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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話

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12月10日 16:20 ファー・ジ・アース 赤羽神社

(ここは…どこだ……)

 ぼんやりと霞む視界の中で薄暗い板張りの天井が目に入った。程よく経年劣化したその天井は、
最近見慣れてきた典型的な日本家屋のものだ。障子越し薄ぼんやりした光が彼自身の意識状態を
示しているようだ。
 朦朧とした意識の中で、いつもの自問自答を開始する。

 場所。日本のどこからしいが、不明。
 時間。日光の入り方と色から考えて、夕暮れ時。意識を失ってからの経過時間は、不明。
 名前。相良宗助。
 任務。………思い出せない。何か、大切なことがあったはずだが…。

 与えられた任務を思い出せない。その焦燥感がワーカーホリックな宗助の覚醒を促した。
 両手、両腕、両足と順番に動かし、身体的な損傷が無いことを確認する。

(問題ない)

 音を殺して布団から起き上がると、周囲の状況を確認する。ごく一般的な和室だが、これが
客間だとするならばかなり広い。そして、枕元には水桶と使い慣れた戦闘服と装備一式が綺麗に
畳んで置いてあった。何か違和感を覚えつつも、装備一式を身に着けようとしたとそのとき、
襖がそっと開かれた。

「!?」

 直前までまったく感じなかった気配に、宗助の熟練の兵士としての本能が警鐘を鳴らす。
 考えるよりも先に体が動く。すでに手につかんでいた戦闘服の上着を牽制のために襖側に
投げつけ、一足飛びに現れた人物を組み伏せる。その途中、はわっというなんとも間の抜けた
悲鳴を耳にしたが気にはかけない。逆にあまりの抵抗の無さに違和感を覚えるほどだ。
 マウントポジションを取り自身の優位性を確保したところで、現れた人物を確認する。
 年齢はハイティーンだろうか。漆塗りのような黒髪が印象的な少女だ。押し倒されたときの
衝撃だろうか、白い和装がわずかにはだけて細い鎖骨が覗いている。
 宗助と同年代の男子ならば赤面するような状況であるが、彼は兵士として正しい行動を行った。

「貴様の気配隠蔽技術はたいしたものだ。だが詰めを誤ったな。
 監視対象の意識が覚醒しているかどうかまず確かめるべきだった」
「は、はわっ?わ、わたしは、あなたの看病をしに…」

 少女の言動と目線から考えるに、恐れ半ばで現実への認識が追いついていない。パニックこそ
起こしていないが何が起こったかわからない、といったところだろうか。
 しかし宗助は、これは演技に違いないと直感した。先ほどのような見事な気配隠蔽術を
習得しているこの少女が只者のはずが無いのだ。そして、健気な少女の振りをして男から
機密情報を聞き出すのは情報員の常套手段だ。

「この状態で貴様に勝ち目は無い。階級と所属、任務を答えてもらおう。
 答えるならばジュネーブ条約に基づいた捕虜としての権利を保障する」

 じたばたと理にかなわない抵抗を行いながら少女が叫ぶ。

「何言ってるのよ!?わたしは、ボロボロで倒れていたあなたを助けて上げたのよっ!?」
「抵抗は無駄だ。援軍を呼ぼうとも考えないことだ。
 この状態からなら一瞬で気道をつぶし脊髄に損傷を与えることができる」

 その一言に少女は抵抗をやめた。
 何かをあきらめたかのように彼女は瞳を閉じる。
 と、額に青筋を浮かべ、軽く息を吸い込み、怒気をはらんだ声で叫ぶ。

「ヴォーテックス!!」

 刹那。宗助の視界を黒い塊が埋め尽くした。
 とっさに身構えた宗助だが、黒い塊に押し出されるように宙に舞う。
衝撃、というよりは自由落下する感覚に近い。いや、それよりももっと近しい感覚を彼は知っている。

(この感覚は…ラ、ラムダドライバ……!?)

 少女の放った黒い奔流に吹き飛ばされ、まともに受身を取れないまま天井に打ち付けられた宗助は再び昏倒した。


12月10日 17:00 地球 喫茶店

「ソースケが行方不明ってどーゆーことよっ!?」

 都立陣内高校近くの喫茶店。パフェのおいしい店として有名なこの店で、二人の男女が
周囲の注目を浴びることもお構いなしにけんかをしている。主に怒りを撒き散らしているのは、
ハイティーンの黒髪の少女。都立陣内高校の白い制服を身につけ、気丈そうな眼差しに
怒りを溜めている。
 彼女の名前は、千鳥かなめという。
 ウィスパードという特殊能力者である彼女は、秘密の軍事組織ミスリルによって
保護観察されている身の上だ。そして、その保護観察護衛の任務に当たっているのが
相良宗助軍曹、冒頭のソースケである。

「どうにもこうにも言ったとおりだ」

 対する男は、冷笑を浮かべたまま淡々と起こったことだけを告げる。身なりの整った
大学生に見える彼は、実は女性である。宗助と同様の軍事組織ミスリルに所属する情報部の
一員、レイス。その変装技術にはいつものことながら舌を巻くばかりだ。
 彼、いや、彼女はホットのブラックコーヒーをおいしそうに啜ると、満足そうな息をついた。

「かなりの広範囲を巻き込んでドボンだったそうだな。
 本人の遺体はおろかARXの残骸すら発見できなかったそうじゃないか」

 彼女、相当に相良宗助のことを嫌っている。スナイパーライフルで狙撃する振りをし
宗助を破壊活動に幾度となく従事させたことだってある。その彼女としては目の上の
たんこぶのような宗助がいなくなって清々している、といったところだろうか。

「身辺警護の心配をする必要は無い。いずれ陸戦隊の誰かが新しく派遣されることになるだろう」

 彼女は、この話はここまでだと言わんがばかりに席を立つ。

「待って」

 震える声で視線を伏せたかなめを見、所詮は小娘かと鼻で笑いながらレイスは言う。

「ふん、まだ何か用があるというのか?」
「報告書、持っているんでしょ?」
「仮に持っていたとして、渡せると思っているのか?」

 かすかに脅しをこめた声でレイスはかなめの要求を跳ね除ける。しかし、レイスの健闘は
ここまでであった。かなめは暗い視線のまま彼女の袖をつかみ、ぎろりとレイスを見据えると、
歴戦の情報部員ですら背筋に悪寒が走るような声で言った。

「いいの?あんたの秘密、ばらしちゃうわよ…」

 ピシ。レイスはぎこちない動きでかなめを見、そして凍りついた。
 携帯電話を片手に、微笑むかなめ。
 今にも発信ボタンを押そうとしているその連絡先は、どこだろうか。
 たしか、この娘は西太平洋戦隊の戦隊長と個人的にも仲がよかったと記憶している。

「………」

 わずかばかりあいだ、打算と計算とプライドを秤にかけて、無言のままもとの席に着く、レイス。

「報告書、持っているんでしょ?」

 獲物をいたぶるネコのような目でレイスを見つめながらかなめは言う。自身が追い詰められた
獲物であることを自覚し、ふつふつと湧き上がる怒りを押さえつけながら、彼女は機密書類を
テーブルの上にたたきつけた。
 ページ数にして数百を超えるその書類にパフェをぱくつきながら目を通していたかなめは、
一点に注目すると、スプーンを放り出し、書類とのにらめっこを始める。
 レイスが3杯目のコーヒーを飲み終わる頃、得心したことがあったのか、かなめは勢いよく
立ち上がると書類をかばんに押し込んで喫茶店をあとにしようとした。

「まて」

 背後からかけられた声にかなめは剣呑な視線を向ける。

「とめたって無駄よッ!」
「そんなことはわかっている」

 だったら何よと、かなめが口を尖らせたところで、レイスは伝票とすでに空になったパフェの
容器を指差して言った。

「自分の食った分の代金ぐらい置いていけ」


12月10日 09:00 ファー・ジ・アース アンゼロット宮殿

「こんにちは、柊さん。今日もいいお天気ですね」

 地球を臨むテラスを背後に豪奢な椅子に腰掛けたローティーンの少女が言う。黒いシックな
ドレスに身を包み、白いティーカップを片手に微笑む彼女の名前はアンゼロット。
世界魔法協会の首魁であり、この世界の守護者でもある。

 世界の守護者。それは文字通り世界の守護をになうもの。異世界からの侵略者を撃退し、
世界を護るものである。
 異世界から訪れる侵略者、名をエミュレイター。
 この世界、ファー・ジ・アースに満ちる生態エネルギープラーナを目当てに現れる彼らは、
はるか昔に忘れ去られた神話上の生物の姿をとる。そして、世界と異なる常識で構成された
彼らには一般的な常識の支配下にある武装や兵器では一切傷つけることができない。彼らを
傷つけることができるのは、彼らと同様にはるか昔に忘れ去られた魔法の力を扱うものたちだけだ。
人知れず、魔法の力を使い、世界を護る彼らを、夜闇の魔法使いナイトウィザードと言う。
 そのナイトウィザードを取り仕切る人物こそが、アンゼロットなのである。

 謁見の間のような間取りのこの広間の中では、軍服のような赤いユニフォームに身を
包んだ者が儀仗兵のようにずらりと整列している。彼らの名前はロンギヌス。
 アンゼロット直属の精鋭部隊だ。
 そんなロンギヌスに囲まれるように、彼女と向かい合う場所に一人の少年がいた。

「ああ、気分のいい一日だったのにてめぇのせいで一気に最悪になっちまったよ」

 少女に向かい合う薄汚い格好をした学生が青筋を立てながら答える。学生かばんを
大事そうに抱えていることを除けばどこにでもいそうな貧相な男子学生だ。
 とはいえ、この宮殿にいたるまでの経過を考えればある意味当然の反応ではある。
いつもどおり幼馴染と一緒に登校しようした彼は、その登校途中で突如足元にあいた
《トンネル》から下水へとダイブ。下に待ち受けていたロンギヌスたちに拉致されたのだ。
 なお、一緒に登校していた幼馴染は、ご飯までに帰ってくるのよー、とまるで日常の
一風景であるかのような対応をしていたことを追記しておく。

「あら、柊さん。今日はいつに増して臭いのですね?」
「てめぇが下水道から拉致したからだろうがぁああああ!?」
「まぁ、そんなに声を荒げなくても聞こえていますわ」

 柊と呼ばれた少年の非難にアンゼロットは愛らしく小首をかしげて答える。
 ちなみに、まったく悪びれている様子も無い。きっと悪いとすら思っていない。
 この少女はそういう人物である。

「そんなことはどうでもいい!アンゼロット、今日はなんのようだ!?また世界の危機か!?
 それとも厄介なエミュレイターでも現れたかっ!?そうじゃなかったら俺を学校に行かせろーっ!?」

 無駄と知りつつわめき散らす柊に、アンゼロットはため息をひとつつくと、ハンドベルを片手に答えた。

「しいて言うなら2番目が近いでしょうか。
 百聞は一見にしかずといいますし、とりあえずごらんになっていただけますか?」

 ちりーん。
 ハンドベルが鳴らされると同時に柊の立っている床板が開き、彼の体は自由落下を始めた。

「またこんなことになるのかよぉおおおおっ!?」

 もはや落とされなれたなぁと感じながら、暗いダストシュートのような空間を落ちながら考える。
直接戦えとか潜入しろとかいう話ならば何度となく聞かされてきたが、今日のこの対応はどうだろう。
拉致手段こそいつもどおりであるが、話の内容にはどうにもいつもと違う雰囲気が漂っている。
 ほどなくしてダストシュートの終点へと到着する。狭かった視界が一気に開け、眼前に広がった空間、
その中心に鎮座しているものを認識し、柊はうめくようにつぶやいた。

「なんだこりゃ…」

 スポットライトに照らされ、暗闇の中に浮かぶのは、全長8メートルを超える機械の塊。
 しかし、そのフォルムは人間を模したようであり、機能美に彩られた全身からは自身が
戦闘のための兵器であることを主張しているようだ。表面の装甲にペイントされた色は白。
ところどころに青いラインが入れられ、水あるいは風のようなイメージを連想させる機体だ。
 柊の持つ語彙でありていに表現するならば、漫画やアニメで登場するような巨大人型ロボット。
 そこまで考えたところで、中空にアンゼロットの姿が映し出された。

「これは、先ほど世界結界を突き破って現れたものです」
「エミュレイターか?」
「広義の意味ではそうでしょう。しかし、これ自体では単独で動くことができないようなのです」
「つまり、あれか、中のパイロットに相当するやつがいない?」
「まぁ、今日の柊さんは冴えていますね?そのとおりです」
「一言余計だ!それで、なんなんだよ。俺はメカニックじゃねえぞ。
 お前んところの科学班に調べさせりゃいいだろうが」
「ええ、すでに組成や技術レベルなどは判明しています」
「だったらどうして俺を呼ぶっ!?」
「AI部分がブラックボックス化していて手がつけられないのです」
「はぁ?それがどうして俺と関係して来るんだ?」

 アンゼロットは花がほころぶように微笑い、柊に言う。

「あら、柊さんはおあつらえ向きのものをお持ちじゃないですか」
「はぁ、なんだそれは…っておい、まさか…」
「ええ、そのまさかです」
「その設定生きているのかよぉー!?黒歴史じゃねぇええのかぁあああっ!?」

 柊蓮司、心からの絶叫。
 しかし、半時間後には彼は二度と会いたくない人物との再開を果たすことになる。

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