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11/07/21がいいおなにーの日ときいてガタッとなった 今では反省していない

おなにーる



 どうしてこんなことになったのか。何度確認しても受け入れがたい現状に、ニールは何度目かの自問をした。
 ニールの自室である牧師館の一室にいることは、何もおかしくない。現在休暇を利用して下宿中のマイケルがいるのも、二人の間柄を考えればごく自然だ。二人してベッドの上に乗り上げているのも、互いの服が開けているのも、恋人同士の行為としては当然の成り行きだろう。ニールがマイケルに向けて足を開いている点については、ニール個人としてはかなり納得がいかないが、再会してからというもの何度も繰り返されたことだ。今更不平を唱えたところで、目の前の子供が不満そうに却下するのは目に見えているから、とりあえずは棚に上げておく。
 問題は、恋人であるところの二人が同じベッドにいるというのに、ニールが一人で自分の熱を慰める破目に陥っていることと、マイケルがそれを目の前でごく真面目に観察していることだ。
 きっかけは、確かにニールが悪かったのだろう。これまでの空白を穴埋めするかのように求めてくるマイケルを、大学に戻ったら一人で処理できるのか、と先にからかったのはニールだ。
 正しく覚えたてのセックスをむさぼる子供は可愛いが、毎回それに付き合う身としては、正直なところ、少々身体に負担がかかる。自分も十年前はこうだったのだろうかとうっかりしみじみしてしまうほど、マイケルのセックスはひたすらに若さをぶつけてくるのだ。求められる度に結局応えてしまう自分にも非はあるが、翌朝の礼拝が地味に辛かったのも、一度や二度では済まない。回数よりも、相手を受け入れるという、今までに経験したことのない立場が大きいのだろう。ともあれ、恨み言めいた軽口を叩きたくなる程度には、ニールはこのところ少し疲れ、腰の重さを持て余してもいた。
 だが、この場合、軽口を叩く相手が悪かった。或いは、叩いた軽口の内容がまずかったのかもしれない。
 にやにやとからかったニールに、マイケルは一頻り顔を赤くして怒った後、そこまで言うなら教えてみせろと、実に堂々とした態度で要求してきたのだ。
 勿論、そこからいきなりこんな状況に転がった訳ではない。ニールは最初、断固として拒否した。それでもマイケルが引かないのを見て、次は子供自身を高めることで済まそうとした。ニールの手を自分のものだと思えば模倣は容易いし、次からは与えられた感覚をなぞる様に処理すればいい。何より、マイケルに触れることも、子供が快楽に浮かされた顔でニールを見上げてくるのも、ニールには純粋に楽しく、喜ばしいことだ。
 ところが、自分がされると覚えるどころではなくなるという主張で、マイケルはその提案も却下した。それどころかこともあろうに、自分でしているところを見せろと、実に気真面目な顔で要求してきたのだ。照れと淫靡な衝動とで頬を染めているくせに、まるで邪気のない表情を、ニールは反則だと思う。正当な権利と理由とを持って拒否しているというのに、断り続けているうちに、妙な罪悪感を覚えてしまう。
 その結果が押しに流され、子供の目の前で自身を慰めている現状だ。五、六回は自分を盛大に殴りつけてもいいのではないかと、ニールはかなり切実に思う。あんな間の抜けた主張を可愛いと思ってしまった時点で、重症だ。そのくせ、その事実自体は厭っていないのだから、手の施しようがない。
「ニール」
 現実から目を逸らす内に、手が止まっていたらしい。催促するように声を掛けられて、ニールはクソと小さく毒突いた。目の前の子供を視界に入れないよう、背け続けたままの首がいい加減痛い。かといって、マイケルの姿を見ながら自慰をするなど、ある意味でこれ以上ない拷問だ。
 固く目を瞑り、ニールは動きを再開した。指で作った輪の中で、自身が硬く反り返っているのが嫌でも分かる。今更どうこう思う感触でもないが、誰かに見られているとなれば話は別だ。だというのに、その相手がマイケルであるというだけで、萎えるどころか一層熱を帯びているようにすら思えるのだから、どうしようもない。
「んっ……く、ぅ」
 幹を扱き、括れを擦る。先端に指を這わせると、滑る感触と共に粘着質な水音が聞こえた。それを助けにして、リズミカルに手を動かす。目を閉ざしている所為で、自分の指が熱を扱き上げる感触が、一層鮮明だ。かといって、目を開けてしまえば、それこそどうしようもないことになりそうで、いたたまれない。
「ニール、何でずっと顔逸らしてるんだよ」
 すぐ傍から、マイケルの不満そうな声が聞こえた。いつの間にか近づかれていたらしい。肌膚を微かに掠めたのは、マイケルの吐息だろう。そんな微細な感覚にさえ、肌が粟立つ。思わず上がりそうになる声を、ニールはどうにか噛み殺した。
「……ッせえ、そこで黙って見てろ」
 半ば唸るように答えて、ニールは手の速度を上げた。いつまでもこんな状態を続けている方が、よほど恥ずかしい。手の中から響く濡れた音に奥歯を噛み締めながら、ひたすらに自身の性感を追う。視界を閉ざしてさえ、子供の視線は肌膚を灼くように熱い。それをできる限り意識の外に追い出して、ニールは荒い息を吐いた。
 ちかちかと瞼の裏が光り始める。大分、限界が近い。拭うものをと手を伸ばして、ニールはその時点でようやく、自分が何も用意していないことに気付いた。雰囲気と子供の熱っぽい視線に流されて、すっかり失念していたのだ。普段なら絶対に起こらないだろう事態に、自分はどれほど動転していたのかと愕然とする。手が汚れていなければ、頭を抱えていたところだ。
「……タオル、取ってくれ。そこの抽斗の、下から二段目に入ってる」
 我ながら間抜けな指示に呆れながら、ニールは目を閉じたまま頼んだ。自分で取りに行けばいいのだろうが、前を勃たせたまま抽斗を漁ってベッドに戻るというのも、それはそれで間が抜けている。子供の要望で盛大に矜持を曲げているのだから、この程度使ったところで構いはしないだろう。
「わかった、ちょっと待って」
 熱に浮かされた暗闇の中で、マイケルが離れるのがわかった。体温を肌膚でうっすらと感じるほど傍で見られていたのだと思うと、羞恥で身が灼けそうだ。ベッドから重みが消えたのを感じて、ニールはようやく目を開けた。ぼやけた視界の中で、マイケルは抽斗の前で膝を折り、中を探っている。そして、やや困惑した顔で振り向いた。
「タオル、ないみたいだ」
 そう言えば、今日の昼間は突然雨が降って、濡れ鼠になった近所の子供たちを拭いて回った記憶がある。その時に使いきってしまったのだろう。再度の迂闊さに、ニールは熱い息を紛らわすように舌打ちした。
「だったら、何でもいいから。汚ねえモンばら撒きたくねえんだよ」
「わかった」
 素直な返事に、ニールは小さく息を吐いた。そして、思い切り渋面を浮かべて目を瞑った。ベッドの上で足を開いて下肢を弄っている自分と、体液を受け止めるための布を探している子供という現状に、改めていたたまれなくなったのだ。これが逆の立場だったなら、自分は楽しんでいたのだろうかと、ふと思う。必死に自身を慰めながら、時折縋るような目を向けてくる子供を、熱の籠った眼で眺めたりしたのだろうか。
 そこまで考えて、ニールは不埒な想像を脳内から追い出した。触れられるよりも触れることを好むのが、ニールの性分だ。自身を慰めているマイケルを見たくない訳ではないが、もし実際に目の前にしたとすれば、躊躇い無く手を伸ばしているだろう。
 ベッドが軋み、マイケルが乗り上げてきたのがわかった。ハンカチ辺りでも見つけてきたのだろう。目を閉じたまま手を突き出すのは流石に不躾だろうと、ニールは目を開けた。そして、黄金の髪が自分の腹の辺りで揺れている現実に、思わず硬直した。
「ちょ、お前ッ、ぅあッ!」
 唐突に先端を咥えられ、背中が仰け反る。そこでようやく衝撃から立ち直り、ニールは慌てて子供を引き剥がそうと手を伸ばした。
「おい、何考えてやがる!」
「汚したくないんだろ? タオルもなかったし、この方が早いかなって」
「馬鹿野郎! そういう問題じゃ、ッあ」
 強く吸い上げられて力が抜けたところで、伸ばした手を逆に取り押さえられる。反撃を封じられて、ニールは強く奥歯を噛み締めた。腕が強張るのは、拘束を振り払おうとしているからだけではない。頬の内側で扱かれる感触に、身体全体が跳ね上がってしまう。
「ぁ、く……ぅ、んッ」
 滑った熱い肉が、ぞろりと先端を這う。あくまでも受け止めることが目的なのか、深く呑み込みこそしてこないが、代わりに白い指が幹に絡みつき、容赦なく擦り上げてくる。その度に腰を突き上げる快感に、ニールは大きく頭を振った。元より散々高めていたのだ、限界などとうに見えている。丸まった爪先が衝動から逃れようとして、シーツの上を滑った。
「マジでそろそろ離せッ」
 押さえる手を無理矢理に振り払い、咄嗟にマイケルの髪を掴む。だがそれよりも、マイケルが頬を窄めて強く啜り上げる方が早かった。
「っあ、ぁ、アァ!」
 顎が跳ね上がり、目の前が白く光る。髪をきつく握り締めたまま、ニールは達した。奔騰する熱にがくがくと震えながら、子供の口の中に白濁を吐き出す。残りまで絞り取るように吸い出されて、ニールはマイケルの頭を抱え込み、緩み切った声を上げた。
 衝動を吐き出して、気だるい余韻に浸った身体がベッドに埋もれたがる。それをどうにか堪え、ニールは子供の髪を軽く引っ張った。
「……気が済んだか、この利かん坊」
 呆れ混じりの声に返事をするように、マイケルが見上げてくる。白い喉が上下に動く様子がどうにもいたたまれず、ニールは深い溜め息を吐いた。こうして飲まれることだけは、未だに慣れない。手を伸ばしてなお清らかなままの子供を内側から穢す錯覚に、逃げ出してしまいたくなるのだ。肌を許した時点で何を今更とは思うが、感情はなかなか納得しない。
 そんなニールの内心にまるで気付いた様子もなく、マイケルは首を傾げた。成人しているというのに邪気のない仕草は、ただ可愛らしさしか感じられない。だが、脚の間で気真面目に考え込んでいる光景は、その脚を広げているニールを含めて、滑稽でしかないだろう。
「うん、一応は」
「……そうかよ」
 やはり気真面目に返された答えに、ニールは笑うしかなかった。髪に絡ませたままだった手を、ゆっくりと頭の形に添わせて動かす。マイケルは心地良さそうに目を細め、少し照れ臭そうに笑った。
「でもやっぱり、触り合う方がいいな」
「お前な、人に散々やらせた後でその台詞はねえだろ」
「だって、そう思ったんだから仕方がないじゃないか」
 つい先程までのどうしようもない羞恥は、一体何だったのか。拗ねた内心が、面にも浮かんでいたらしい。マイケルは身体を起こすと、宥めるようなキスをニールの頬に落とした。すらりと伸びた腕が背中に回るのを感じて、ニールもまた応えるように腕を回す。ようやく触れることのできた体温に、体中から力が抜けるかのような安堵感を覚えた。触れられるよりも触れることを、ニールは好む。だが、お互いに触れ合えるのならば、それが一番であるのは言うまでもない。
 それに、触れ合って一層、輪郭がはっきりすることもある。腹部に押し当てられた布越しの熱い猛りに、ニールは小さく笑った。
「見てるだけってのも、結構辛かっただろ」
「……うるさいな」
 焦点の合わない距離で、今度は子供が不貞腐れる。それにもう一度笑って、ニールは唇を触れ合わせた。機嫌を直したマイケルが、深くすることで応えてくる。淫靡な熱に浮かされた子供はやはりどうしようもなく可愛らしく、ニールはキスをしたままにやにやと笑い続けた。
 つまるところ、この子供と熱を分かち合うのも、子供のこんな表情を間近で見ることも、自分一人だけが許されているのだという事実に、ニールは浮かれ、満足しているのだろう。脚を開く立場に回ることや、時折突き付けられる無茶な注文に、躊躇いや忸怩たるものを感じない訳ではない。だが、それもこの特権に比べれば、自分にとってはほんの些細な問題でしかないのだ。
 改めて自覚した現実に、ニールは小さく肩を竦めた。そして、キスをしたまま押し倒そうと体重をかけてくる子供に、相変わらず笑いながら力を抜いたのだった。






最終更新:2011年07月24日 23:11