「三月ウサギの方がずっと面白そうだし、それに今は五月だから、むちゃくちゃに気が狂ってる、
ってことはないよね。――少なくとも、三月の時ほどじゃあない」
――――「不思議の国のアリス」三月ウサギの家への道を辿る前のアリスの自問自答
ってことはないよね。――少なくとも、三月の時ほどじゃあない」
――――「不思議の国のアリス」三月ウサギの家への道を辿る前のアリスの自問自答
――――それは黄金色の昼下がりでした。
「あれ、ここ何処だろう?」
白い制服着た少女はそんなことを呟いた。
オールを漕ぐ手を止めて、周りを見渡す。そこはAQUAが火星と呼ばれていたころの廃墟(プラ)跡(ント)だった。
前に迷い込んでしまって以来ここには来ないようにしていたのに。
――――おかしいな、どうしてこんなところにいるんだろ。
どうしてここにいるのかうまく思い出せない。
「まるで不思議の国に迷い込んだみたい……」
いつもならここで「恥ずかしい台詞禁止!」とか、「でっかい恥ずかしいです」
とかが返ってくるのだが。
「……誰もいない」
建物に絡みつくようにまるで草木にも生気が感じられず、風も音もしない。
切り取られた世界の中で一人きりになってしまったかのような、そんな感覚。
オールを掴む力が少し強くなる。
オールを漕ぐ手を止めて、周りを見渡す。そこはAQUAが火星と呼ばれていたころの廃墟(プラ)跡(ント)だった。
前に迷い込んでしまって以来ここには来ないようにしていたのに。
――――おかしいな、どうしてこんなところにいるんだろ。
どうしてここにいるのかうまく思い出せない。
「まるで不思議の国に迷い込んだみたい……」
いつもならここで「恥ずかしい台詞禁止!」とか、「でっかい恥ずかしいです」
とかが返ってくるのだが。
「……誰もいない」
建物に絡みつくようにまるで草木にも生気が感じられず、風も音もしない。
切り取られた世界の中で一人きりになってしまったかのような、そんな感覚。
オールを掴む力が少し強くなる。
そばに誰もいないということが少しばかり心細く、自身の身が頼りなく感じられる。
「ふむ、お嬢さん。お困りのようだがどうかしたのかね?」
さっきまでは誰もいなかったはずなのに。振り返るとそこには帽子を深くかぶりコートを着た人がいた。
帽子のせいで顔がうかがえないが、声を聞く限り男性のようである。
「あ、よかった~~。実はちょっと道に迷ってしまって……」
誰かに出会えたことからの安心感と照れから、思わず顔がほころんでしまう。
「ふむ、そうですか。では出口まで案内致しましょう。――――失礼しますよ」
そう言い、彼は返事も聞かずにゴンドラに乗り込む。……不思議とゴンドラは揺れることはなかった。
「ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらずに。困ったときはお互い様ということで」
帽子の男は肩をすくめてみせた。
「そういえば、あなたのお名前は?」
「私の名前かい?――――ただのしがない帽子屋ですよ」
さっきまでは誰もいなかったはずなのに。振り返るとそこには帽子を深くかぶりコートを着た人がいた。
帽子のせいで顔がうかがえないが、声を聞く限り男性のようである。
「あ、よかった~~。実はちょっと道に迷ってしまって……」
誰かに出会えたことからの安心感と照れから、思わず顔がほころんでしまう。
「ふむ、そうですか。では出口まで案内致しましょう。――――失礼しますよ」
そう言い、彼は返事も聞かずにゴンドラに乗り込む。……不思議とゴンドラは揺れることはなかった。
「ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらずに。困ったときはお互い様ということで」
帽子の男は肩をすくめてみせた。
「そういえば、あなたのお名前は?」
「私の名前かい?――――ただのしがない帽子屋ですよ」
この日水無灯里は、ネオヴェネツィアから姿を消した。
それは黄金色の昼下がりの出来事。
それは黄金色の昼下がりの出来事。
柊蓮司と退屈なお茶会(A Mad Tea-Party)
Scene 1:“Down the Rabbit-Hole”(ウサギの穴に落ちて)
Scene 1:“Down the Rabbit-Hole”(ウサギの穴に落ちて)
――――温泉街駅前にて
「ふう」
そんな声とともに列車から降りたのは、「全世界のアイドル」「アンゼロットのおもちゃ」
「絶滅危惧種」こと柊蓮司だった。その顔はいつもの不機嫌そう顔ではなく、晴れ晴れとしている。
「ふ、ふふふふふふ」
不気味に含み笑いをする彼を怪訝に思う人はいるが、すぐに離れていく。……賢明な判断である。
「あっははははあははははははっ!!やったぞ、ついにやってやったんだ!ざまーみろ、アンゼロットォォぉぉぉ!!」
魂の叫びが、駅の構内に木霊した。
……彼の周りからさざなみが引くように人々が離れていったが、今の彼にとっては些細なことだろう。
「ふう」
そんな声とともに列車から降りたのは、「全世界のアイドル」「アンゼロットのおもちゃ」
「絶滅危惧種」こと柊蓮司だった。その顔はいつもの不機嫌そう顔ではなく、晴れ晴れとしている。
「ふ、ふふふふふふ」
不気味に含み笑いをする彼を怪訝に思う人はいるが、すぐに離れていく。……賢明な判断である。
「あっははははあははははははっ!!やったぞ、ついにやってやったんだ!ざまーみろ、アンゼロットォォぉぉぉ!!」
魂の叫びが、駅の構内に木霊した。
……彼の周りからさざなみが引くように人々が離れていったが、今の彼にとっては些細なことだろう。
彼は目頭を押さえ、今までの苦難を反芻する。
ああ、ここまでくるのにどんなに苦労しただろう。
卒業を迎えた彼を待っていたのは、度重なる任務の嵐。「学校」という楔から離れた柊蓮司をアンゼロットはこき使った。
ああ、ここまでくるのにどんなに苦労しただろう。
卒業を迎えた彼を待っていたのは、度重なる任務の嵐。「学校」という楔から離れた柊蓮司をアンゼロットはこき使った。
やっとの思いで手に入れた卒業証書は「世界結界を守るためです」の一言で満面の笑顔と共に破かれ燃やされ、
せめて灰だけでもとかき集めようとすると、ロンギヌスに羽交い絞めにされ止められ、ミキサーで灰をさらに
粉々にされたうえに北極海へとぶちまけられた。
この時のアンゼロットの表情はロンギヌスいわく「実に清々しくまるで聖女のようだった」そうな。
せめて灰だけでもとかき集めようとすると、ロンギヌスに羽交い絞めにされ止められ、ミキサーで灰をさらに
粉々にされたうえに北極海へとぶちまけられた。
この時のアンゼロットの表情はロンギヌスいわく「実に清々しくまるで聖女のようだった」そうな。
任務の間隔が数時間しかないってありえるのだろうか?
そういえばウィザードに残業手当はでるのだろうか?労働組合に訴えてやりたい。
ただでさえ少ない任務の間の休憩時間にさえ、アンゼロットの脅威はあった。
なんでお前のネトゲーのレベル上げや、レアアイテム集めをしなきゃならないんだ。
俺の貴重な休憩時間を返せ。
もちろん任務を終えた後何度も何度も逃走を試みた。トイレに行く振りをして、変装もしたし、
プライドすらもかなぐり捨てて女装すらもした。
なのに、なのに何処まで逃げても追ってくるアンゼロットの追っ手。
ロンギヌスはどうやら個々によって微妙に異なるプラーナの反応をたどって追って来ているらしく、
彼には抗う術はなかった。
そういえばウィザードに残業手当はでるのだろうか?労働組合に訴えてやりたい。
ただでさえ少ない任務の間の休憩時間にさえ、アンゼロットの脅威はあった。
なんでお前のネトゲーのレベル上げや、レアアイテム集めをしなきゃならないんだ。
俺の貴重な休憩時間を返せ。
もちろん任務を終えた後何度も何度も逃走を試みた。トイレに行く振りをして、変装もしたし、
プライドすらもかなぐり捨てて女装すらもした。
なのに、なのに何処まで逃げても追ってくるアンゼロットの追っ手。
ロンギヌスはどうやら個々によって微妙に異なるプラーナの反応をたどって追って来ているらしく、
彼には抗う術はなかった。
そんな逃げ場のない袋小路に追い詰められた彼を救ったのは、とあるアイテムだった。
そのアイテムの効果は「自身のプラーナを隠蔽し、ウィザードをイノセントへと偽装するもの」。
元々ウィザードの気配に敏感なエミュレーターを狩るために作られたモノである。
使い捨てで持続時間は一週間。副作用でレベルは下がる上に、一介のウィザードには手が出せないほどの高価。
……呪錬制服が買えるほど値段の張る使い捨てなど買う奴は普通いないだろう。
そのアイテムの効果は「自身のプラーナを隠蔽し、ウィザードをイノセントへと偽装するもの」。
元々ウィザードの気配に敏感なエミュレーターを狩るために作られたモノである。
使い捨てで持続時間は一週間。副作用でレベルは下がる上に、一介のウィザードには手が出せないほどの高価。
……呪錬制服が買えるほど値段の張る使い捨てなど買う奴は普通いないだろう。
柊蓮司を除いては。
もしもの時のために貯めていた軍資金。コレを使うときが来るとは。
もしもの時のために貯めていた軍資金。コレを使うときが来るとは。
このアイテムの存在を知った彼の行動は速かった。
盗聴を危惧し使い捨て式の携帯を契約。唯一信頼できるエリスに連絡を取り、温泉宿の予約を頼んだ。
真っ先に幼馴染みの名前が出ないのがなんというか彼らしい。まあ、
「そ、そんな駄目ですよ。ふっ二人きりで温泉だなんて……」
などと誤解されたが。誤解をといたあと微妙に機嫌が悪そうだったが何かしたか?
アンゼロットの任務をこなしながら秘密裏に旅行の準備を進めていく。
盗聴を危惧し使い捨て式の携帯を契約。唯一信頼できるエリスに連絡を取り、温泉宿の予約を頼んだ。
真っ先に幼馴染みの名前が出ないのがなんというか彼らしい。まあ、
「そ、そんな駄目ですよ。ふっ二人きりで温泉だなんて……」
などと誤解されたが。誤解をといたあと微妙に機嫌が悪そうだったが何かしたか?
アンゼロットの任務をこなしながら秘密裏に旅行の準備を進めていく。
そして、実行の時は来た。
任務の終了時にドサクサに紛れて戦線離脱。例のアイテムを服用した後、
三日以上前にロッカーに預けていたバックを回収、現在に至るというわけである。
今の柊蓮司はとてつもなくクレバーだった。きっと中の人補正でも入ったのだろう。
今にも「計画通り」とか「新世界の神になる!」などと言い出しそうである。
三日以上前にロッカーに預けていたバックを回収、現在に至るというわけである。
今の柊蓮司はとてつもなくクレバーだった。きっと中の人補正でも入ったのだろう。
今にも「計画通り」とか「新世界の神になる!」などと言い出しそうである。
「さて、久しぶりの、本っ当に久しぶりの休暇だ!大いに羽を伸ばすとするか!!」
この上なく上機嫌である。まあ調子に乗っているとも言うが。
そういえば途中で髭を生やし、太鼓を担いだ変な中年が見かけたがスルー。
触らぬ神にたたりはないのだ。
「ごめんくださーーい!予約した柊ですけど!」
そう言った彼を迎えたのは、髪を逆立てた「竹の塚を征した」不良っぽい番頭さんではなく、
この上なく上機嫌である。まあ調子に乗っているとも言うが。
そういえば途中で髭を生やし、太鼓を担いだ変な中年が見かけたがスルー。
触らぬ神にたたりはないのだ。
「ごめんくださーーい!予約した柊ですけど!」
そう言った彼を迎えたのは、髪を逆立てた「竹の塚を征した」不良っぽい番頭さんではなく、
「にゅ?」
白っぽい何かだった。
白っぽい何かだった。
――――ARIA COMPANYにて
アリア社長はいつものように社員である水無灯里を起こし行った。
これは彼が行う自主的な日課でもあるのだが……。
「んにゅ?」
部屋には灯里はいなかった。もう起きて出かけたのだろうが?
「ぐーー」
とりあえずおなかがへったので、考えるのは後回し。ご飯を食べてからにしよう。
彼は一階へと降りていく。
アリア社長はいつものように社員である水無灯里を起こし行った。
これは彼が行う自主的な日課でもあるのだが……。
「んにゅ?」
部屋には灯里はいなかった。もう起きて出かけたのだろうが?
「ぐーー」
とりあえずおなかがへったので、考えるのは後回し。ご飯を食べてからにしよう。
彼は一階へと降りていく。
「アリア社長、おはようございます」
そういって朗らかな笑顔で迎えたのは社員であるアリシアだった。
彼女は「水の三大妖精」と言われる優秀なウンディーネ(水先案内人)である。
「ぷいぷいにゅ」
「あらあら、ご飯ですね。少し待ってくださいね」
通じるのは、長年の付き合いだからだろう。イスに着いてアリシアがテーブルにつくのを待つ。
ここらへんは知能が人間並みに高い火星猫故か。
「ぷいにゅ?」
首を傾げる。テーブルにはお皿が二枚しかない。気になって周りを見渡す。
――――何かが欠けているような気がする。そうか、灯里の分がないのだ。
「いただきます」
「ぷいにゅ」
とりあえず食べよう。ご飯はいつものお気に入り。
同じ味なのにいつまでたっても飽きないというのはすごいと思う。
そういって朗らかな笑顔で迎えたのは社員であるアリシアだった。
彼女は「水の三大妖精」と言われる優秀なウンディーネ(水先案内人)である。
「ぷいぷいにゅ」
「あらあら、ご飯ですね。少し待ってくださいね」
通じるのは、長年の付き合いだからだろう。イスに着いてアリシアがテーブルにつくのを待つ。
ここらへんは知能が人間並みに高い火星猫故か。
「ぷいにゅ?」
首を傾げる。テーブルにはお皿が二枚しかない。気になって周りを見渡す。
――――何かが欠けているような気がする。そうか、灯里の分がないのだ。
「いただきます」
「ぷいにゅ」
とりあえず食べよう。ご飯はいつものお気に入り。
同じ味なのにいつまでたっても飽きないというのはすごいと思う。
「えぷ~~~っ」
「あらあら。社長ちゃんと噛んで食べなきゃ消化に悪いですよ?」
穏やかな表情で言うアリシアを尻目に自身のデスクへと向かう。
彼は人間の言葉は理解できても話すことはできない。
なので意思疎通の方法がボディランケージぐらい。
もう一つはデスクの上に置いてある彼専用のタイプライターだ。
慣れた手つきで打っていく。
「あらあら。社長ちゃんと噛んで食べなきゃ消化に悪いですよ?」
穏やかな表情で言うアリシアを尻目に自身のデスクへと向かう。
彼は人間の言葉は理解できても話すことはできない。
なので意思疎通の方法がボディランケージぐらい。
もう一つはデスクの上に置いてある彼専用のタイプライターだ。
慣れた手つきで打っていく。
「ぷにゅ」
「どうかしたんですか?社長」
『あかりはどこ?』と打たれた紙を食器を洗い終わったアリシアに見せた。
「あかり……?アリア社長のお友達ですか?」
小首をかしげ彼女は尋ねた。
「ぷいにゅ!?」
からかわれているんだろうか。それとも喧嘩でもしたのだろうかと不安になる。
でも彼女は自分をからかうような人ではないし、彼女達が喧嘩している姿も思い浮かばない。
この二人はいい意味でも、悪い意味でも似た者師弟なのだ。
……まさか。不意に『彼』の持つ預言書のことが頭によぎる。かつて『彼』から聞いたある予言。
いくら『彼』の言うことでも信じられなかった。……いや違う、信じたくなかっただけかもしれない。
「ぷいにゅ!!」
「あ、アリア社長!?」
呼び止める声を無視して、あのことを確かめるべく『彼』の元へ駆け出していった。
「どうかしたんですか?社長」
『あかりはどこ?』と打たれた紙を食器を洗い終わったアリシアに見せた。
「あかり……?アリア社長のお友達ですか?」
小首をかしげ彼女は尋ねた。
「ぷいにゅ!?」
からかわれているんだろうか。それとも喧嘩でもしたのだろうかと不安になる。
でも彼女は自分をからかうような人ではないし、彼女達が喧嘩している姿も思い浮かばない。
この二人はいい意味でも、悪い意味でも似た者師弟なのだ。
……まさか。不意に『彼』の持つ預言書のことが頭によぎる。かつて『彼』から聞いたある予言。
いくら『彼』の言うことでも信じられなかった。……いや違う、信じたくなかっただけかもしれない。
「ぷいにゅ!!」
「あ、アリア社長!?」
呼び止める声を無視して、あのことを確かめるべく『彼』の元へ駆け出していった。