「――柊さん、任務御苦労様でした。これでも飲んで
今はその身体を休める事だけを考えて下さい」
今はその身体を休める事だけを考えて下さい」
硝子の鈴を転がした様な透明で気品高く美しい少女の声が、
柊に向けて優しく慈愛に溢れた労りの言葉を掛けて来る。
柊に向けて優しく慈愛に溢れた労りの言葉を掛けて来る。
――此処は、地球の衛星軌道上の次元の狭間に浮かぶ“世界の守護者”たる存在の居城で、
住まう主を名を取って「アンゼロット宮殿」と呼ばれている所で在る。
西洋の古城を思わせる造りの宮殿の一画に在るテラスルームで眼下に見える地球を背景に
白いティーテーブルを挟んで、プラチナの様な流れる銀髪のロングヘアにサファイアの様な
碧眼を備え黒いゴシックロリータ風のドレスに身を包んだ十代半ばの絶世の美少女が
柊蓮司と向かい合って席に着き、柊に温かい紅茶とクッキーを振る舞っている。
住まう主を名を取って「アンゼロット宮殿」と呼ばれている所で在る。
西洋の古城を思わせる造りの宮殿の一画に在るテラスルームで眼下に見える地球を背景に
白いティーテーブルを挟んで、プラチナの様な流れる銀髪のロングヘアにサファイアの様な
碧眼を備え黒いゴシックロリータ風のドレスに身を包んだ十代半ばの絶世の美少女が
柊蓮司と向かい合って席に着き、柊に温かい紅茶とクッキーを振る舞っている。
この美少女こそ、先に出た“世界の守護者”――アンゼロットその人で在る。
纏う神秘的な雰囲気は確かにその幼い容姿にそぐわぬ威厳と気高さを見る者に感じさせ、
彼女を守護者然と示している。
彼女を守護者然と示している。
「……で、今度はどんな含みが有るんだ、このお茶にゃあ?」
対して柊は、高級なティーカップに注がれている琥珀色の水面を胡乱な眼で見た後に
今言葉を掛けて来たアンゼロットに視線を向け、心底から疑わしそうな眼差しと口調を
遠慮無く浴びせる。
今言葉を掛けて来たアンゼロットに視線を向け、心底から疑わしそうな眼差しと口調を
遠慮無く浴びせる。
「まぁ酷い、柊さん! 私は心の底から誠心誠意を以て貴男の労を労いたいと思って
こうしてお茶を振る舞っているのに、貴男は私の事をそんな風に思っていたのですか!?」
こうしてお茶を振る舞っているのに、貴男は私の事をそんな風に思っていたのですか!?」
アンゼロットは悲嘆に暮れた風に身を捻り、懐からレースのハンカチを取り出して自身の目元に充てていた。
だが、その振る舞いに何処かわざとらしさを感じたのは柊だけだろうか。
柊はそんなアンゼロットから視線を外さずに大きな声で叫ぶ。
だが、その振る舞いに何処かわざとらしさを感じたのは柊だけだろうか。
柊はそんなアンゼロットから視線を外さずに大きな声で叫ぶ。
「当ったり前だろ! そうやって俺に紅茶飲ませた後で俺がどんな酷い目に遇って来たか、
まさか忘れた訳じゃ無ぇだろうな、アンゼロット!?」
まさか忘れた訳じゃ無ぇだろうな、アンゼロット!?」
今にも噛み付かんばかりの柊の勢いに、左右斜め前から声が挿し挟まれる。
「柊さん! 幾ら何でも今のはアンゼロット様に対して無礼でしょう!?」
「柊さん、アンゼロットさんに謝って下さい」
「……クッキー、美味しい……」
「柊さん、アンゼロットさんに謝って下さい」
「……クッキー、美味しい……」
声を掛けて来た三人は、今回の任務で柊と行動を共にしたメンバーで、
柊と共にこのお茶会に呼ばれて席を共にしていたので有る。
柊と共にこのお茶会に呼ばれて席を共にしていたので有る。
最初に柊の無礼を叱責したのは、柊と同じ輝明学園高等部制服をきちんと着熟して
その上から羽織っている赤いマントが印象的な、聖剣エクスカリバーを所持する
勇者にして転生者、“ブルーアース”のふたつ名を持つ流鏑馬(ヤブサメ)勇士郎と云う
折り目正しい雰囲気の少年。
その上から羽織っている赤いマントが印象的な、聖剣エクスカリバーを所持する
勇者にして転生者、“ブルーアース”のふたつ名を持つ流鏑馬(ヤブサメ)勇士郎と云う
折り目正しい雰囲気の少年。
次いで柊に謝罪を促したのは、輝明学園とは違う制服を着ている上から
魔術師然としたローブを羽織っている、癖の無い焦茶色のボブヘアーと
童顔に掛かった大きな眼鏡とその小さな背丈に比せず人並み以上に豊かな胸が
特徴的な愛らしい少女魔術師、マユリ=ヴァンスタイン。
魔術師然としたローブを羽織っている、癖の無い焦茶色のボブヘアーと
童顔に掛かった大きな眼鏡とその小さな背丈に比せず人並み以上に豊かな胸が
特徴的な愛らしい少女魔術師、マユリ=ヴァンスタイン。
最後にマイペースにクッキーを囓っているのは、輝明学園高等部の蒼紫の女子制服に身を包んだ
普段は感情の起伏に乏しい強化人間の美少女、緋室灯。
普段は感情の起伏に乏しい強化人間の美少女、緋室灯。
この三人に同時に責められて、流石の柊もばつが悪そうに言葉に詰まってしまった。
そこに間を空けぬかの様にアンゼロットが顔を上げて、涙に濡れている事も無く
あっけらかんと皆を納める様に言った。
そこに間を空けぬかの様にアンゼロットが顔を上げて、涙に濡れている事も無く
あっけらかんと皆を納める様に言った。
「とまぁ、いつもの柊さん弄りは此処までにして」
「おい」
「おい」
柊の批難の呻きは、ティーカップに手を伸ばし口を付け始めたアンゼロットに
由って無視された。
由って無視された。
カップから口を離したアンゼロットは気を取り直して皆に声を掛ける。
「ゆっくりと休んで貰いたいと云うのは本当です。今回は直後に任務なども用意してはおりません」
「本当なんだろうな?」
「本当なんだろうな?」
柊からの疑問は、またも一斉に無視された。
「皆さんにはそれぞれ部屋を用意してますので、暫くはこの宮殿に泊まって
身体を休めて下さい。それと、柊さん」
「何だよ?」
身体を休めて下さい。それと、柊さん」
「何だよ?」
ぶっきらぼうに応える柊。それを気にする事も無くアンゼロットはにこやかに言葉を続ける。
「学校の方には私から公欠手続きを済ませて有ります。一週間程度ならば単位には影響はしませんよ」
「本当かっ!?」
「本当かっ!?」
柊は今度は信じられないものを聞いた風にキレ良く訊き返し、
アンゼロットはそれに素直に首肯する。
アンゼロットはそれに素直に首肯する。
「ええ。――では皆さん、解散致しましょう」
アンゼロットが卓上に置いて有ったチャイムを優雅に鳴らすと、何処からとも無く
数人の女性ロンギヌスが現れてティーセットを片付けて行く。
数人の女性ロンギヌスが現れてティーセットを片付けて行く。
そしてお茶会は御開きになり、軽い挨拶を交し合った後に
勇士郎もマユリも灯も各人各々に宮殿内に散って行く。
勇士郎もマユリも灯も各人各々に宮殿内に散って行く。
その場に立ち残されてさてこれからどうするかと考えを巡らせていた柊に、
アンゼロットが楽しげに声を掛けて来た。
アンゼロットが楽しげに声を掛けて来た。
「柊さん、良ろしければこれから私と御一緒して下さいませんか?
“はい”か“Yes”で答えて下さいね♪」
「……やっぱ、俺を騙したのか?」
「違いますよ、宮殿内の散策に付き合って載きたいだけですわ。
柊さんに御見せしたい物も有りますし」
「見せたい物ぉ?」
“はい”か“Yes”で答えて下さいね♪」
「……やっぱ、俺を騙したのか?」
「違いますよ、宮殿内の散策に付き合って載きたいだけですわ。
柊さんに御見せしたい物も有りますし」
「見せたい物ぉ?」
柊は明ら様に怪しんだが、アンゼロットは側近たるロンギヌス・コイズミを呼び付けると
ロンギヌス・コイズミを引き連れて委細構わず歩き出す。
ロンギヌス・コイズミを引き連れて委細構わず歩き出す。
柊は左手をスラックスのポケットに突っ込み右手で自身の後ろ頭を軽く掻くと、
仕方無いと云った風情でアンゼロット達の後を僅かに遅れて付いて歩き出した。
仕方無いと云った風情でアンゼロット達の後を僅かに遅れて付いて歩き出した。
アンゼロットに連れられて宮殿内の散策に付き合っていた柊は、
改めてじっくり巡り見る宮殿に新鮮な楽しみを徐々に見出していた。
と、唐突に柊の目の前を不思議なデフォルメミニ生物がふよふよと飛び横切って行った。
改めてじっくり巡り見る宮殿に新鮮な楽しみを徐々に見出していた。
と、唐突に柊の目の前を不思議なデフォルメミニ生物がふよふよと飛び横切って行った。
(…何だ?)
柊は怪しく思ったが、アンゼロットに呼ばれて振り向き再び視線を戻した時には
既に姿が見えなくなっていたので、柊はそれきり気にしない様にした。
既に姿が見えなくなっていたので、柊はそれきり気にしない様にした。
アンゼロットに連れられて柊達が入った広間は、綺麗に陳列された様々な魔道具や
遺産や箒に占められていた。
遺産や箒に占められていた。
「…凄ぇな」
柊が感嘆の呻きを洩らす。
先に立っていたアンゼロットが振り向いて説明を始める。
「この部屋は、様々な偉業や曰くに彩られたアイテムを陳列していますわ」
「良いのかよ、んなモンこんなオープンに展示しててよ?」
「良いのかよ、んなモンこんなオープンに展示しててよ?」
興味深そうに展示品を覘き回っていた柊がアンゼロットに訊く。
「英雄達の偉業を後に続くウィザード達に伝えるのも、守護者たる私の務めです。
何れ、柊さんの魔剣が貴男の手を離れた時には此処に一緒に陳列させて載きますわ」
「そりゃ光栄だな」
何れ、柊さんの魔剣が貴男の手を離れた時には此処に一緒に陳列させて載きますわ」
「そりゃ光栄だな」
柊は少し誇らしげに応えた。正直、自分が英雄視されるのには全く興味は無かったが、
自分がして来た事が他人に認めて貰える事は素直に嬉しかった。
自分がして来た事が他人に認めて貰える事は素直に嬉しかった。
「……それに、多くの人の目に触れさせる事でその物に染み付いた悪しき念を
徐々に浄化しなければならない物も有りますからね」
「…浄化しなきゃならねぇ物?」
徐々に浄化しなければならない物も有りますからね」
「…浄化しなきゃならねぇ物?」
僅かに憂いを帯びたアンゼロットの台詞に、柊は訝しげに訊いた。
その柊の問いに応え、アンゼロットは展示室の奥の一角を
すらりと伸ばした右手人差し指で差し示す。
その柊の問いに応え、アンゼロットは展示室の奥の一角を
すらりと伸ばした右手人差し指で差し示す。
「…こ、こりゃあ……!?」
それを見て、柊は驚きと共に顔を顰めた。
そこに陳列されていたのは、蟹に似た形状をした異形の鎧――カニアーマーで在った。
只、そのカニアーマーは既存に多く見られるそれとは違って黄金色に輝き、
炎を思わせる紋様が要所に浮彫りにされている。
そして、柊はそのカニアーマーに見覚えが有った。
そこに陳列されていたのは、蟹に似た形状をした異形の鎧――カニアーマーで在った。
只、そのカニアーマーは既存に多く見られるそれとは違って黄金色に輝き、
炎を思わせる紋様が要所に浮彫りにされている。
そして、柊はそのカニアーマーに見覚えが有った。
そう、世界の危機の渦中に巻き込まれた幼馴染みのくれはを助ける為に
赴いた異世界で柊の前に立ちはだかった――
赴いた異世界で柊の前に立ちはだかった――
「……そう、異世界ラース=フェリアの炎の巫女の守護騎士として転生して
柊さんと戦ったトウガのカニアーマーです」
柊さんと戦ったトウガのカニアーマーです」
アンゼロットは淡々と説明する。
「トウガ自身は柊さんとの戦いで改心して昇天しましたが、残されたカニアーマーには
トウガの怨念が深く染み付いてしまっていました。ですが、ラース=フェリア側が
難しい事になってしまった為に、このカニアーマーは此方で引き取って封印したのです」
「……あーあー、そんな名前だったなぁ! うん、トウガ」
トウガの怨念が深く染み付いてしまっていました。ですが、ラース=フェリア側が
難しい事になってしまった為に、このカニアーマーは此方で引き取って封印したのです」
「……あーあー、そんな名前だったなぁ! うん、トウガ」
柊は合点が行った様に拳を掌に打ち合わせた。どうやらカニアーマーの事は覚えていても、
その使い手だった好敵手(トウガ自称)の名前は忘れていたようだ。
その使い手だった好敵手(トウガ自称)の名前は忘れていたようだ。
「で、それでこれがンなトコに…」
「…お取り込み中の所、申し訳有りませんねぇ」
「…お取り込み中の所、申し訳有りませんねぇ」
アンゼロットに話し掛けようとした柊の台詞を、部屋の出入口側から聞こえて来た
慇懃無礼な響きの男の声が遮った。
慇懃無礼な響きの男の声が遮った。
「何者だ!?」
アンゼロットの傍に控えていたロンギヌス・コイズミがハルバードの鋒を珍入者に対して向ける。
それに対してその男――爬虫類を思わせる面立ちに髪をオールバックに撫で搗け固めて
パリっとしたスーツを隙無く着熟したビジネスマン風のその細身の男はその鋒を気にした風も無く
アンゼロットと柊の許に歩み寄り、「これは失礼、私、こう云う者で御座います」と懐から
黒地に白文字の名刺を差し出した。
それに対してその男――爬虫類を思わせる面立ちに髪をオールバックに撫で搗け固めて
パリっとしたスーツを隙無く着熟したビジネスマン風のその細身の男はその鋒を気にした風も無く
アンゼロットと柊の許に歩み寄り、「これは失礼、私、こう云う者で御座います」と懐から
黒地に白文字の名刺を差し出した。
躙り寄ったロンギヌス・コイズミが男の手から名刺をもぎ取って、声を挙げて名刺を読み上げる。
「……『多数異世界統合管理企業〈ナイトメア〉営業部部長 カワリーノ』?」
「はぁい」
「はぁい」
男――カワリーノはアンゼロットと柊に向けて恭しく一礼する。
ロンギヌス・コイズミの事はまるで無視だ。
ロンギヌス・コイズミの事はまるで無視だ。
「……それで、そのカワリーノさんとの御方がこの私に何用ですか?」
アンゼロットは威風堂々とカワリーノに尋ねた。それに対しカワリーノは慇懃な態度を崩さずに自然体な風で応える。
「いえねぇ、新人研修の為の飛込み営業なんですよ。それと、御用が有りますのは
アンゼロットさん貴女では無く厳密にはそこに居る柊蓮司君なのですよ」
「俺かぁ!?」
「新人研修? それに、用が有るのは柊さん…?」
アンゼロットさん貴女では無く厳密にはそこに居る柊蓮司君なのですよ」
「俺かぁ!?」
「新人研修? それに、用が有るのは柊さん…?」
柊はいきなり話を振られた事で面食らって自分で自分を指差し、
アンゼロットは片眉をピクリと撥ね上げてカワリーノを見据える。
それ等の反応には御構い無しにカワリーノは話を進めて行く。
アンゼロットは片眉をピクリと撥ね上げてカワリーノを見据える。
それ等の反応には御構い無しにカワリーノは話を進めて行く。
「ええ……ザードリー君」
カワリーノの呼び掛けに、出入口の陰から新たに一人の男が姿を現す。
ザードリーと呼ばれたその男は、ビジネスマン然とした服装に爬虫類染みた面立ちは
カワリーノと似ているが、時代劇の医者の様に惣髪に下ろしている黒髪が特徴的と言えた。
ザードリーと呼ばれたその男は、ビジネスマン然とした服装に爬虫類染みた面立ちは
カワリーノと似ているが、時代劇の医者の様に惣髪に下ろしている黒髪が特徴的と言えた。
「私、今度このカワリーノさんの補佐役に就く事になりましたザードリーと申します」
言いながら、ザードリーも自身の懐から名刺を取り出しアンゼロットと柊に差し出し、そのまま口を開く。
「単答直入に申します、柊蓮司君を我がナイトメアへ引き渡して載けますでしょうか」
口調こそ尋ねる形では有るが、その響きは決定事項通達のそれで有った。
それを聞いたアンゼロットは即座に拒絶の意思を放つ。
それを聞いたアンゼロットは即座に拒絶の意思を放つ。
「それは出来ません、柊さんは私の物なのですから」
「だから俺は誰の物でも無ぇーっ!!」
「だから俺は誰の物でも無ぇーっ!!」
柊の叫びはその場の全員から無視された。
ザードリーは自身の眉間に左手人差し指を当てて嘆息を吐いて頭を軽く左右に振り
落胆の意思を示しつつ話を続ける。
落胆の意思を示しつつ話を続ける。
「…柊蓮司君に秘められている“或る力”が我が社に必要になりましてね、
ヘッドハンティングに来ている訳なのですよ」
ヘッドハンティングに来ている訳なのですよ」
次いでザードリーは柊に顔を向け語り掛ける。
「柊蓮司君、我が社に来て載ければ重要ポストに就いて貰って
三食昼寝付きで高収入と多くの有給休暇、
それにきちんと学校にも通えて卒業までも保障致しますよ?」
三食昼寝付きで高収入と多くの有給休暇、
それにきちんと学校にも通えて卒業までも保障致しますよ?」
「ぐっ……」
柊はそのザードリーの言葉に大きく内心ぐらついた。
特に、きちんと学校にも通えて卒業までも保障すると云う誘惑には
惹かれるものが有る。
特に、きちんと学校にも通えて卒業までも保障すると云う誘惑には
惹かれるものが有る。
その様子を見てヤバいと察したアンゼロットは即座に叫んだ。
「行けません柊さん! 異世界統合管理などと言っていますが、
要は異世界を侵略しているだけでしょう! そんな邪悪の徒に手を貸すのですか
柊さん?!」
要は異世界を侵略しているだけでしょう! そんな邪悪の徒に手を貸すのですか
柊さん?!」
そのアンゼロットの叫びに、柊は頭を大きく左右に振って迷いを断ち切る。
「……俺が、ンな怪しい話に乗ると思ってんのか?」
「今、思いっ切り悩んでいたじゃないですか」
「五月蝿ぇ」
「今、思いっ切り悩んでいたじゃないですか」
「五月蝿ぇ」
ザードリーからのツッコミを柊は即座に切り返しつつ、
月衣から魔剣を引き抜く。
月衣から魔剣を引き抜く。
「コイズミ、柊さんを護りなさい!」
「畏りましたアンゼロット様! 喰らえ不逞の輩め!」
「畏りましたアンゼロット様! 喰らえ不逞の輩め!」
アンゼロットからの下知を受け、ハルバードを構えていたロンギヌス・コイズミが
その鋒から光撃を射ち放つ!
その鋒から光撃を射ち放つ!
「……端役(エキストラ)が」
そう呟いたザードリーはロンギヌス・コイズミからの光撃を掌で難無く受け止め、
受け溜めた光撃を逆にロンギヌス・コイズミに向けて投げ返す!
受け溜めた光撃を逆にロンギヌス・コイズミに向けて投げ返す!
「ぐわぁっ!?」
反撃を受けたロンギヌス・コイズミは碌に防御する事も出来ずに
もろにダメージを受け、離れた壁際まで吹き飛び壁にめり込み崩折れる。
もろにダメージを受け、離れた壁際まで吹き飛び壁にめり込み崩折れる。
「おいお前!?」
「コイズミ!?」
「コイズミ!?」
柊とアンゼロットが同時にロンギヌス・コイズミに向けて叫び声を掛ける。
「――どうしたんですか、一体?」
戦いの轟音を聞き付け、近くに居た者達が柊達の居る展示室に駆け込んで来る。
しかも、その顏ぶれは勇士郎、灯、マユリ、それに歴戦の夢使いドリームマンことナイトメアに
ロンギヌス随一の射撃の名手・ロンギヌス00と凄腕ウィザードばかりで在る。
他に、何やらPDAの様な物を抱えているロンギヌス・コジマメも居たが、
これは戦力には数えない方が良いだろうと柊は判断した。
しかも、その顏ぶれは勇士郎、灯、マユリ、それに歴戦の夢使いドリームマンことナイトメアに
ロンギヌス随一の射撃の名手・ロンギヌス00と凄腕ウィザードばかりで在る。
他に、何やらPDAの様な物を抱えているロンギヌス・コジマメも居たが、
これは戦力には数えない方が良いだろうと柊は判断した。
「皆さん、そこのスーツ姿二人は柊さんを拉致しようとしています!
やっつけちゃって下さい!」
やっつけちゃって下さい!」
いつも俺を拉致してるのは手前ぇだろアンゼロット!と云う柊の内心のツッコミなど
知りもせず、アンゼロットの言葉に反応して各々が自分の武器を構えてカワリーノとザードリーを包囲する。
知りもせず、アンゼロットの言葉に反応して各々が自分の武器を構えてカワリーノとザードリーを包囲する。
それまでの様子を眺めていたカワリーノは、これまた先程のザードリーの様に嘆息し、
「……仕方無いですねぇ。少々面倒な事になりましたし、他の面々は私が受け持ちますから
ザードリー君は柊蓮司君を御願いしますよ」
ザードリー君は柊蓮司君を御願いしますよ」
そう言うとカワリーノは前触れも無く膨大な魔力を放出し、勇士郎、灯、マユリ、ナイトメア、
ロンギヌス00等と共に強制瞬間移動して消える。
ロンギヌス00等と共に強制瞬間移動して消える。
「なっ!?」
「驚く事は有りませんよ、カワリーノさんが自分のフィールドに
彼等を招いただけなのですから」
「驚く事は有りませんよ、カワリーノさんが自分のフィールドに
彼等を招いただけなのですから」
驚く柊に対してザードリーが至極平素な口調で教え、そのまま喋り続ける。
「さて、それでは一緒に来て貰いましょうか、柊蓮司君」
「嫌だ、っつったら?」
「嫌だ、っつったら?」
魔剣を正眼に構えて柊はザードリーを睨み据える。
一応大丈夫だろうが、万が一を考えてアンゼロットとその傍に駆け寄った
ロンギヌス・コジマメを護る様に柊はザードリーに向けて立ちはだかる。
一応大丈夫だろうが、万が一を考えてアンゼロットとその傍に駆け寄った
ロンギヌス・コジマメを護る様に柊はザードリーに向けて立ちはだかる。
「…貴方に拒否権は無いんですよ、柊蓮司。
それと、私はそこの間抜けな守護者に手を出す様な真似はしませんよ。
『自衛以外では自ら直接介入する事は禁じられている』と云うのは
調査済みなのですから」
それと、私はそこの間抜けな守護者に手を出す様な真似はしませんよ。
『自衛以外では自ら直接介入する事は禁じられている』と云うのは
調査済みなのですから」
ザードリーのその台詞に、アンゼロットはぎり…っと悔しそうに歯を噛み締めて
「…ガッデム!」と吐き棄てる。
「…ガッデム!」と吐き棄てる。
ザードリーの雄弁は尚も続く。
「とは云え、自分から無駄に動くのは私の趣味じゃ有りませんからね。
此処には丁度良い物が有りますし、これを使わせて載きますか……」
此処には丁度良い物が有りますし、これを使わせて載きますか……」
そう言ってザードリーはスーツの懐からひとつの仮面を取り出した。
そして、周囲の展示物をざっと眺めている内に或る一品に視線を留める。
そして、周囲の展示物をざっと眺めている内に或る一品に視線を留める。
「……ほぅ、これは面白い。此処までの憎悪は早々には御目に掛かれない…
…じゃあ、私の為に働いて下さいよ!」
…じゃあ、私の為に働いて下さいよ!」
ぬめる様な厭らしい眼でそれを見、それ――トウガのカニアーマーに向けて
ザードリーは仮面を放り投げた。
放られた仮面は綺麗な放物線を描いてカニアーマーの眉間に張り付き、
その次の瞬間にはカニアーマーは異形巨大化して行き、封印を内圧で打ち壊して
「KowAiNaЯー!」と雄叫びを挙げる!
ザードリーは仮面を放り投げた。
放られた仮面は綺麗な放物線を描いてカニアーマーの眉間に張り付き、
その次の瞬間にはカニアーマーは異形巨大化して行き、封印を内圧で打ち壊して
「KowAiNaЯー!」と雄叫びを挙げる!
「ちぃっ!?」
異形の巨獣と化したカニアーマーが本格的に動き出す前に、
柊は大きく跳躍してトウガのカニアーマーに向けて手にしている魔剣を
大上段に振り下ろす!
しかも、柊の手はいつも以上の振りの確かさと鋭さを認めている!
柊は大きく跳躍してトウガのカニアーマーに向けて手にしている魔剣を
大上段に振り下ろす!
しかも、柊の手はいつも以上の振りの確かさと鋭さを認めている!
しかし、流石にファー・ジ・アースに置いて“鉄壁の防御力”の代名詞に
用いられるカニアーマーを基にしているだけ在って、そんな柊の絶好調な
手応えの一撃を受けてもその甲殻には傷ひとつ付いてはいかない。
用いられるカニアーマーを基にしているだけ在って、そんな柊の絶好調な
手応えの一撃を受けてもその甲殻には傷ひとつ付いてはいかない。
「嘘だろっ!?」
斬撃後に反動を活かして大きく後方に跳躍して
柊は異形カニアーマーとの間合いを大きく開けて着地して
直ぐ様体勢を立て直すが、そんな柊達の目の前で異形カニアーマーは
ゆっくりと僅かに宙に浮き、そのカニ脚全てを大きく展開する。
柊は異形カニアーマーとの間合いを大きく開けて着地して
直ぐ様体勢を立て直すが、そんな柊達の目の前で異形カニアーマーは
ゆっくりと僅かに宙に浮き、そのカニ脚全てを大きく展開する。
「ちょ、まさか!?」
異形カニアーマーの様子を見て厭な予感が走った柊は、
魔剣を横に翳して咄嗟に受けの体勢を取る。
その柊の後ろで、同じ様に危険を察したアンゼロットが光の翼を展開して防御を固め、
ロンギヌス・コジマメは手にしていたPDAの様な物を忙しく操作して
アンゼロットと自分の周囲に電磁バリアを展開させる。
魔剣を横に翳して咄嗟に受けの体勢を取る。
その柊の後ろで、同じ様に危険を察したアンゼロットが光の翼を展開して防御を固め、
ロンギヌス・コジマメは手にしていたPDAの様な物を忙しく操作して
アンゼロットと自分の周囲に電磁バリアを展開させる。
「IBUSEーMASUZYーーー!!」
異形カニアーマーは電子合成音に似た叫びを挙げて
展開したカニ脚全ての先端からカニアーマー最強奥義
《蟹光線》(イブセマスジー)を乱放射する!
展開したカニ脚全ての先端からカニアーマー最強奥義
《蟹光線》(イブセマスジー)を乱放射する!
その威力は勿論只のカニアーマーの比では無く、
破壊の暴威を撒き散らしてアンゼロット宮殿の約1/3を
たった一撃で瓦解させ、目標から自身を外させたザードリー以外は
柊もアンゼロットもロンギヌス・コジマメもその崩壊に呑み込まれて行く!
破壊の暴威を撒き散らしてアンゼロット宮殿の約1/3を
たった一撃で瓦解させ、目標から自身を外させたザードリー以外は
柊もアンゼロットもロンギヌス・コジマメもその崩壊に呑み込まれて行く!
(……死んだか…俺……?)
瞳を閉じて朧げにそんな事を思った柊は、手の中に
魔剣の柄の感触を覚えたのを切っ掛けとして急速に意識を覚醒させた。
魔剣の柄の感触を覚えたのを切っ掛けとして急速に意識を覚醒させた。
身体中に焼け付く様な痛みが走るが、それが逆に
自身が未だ生きている事を柊に実感させる。
一方で、崩落に巻き込まれたのにいつまで経っても地面に着かない
どころか何の落下感も無い事に不思議さを感じてうっすら眼を開けると、
柊の極周囲を球状の淡い光の膜が覆っていて、柊の目の前に展示室に着く前に
柊が見掛けたあの不思議なデフォルメミニ生物がいつの間にかふよふよ浮いていた。
どうやらこの光の膜が、柊を《蟹光線》のダメージの大部分と落下から護ってくれたらしい。
自身が未だ生きている事を柊に実感させる。
一方で、崩落に巻き込まれたのにいつまで経っても地面に着かない
どころか何の落下感も無い事に不思議さを感じてうっすら眼を開けると、
柊の極周囲を球状の淡い光の膜が覆っていて、柊の目の前に展示室に着く前に
柊が見掛けたあの不思議なデフォルメミニ生物がいつの間にかふよふよ浮いていた。
どうやらこの光の膜が、柊を《蟹光線》のダメージの大部分と落下から護ってくれたらしい。
不思議なデフォルメミニ生物が柊が茫然と見ている前で
指の無い丸っこい両手を高々と挙げて大きな鳴き声を上げる様に
「PINKEYー!」と高音で叫ぶと、光の膜の球は一度上昇したかと思うと
そのまま次元の壁を突破し、眼下に見えた地球に大気圏突入する寸前に
柊を球の外へ吐き出して不思議なデフォルメミニ生物と共に
そのまま何処かへと飛び去ってしまう。
指の無い丸っこい両手を高々と挙げて大きな鳴き声を上げる様に
「PINKEYー!」と高音で叫ぶと、光の膜の球は一度上昇したかと思うと
そのまま次元の壁を突破し、眼下に見えた地球に大気圏突入する寸前に
柊を球の外へ吐き出して不思議なデフォルメミニ生物と共に
そのまま何処かへと飛び去ってしまう。
「……って、冗談だろうぅぅぅっ!?」
……この先柊が何回か体験するで有ろう生身での大気圏突入を、
この時柊は初めて体験した。
この時柊は初めて体験した。
「……ふむ、柊蓮司は逃げた、か。まさかピンキーが此処にも居たとは…
…ならば行き先はこの世界とは違う、件の小娘達の居る街だろうな。
追うぞ、カニアーマー・コワイナー!」
…ならば行き先はこの世界とは違う、件の小娘達の居る街だろうな。
追うぞ、カニアーマー・コワイナー!」
アンゼロット宮殿瓦解の中で無傷で宙に浮いていたザードリーは、
明後日の方を向くとそう言い残してカニアーマー・コワイナーと共に転移して消えた。
明後日の方を向くとそう言い残してカニアーマー・コワイナーと共に転移して消えた。
何とか崩壊を浚いで光の翼で浮いていたアンゼロットとそれにしがみ着くロンギヌス・コジマメは、
目前のザードリーを逃した事に悔しさを覚えつつも瓦礫の中から深手を負いながらも何とか生きていた
ロンギヌス・コイズミを掘り起こしていた。
目前のザードリーを逃した事に悔しさを覚えつつも瓦礫の中から深手を負いながらも何とか生きていた
ロンギヌス・コイズミを掘り起こしていた。
「……良く無事でしたね、ロンギヌス・コイズミ」
「仮面が無ければ、危ない所でした……」
「仮面が無ければ、危ない所でした……」
心配げなアンゼロットからの問いに、皹の入った仮面を目元を見せる事無く
新たな仮面に着け替えながらロンギヌス・コイズミはさらりと応えた。
新たな仮面に着け替えながらロンギヌス・コイズミはさらりと応えた。
アンゼロットが現状を把握する為に指揮広間へ赴こうとした所で、
未だ無事な区画に繋がる扉が弱々しく開かれて
そこからカワリーノと共に転移させられた筈の灯達が姿を現した。
未だ無事な区画に繋がる扉が弱々しく開かれて
そこからカワリーノと共に転移させられた筈の灯達が姿を現した。
しかし、その有り様は皆惨嘆たるもので、
灯は得物で有る砲撃箒・ガンナーズブルームを杖代りに突いてふらふらと歩いており、
そのガンブルも猛連射に依る過剰加熱に因って砲身が半ば溶解し歪んでいる。
その灯の隣をよたよたと歩いているマユリはローブが破れ眼鏡が半ば擦り落ちたままで、
ぐったりと力無くうなだれている傷だらけの勇士郎を肩に担いで引き摺っている。
ナイトメアやロンギヌス00の姿は見えない。
灯は得物で有る砲撃箒・ガンナーズブルームを杖代りに突いてふらふらと歩いており、
そのガンブルも猛連射に依る過剰加熱に因って砲身が半ば溶解し歪んでいる。
その灯の隣をよたよたと歩いているマユリはローブが破れ眼鏡が半ば擦り落ちたままで、
ぐったりと力無くうなだれている傷だらけの勇士郎を肩に担いで引き摺っている。
ナイトメアやロンギヌス00の姿は見えない。
漸くアンゼロットの傍まで歩み寄った灯とマユリは、
未だ幾分余力が残されていそうなマユリの方が泣きながら口を開く。
未だ幾分余力が残されていそうなマユリの方が泣きながら口を開く。
「……早く…救護班を…ナイトメアさんと00さんは敵に倒されて…
勇士郎さんはわたしを庇って……」
「分かりましたわ、貴女はもう休みなさい、マユリ=ヴァンシュタイン」
勇士郎さんはわたしを庇って……」
「分かりましたわ、貴女はもう休みなさい、マユリ=ヴァンシュタイン」
アンゼロットがロンギヌス・コジマメから未だ生きている0-Phoneを借りて
救護班の要請を出したのを確認すると、精も根も尽き果てていたマユリも
そのまま気を失なってしまった。
救護班の要請を出したのを確認すると、精も根も尽き果てていたマユリも
そのまま気を失なってしまった。
「…カワリーノ…上位魔王並みの強さだった……一体、何者……?」
灯のそんな呟きがアンゼロットの耳の端に滑り込み、
アンゼロットは下唇を噛みながら天蓋を失なった宮殿内から
彼方に見える地球をキッと見詰めて内心で呟いた。
アンゼロットは下唇を噛みながら天蓋を失なった宮殿内から
彼方に見える地球をキッと見詰めて内心で呟いた。
(……柊さん、無事で居て下さい……)
……そして時は進み場所は変わって、
此処はナイトメア本社ビル内に有る
カワリーノの執務室――。
此処はナイトメア本社ビル内に有る
カワリーノの執務室――。
先に帰社して執務室の応接セットのソファーに腰を掛けていたザードリーは、
次の手を思案している所に扉を開けて帰って来たカワリーノに気付き、
立ち上がって歩み寄り恭しく一礼をしてカワリーノを出迎える。
次の手を思案している所に扉を開けて帰って来たカワリーノに気付き、
立ち上がって歩み寄り恭しく一礼をしてカワリーノを出迎える。
「…柊蓮司、プリキュアと接触、保護されてしまいました。
申し訳有りません」
申し訳有りません」
ザードリーは己の失態を包み隠す事無く
直属の上司たるカワリーノに報告する。
上下伝達の俎齬こそが組織的失敗を招く元で有る
と心得ているザードリーで在る。
直属の上司たるカワリーノに報告する。
上下伝達の俎齬こそが組織的失敗を招く元で有る
と心得ているザードリーで在る。
「……そうですか。ま、あの場で捕獲出来無かった段階で
その可能性も考慮しましたからね。未だ致命的な失敗とは言えないでしょう。
ザードリー君、君は僕の補佐になる身で在ると同時に
僕の従弟なんですから、次は成果を出して下さいよ?」
「はい、必ずや!」
その可能性も考慮しましたからね。未だ致命的な失敗とは言えないでしょう。
ザードリー君、君は僕の補佐になる身で在ると同時に
僕の従弟なんですから、次は成果を出して下さいよ?」
「はい、必ずや!」
應容にザードリーを許したカワリーノは、
何気無しに自身のネクタイを締め直そうと
首元に両手を伸ばした。
その手がネクタイに軽く触れた所で、
カワリーノのネクタイはその半ばで千切れて
すうっと床に落ちて行く。
何気無しに自身のネクタイを締め直そうと
首元に両手を伸ばした。
その手がネクタイに軽く触れた所で、
カワリーノのネクタイはその半ばで千切れて
すうっと床に落ちて行く。
「――カ、カワリーノさん!?」
驚愕するザードリー。
よもやエリート中のエリートで在るカワリーノのネクタイが
こうして切り落とされる事が有るとは思いも因らなかったのだ。
よもやエリート中のエリートで在るカワリーノのネクタイが
こうして切り落とされる事が有るとは思いも因らなかったのだ。
落ちたネクタイの切れ端を自分で拾ったカワリーノは、
その切口が刃物等で綺麗に切断されたものでは無く
生地疲労から来る擦り切れ跡だと鑑定した。
しかし、今着けているネクタイは
つい昨日に高級百貨店で購入した物だ。
未だ経年劣化や疲労劣化は有り得ない。
その切口が刃物等で綺麗に切断されたものでは無く
生地疲労から来る擦り切れ跡だと鑑定した。
しかし、今着けているネクタイは
つい昨日に高級百貨店で購入した物だ。
未だ経年劣化や疲労劣化は有り得ない。
「……どうやら、先程相手をした五人の内の
誰かの攻撃が私に擦った様ですね。すこし油断しましたか」
誰かの攻撃が私に擦った様ですね。すこし油断しましたか」
カワリーノはそう言うと、ザードリーをその場に残して
執務室を後にしようとした。
執務室を後にしようとした。
「カワリーノさん、どちらへ?」
「一応、デスパライア様に御報告です」
「一応、デスパライア様に御報告です」
淡々とそう返し、カワリーノは執務室を出て
昏い廊下に歩を進める。
昏い廊下に歩を進める。
一見平静に見えるカワリーノで有るが、
その心の内は怒りに燃え狂っていた。
その心の内は怒りに燃え狂っていた。
(……ビジネスマンのネクタイを切り落とすとは…
私に取ってはこの上も無い、屈辱!
……ウィザード共か……ドリームコレットの件が片付いたなら
纏めて叩き潰してくれよう!)
私に取ってはこの上も無い、屈辱!
……ウィザード共か……ドリームコレットの件が片付いたなら
纏めて叩き潰してくれよう!)
叩き潰してくれよう、と云う内心の台詞と
シンクロするかの様に、カワリーノは手の中の
ネクタイの切れ端を握り潰した。
シンクロするかの様に、カワリーノは手の中の
ネクタイの切れ端を握り潰した。