OPENING 02 イグニッション
Scene Player:ほしな歌唄
ほしな歌唄という少女がいる。
14歳の若さで歌手デビューした実力派の歌姫だ。
デビュー曲の「迷宮バタフライ」は、テレビや雑誌といったメディアでも多く取り上げられ、
瞬く間にトップアイドルへの仲間入りを果たした。
14歳の若さで歌手デビューした実力派の歌姫だ。
デビュー曲の「迷宮バタフライ」は、テレビや雑誌といったメディアでも多く取り上げられ、
瞬く間にトップアイドルへの仲間入りを果たした。
それからしばらくして、彼女は大手芸能プロダクションのイースターミュージック社からの離籍を発表。
当時のマネージャーが設立した新興の事務所に移り、心機一転を計ることになる。
それ以降、彼女がメディアに露出することはほとんど無くなり、やがて大衆から存在を忘れられていく。
悪く言えば一発屋、それが世間一般の印象であろう。
当時のマネージャーが設立した新興の事務所に移り、心機一転を計ることになる。
それ以降、彼女がメディアに露出することはほとんど無くなり、やがて大衆から存在を忘れられていく。
悪く言えば一発屋、それが世間一般の印象であろう。
ほしな歌唄とイースターとの間に何があったのか、真実を知る者はあまりに少ない。
* * *
いつものボイストレーニングを終え、歌唄は帰路についていた。
前の事務所とケンカ別れして以来、なかなか歌の仕事は回ってこない。
改めてイースターの影響力の大きさを実感させられる。だがそれは覚悟の上だ、今更そんなことを気にしてなんかいられない。
仕事は無くとも日々のトレーニングだけはきっちりと。それが彼女の信念だった。
改めてイースターの影響力の大きさを実感させられる。だがそれは覚悟の上だ、今更そんなことを気にしてなんかいられない。
仕事は無くとも日々のトレーニングだけはきっちりと。それが彼女の信念だった。
ふと見上げると、商業ビルの側面に設置された大きなテレビモニタが目に入った。
少し前まで映っていたはずの場所に、もはや自分の姿はない。
そこにいるのは、かつて同じ歌番組で共演したこともあるアイドル歌手グループだ。
少し前まで映っていたはずの場所に、もはや自分の姿はない。
そこにいるのは、かつて同じ歌番組で共演したこともあるアイドル歌手グループだ。
(もう一度。もう一度必ず、あの大きなステージで歌ってみせるんだから)
小さな決意を胸に、歌唄は歩みを速める。向かう先は三条プロダクション。
古いビルの一室を借りて立ち上げた、以前とは比べ物にならないほど小さな会社である。
それが生まれ変わった「ほしな歌唄」の新たな拠点だった。
古いビルの一室を借りて立ち上げた、以前とは比べ物にならないほど小さな会社である。
それが生まれ変わった「ほしな歌唄」の新たな拠点だった。
事務所に戻ると、社長の三条ゆかりがお茶を煎れて迎えてくれた。
イースター時代からの付き合いで、今も歌唄のマネージメントをしてくれる頼もしい存在である。
イースター時代からの付き合いで、今も歌唄のマネージメントをしてくれる頼もしい存在である。
「歌唄、お疲れさま。調子はどう?」
「大丈夫。私はいつでも好調よ」
「ふふ、期待通りの答えね」
「大丈夫。私はいつでも好調よ」
「ふふ、期待通りの答えね」
プロとして当然とばかりに歌唄は答える。
「それより聞いて。秋葉原での仕事が入ったわ、対バンのライブだけど」
秋葉原といえば、今やサブカルの代名詞のような場所。
曰く、まともなメディアに取り上げられないマイナーな自称芸能人が活動していたりもするらしい。
たぶん三条さん自身は、あまりこの仕事を快く思ってはいないだろう。
一度はトップアイドルの座を飾った歌唄に、そんな地下アイドルまがいのことをさせるのだから。
しかし歌唄は全然気にならない。それに仕事を選ぶわけにもいかないし。
曰く、まともなメディアに取り上げられないマイナーな自称芸能人が活動していたりもするらしい。
たぶん三条さん自身は、あまりこの仕事を快く思ってはいないだろう。
一度はトップアイドルの座を飾った歌唄に、そんな地下アイドルまがいのことをさせるのだから。
しかし歌唄は全然気にならない。それに仕事を選ぶわけにもいかないし。
「歌唄の実力があればすぐにでもTVにだって出られるのに。イースターのやり方は卑怯すぎるのよ!」
「最初から分かってたことじゃない。お互いにその覚悟はあったはずよ?」
「最初から分かってたことじゃない。お互いにその覚悟はあったはずよ?」
誰かが明言したわけではないが、今の歌唄の歌手活動には間違いなくイースターの圧力がかかっている。
それを確信したのは移籍後すぐのこと。
出演が決まっていたはずのTVの歌番組で、収録直前になって製作会社側から約束を反故にされたのだ。
それを確信したのは移籍後すぐのこと。
出演が決まっていたはずのTVの歌番組で、収録直前になって製作会社側から約束を反故にされたのだ。
この手の妨害工作に抗うには、所属タレント単独の力だけでは難しい。
質と量の両方、すなわちプロダクションの持つ総合的な実力が必要なのである。
質と量の両方、すなわちプロダクションの持つ総合的な実力が必要なのである。
「それも……そうよね。私と歌唄で天下を取るって決めたんだもの」
三条さんは詳しく語ろうとしなかったが、歌唄を欲しがっているところは幾つか存在するらしい。
彼らにとっても、「ほしな歌唄」はそれだけの稼ぎが見込める商品なんだということか。
彼らにとっても、「ほしな歌唄」はそれだけの稼ぎが見込める商品なんだということか。
例えばつい先日も、中堅の「杜プロダクション」から提携のアプローチがあったばかり。
人気グループ「Dear」らを擁する芸能事務所で、アイドルタレントのマネージメントのノウハウもある。
他にも演歌歌手などの所属も多く、きちんとした歌手活動もさせてもらえるだろう。
提携相手としては申し分ない。歌唄の中の人は元々演歌歌手志望だったというエピソードもあり、そういう意味でも安心だ。
人気グループ「Dear」らを擁する芸能事務所で、アイドルタレントのマネージメントのノウハウもある。
他にも演歌歌手などの所属も多く、きちんとした歌手活動もさせてもらえるだろう。
提携相手としては申し分ない。歌唄の中の人は元々演歌歌手志望だったというエピソードもあり、そういう意味でも安心だ。
けれど2人はその提案を拒否し、今に至る。
歌唄を知り尽くし、その実力を引き出せるのは社長でもある三条さんだけ、お互いにそう確信していたからだ。
歌唄を知り尽くし、その実力を引き出せるのは社長でもある三条さんだけ、お互いにそう確信していたからだ。
「いつかアイツらにぎゃふんと言わせてやるわよ! だからいつまでもヨロシクね、歌唄」
「ええ、一緒に頑張りましょう」
「じゃあ早速、ライブの仕事について説明するわ。まずは ―― 」
「ええ、一緒に頑張りましょう」
「じゃあ早速、ライブの仕事について説明するわ。まずは ―― 」
三条さんの眼鏡が、きらりと輝いた。