12月10日 17:00 ファー・ジ・アース 赤羽神社
相良宗助は背中に当たるごつごつとした木材の角の感触で目を覚ました。
腕を動かしてみると、不自由な形で後ろ手に拘束されていることがわかった。腕をひねり動かすたびに
かちゃかちゃとなる耳障りな金属音が拘束に使われているのが手錠であると言うことを伝えてくる。
と、不意に視界が翳った。
見上げると、とてもいい笑顔をした少女が仁王立ちでこちらを見下ろしている。腰に届こうかという
ストレートの黒髪は乱れ、着衣――以前見たことがある、巫女の装束だ――もわずかにはだけている。
まるで乱闘でもしてきたかのような姿をしていた。
腕を動かしてみると、不自由な形で後ろ手に拘束されていることがわかった。腕をひねり動かすたびに
かちゃかちゃとなる耳障りな金属音が拘束に使われているのが手錠であると言うことを伝えてくる。
と、不意に視界が翳った。
見上げると、とてもいい笑顔をした少女が仁王立ちでこちらを見下ろしている。腰に届こうかという
ストレートの黒髪は乱れ、着衣――以前見たことがある、巫女の装束だ――もわずかにはだけている。
まるで乱闘でもしてきたかのような姿をしていた。
「はわ、目が覚めた?」
その少女は奇妙な鳴き声を上げて、宗介に声をかけた。
口調自体は非常に朗らかで明るいものだったが、歴戦の傭兵である宗介にはわかる。まるで蛇が首筋に
まとわりついてくるようなこの感覚は、戦場でいつも感じているもの。
殺気。
いてつくようなその眼差しを受けているだけで脂汗が止まらない。彼の宿敵だったあの九頭竜を冠する男にも
引けを取らない純粋な殺気だ。こんな物騒な殺気を放つ少女に宗介は一人だけ心当たりがあった。
口調自体は非常に朗らかで明るいものだったが、歴戦の傭兵である宗介にはわかる。まるで蛇が首筋に
まとわりついてくるようなこの感覚は、戦場でいつも感じているもの。
殺気。
いてつくようなその眼差しを受けているだけで脂汗が止まらない。彼の宿敵だったあの九頭竜を冠する男にも
引けを取らない純粋な殺気だ。こんな物騒な殺気を放つ少女に宗介は一人だけ心当たりがあった。
「こほん」
「まて、千鳥、話し合おう…っ」
「まて、千鳥、話し合おう…っ」
わざとらしい少女の咳払いにあせった宗介の口をついて出た言葉が重なった。
少女は一瞬きょとんとしたが、それはそれといった風に宗介をねめつける。
少女は一瞬きょとんとしたが、それはそれといった風に宗介をねめつける。
「…まて」
「何よ?」
「ジュネーブ条約に基づく…」
「はわぁ?」
「…捕虜としての権利を……」
「女の子を押し倒すのが捕虜の権利ぃ?」
「何よ?」
「ジュネーブ条約に基づく…」
「はわぁ?」
「…捕虜としての権利を……」
「女の子を押し倒すのが捕虜の権利ぃ?」
冷たい汗が額を流れ落ちる。
捕虜としての権利など望むべく状況にない。それがどんな悲惨な事態を招くか、身をもって体験している彼は、
あっさりと白旗をあげた。
捕虜としての権利など望むべく状況にない。それがどんな悲惨な事態を招くか、身をもって体験している彼は、
あっさりと白旗をあげた。
「……何が、望みだ?」
少女は満足げにうなずくと、宗介に矢継ぎ早に質問を繰り出した。
「まずは名前、それから所属。表と裏も全部洗いざらいね。請求書はこっちで書いといたげるから」
「?…千鳥、君は俺の事情をほとんど知っていると思うが…」
「いーから、聞かれたことに答える!」
「…わかった、俺の名前は、相良宗介。17歳と言うことになっている」
(ということになっている?)
「陣内高校2年4組ゴミ係だ」
「?…千鳥、君は俺の事情をほとんど知っていると思うが…」
「いーから、聞かれたことに答える!」
「…わかった、俺の名前は、相良宗介。17歳と言うことになっている」
(ということになっている?)
「陣内高校2年4組ゴミ係だ」
陣内高校?聞いたことがない高校ね、と少女は思いつつも情報を聞き出すことは怠らない。
「それだけ?」
「…ミスリル、西太平洋艦隊”トゥアハー・デ・ダナン”所属軍曹コールサインはウルズ7」
「…ミスリル、西太平洋艦隊”トゥアハー・デ・ダナン”所属軍曹コールサインはウルズ7」
少女は手元にあったメモ用紙に筆ペンで要点をまとめながら思う。こっちがワークスで、さっきの陣内高校
っていうのがカバーと。あとは絶滅社に請求書を書くだけっと。
それにしてもあの会社って…いや、この業界自体ろくでもない二つ名ばかりまかり通っているからウルズ7
なんて普通の通り名は覚えやすくていいわ。死の茄子色カブトムシとか、かぐわしき虹色ネプチューンとか
そういうとおり名を真顔で言うのは、できれば冗談だけでよしてほしい。中等部の後輩が、「至高の山吹色の
ペガサス」なんですと言い出したときには、本当にどうしようかと思ったんだよね。
そんな感想とため息を頭の中で漏らしながら、さらさらと宗介の話した情報をしたためたあと、彼女は
満足げに声を上げた。
っていうのがカバーと。あとは絶滅社に請求書を書くだけっと。
それにしてもあの会社って…いや、この業界自体ろくでもない二つ名ばかりまかり通っているからウルズ7
なんて普通の通り名は覚えやすくていいわ。死の茄子色カブトムシとか、かぐわしき虹色ネプチューンとか
そういうとおり名を真顔で言うのは、できれば冗談だけでよしてほしい。中等部の後輩が、「至高の山吹色の
ペガサス」なんですと言い出したときには、本当にどうしようかと思ったんだよね。
そんな感想とため息を頭の中で漏らしながら、さらさらと宗介の話した情報をしたためたあと、彼女は
満足げに声を上げた。
「よしよし」
「…これ以上はたとえ君でも知る権利はない」
「なんだかつき離した言い方ね?」
「人間知らないことがいいこともあるからだ。千鳥、君でもそれは譲れない」
「あっそう、私もこれ以上知っても仕方ない思っているけど…。
さっきからずいぶん千鳥千鳥って言っているけど、それってだれ?」
「…これ以上はたとえ君でも知る権利はない」
「なんだかつき離した言い方ね?」
「人間知らないことがいいこともあるからだ。千鳥、君でもそれは譲れない」
「あっそう、私もこれ以上知っても仕方ない思っているけど…。
さっきからずいぶん千鳥千鳥って言っているけど、それってだれ?」
ピクリと体を硬直させたあと、宗介は恐る恐る確認を行う。
「…君のことじゃないのか?」
その問いに少女は無情にもにっこりと微笑うと否定の言葉を返した。
「私は、赤羽くれはっていうの。残念だけど千鳥って人じゃないわ」
む、何かの嫌がらせだろうか?そう宗介は考えて、とりあえず、悪い冗談はやめてくれという。が、少女は
笑みを一向に崩さない。
千鳥ならそろそろ、うわははははーと笑ってごめんねーと切り出すころあいなのだが。
笑みを一向に崩さない。
千鳥ならそろそろ、うわははははーと笑ってごめんねーと切り出すころあいなのだが。
「もしもーし、相良軍曹?」
まさか別人か?いや、他人の空似というにはあまりにも目の前の少女はがさつなところも含めて千鳥かなめだ。
しかし、ここまで彼女が自分に当たる理由に宗介は心当たりがない。
そして何より、千鳥は相良宗介のことを、ソースケと呼び捨てにしていたのではないか?
宗介の顔がさっと青くなる。たらたらと額を流れ落ちるのは大粒の冷や汗だ。
しかし、ここまで彼女が自分に当たる理由に宗介は心当たりがない。
そして何より、千鳥は相良宗介のことを、ソースケと呼び捨てにしていたのではないか?
宗介の顔がさっと青くなる。たらたらと額を流れ落ちるのは大粒の冷や汗だ。
「はわ、がまの油?」
「…今、俺が言ったことは忘れてもらえないか?」
「請求書書くからダメ」
「君が知っていると不味い種類の情報だ」
「はわぁ、そこまで言うなら今すぐ治療費払ってくれるなら忘れるー」
「……持ち合わせはない」
「怪我したの組織に知られちゃこまる?」
「そんなことはない」
「だったら、何も問題ないよ、ほらね?」
「…今、俺が言ったことは忘れてもらえないか?」
「請求書書くからダメ」
「君が知っていると不味い種類の情報だ」
「はわぁ、そこまで言うなら今すぐ治療費払ってくれるなら忘れるー」
「……持ち合わせはない」
「怪我したの組織に知られちゃこまる?」
「そんなことはない」
「だったら、何も問題ないよ、ほらね?」
そうだろうか?そうなのだろうか?
なにか、腑に落ちないものを感じながら、宗介は恨み言のような声を上げた。
なにか、腑に落ちないものを感じながら、宗介は恨み言のような声を上げた。
「しかし、そっくりだ」
「その千鳥って人?」
「そうだ」
「ほほぅ、その子とはどういう関係ですかな?相良軍曹?」
「…わからん」
「その千鳥って人?」
「そうだ」
「ほほぅ、その子とはどういう関係ですかな?相良軍曹?」
「…わからん」
たとえ記憶が完全であったとしても宗介は同じ答えを返しただろう。
しかし、今は違う。千鳥かなめのことを思い出そうとするほどに、頭の奥が鈍く痛む。
クラスメイトで、いつも振り回される相手で、いつもフォローしてくれる相手で…それだけだっただろうか?
俺にとって、千鳥は…?
しかし、今は違う。千鳥かなめのことを思い出そうとするほどに、頭の奥が鈍く痛む。
クラスメイトで、いつも振り回される相手で、いつもフォローしてくれる相手で…それだけだっただろうか?
俺にとって、千鳥は…?
「あ、無理しなくてもいいよ?」
暗い顔をして考え込んでしまった宗介の背後で何を察したのかくれはが言う。かちゃかちゃと続いていた
金属音が途切れ、腕の違和感がなくなったことで宗介は彼女が拘束を解いていたことを知る。
どうやらこの少女とその背後の組織は俺をどうこうするつもりはないようだ。そう察した宗介は、外した手錠を
プラプラさせながら、手桶を片付けようとしているくれはに声を掛けた。
金属音が途切れ、腕の違和感がなくなったことで宗介は彼女が拘束を解いていたことを知る。
どうやらこの少女とその背後の組織は俺をどうこうするつもりはないようだ。そう察した宗介は、外した手錠を
プラプラさせながら、手桶を片付けようとしているくれはに声を掛けた。
「しかし、よくよく見れば君は千鳥とは別人に違いない。間違えてすまなかった」
拘束されていた腕の動きを一つ一つ確かめるようにひねりながら謝る宗介にくれは何気なく問い返した。
「どこが違うの?」
「ああ、胸周りの贅肉が落ちている。
日ごろ口にしているダイエットの成果かと思って黙っていたのだが、なるほど、別人ならば納得もい…」
「ああ、胸周りの贅肉が落ちている。
日ごろ口にしているダイエットの成果かと思って黙っていたのだが、なるほど、別人ならば納得もい…」
言葉を言い終える前に手桶が宗介の顔を直撃した。