音を立てる。そのまま行きつく先を思うと、やはりどうしても落ち着かない。過去にされたことだとはいえ、あの時と今では自分の受け取り方が違う。ただの負けん気に満ちた悪戯では終わらないことを、言葉でも態度でも思い知らされているのだ。覚悟を決めた今でさえ、色々な意味で逃げ出したくなる。
マイケルの手がニールの内腿にかかり、外側へ押した。無言の欲求に、ニールは少し怯んだが、すぐに軽く頭を振った。事ここに至って、今更恥ずかしがっても仕方がない。そう自分に言い聞かせ、半ば自棄になって自分から大きく脚を開く。それでも、頬が燃えるように熱いのは、どうしようもない。
「うあっ」
すぐに下肢をぬるりとした感触に包まれて、ニールは仰け反った。反射的に見下ろした先で、マイケルが先端を口に咥えているのが見える。そこで覚えるのが罪悪感だけだったなら、ニールはマイケルを突き放していただろう。だが、実際には、それらを遥かに凌駕する快感に、腰が情けなく震えている。子供にこんな行為をさせることに凄まじいまでのいたたまれなさを覚える一方で、こんなにも必死に求められることが歓喜以外の何物にも繋がらない。相反する感情で混乱しすぎて、頭が沸騰してしまいそうだ。
「マイ、ケル」
ニールの呼びかけに、マイケルはちらりと上目で見返した後、すぐに行為に没頭した。先端を舌先で抉り、根元の柔らかい部分を手で揉み込む。行為そのものは、酷く拙い。色々と仕掛けられているが、どちらかといえばそれは、こちらの反応を見てやり方を学んでいる、といった方が正しいだろう。事実、手を変えてくる度に、確認するようにちらちらと視線を向けられているのがわかる。だが、そんなぎこちない愛撫でさえ、今のニールには快感でしかない。
縋るものを求めて、ニールの手はいつの間にか子供の頭に伸びていた。指の間をくすぐる巻き毛の感触は、相変わらず心地よい。だが今は、それを楽しむ余裕がないほど、腰から駆け上る熱に浮かされている。頭の中は相変わらずいたたまれなさと歓喜がせめぎ合い、小さな頭を引き剥がしたいのか、より深く抱え込みたいのかも、わからない。そして、そんな無意味な葛藤さえ、快楽に塗り潰されていく。
「ぅん、ふ」
深く呑み込まれ、頬の内側で擦られる。かと思えば口が離れ、裏を舌先で強く辿られた。身体が跳ねるたびに、マイケルが嬉しげに笑う。吐息が濡れそぼった下肢にかかる、その感触さえ鮮明だ。それがどちらの体液で濡れているからなのかは、あまり考えたくない。子供の唾液の所為だと思いたいが、それだけでは済まないのは、誰よりも自分がわかっている。粘着質な音に、聴覚からも犯されているかのようだ。追いつめられるペースが、覚悟していたよりもずっと早い。
「マイケル、口、離せ」
限界が近づいてきたのを感じて、ニールはマイケルの髪をできる限り柔らかく引いた。ともすると強張る身体に、手に思わず力が入ってしまうのを必死で堪える。少し覚束なくなってきた口調は、この際聞かなかったことにした。今はそれよりも、子供の口に放たないようにすることの方が重要だった。咥えられている現状ですら凄まじくいたたまれないというのに、この上子供の口の中まで汚すなど、考えただけで羞恥で死ねそうだ。
子供は視線をニールに向けると、大人しく顔を上げた。愛撫を中断された熱が、みっともなくひくついている。見たくもないものを見てしまうのは、マイケルが一向にその位置から頭を動かそうとしないからだ。根元に添えられたままの手とそこにかかる息が、解放してなおニールの熱を昂らせる。
「ニール、いきそう?」
そのくせ、熱に浮かされた子供の問いかけは、どこまでも生真面目でしかないのだから、本当に性質が悪い。
「……お前なあ、そういうことを一々聞くんじゃねえよ」
「だって、気になったから」
「察しろ! 男の反応なんて、見りゃ一発でわかるだろうが!」
マイケルとて同性だ。目の前にあるものが勃ち上がってどうしようもなくどろどろに蕩けているのを見て、どういう状態かわからないはずがない。そう、思っている。それともまさか、そんな知識すらない相手に、自分は二度も脚を開こうとしているのだろうか。だとしたら、本当に色々な意味でいたたまれない。男として、二度と立ち上がれなくなりそうだ。
「それはそうだけど」
だが、流石にそれは杞憂だったのか、マイケルは不貞腐れた顔をほんのりと上気させた。何か口の中で呟いているのは、言い返そうとした言葉を呑み込んでいるのだろう。そして不意に、実に嬉しそうな顔で笑った。
「でも、よかった。気持ちいいんだ」
どこか満足そうにも見える子供の笑顔は、本当に可愛い。こんな時でさえ、髪を強く掻き混ぜてしまいたくなるほどだ。だが、子供が続いてしたことは、そんなニールの感慨を軽く吹き飛ばした。
再び頭を下げたマイケルが、何の躊躇いもなしに、再びニールの熱を咥える。いきなり奥まで呑み込まれて、ニールは思わずマイケルの髪を強く握り締めた。
「ぅあっ! 馬鹿、お前、何ッ!」
熱く滑る粘膜に包まれ、啜られる。少し放っておかれたとはいえ、かなり際どいところまで上げられた熱は、そう簡単には冷めない。むしろ、焦らされたかのように、与えられる快楽を享受してしまう。子供の口の中で、自身が大きく震えたのがわかった。本当に、まずい。
「マイケル、離せっ」
こうなれば、形振りなど構っていられない。強く髪を引っ張ると、子供はむずかるような唸り声を上げて、一層激しく食らいついた。むきになっているのか、愛撫はかなり荒さを増している。時折不器用に当たる歯が、少し痛い。だが、張りつめた熱は、そんな刺激さえ快楽だと受け取ってしまう。堪えようと力を込めた足がシーツを滑り、爪先が固く丸まる。
「ぃ、あ、あァッ」
マイケルの舌が先端に絡んだ瞬間、ニールは呆気なく達した。目の前が白く光り、震える腰から断続的に熱を放つ。解放感と同時に脱力感に見舞われて、ニールはそのままシーツに埋もれかけた。久しぶりの絶頂に、身体が慄いている。動く意思も気力も、欲と一緒に吐き出してしまったかのようだ。
だが、子供が盛大に咳き込む音がすると、意識は急激に現実に引き戻された。子供が唐突に噎せる理由など、ひとつしかない。瞬時に理解してしまい、ニールはばね仕掛けの人形のように跳ね起きた。
「わ、悪いっ!」
マイケルは口元に手を当て、なおも咳き込んだ。苦しかったのか、熱に潤んだ瞳は目尻に光るものを浮かべている。ようやく落ち着いた子供が顔を上げると、口元と手に自分の放ったものがべっとりとついているのが見えて、ニールは思わず頭を抱えたくなった。
「大丈夫か? ったく、あれだけ離せって言っただろ」
シーツを引き剥がし、汚れた手と口とを乱暴に拭う。それが少し痛かったのか、マイケルは顔を顰めた。小さく喉が鳴ったのは、口の中に残っていたものを呑み込んだからだろう。その事実に打ちのめされ、背筋をぞくりとしたものが走る。それが嫌悪感であれば、どんなにか良かっただろう。だが実際には、後ろ暗い昂揚感でしかないのだから、性質が悪い。
「ッ、……は、……う、るさい。次は、ちゃんとうまくやる」
「お前なあ」
当然のように宣言されて、ニールは頭を抱える代わりに、深い溜め息を吐いた。次は、ということは、この子供は次もやはり仕掛けてくるつもりなのだ。少しどころか大いに不満ではあるが、最後まで拒みきれる自信は、ニールにはとうになかった。そもそも現状でさえ、されること自体は純粋に喜んでしまっているのだから、どうしようもない。十歳も年下の同性に手を出して、あまつさえ足を開かされているという現状に、成人した男としての理性と矜持が、後ろめたさやいたたまれなさを覚えているだけだ。そしてそれさえ、子供の与えてくる感覚に容易く陥落してしまうのだから、本当に救いようがない。
最終更新:2011年06月17日 23:57