アットウィキロゴ
ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話

最終更新:

nwxss

- view
だれでも歓迎! 編集

よるとでぃーぷぶらっど -出番ねぇよ、冬-


よく晴れた西高東低の気圧配置の標準的なある冬の日。
とあるショッピングモールの中にある、ちょっとした休憩所。
樫の木の、温かみを感じるテーブルと椅子がいくつか置かれた、混雑時には多くの人の憩いの場となるその一角も、にぎわっているわけではない今の時間帯はがらがらだ。

そんな人のまばらな休憩所に、今日は黒い塊があった。

塊、というのは語弊がある。机の上にもったりと黒く大きな何かが鎮座しているのだ。黒い何かは、テーブルから端々が零れ落ちそうになっている。
よくよく見てみれば、その塊が人間の頭で黒い何かは烏の濡れ羽のような長い黒髪であることがわかる。
ぴくりとも動かない黒い塊は、もはや寝ているとかそういうレベルではない。周囲の空気すら歪ませているような気がするほどの負のオーラが発されている。
そのあまりの異様な状況に、誰も目を合わせようとはしていない。というか、ぶっちゃけ関わりたくない。
普通なら通りすがりの親子が「ままー、なにあれー」「しっ!見ちゃいけません」とかいうお約束を繰り広げるのだろうが、それさえもない。
子供心にすらアレは関わらないほうがいいものだ、とわかるのだろう。
警戒心の薄い子供ですら近づきたがらないものに対して近づこうとする者があるのなら、それはよほど危機感の壊れた奴かよほどのおバカしかいない。

そんな奴が都合よく現れるわけが―――

「もしもし、大丈夫でありますか?」

―――あったりした。




相手が目の前にいるのにもしもし、と声をかけたのは、銀髪を二つにくくった少女だった。
服装は黒。ゴシックロリータと世間一般的に呼ばれるタイプのもので、少女の見た目にはとてもよく似合っている。
月光に照らし出されるススキのような柔らかな銀色を括り、赤いほおずきのような神秘的な瞳の少女は―――その神秘性を自身の口調によって木っ端微塵に崩壊させていた。
さておき。少女がぴくりとも動かない黒い塊に声をかけると、今まで何の音も立てなかった黒い塊から音が漏れた。

「―――オ」
「お……?
 お水でありますか?お腹痛いでありますか?横隔膜の痙攣現象でありますかっ?」

最後のはしゃっくりだ。

さておき。黒い塊は、心配そうな少女に告げた。

「おなか。減った」

周囲の空気が少女と黒い塊以外の野次馬の空気が止まる。
もちろん、黒い塊に物怖じすらしなかった少女はやっぱり空気を読まない。目をぱちくりと開いて彼女は言う。

「お腹減ったでありますか?ここ、ショッピング以外にご飯食べるところもあるでありますよ?」

そりゃあショッピングモールだ。食事の出来る場所がないはずがない。
黒い塊は答える。

「お金ない」
「なんでここにいるのでありますかっ!?」

当然といえば当然な少女のその言葉に、黒い塊はようやく動いた。
突っ伏していた体を起こして見えたのは、「大和撫子」を絵に描いたような黒髪で白い肌の少女だった。発言は変だが。
黒髪の少女は、無表情に淡々と答える。

「前。食い倒れたことがある」
「食い倒れたっていうのもまた珍しい経験でありますな」

そもそも『食い倒れる』っていう動詞は存在するのか。

「経験は大事」
「そうでありますな。
 わたくしも同じ顔の人間を仲間と敵に一緒に持つという世にも奇妙な経験があるのでありますが、友達と再会できたり屋根の下で眠れたりととても充実した日々を……」

話かみ合ってないぞ。

ともあれ、銀髪の少女が語り倒すのを横目に、黒髪の少女が呟く。

「食べ過ぎで。お金がなくなって帰れなくなった」
「あぁ、食い倒れた時の時の話でありますか。それは大変でありましたな」

こくん、と頷いて黒髪の少女は続ける。

「だから。今度は先に一日乗り放題券を買った」
「おぉ。それは重要な成長でありますなっ、頭いいでありますよ!」
「乗り放題券。高い」

間。

沈黙を気にせず、さらに少女は続ける。

「カード。家に置いてきた」
「……その心は?」
「お金ない。お腹すいた」

黒髪の少女は、訴えるように銀髪の少女をその茫洋とした瞳でじっと見つめ、繰り返した。

「……お腹すいた」
「安心するであります!」

少女はその薄い胸をとん、と叩いて続けた。

「わたくしもお金は持ってないでありますっ!」

どこをどう安心しろと。

もはや見ている野次馬がいるのなら涙を流さんばかりの状況である。もう近くに人が寄り付こうとすらしていないわけだが。
つまり、と黒髪の少女は言う。

「あなたも私と同じ。ということ」
「はいであります!」

あまりに元気のよいその答えに、あてが外れた、と言わんばかりに大きなため息をつく少女。
そのため息に、あわてたように銀髪の少女は言った。

「あぁっ、でもわたくしツケのきくお店知ってるでありますっ!
 この時間帯ならまだ迷惑かけないでありますし、よかったら一緒に行きませんかでありますよっ!?」
「―――、本当?」

感情が見えづらいものの、その目には確かに光があった。いわく、ご飯にありつける、という期待の光。
任せるでありますよ!と胸を張り、少女は誇らしげに言う。

「でなければわたくしも文無しでこんな物価の高いところに来ないであります」
「それもそう」

頷いて、黒髪の少女はようやく立ち上がる。銀髪の少女よりも、幾分か背が高い。
歩く気力がわいた少女を見て、銀髪の少女はツインテールを揺らしながら笑顔で言った。

「じゃあ、一緒に行くでありますかっ!
 申し遅れたであります。わたくしはノーチェと申しますであります!」
「私。姫神 秋沙」

黒髪の少女―――姫神の胸には、日本人がするには珍しい本格的な十字架の飾りがあった。




居酒屋「ろんぎぬす」。
それはこのショッピングモールの地下にある、ちょっと小粋なみんなの居酒屋。
渋みのある親父が一人で経営するこの店は、クセのある連中が集う。そして、その日の客もまたそうだった。
開店二時間前の、仕込みの大切な時間。
なのに。

「こんにちはでありますよっ!」

……なんというか、厄介な客が来てしまった。
いつもは渋い笑みを浮かべながら客に応対する店主も、少し嫌そうに眉をしかめる。

「おいおい嬢ちゃん、いつも言ってるだろう。ウチは居酒屋なんだよ」

いつも言ってる、という時点でこの言及が無駄なことがわかるが、ノーチェはやはり小首を傾げていつもの答えを返す。

「確かに未成年はお酒飲んじゃいけないでありますが、居酒屋に入ることは禁止されてないでありますよ?」
「―――、なるほど。その手が」
「詭弁って言うんだそういうのは。しかも今は営業前なんだがね」

一緒に入ってきた姫神が頷くのを見て、厄介な客が増えた、と思う店主。
もう一人は初顔だが(しかも黒髪の美人だが)、このたまにやってくるなんだか憎めない厄介者が連れてきた以上、クセのない客ではないだろう。
そう考えて内心ため息をつきながら、軽くノーチェを睨んでみる。

「しかも純真そうなお嬢さんをこんな店に連れこんで。他にいい店あるだろう?3階のパスタ屋とか」
「選択肢がないのでありますよ。わたくし達二人とも文無しでありますから」
「出てけ」

そもそも文無しは客とは言わない。
えー、とブーイングをかましてノーチェはいつものようにそれに答える。

「いつもおいしいまかない食べさせてくれるではありませんかー」
「普通はまかないでもタダで出してちゃウチが潰れるんだが?」
「この間送った大根となんか高い老酒とエキストラヴァージンがあるでありましょう?あれでチャラってことでなんとか食べさせてもらえないでありませんかー?」

そう。この店の店主がたまに文無しでのーてんきにやってくるこの少女に、文句を言いながらもまかないを食べさせてやるのはそこに理由がある。
店の前で行き倒れていたところを助けてまかないを食べさせてやったのが始まりなのだが、
その恩返しのつもりなのか世界中の名産だの野菜だのが時折送られてくるようになった。
送られてくるものは文句なしに味がいいため、それをやめろと言うわけにもいかず。しかし、それを止めなかったがゆえにたまに来てはメシをたかりに来るのだった。
そんな関係ではあるものの、無下に断ち切ることもためらわれ、こうしてずるずると今まで続いてしまっているわけだったりする。

ひとつため息をついて、店主はとんとんとん、とまかないがわりを二人分出してやる。
炊き上がっているご飯に刻んで塩をまぶしてごまと一緒に混ぜた菜めし、鰤のあらで作ったあら汁、最近有名になったトマトに定番の巾着と蒟蒻の静岡風おでん三種。
ついでに自家製のお新香(違う地域では香の物、お漬物とも)を出して、お茶をさらに置いてやった。
おぉ、と感嘆の声を上げる姫神。
まかないってレベルじゃない気がするが、そこらへんは店主の心意気だ。美人の女の子に頼られて嬉しくない男など存在しないともいう。
意外に礼儀正しくいただきます、と合掌し、ノーチェは遠慮なく食べはじめた。それをじっと横目で見て、姫神も黙々と食べ進む。
それを満更でもなさそうに横目に見ながらモツ煮の鍋をみる店主。
……のどかな光景であった。




人間、腹が極限まで減っていると何も言えないものらしい。姫神はもともと静かだが。
やがて皿は空になり、焙じ茶をすする姫神とノーチェ。なんだかのどかな光景である。
ほう、と温まった息を吐き出し、姫神は表情を変えぬまま言う。

「おいしかった。ごちそうさま」
「いやー、相変わらずいい仕事してるでありますな~。極楽でありますよ~」
「メシ食い終わったなら出てってくんねぇかな、嬢ちゃん」

そんな迷惑そうな苦言を完璧に無視。
某引きこもり用精神防御壁があるかのように鉄壁のスルー技能でノーチェは姫神との会話を始める。

「それにしても、どうしてこんなところに一人で来たでありますか?
 秋沙くらいの年頃なら駅使うほど遠い場所に行くのならご家族ご兄弟などと一緒なのが常識なのでありましょう?」
「嬢ちゃん、それいつの時代の常識だ」

たぶん3~40年くらい前のだと思われる。
姫神もまた、その発言をスルーしてノーチェと話を続けた。

「私の生家は京都。今は東京の西で。寮生活」
「なるほど。それじゃ、お友達とかはどうなのでありますか?」
「……最近。スルーされがち」

なんだか、その発言とともに彼女の周辺から光の恵みが減っていくかのように見える。
暗~くなっていく周囲に呼応するように、彼女の言葉がだんだんと重みを増していく。

「というか。私は2巻から出ているはずなのに。それまでのオールスターの4巻に登場が許されないとはどういうこと。
 3巻の次に名前ありで登場したのが6巻とはどういうこと。はじめて表紙に出たというのに。帯ごときに隠されてしまうとはどういうこと。しかも意図的に。
 2巻でも10巻でも死にかける。瀕死のヒロイン。それが私。
 そこまでやっても。クラスメイト以上にすすまないというのは。もはや私に魅力がないと。そう言いたいわけ。うふふ。うふふふ」
「あ、秋沙?なんか黒いオーラが出てるでありますよっ、しまってしまって!」

姫神さんもだいぶ溜まっているようだ。その必死の思いに自分、涙がちょちょぎれそうです。
虚ろな笑みをしばらく浮かべると、それのガス抜きを行うように彼女は大きく一つため息をついた。

「ごめんなさい。ここで愚痴を言っても意味がないのは。私もわかっている。
 こんな黒い思いを。実現する力も度胸も。私にはない。けれど。少しだけ思うことがある」
「思うこと、と言うでありますと?」
「……。具体的には。もっと出番があれば。と」

決意表明。

……そりゃあ無理だ、と思った方。自分と友達になりませんか。

閑話休題。
姫神の言葉に、ノーチェはぽん、と彼女の肩に手を置く。そして、いいでありますか?と優しく(生暖かく)微笑みながら諭すように告げた。

「毎回毎回出番があっても、けして意識されないという運命を背負った幼馴染も、世の中にはいるのでありますよ?」

お前が言うな(中の人的に)。そう思った方。自分と心の友になりませんか。

さらに閑話休題。
店主もまた、姫神を諭すようにじっと彼女の目を見て言った。

「いいかい、お嬢さん。出番が多くても報われるとは限らないんだよ?
 ちょっと踏み入れる足場を間違えれば、けして這い上がれない蟻地獄に陥ることもあるもんだ。
 幹部にまで登りつめていてもいつの間にか町の電気屋に勤めることになってたり、各地でやられ役筆頭になってたり、
 とりあえず敵に困ったらこいつ使っとけとか言われたり、挙句の果てにはアウトラインは俺の見た夢扱いされる始末……」

……こっちもかなり溜まっているようだ。
が、男の泣き言なんか聞きたくないのでスルー。聞いてると背中がすすけてるとか言いたくなるからスルー。
しかし、姫神の思いは強かった。

「出番があれば。少なくとも会う可能性が増える。そして。他の皆にはある。例のシーン要員として。使ってもらえる」
「例のシーン、でありますか?」

そう、と力強く頷き、姫神は言った。

「八時二十分」

※八時二十分とは……某越後の縮緬問屋のご隠居が全国を行脚するご長寿時代劇の劇内において、全国の青少年達を毎回テレビの前に釘付けにさせた例の時間のこと。

その覚悟に、もう涙が止まりません。

ともあれ、その言葉の意味を理解できないノーチェは小首を傾げた。

「でも、それっておかしくないでありませんか?」
「おかしいとは。なにが?」

無表情の中にちょっと不機嫌さの欠片を交えたような姫神の台詞に、だって、とノーチェは思ったことそのものを口にした。

「秋沙が出番がほしいというのは、『だれかさん』ともっと仲良くなりたいからなのでありましょう?
 だったらわざわざ前に出て出番を増やすよりも、ちょっと勇気を出して本人のそばにいようとする方がまっすぐでわかりやすいでありますよ」

あう、と。まったくの正論に姫神の口から可愛らしい声が漏れた。
姫神の言う『だれかさん』と、一緒にいたいから出番がほしいと嘆くよりも、『だれかさん』と一緒にいるために自分から近づく方がよっぽど確実でわかりやすい。
ノーチェの言うことは、限りなく正しくて無垢な答えであった。
だが。

「……。それができるなら。苦労はしない」

恋とはいつだって思うようにいかないものである。
好きな人の仕草に一喜一憂し、空の色さえ変わって見える。
何気ない視線が心を締めつけ、何気ない一言が心を暖める。
特に姫神は自分を上手く主張するのが苦手だ。
状況に変化を与えてしまうくらいなら、と変に一歩譲ってしまうところもある。幸せに慣れていないともいう。
だからこそ、その『ちょっとの勇気』が果てしなく遠く難しく感じてしまう。
『ちょっとの勇気』の大切さも、諦めないことの大事さも、彼女は知っているつもりだ。
それでも、今の彼女にとってその一歩は限りなく遠い。

ノーチェはそんな複雑な様子の姫神を見て、そんなものでありますか、と呟いた。
静かな時が流れる。
響くのは、モツ煮がとろ火で暖められて気泡の弾ける小さな音のみ。
しばらくして、ノーチェが言った。

「難しいもので、ありますなぁ」
「うん。難しいもの」

誰かと誰かが交わることに、絶対の正解などない。
こうすればいい、などとは口が裂けても言えはしない。
いつになっても誰にも絶対の答えはわからないことだろう。
けれど。絶対の正解がないからこそ、人は悩む。人は前に進もうとする。
それでも。前に進んでばかりでは、どんな人間も息切れをおこしてしまうから。

―――時には、こんな休息も。

二人の少女は、同時にため息をついた。
少しだけ、無表情の中に笑みを含ませ、姫神が言う。

「また。こうやって。愚痴を聞いてくれる?」
「もちろんでありますよっ!」

そう答えるノーチェは、ひまわりのように大輪の鮮やかな笑顔を浮かべた。
携帯のアドレスを交換すると、姫神は店を出る。その表情はやはり茫洋としていたが、どこか楽しげだった。

残されたのは、ノーチェと店主。ノーチェはくすりと笑うと、店主に言った。

「秋沙に思われてる方は幸せなのでありましょうなぁ」
「まったくだ。あんないいお嬢さんに気づかないとは罪作りな。……あと出てけ」
「そうでありますよ。どこにでもいるもんでありますなぁ、罪作りな男」
「そうそう。まったく恵まれない奴もいるっていうのにな。……開店まであと30分しかないんだよ、出てけ」
「あ、そうそうそれから。さっきの話でありますが」
「さっきの話っていつの話だ?……だから出てけって。皿洗えないだろう」
「あなたは途中で足を踏み外したんじゃなくて一歩目からそういう役どころ(ネタ的やられ役)だったはずでありますよ?」
「……よーしわかった。なぁ嬢ちゃん、アンタのその髪の毛、ちょっと引っぱらせろ。
 たしかどっかの資料に二つに結った髪の毛は取れるし飛ぶ時に使うって書いてあったような気がする。今どうしようもなく試したくなった」
「勘弁でありますよーっ!?しかもそれ夢!夢の中の話でありますしっ!?」
「っつーかお前が言うな!お前に言われるとすごくむなしくなるから!誰のせいだと思ってるんだっ!?俺が、俺が……っ!」

どたばたがしゃずもももかきーんっ。



居酒屋「ろんぎぬす」。
今日はちょっと開店が遅れる模様。常連様、申し訳ありません。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー