OPENING 03 カレイドスコープ
Scene Player:赤羽くれは
「はわー……やっぱり落ち着くねー……(ずずず)」
「……(ずずず)……」
「……(ずずず)……」
私立輝明学園。
全国に分校を持つ神道系の名門校にして、国内でも数少ないウィザードの養成機関だ。
全国に分校を持つ神道系の名門校にして、国内でも数少ないウィザードの養成機関だ。
ここ、東京都千代田区の秋葉原校もその1つ。
近隣に位置する陰陽師の名家、赤羽神社が実際の教育現場にも大きく関わっており、
当主の赤羽桐華自らが出向いて学校行事を取り仕切ることも少なくない。
近隣に位置する陰陽師の名家、赤羽神社が実際の教育現場にも大きく関わっており、
当主の赤羽桐華自らが出向いて学校行事を取り仕切ることも少なくない。
その娘 ―― 赤羽くれはは、母の代理も兼ねて久し振りに母校へと顔を出していた。
と言っても、事務的な用事は午前中にさっさと済ませており、今は天文部の部室でのんびりとコーヒーブレイク中である。
と言っても、事務的な用事は午前中にさっさと済ませており、今は天文部の部室でのんびりとコーヒーブレイク中である。
「あかりん、今日はエリスちゃんと一緒じゃないの?」
「……すぐに来ると思う……職員室に用事があるって言ってた……」
「……すぐに来ると思う……職員室に用事があるって言ってた……」
今、部室に居るのは緋室灯と2人だけ。部長である志宝エリスも、そのうちやってくるだろう。
しかしよくよく考えれば、くれはは部のOGであり、灯はそもそも天文部の所属ではない。
ぶっちゃけ不法侵入のような気もするが、くれははそんなことを気にするような玉では無かった。
しかしよくよく考えれば、くれはは部のOGであり、灯はそもそも天文部の所属ではない。
ぶっちゃけ不法侵入のような気もするが、くれははそんなことを気にするような玉では無かった。
「……エリスが来る前に、くれはにお願いしたいことがある」
コーヒーカップをちゃぶ卓に置くと、灯が話を切り出した。
物静かな彼女が自分から話題を振ってくるというのも珍しい。
物静かな彼女が自分から話題を振ってくるというのも珍しい。
「……ここに、エリスと一緒に行って欲しい」
「はわ? ……チケット?」
「はわ? ……チケット?」
月衣から取り出したのは2枚のライブチケット。
そこには、学校近くにあるらしいライブハウスの名前と、駅からの簡単な道順が記されている。
そこには、学校近くにあるらしいライブハウスの名前と、駅からの簡単な道順が記されている。
「どうしたの? これ」
「……アルバイト先で、貰った」
「了解、エリスちゃん喜んでくれるといいねー」
「……アルバイト先で、貰った」
「了解、エリスちゃん喜んでくれるといいねー」
絶滅社のエージェントとして世界中を飛び回ることも多い灯だが、暇な時間を見つけては“普通の”仕事もしているらしい。
幼い頃から兵士として戦闘訓練を受けてきた彼女にとって、一般社会に触れるのは良いリハビリになるだろう。
幼い頃から兵士として戦闘訓練を受けてきた彼女にとって、一般社会に触れるのは良いリハビリになるだろう。
灯が働いているのは、学校の正門前の階段を下りて、ちょっと進んだ先の雑居ビルに店舗を構えるメイド喫茶。
少し前から、そこでウェイトレスとして雇われているらしい。
仕事への姿勢は超がつくほど真面目だし、何より美人でスタイルも抜群だ。店にとってはなかなか優秀な人材だろう。
調理場にさえ入らなければ、だが。
少し前から、そこでウェイトレスとして雇われているらしい。
仕事への姿勢は超がつくほど真面目だし、何より美人でスタイルも抜群だ。店にとってはなかなか優秀な人材だろう。
調理場にさえ入らなければ、だが。
何よりもありがたいのは、このメイド喫茶の店長がウィザードに対して理解ある人物だということだ。
前に灯から0-Phoneで送ってもらった写メを見る限り、幼い印象を受ける女性店長である。
あどけない顔立ちに、土管やこいのぼりを連想させる華奢な体型。せいぜい灯と同じくらいか、おそらく少し歳年下だろう。
そんな少女が店のトップを務めているというのも妙な話だが、ウィザード稼業をやっていると気にならなくなるから実に不思議だ。
前に灯から0-Phoneで送ってもらった写メを見る限り、幼い印象を受ける女性店長である。
あどけない顔立ちに、土管やこいのぼりを連想させる華奢な体型。せいぜい灯と同じくらいか、おそらく少し歳年下だろう。
そんな少女が店のトップを務めているというのも妙な話だが、ウィザード稼業をやっていると気にならなくなるから実に不思議だ。
「で、あかりんの分は?」
「……私は任務があるから。それに、ああいうところは好きじゃない」
「はわー……あかりんも大変だねぇ」
「……大丈夫。それと、エリスには私からってこと……内緒」
「……私は任務があるから。それに、ああいうところは好きじゃない」
「はわー……あかりんも大変だねぇ」
「……大丈夫。それと、エリスには私からってこと……内緒」
七徳の宝玉を巡る事件以来、世界の情勢は一段と厳しくなっている。
いちウィザードでしかない赤羽くれはにも、その空気はひしひしと伝わっていた。
新たな脅威として「冥魔」どもが現れるようになってからは、どうしてもそちらの対処に人が回されしまう。
かと言って、エミュレイター側による世界の侵蝕が止まるわけでもなく。
人間たちにとっては、まさにジリ貧という言葉が相応しい。
いちウィザードでしかない赤羽くれはにも、その空気はひしひしと伝わっていた。
新たな脅威として「冥魔」どもが現れるようになってからは、どうしてもそちらの対処に人が回されしまう。
かと言って、エミュレイター側による世界の侵蝕が止まるわけでもなく。
人間たちにとっては、まさにジリ貧という言葉が相応しい。
この問題に対処するため、ウィザード上層部が企てた作戦は、かなり大胆で思い切ったものだった。
一時的にではあるが、冥魔に対しエミュレイター勢との共同戦線を張ろうというのである。
もちろんそれを心情的に良しとしない者は多いだろう。
しかし目前に共通の敵が迫っている今、敵の敵は味方であると認識するより他は無かったのだ。
一時的にではあるが、冥魔に対しエミュレイター勢との共同戦線を張ろうというのである。
もちろんそれを心情的に良しとしない者は多いだろう。
しかし目前に共通の敵が迫っている今、敵の敵は味方であると認識するより他は無かったのだ。
灯が就く任務というのも、まさにそれ絡み。
近い将来行われるだろう冥魔との決戦に備え、世界結界の外側に急ピッチで拠点が築かれているのだが、
そこの防衛及び前線の維持が課せられた仕事ということらしい。
万が一大規模な戦闘が始まれば命の保証は出来ない、それほど危険な場所だ。
近い将来行われるだろう冥魔との決戦に備え、世界結界の外側に急ピッチで拠点が築かれているのだが、
そこの防衛及び前線の維持が課せられた仕事ということらしい。
万が一大規模な戦闘が始まれば命の保証は出来ない、それほど危険な場所だ。
しかしくれはは、一呼吸だけ置くと、精一杯の笑顔を見せる。
「ちゃんと帰ってくるんだよー、あかりん」
「……ありがとう」
「……ありがとう」
戦地に向かう親友を、くれはは明るく送り出すこと。
それが居場所を護る者の使命だと自分は思っている。
それが居場所を護る者の使命だと自分は思っている。
「……くれはも、エリスをお願い」
「どーんと任せておきなさいって! 柊やあかりんがいなくても、エリスちゃんは絶対に護るから!」
「どーんと任せておきなさいって! 柊やあかりんがいなくても、エリスちゃんは絶対に護るから!」
絶対に大丈夫。今までだってそうだったし。
なんてったって、赤羽神社の娘によるとびきりのご祈願があるんだしね。
信じる者は救われるのだ。
なんてったって、赤羽神社の娘によるとびきりのご祈願があるんだしね。
信じる者は救われるのだ。