「――って、ンな事が有って今俺は此処に居るんだよ」
柊は一通り語り終えると、一息吐いてベッドの頭側の柵に上体の背を預けた。
もう陽は殆んど街並みの向こうに没してしまい、宵の明星が空に瞬き始めていた。
もう陽は殆んど街並みの向こうに没してしまい、宵の明星が空に瞬き始めていた。
「で、悪ぃけどちっと寝かせてくれっか? 未だ体力(HP)も魔力(MP)も
プラーナも回復し切って無いんで…な……」
プラーナも回復し切って無いんで…な……」
そう言いながら柊はずるずると身体全体を擦り下げる様に布団に潜り込み、
数秒もせずに穏やかな寝息を立て始めた。
数秒もせずに穏やかな寝息を立て始めた。
更に何かを柊から聞き出したがったココで在ったが、柊の無警戒な寝姿を見て
仕方無いと云った風情で柔らかに微苦笑を浮かべ肩を竦めて椅子から立ち上がって
寝室から出て行く。
仕方無いと云った風情で柔らかに微苦笑を浮かべ肩を竦めて椅子から立ち上がって
寝室から出て行く。
柊が肩に掛けていたブレザーをうららが寝入った柊の下から引き寄せて
きちんと畳んでサイドテーブルに置いた後に、のぞみ達やナッツもココに続いて
足音を忍ばせて静かに退室して二階のリビングへと降りて行った。
きちんと畳んでサイドテーブルに置いた後に、のぞみ達やナッツもココに続いて
足音を忍ばせて静かに退室して二階のリビングへと降りて行った。
■□■□■
改めてのぞみやココ達はリビングに集まって
静かにお茶を煎れ直していた。
静かと言っても気不味い類のものでは無く、
先程柊から聞かされた話に呆気に取られつつも
各々に思いを巡らせていると言った感じで在る。
そんな中で、シュークリームを両手各々に掴んで
ぱく付いていたのぞみが自身の口の中に入れた分の
シュークリームを食べ下した後にうららに話し掛ける。
静かにお茶を煎れ直していた。
静かと言っても気不味い類のものでは無く、
先程柊から聞かされた話に呆気に取られつつも
各々に思いを巡らせていると言った感じで在る。
そんな中で、シュークリームを両手各々に掴んで
ぱく付いていたのぞみが自身の口の中に入れた分の
シュークリームを食べ下した後にうららに話し掛ける。
「それにしてもさー、うららは何であんなに熱込めて
柊先輩の力になりたがってたの?
そりゃ、ナイトメアに襲われてたんだから放って置けないけどさ
……あ、もしかしてうららぁ~?♪」
柊先輩の力になりたがってたの?
そりゃ、ナイトメアに襲われてたんだから放って置けないけどさ
……あ、もしかしてうららぁ~?♪」
この年頃の乙女特有のラブコメ的思考回路に脳内リンクしたのぞみは、
嬉しそうなそれでいて明らかに面白がってる笑みを浮かべて口許を緩ませる。
その眼差しは恋愛的好奇心に彩られ、端から見れば半分は下世話なオヤジめいている。
嬉しそうなそれでいて明らかに面白がってる笑みを浮かべて口許を緩ませる。
その眼差しは恋愛的好奇心に彩られ、端から見れば半分は下世話なオヤジめいている。
注がれた紅茶の半分程を飲んだティーカップをもう片手に持っていたソーサーに置いて
最初はキョトンとのぞみの話を聞いていたうららだったが、のぞみが何を考えているのか
察した途端にティーカップの持ち手から右手を外して顔を朱くしながら
右掌を忙しく左右に振りつつ慌てて声を上げる。
最初はキョトンとのぞみの話を聞いていたうららだったが、のぞみが何を考えているのか
察した途端にティーカップの持ち手から右手を外して顔を朱くしながら
右掌を忙しく左右に振りつつ慌てて声を上げる。
「いえ! のぞみさんが考えてる様な事じゃ…有りません…けど…
…似てる様なものなのかな……?」
…似てる様なものなのかな……?」
台詞の後半になるに連れてうららの声は思慮を帯びて落ち着いて行き、
遂には顔を軽くうつ向かせて自問自答しているかの様に考え込んでしまった。
遂には顔を軽くうつ向かせて自問自答しているかの様に考え込んでしまった。
「……どう云う事なのかしら?」
かれんがうららに問い掛けて話を促そうとする。
うららはそれに応じて顔を上げ、皆を見回した後に落ち着いた口調で話し始める。
うららはそれに応じて顔を上げ、皆を見回した後に落ち着いた口調で話し始める。
「――わたし、今度とある大きな劇団の舞台に役者として参加出来る事に
なったんです。て言っても、台詞も少ない脇役も脇役なんですけど」
「あら、おめでとう、うらら♪」
なったんです。て言っても、台詞も少ない脇役も脇役なんですけど」
「あら、おめでとう、うらら♪」
こまちがうららに向けて御祝いの言葉を述べる。
いつかこまちの小説を原作とした舞台にうららに主演で演じて欲しいと
密かに約束し合った二人で在ったので、うららと柊とのコイバナ疑惑から
何故唐突に舞台デビューの話が出て来たのか疑問に思いながらも、
夢へ向けての一歩がまた踏み出せたと云う報告に関しては素直に喜びを贈る。
いつかこまちの小説を原作とした舞台にうららに主演で演じて欲しいと
密かに約束し合った二人で在ったので、うららと柊とのコイバナ疑惑から
何故唐突に舞台デビューの話が出て来たのか疑問に思いながらも、
夢へ向けての一歩がまた踏み出せたと云う報告に関しては素直に喜びを贈る。
そんなこまちに微笑みながら軽い会釈で応じたうららは、そのまま話を続ける。
「それで、そのお芝居の中でわたしの演じている村の女の子が大きなカニのお化けに
襲われてる所を旅の騎士がわたしとカニの間に颯爽と入って来て、振り下ろされた
カニのハサミを剣を抜いて受け止めてわたしを助けてくれるシーンがあるんですよ。
それで、さっきコワイナーから蓮司先輩に助けて貰った時がまんまそのシーンに
ぴったりで、それで蓮司先輩はもしかしたらわたしの運命の騎士(ナイト)さまなんじゃないかな、って……」
襲われてる所を旅の騎士がわたしとカニの間に颯爽と入って来て、振り下ろされた
カニのハサミを剣を抜いて受け止めてわたしを助けてくれるシーンがあるんですよ。
それで、さっきコワイナーから蓮司先輩に助けて貰った時がまんまそのシーンに
ぴったりで、それで蓮司先輩はもしかしたらわたしの運命の騎士(ナイト)さまなんじゃないかな、って……」
語りの最後の方になると、うららも何やら自意識を感じ始めて来たらしく
再び顔を真っ朱にして、ソーサーに乗せたティーカップをテーブルに置いた後に
手近に有ったクッションを手早く掴んで自身の顔を隠す様に両腕で抱え込んだ。
再び顔を真っ朱にして、ソーサーに乗せたティーカップをテーブルに置いた後に
手近に有ったクッションを手早く掴んで自身の顔を隠す様に両腕で抱え込んだ。
「……じゃあ何、お芝居と同じシチュエーションで助けられたから
運命感じてひと目惚れした、って事?」
「悪いですかぁ?! ぶぅ~」
運命感じてひと目惚れした、って事?」
「悪いですかぁ?! ぶぅ~」
呆れてツッコむりんの台詞に対し、抱えていたクッションを僅かに下ろして
顔の上半分だけを覗かせたうららがややぶうたれて文句の呻きを洩らす。
顔の上半分だけを覗かせたうららがややぶうたれて文句の呻きを洩らす。
その遣り取りを見てくすくすと愉しそうに笑うかれんとこまちを背景に
「それってとっても素敵だよっ!♪」とのぞみがうららの手を取って
きゃいきゃいとはしゃぎ、その光景をテーブル上のパルミエ形態のココとナッツが
各々にシュークリームと豆大福をぱく付きながら和やかに見上げる。
「それってとっても素敵だよっ!♪」とのぞみがうららの手を取って
きゃいきゃいとはしゃぎ、その光景をテーブル上のパルミエ形態のココとナッツが
各々にシュークリームと豆大福をぱく付きながら和やかに見上げる。
そんな和気藹々とした空間の中で
独りりんだけが思案深げに眉根を寄せて、
柊が眠る寝室の有る上階を見上げていた。
独りりんだけが思案深げに眉根を寄せて、
柊が眠る寝室の有る上階を見上げていた。
■□■□■
明くる翌日、柊は朝早くに目が醒めると着ていたパジャマを脱いで
制服に着替えた後に、回復したプラーナを体内で変換して体力と魔力の
回復に費やして身体を全快させていた。
尤も、その為に回復したプラーナの殆んど費やしてしまったので、
無茶な行動は今日は控えようと柊は自身に念押しして置く。
制服に着替えた後に、回復したプラーナを体内で変換して体力と魔力の
回復に費やして身体を全快させていた。
尤も、その為に回復したプラーナの殆んど費やしてしまったので、
無茶な行動は今日は控えようと柊は自身に念押しして置く。
寝室から出て階段を降りようとした柊は、「ミル!ミル!」と云う掛け声と共に
何やらフサフサと長い毛に被われた小動物が
階下から階段を一段一段跳ね上がって来るのに気付いた。
何やらフサフサと長い毛に被われた小動物が
階下から階段を一段一段跳ね上がって来るのに気付いた。
何だぁ?と思って柊が階下に視線を向けると、程無くしてキャリーバッグを後ろ手に引いて
二足歩行している白いマルチーズみたいな生き物が柊の足元に両足を揃えて着地した。
その生き物は鼻唄など歌いながら勢いのままに片足を上げて機嫌良くその場で一回転し、
その動きに振り回されたキャリーバッグが強かに柊の向こう脛に叩き込まれる。
二足歩行している白いマルチーズみたいな生き物が柊の足元に両足を揃えて着地した。
その生き物は鼻唄など歌いながら勢いのままに片足を上げて機嫌良くその場で一回転し、
その動きに振り回されたキャリーバッグが強かに柊の向こう脛に叩き込まれる。
「痛っ!……って、あっ!?」
油断して向こう脛を殴られた柊は痛んだ右足を上げた拍子にバランスを崩し、
二階踊り場も通過して一階にまで派手な音を立てて転がり落ちて行った。
二階踊り場も通過して一階にまで派手な音を立てて転がり落ちて行った。
「あ、大丈夫ミル~?」
柊を転げ落とさせた張本人が、振り向いて階下を覗き込んで
悪気の欠片も無く柊に声を掛ける。
悪気の欠片も無く柊に声を掛ける。
一階の突き当たりに天地逆転した体勢で転がり落ちた柊は直ぐ様復活して
ヘッドスプリングで起き上がり、階上のフサフサな生き物に向けて
右手人差し指を突き付けつつ大声で非難を上げる。
ヘッドスプリングで起き上がり、階上のフサフサな生き物に向けて
右手人差し指を突き付けつつ大声で非難を上げる。
「おい、ちったぁ悪気感じて先ずは謝れよ!
っつうか、オマエ誰だよ!? 見たトコ、
ココやナッツの同類みてぇだけどよ」
っつうか、オマエ誰だよ!? 見たトコ、
ココやナッツの同類みてぇだけどよ」
自分の落ち度は一切考慮しないで柊の態度に気を悪くした白い生き物は、
倍する文句を柊に向けて捲し立てる。
倍する文句を柊に向けて捲し立てる。
「何言ってるミル!ぼぉっとしてて避けられなかったアンタが悪いミル!
それにミルクはオマエなんかじゃ無くてミルクって立派な名前があるミル!
それとココ様とナッツ様を呼び捨てにするなミル!
この階段から下がる男ミル!」
「……テメェ……」
それにミルクはオマエなんかじゃ無くてミルクって立派な名前があるミル!
それとココ様とナッツ様を呼び捨てにするなミル!
この階段から下がる男ミル!」
「……テメェ……」
ミルクと名乗った相手に対して柊が反撃の文句を上げようした所で、
洗顔歯磨きを終えて丁度洗面所から出て来たパルミエ形態のココとナッツが
二人に向けて爽やかに声を掛けて来る。
洗顔歯磨きを終えて丁度洗面所から出て来たパルミエ形態のココとナッツが
二人に向けて爽やかに声を掛けて来る。
「やぁヒイラギ、おはようココ! もうベッドから出ても大丈夫ココか?
あ、ミルク、ヒイラギは大切なお客様なんだから失礼の無い様にするココよ?
それじゃあ、朝御飯にするココ♪」
「はい、ココ様ナッツ様! 今朝は栄養と美味しさを考えて卵料理中心に……」
あ、ミルク、ヒイラギは大切なお客様なんだから失礼の無い様にするココよ?
それじゃあ、朝御飯にするココ♪」
「はい、ココ様ナッツ様! 今朝は栄養と美味しさを考えて卵料理中心に……」
「って、俺放置かよっ!?」
朗らかな朝の空気に包まれたナッツハウスに、柊のツッコミが木霊した。