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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

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だれでも歓迎! 編集

1・レベッカ宮本の場合。  -Starry Heavens-


桃月商店街内にある焼肉屋・『食ったもん勝ち』。
日曜日の夕方から、その店は大盛況だった。

「すいませーん、カルビと鳥モモ追加ー!」
「塩ダレコブクロこっちにもよろしくです」
「お前、それオレが大切に育ててたイカの一夜干しとにんにくホイル焼きじゃんっ?なんで勝手に食うんだよ!」
「ふっ、お前との友情もここまでだ。焼肉は人を狂わせるんだよ」
「やめて、みんな私のために争わないで!」
「クッパ、クッパ、クッパッパ~♪」

……なんか友情が壊れてたり違う事件に巻き込まれてたりする奴いないか?

閑話休題。
今ここにいるのは、桃月学園1年C組の面々だ。
というのも、担任が先の桃月学園クラス対抗料理大会において審査員特別賞をもらい、その副賞としてついてきたのがこの焼肉屋の貸切招待券だったからだったりする。
なんとも太っ腹な副賞だ。
この商店街は萌えに飢えてる人間が多いので店主が萌えたとかそんなこともありそうだが。
ともあれ、そんなこんなで1-Cの生徒達は夕方から店貸切の焼肉パーティの只中にいた。

その中で、やけに目立つ少女が一人。

「レバ刺しもう一皿お願いするであります!できれば血の滴るよーなヤツを!ニンニクも足りないでありますよっ!」

見た目は銀髪に紅瞳、透けるような白い肌の少女なのだが、この焼肉屋への順応っぷりはなんなのか。
そんな少女を横にはべらせて満足そうに抱きつきつつ語りかけるのは姫子だ。

「ノーチェちゃんちっちゃくてかわいいー!ギャップ萌え~!」
「わあっ!?何するでありますか姫子!離すでありますよ~!く、くるみー、助けてほしいであります~!」
「頑張ってねー。たぶんもうちょっとしたら玲が止めると思うよ」
「助ける意思0でありますなっ!?」

きゃあきゃあと姦しく網を囲んでいる最中、その隣にいた一条さんがくるみに聞いた。

「くるみさん。そう言えばその玲さんはどこに?」
「宮本先生も見当たらないです」

続けるのは6号さん。それに答えたのは都だった。

「……まぁ、すぐ帰ってくるわよ。馬には蹴られたくないでしょ?」

その言葉にくるみ以外の全員は首を傾げてなにやら言いづらそうな都の顔を見た。

……くるみはだからそれ私の台詞ー!と叫ぶものの、やはり地味なため誰にも気づかれなかった。哀れだ。

大騒ぎの店を出れば、そこにはもう夜の帳の降りた町があった。
それを見ている男に、小さな少女が声をかけた。

「お前はもう食べないのか、焼肉」

若い男は焼肉大好きだって聞いたから誘ったんだけど、と言う金髪の少女―――レベッカは、男をじっと見据えていた。
男―――柊は振り向くと、答える。

「ちょっと外の風にあたりに来ただけだよ。肉はありがたく食ってかせてもらうぜ」

止めても無駄だからな?と茶化すように言う相手に対して、真剣な表情でレベッカは聞いた。

「いつだ?」
「なにがだよ」
「いつこの町を出るんだって聞いてるんだ、答えろ」

その予想外の問いかけに、柊が驚いたような顔をした。
今までそんな顔をさせたことがなかったので、少しだけ胸がすく。

「……お前に言ったか?俺」
「言わなくてもわかる。お前単純だし。天才をなめるなよ?」
「自分で言うなよ天才とか。バカみたいに見えるぞ?」
「本物の馬鹿に言われたくない。ごまかすなよ、結局いつ出発するんだ?」

柊はベホイミに頼まれて、エミュレイターの群発発生と通り魔事件の解決を手伝うためにこの町に滞在していた。
だから、全部が終わった後は自分の旅にもどるだけだ。この半月ばかりの方が彼にとっての非日常であったとも言えなくはない。
彼は、一つ頷いて答える。

「一応、明日の朝。お前来るなよ?明日は学校なんだし」
「当たり前だろ。お前なんかのために学校休めるか」

口をついてでたのは、そんな憎まれ口だった。
もっとも、本音は別れに立ち会ったら絶対ついて行きたくなるからで、そんなことを彼女に言えるわけもないのだが。
幼くても、レベッカは天才と呼ばれる類の人間だ。
柊が彼女の踏み込めない何かを持っていることはわかっていたし、そこに踏み込むには多くの時と覚悟が必要になるだろうことも理解している。
彼女は、言った。

「それで?今度はどこに行くんだよ」
「一回実家帰らないと殺されるから実家に帰るかな。そもそも俺帰省の途中だったわけだし。
 その後は―――まぁ、風の吹くまま気の向くままってヤツか」

なんだか、その言葉はとても彼に似合う気がしてレベッカは思わずその口の端を持ち上げた。

いつでもどんな時でも、誰にもその信念を曲げられず、偶然のように、必然のように―――風の指す道へ。

ふらふらと、不安定で。けれど誰にも邪魔できない。通り抜けた後また同じところに帰ってくるかもわからないけれど。
笑われたと思ったのか、少し不機嫌そうに彼は呟いた。

「なんだよ、俺そんなにおかしいこと言ったか?」
「別にそういうことじゃない。お前らしいなと思っただけだ」
「……なんか腹立つのは気のせいか?」
「気のせいだ。お前もよく言うだろ?子供は子供らしくって。お前はお前らしく、でいいんじゃないのか?おあいこだ」

口で女性に勝てた覚えのない(妙に彼の周りが舌戦の強い女性ばかりだというのには目をつぶれ)柊は、諦めてため息をついた。

「聞きたいことはそれだけか?じゃあ、俺はそろそろ戻るぞ。せっかく誰かのおごりなんだし、できるだけうまいもん腹の中につめて帰るさ」

そう言って踵を返す柊に、レベッカは振り向かずにすれ違った後声をかける。

「なぁ、柊」
「なんだよ?」

彼は振り向くが、やはりその位置からではレベッカの表情は見えない。
当然だ。彼女はこの位置を望んで計算して声をかけたのだから。

「お前、言ったよな。危ない時はいつでも連絡しろって。助けに行ってやるって」

足が震える。
相手の人格は、出会って数日ほどだがある程度把握しているつもりだ。
そして、彼女の問いにどう答えるかもわかっているつもりだ。けれど、他人は自分ではない。想定した答えを返してくれるかどうかは予測はできても完璧とは言えない。
だから少し怖い。けれど、彼女は勇気を振り絞ってたずねた。

「あれ―――お前がこの町にいなくても、どっか遠いとこに行ってても、有効か?」

心臓がマラソンを走りきった後と同じくらいうるさい。
この音が相手に聞こえている気がして、気が気ではない。
絶対そんなはずはないと頭の中の理論は答えるのだが、感情は理屈で割り切れるものでない以上、その理論は力を持たない。
柊は、ため息を一つ。
たぶん顔見たら怒るな、と直感で判断。このあたりだいぶ成長が見られる。
ともかく、顔を見ないままにぽん、と頭に手を置いた。子供に大人がやるように。

「当たり前だろ、約束破るのは嫌いなんだ」
「子ども扱い、するなよ」

泣き顔も苦手だ。誰かに自分のことで泣かれるのは、やっぱり辛い。
けれど、レベッカが必死に我慢しているのは柊にもわかった。それを指摘すれば彼女がより困るだけだろう。落ち着いた頃にもう一度謝ろうと思って、一言だけ言った。

「別に今生の別れってわけじゃねぇんだ、またいつか遊びにくるさ」
「……絶対だぞ。あとで指きりするからな、針の数は兆で」

億の上かよ、と笑いながらツッコミをいれて、彼は再び踵を返し、後でな。と言い残して店の中に戻った。

―――そんなやり取りを物かげから見ていた人影が、4つ。

「かくて犠牲者がもう一人、ってことっスかね?」

地味メガネ。

「もうベホちゃんってば。いいじゃないですか、あの年頃のお隣のお兄さんはロマンですよ?」

金髪メイド。

「そんなモンですか。うちの妹にもあんな可愛げあったらよかったのに……」

二卵性双子兄。

「まぁ、あれはあれでいいんじゃないか?初恋はいつだって実らないもんだ」

メガネ魔女。

四人のデバガメであった。なんでA組の修とD組のベホイミ・メディアがC組の焼肉パーティにいるかと言えば、単になりゆきだったりする。
実は他にも他クラスの連中が混じってたりする。留学生連中は特に。B組のズーラとか。
玲の何か感慨深げな言葉に、三人の視線が集まった。
彼女は眉を寄せ、三人に問うた。

「なんだよ、私の顔に何かついてるか?」
「いや、橘さんがそういうこと言うとは思ってもみなかったっていうか……」
「えぇと、ほら。人間誰しも意外な過去の一つや二つあるもんスよねっ!?」
「い、意外だなんてもう。玲さんに失礼ですよベホちゃん」
「お前ら帰れ。今すぐ」

もともとレベッカに直接呼ばれたC組の人間であるとはいえ、玲の言葉にえー、とブーイングする三人。
その4人の背後から、声がかかった。

「デバガメか。いい度胸してるなお前ら」

その声に4人の動きがぴたりと止まる。
そこには、背後にゴゴゴゴ的な擬音を背負っていそうなのが見て取れるレベッカが立っていた。
4人が弁解をはじめる前に、彼女は笑顔で言った。先ほどまで泣いていたとは思えないほど、強い笑顔で。

「お前ら全員、今日の飲み食い代自腹な?後でおばちゃんにお前らの分だけ別にしてもらうから」

抗議の声もどこ吹く風。

レベッカは笑う。決めたのだ。
助けてもらったのだから、助けてやれるヤツになろうと。
抱えるものを相手が教える気がないのなら、まったく違うやり方でそこを見てやろうと。
その想いを大本として彼女が背負ったものは、彼女の人生にとってプラスになったかは誰にもわからない。だが。

彼女は本物の天才だ。きちんと目標があり、努力する意思があるのなら、いつかそこに到達するだろう。


いずれ、十塔ハジメと彼女が並び立つ両雄として魔導科学研究の頂点に達する未来があるの『かも』しれないが―――それはまた、別のおはなし。



2・ブランシェリーナ=リヴァルの場合。  -僕たちの未来-


桃月町。
<交流区域>と呼ばれる特別な場所として指定され、妖怪に規則を与えて住まわせるのを許可している町。
そんな、さまざまな勢力の協力があってなりたつ複雑な利権関係の町に、一人フリーで喧嘩を売った錬金術師・ブランシェリーナ=リヴァルは、今。

―――桃月町のとある借家の一室で途方にくれていた。

そう広い家ではない。洋風建築のモダンな家であるものの、もともと下級クリーチャーが住み着いていたのをとあるウィザードが駆除した後の、しかし人の入らない物件だ。
ベホイミにぶん殴られた後、彼女は町の最高権力者のところに連れて行かれるのだろうと思っていた。
しかし、ベホイミのとった行動は違った。
戦いが終わった直後のブランシェリーナの様子が、本当に道に迷ってどうすればいいのかわからない子供のようで、そのまま突き出すのは気が引けたのだという。

そもそも彼女は、今はフリーの身であるものの元は「十輪図形」のメンバーである。それもゴーレム作りにおいて免許皆伝クラスの。
そんな彼女が世界魔術協会や背教者会議の手の入っている町に手を出したのだ。ちょっとした混乱が起きる可能性がある。
幸い、町に死者は出ていない(約一名死にかけた奴がいるが、当人ほぼ気にしないためスルー)ため、ブランシェリーナの件を隠し通そうということにしたらしい。
もちろん、本当はそう上手くいかないものなのだが、色々な連中が色々な動きをした結果、彼女は<交流区域>桃月町の町長の保護管理下に置かれる、という形で収まった。

とはいえ、それで困るのはブランシェリーナの方だ。
当然裁きを受けるものとして、覚悟はしていたつもりだった。
自分がいつか殺される覚悟を持って、彼女は20年間ずっと文字通り血を流しながら進んできた。
それを、数人のウィザードに見事なまでに妨害されて彼女の月日は水泡と化した。たった一人の少女の、町を守りたいと望む気持ちによって。

そんなわけで、彼女は今ものすごく途方にくれていたりするのだったりした。

「……簡単に言ってくれる」

そう言って思い出すのは、自分を殴って別の道にすっ飛ばしたぼろぼろの魔法少女。
彼女は、ブランシェリーナがこの町で暮らせることが決まって後、何か言いづらそうにこう言った。

『アンタの20年は、やっぱり間違ってるっスよ。それを直すことはやっぱりできないっス。
 けど、アンタは別に人外が嫌いなわけじゃないんでしょう?だったら、もうちょっとこの町で暮らしてみるのも悪くないんじゃないっスか?』

おそらくは照れ隠しの一環なのだろう、無愛想な表情が思い出される。
変な奴だな、と思ったのを覚えている。
彼女には、何故か自分に与えられているこの時間の意味がわからない。
覚悟をして進んできた。痛みも苦しみも全て前に進むための糧に変えてきたつもりだった。けれど、その20年は否定されてしまった。

しかし彼女もあの戦いで一つだけ学んだことがある。
それは、前を向いて走る人間の意思に勝つのは並大抵のものではないということ。
正直この町をどうこうしようという気は今の彼女にはない。そして、これからも起きることはないだろう。
間違いだと言われたからではない。後ろを向き続けていたのを、強制的に殴って前を向かされたからだ。
そして、今まで見たことのないほどのまっさらな世界(みらい)が見えた彼女は、今途方にくれている。目標に向かっていた時とは違い、何もすることがないからだ。
一つため息。まったく、厄介なことをしてくれた。これでは、やることを探さねばならないではないか。

そう思って、彼女は外出の用意をする。自分の未来を見つけるために。
前に向かって歩き出そう。後ろを見ていた時には見えないものが、そこにはあるはずだから。
そして、ブランシェリーナは―――子猫を抱いている自分の映る、家族の写真の入ったロケットを握り締めて、<交流区域>桃月町へと今日も繰り出した。



3・桃月町に来た魔法使いの場合。  -希望峰-


たこ焼きの入った紙の器を膝に置き、ベンチに隣り合って座る二人の少女。
かたや銀髪を二つに結ったどう見ても日本人とは思えない少女、ノーチェ。もう一人は、桃月学園の制服にヘアバンドとメガネのクールそうな少女、大森みのり。
笑顔でもっきゅまっきゅと幸せそうにたこ焼きをつつく外人の美少女と、無表情ながらも箸を止めることのない日本人の美しい少女、なかなかお目にかかれない光景だ。

数日前、桃月町の有名なたこ焼き屋の前で食い入るようにたこ焼きを作っているところを見つめるノーチェに、みのりが自分のたこ焼きを一つ渡したのが始まりだ。
以来、毎日こうしてこの時間にどちらからともなく集まり、たこ焼きをみのりが二つ買って店の前で食べる、というのが習慣になってしまった。
ノーチェおごられっぱなしかよ、とも思わなくもないが、みのりはみのりで嫌ならこないはずなので意外にいい関係なのかもしれない。

食欲の秋。空は高く、雲はゆるゆると流れている。銀杏がだんだんと金色に色付く中、たこ焼きはやがてなくなった。
ごちそうさま、であります。とノーチェが言うのを、みのりがこくんと頷いた。
ノーチェはうーん、と伸びをして空を仰ぐ。

「いい季節でありますなー。自分の故郷は山の奥でありますから、年中寒いのでありますよ」
「そう」
「あ、でもレモンの収穫時期になると近所のレモン畑がすごくキレイなのでありますよっ!
 近くのリーザおば様のつくるレモンピールとそれで作るレモンケーキがもう絶品でありましてな?
 あ、おば様のボロネーゼ風ニョッキとマリナーラもすごくおいしいのでありまして―――」

たこ焼きを食べ終わった後は、こうしてノーチェが今まで旅した場所や実家の話をし倒し、みのりはそれにこくりと一つ頷くというやり取りが繰り返されていた。
もっとも、みのりは興味がないことに頷いているわけではない。
彼女は基本無表情(のちドジっ子)だが、図書委員を務めるほどには自身の知識が増えることに対して貪欲だ。単に知ることに対し楽しみを感じるタイプだとも言う。
だから、ノーチェの話は彼女にとってもとても興味深いものであり、この時間は彼女にとっても大切に感じられる時間だったのだ。
正直、中学生くらいの少女が色々な国に行った思い出がある、というのにツッコミが入らないのはどうかと思うが、
みのりに言わせればそれが真実ならその疑問に何の意味があるの?とのことらしい。どうなんだそれ。

やがてぴょい、とノーチェがベンチを降り、みのりにくるりと振り返った。

「そろそろ帰るでありますな。ちょっと呼び出しがかかってて、明日のお昼にはわたくしこの町を出ねばならないのでありますよ」

その唐突なさよならにも、みのりはそう、と言っただけだった。
ノーチェは笑顔で礼を言う。

「今日までありがとうでありました。たこ焼きはおいしかったし、みのりとの時間はとても楽しかったでありますよ」
「そうね。楽しかった」

返る言葉はそれだけだ。けれど、彼女はその言葉に色々な思いを乗せている。さみしくはない、だって―――

「またこの町に来たら、たこ焼きおごってくださいでありますよ」
「えぇ、待ってるわ」

人の顔を覚えるのが苦手なみのりが、彼女の顔は覚えたのだから。
そして、ノーチェがそう約束してくれることを彼女はわかっていたから。
短い間ながらも、ノーチェとみのりは言葉少なでありながらも確かな絆を育んでいた。
ではまた、であります!と宣言して駆けて行く少女の背中を、みのりはじっと見つめている。
それが角を曲がって消えるのを見届けて、彼女は小さく息を吸って―――

「―――てふっ!」

……慢性鼻炎も大変なようだ。
それはともかく、周りに誰か見ている人がいなかったかと赤面しながら確認し、冷静な表情に戻り、彼女は誰にともなく呟いた。

「……名前、聞くのを忘れてた」

……ツッコミを、頼むからこのボケしかいねぇ時空にツッコミのできる人間をください……っ!



4・桃月町にいた魔法使いの場合。  -Rolling star-


早朝。
日が昇る少し前、夜の闇が徐々に削られて昼の青に変わりゆく、もっとも空の美しい時間帯の一つ。
桃月町の町境に柊は立っていた。目の前に立つのはベホイミだ。彼女は、言う。

「今回は本当にありがとうございましたっス。助かったっスよ、柊さん」
「たいしたことはしてねぇよ。本当に町守ったのはお前だろ、胸張れよ」
「……腹に大穴開けられたり持ってるプラーナの半分を吸収されたりするのをたいしたことじゃないって言える生活はしたくないもんっスねぇ」
「俺に言うなっ!?」

しみじみと言うベホイミに即座にツッコミをいれる柊。
この光景もこれで終わりだ。柊は枷がない以上一ヶ所に留まっていられる性質の人間ではないし、ベホイミはこの町を守ると決めている。
だから、彼らがこの場所で別れるのは当然のことだった。
柊が言う。

「今回みたいに、俺(ウィザード)がなんかできてお前の手に負えないことが起きたら、呼べよ?手伝うから」
「んー……タダでこき使える柊さんみたいな人がいるのは確かにありがたいんスけど」
「アンゼロットみたいなこと言うんじゃねぇよっ!?」

そのツッコミにくすりと笑って、ベホイミは答える。

「ま、やれるだけは自分でやってみるっスよ。私がこの町が好きだから、こうやって戦ってるんスからね」

彼女の言葉に、それもそうか、と呟いて。柊は今度こそ背を向けた。

「じゃあな。たぶん、また来る」
「はいはい。その時は、馬鹿みたいに今回の話肴にしてお茶でもしばきましょうっス」
「そこは酒って言っとけよ。あんなとこにいたくせに」
「表的に働いてない無職に酒は100年早いっス」
「表的に高校生に酒は早くないのかよっ!?」
「無職と学生の間にある溝は狭いけどマリアナ海溝並に深いもんスよ」

そんな馬鹿みたいなやりとりをして、どちらからともなく手を差し出す。

「それじゃあ、また」
「おう。また来る」

握手。共にこの半月を駆け抜けた相棒として。再会を約束し、彼らは早朝の空気の中を別れる。

―――が。正直、そうは問屋がおろさない。
ベホイミは見た。早朝の空にぐにゃりと空間の歪みが生まれ、そこから機械的なアームが姿を現すのを。

「柊さん、あれ……」

そう聞こうとした時、すでに柊は魔剣を引き抜いて迎撃体勢に移っていた。その表情はなんかもう真剣そのものだ。馬鹿らしくなるくらい。
直後、ベホイミにすら視認できぬ速度でアームが柊めがけて射出された。
見えないということは、避けることができないということだ。ならば―――全力をもって迎撃するのみ!

「でやあああぁぁぁぁっ!」

朝っぱらから超ご近所迷惑な叫びが響き渡る。
ともあれ、その甲斐あってなのか彼は視認できぬスピードで迫っていた機械式のアームを吹き飛ばすことに成功する。
見えぬと言っても来る方向さえわかっていれば、迎撃はそう難しいことではない。
しかし、その程度でこの襲撃をかわせると思うなと言わんばかりに、まったく違う場所にまたも空間の穴が開く。
全力でアームの相手をした柊の回避が一瞬遅れることを睨んだかのようなタイミングで、穴から彼に一直線に向かうのは―――カウボーイの縄。
見た目はマヌケだが、これを用意してくる相手は何の考えもなしにこんなものを用意する相手ではない……と、思う。

ともあれ。今剣を振り切った柊にとって、それを迎撃するのは至難を極める。
しかし彼は諦めない。この程度で諦めてなどいられない。正直、なんか間違ってる気が果てしなくしても彼は必死である。
心底よりの叫びと共に、無理矢理体を動かす。

「な・め・ん・なぁぁぁぁぁぁっ!」

プラーナを全力で開放。一滴たりとも無駄にしないんじゃなかったのか、これ以上の無駄遣いはないだろう。
回避行動のために叩き込んだプラーナは、果たして縄を彼に跳び超えさせた。
その強襲をかわした柊に、少しだけ余裕が生まれた。

「はっ、人がそう何度も何度も同じ手に引っかかると―――」

……なんか、学生時よりも襲撃の仕方がパワーアップしてないか?

閑話休題。
ちょっといい気になっている柊。
しかし、勝負の最中に気を抜いた者に勝利の女神は微笑まない。
ついでに言うと、今彼が戦って(無駄に足掻いて)いるのは勝利をもたらすかともかく確かに女神なわけで。

着地。
思うなよ、と柊が続けようとするのを遮り、ベホイミが言った。

「……柊さん、下下」

下?と彼が言われて足元を見ると、


そこには、今まさに効果を発揮しようと光を放つ魔法陣があった。


柊の顔から血の気が引いた。
二回の襲撃で上かと思わせておいて、本命は足元か。闇砦でも読んだのか守護者。
魔法陣の読み解きなど、バリバリの前衛職でなおかつ輝明学園の授業もまともに受けてないような人間にできるはずもないが、それでも逃げられないことはわかった。
ベホイミと柊の脳裏に、ものすごくイイ笑顔で笑う銀髪碧眼の少女が「柊さんのおバカさ~ん♪」と言っている姿が浮かんだ。絶対言ってる。あの人は絶対言ってる。
無駄な足掻きだが、最後に柊が叫んだ。

「ア……アンゼロ―――」

が、最後まで言わせてもらうこともできない。
一瞬輝きが強くなり、魔法陣―――転送陣が柊をどこか、おそらくは某宮殿へと連れ去った。

風が吹く。
残されたのは、今ウィザードから見てもかなりの高レベルの、しかしどうしようもなく馬鹿らしい攻防を目の当たりにしたベホイミだけ。

柊 蓮司―――彼がいつ実家に戻れるのかは、たぶん神さまも守護者も知らない。
まぁ、彼のことだ。どこに行ってもそれなりになんとかやっていくことだろう。



5・桃月町の日常の場合。  -重なる影-


「えー、ひいらぎやめちゃったのー?」

月曜日・夕方の喫茶エトワール。そこには今、珍しい客が来ていた。
ランドセルは背負っていないものの、喫茶店に来るには少し早い小学校高学年くらいの少女が、3人。
三つ編みの活発そうな少女、口元をノートで隠す内気そうな銀髪の少女、髪を二つに結ったそわそわしている少女の3人組。
いきなり入ってきて店長にバイトがどこにいるかを聞き、いないと言われて文句を言ったのは、三つ編みの少女――― 一条 望だ。
店長は曖昧に笑いながら頷く。

「うん、そうなんだ。ごめんね」
「なんでですか?なんか……あのお兄さん、まちがってポットとかコーヒーカップとかたくさん割っちゃったとかですか?

そう尋ねるのは銀髪の内気そうな少女―――犬神 雅だ。
桃月学園にいる兄にちょっと特別な思いを抱いているブラコンの気のある少女である。
もっとも、暴走するとペガサスローリ○グクラッシュとかかますのであまり追い詰めてはならない。あと嘘もつくのもやめましょう。

雅のそんな面を知らない店長は、ううん、とジャパニーズスマイルを貼りつけたまま首を振った。

「なんでも、家に帰る旅費がないから雇ってくれっていうのが始まりでさ。
 だから住み込みで働いてもらってたんだけど、旅費も溜まったし帰るってちょっと前に言われたんだよ」
「ちょっと前ってどれくらい?私たちに言わずにどっか行っちゃうなんて水くさいなぁ」

そう不満そうに言う望。
結構ご近所に受け入れられていた柊であるため、急にいなくなって寂しく思う人間は結構多かったようだ。
店長は3人にホットミルクを渡しながら答える。

「うーん、いつだったかな……木曜、だったっけ?」
「木曜で合ってるニャ。あのバカバイトが先週一杯でやめるって言い出したの」

それを肯定したのは、カウンターの上に寝そべっているバカ猫だ。
飲食店で動物飼ってもいいのか、と思わなくはないが、最近の喫茶店はリアルにペンギン飼ってるところもあるので何とかなるんだろう、たぶん。
そう言えば、いつでも他人の言うことに文句ばかりのこの猫もどきが柊が辞めると言い出した時には妙に静かだったな、と思いつつ店長はそうそう、と頷いた。
人外はこの町においての非常識の塊であり、この町で起きる非常識の事態には敏感だ。そのための妖怪専用の連絡路もある。伝書鳩とか。
だから、猫もどきも知っていた。喫茶店の短期バイトが夜に何をしていたかを。水曜の夜、何の為に何をしようとし、それを成したのかを。
だからこそ、それも彼を止めることをしようとはしなかった。桃月町の恩人にエゴを押しつけるのはやめよう、というのがこの町の妖怪の総意だったのだ。

もう、と望が不満を漏らす。

「勝手にいなくなるなんて、宮ちゃんみたいだね」
「宮ちゃんって、宮本さん?死んだって言われててそれがデマだってわかった」

そうたずねるのは残った一人、未来だ。
望と雅は柊がひったくりを捕まえる時に知り合ったため顔見知りである。
そんな彼女達が柊のことを学校で話していたところ、興味を持ったらしい彼女を連れて今日の放課後会いに行こうということになってこの喫茶店に来たわけなのだった。
この三人は桃月第三小学校の同級生だ。
そして、一時期ではあるもののレベッカが同じクラスに通ったこともあったりする。やっぱり色々あってもとの鞘、今の状態に戻っていたりするのだが。
雅がその言葉にぽつりと呟く。

「そのデマ流したの……実は望ちゃんだよね……」
「いいじゃん結局宮ちゃん生きてたんだし」

どんな弁解の仕方だ。

とはいえ、その件については雅も強く言えない。桃月学園まで行って大暴れしたことがあるからだ。もっとも、彼女が望に強くものを言えるとは思えないが。
はぁ、とため息をついて店長は遠くを見つめた。

「けど、柊くん今頃どこで何をやってるんだろうねぇ。真面目に働くいい子だったのに」

猫もどきはそれに続ける。

「結局また妙なことに巻き込まれてるに決まってるニャ。絶対そういう星の下に生まれた男よアイツは」

うんうん、と頷きながら、望も。

「あー、確かにそれなら結構想像つくかも。今頃富士山の頂上にいたりしてねー♪」

雅がいつものことながら脈絡のない発言に小首を傾げた。

「なんで富士山なの?望ちゃん……」
「ほら、ひいらぎならいてもおかしくないじゃん?ないとは思うけど」

その言いようにどんな人だったんだろう、と思う未来であった。
……実は彼女が親愛の情を抱くドクロ仮面の相棒だった、というのは思いもよらないことだろう。



last・桃月町の魔法使い的魔法少女の日常の場合。 -HOME SWEET HOME- again


『まったく、リミッターがかかってるから壊さないように使ってくださいって言ったじゃないですかベホイミさん』

そう文句を言われた。
覚悟はしていたものの、やっぱり腹が立ったので会いに来た宇宙人ともみ合った。
大家さんがまた倒れかけた。

ともあれ、宇宙人は一つため息をついてスペアの変身リングを渡してくれた。

『ベホイミさんのことですから、やる時は容赦なく壊すだろうことは予想がつきます。
 一応、技術部の人間がスペアを作っておきました。これを使ってください。あくまで間に合わせなんで、早いところこれを直してお届けしますから』

まったくもって、後始末が完璧なマスコット様だな、と思った。



「えー!?あの人ベホイミちゃんのお友達だったんですかー!?」

そう、宮田に驚かれた。
その後涙目になって延々と文句を言われ、早く紹介してくれれば宮本先生にとられることなかったのにー、と言われた。

この子に彼氏は当分先だろうなぁ、と思った。

そして、昼。

「―――というわけで、ある程度は各方面丸く収まったみたいです」
「そっか、ごくろーさん」

クラスを出て屋上に。メディアがする報告を、彼女は黙って聞いていた。
メディアがしていたのは、ブランシェリーナの処遇の話だ。彼女をこの町に住まわせるため、水面下の交渉と手続きの大半をしたのはメディアとノーチェである。
そもそも、翌日動くのに支障が出るような戦闘をこなしたベホイミと柊に関しては問題外だ。もっとも、こいつらに交渉だのができるとは思えないが。
人外側への対応をしたのがノーチェで、様々な利権絡みの調整をしたのがメディアであり、最終的に丸く収まったのは日曜の深夜のことだった。
じゃあなんであの場(焼肉屋)にいたのか気になるが、彼女にも息抜きしたい時があるのだ。そして、せっかく守った町に実感が欲しかったのもあるだろう。
メディアは、いつもの笑顔のままで答える。

「本当に。大変だったんですよ、後始末」
「わかってるよ。それで?お前は私に何をさせたいんだ」
「ベホちゃんの困ってる顔が見たいだけですよ~♪」
「お前泣かす!絶対泣かすっ!」

……まぁ、こんなやりとりが彼女たちの日常なわけだが。
一通りの応酬を終え、メディアが問う。

「けど、ほんとによかったんですか?ベホちゃん。
 あの人をこの町に住ませるなんてことして。すごく怒ってたじゃないですか」
「……この町にすねに傷持ちのウィザードが多いのはお前も知ってるだろ。それに、あんなの放っておけるか」

<交流区域>は単に妖怪と人間が共に住む場所、というわけではない。
妖怪と人間が手に手を取り合うこの町は、今はフリーになっているウィザードもまた多く滞在する。

色々と理由はある。
何らかの組織に所属していたものの、組織のリーダーが人外に対する差別主義者でベトナム戦争帰りの兵士的に嫌気がさし逃げ込んだ、人外と手をとりたい変わり者。
多くの組織が創設に関わったがゆえに、逆に誰の土地でもないことを見込んで逃げ込んだ逃走者。
人外の研究がしたいと言って滞在するマッドサイエンティスト。

ある意味、一種の緩衝地帯のような様相を呈する形になっている。
もっとも、この町に定住する場合は町長の許可がいる。
その許可を得るには、町長を含めたもともとこの町に住むウィザードによる協議委員会による面接をパスする必要があり、
それをパスしたのはベホイミ・メディアを含めて両手の数で事足りる数でしかない。
というか、町に入る場合はどんなウィザーズ・ユニオンであれ誓約書を書かなければならないという町は<交流区域>以外にないわけだが。
意外と面倒だが、もともとエミュレイターに狙われることが少ない町だ。今のところ、そう大きな問題は起きていない。

そして、ブランシェリーナに行く場所はない。
今まで知識を得るためだけに利用してきた<十輪樹形>は<黄金の蛇>の下部組織、そしてそのトップこと白髭王・ゼドはドワーフだ。彼女を受け入れるはずもない。
ならば彼女の道を折った者として、立つ場所くらいは用意してやるべきだろうというのがベホイミの言い分だった。
そんな彼女にくすりと笑って、メディアは言った。

「ベホイミちゃんは優しいですね♪」
「うるさい。黙れ」
「では、アレもお願いしますね」

そう言って彼女が指差すのは上。
アレ?と聞きながら上に視線を向ける。


そこには、落下傘で空から数多くの虫っぽい生き物が降下してきていた。


ベホイミの持つ宇宙付箋が勝手にその生き物を解説してくれる。
『パラシュートバタフライ 空から現れる侵略者。地上に取り付くと同時、眠り粉を撒き散らして地上を制圧する』
その数は、頑張れば500ちょっとまで数えられる両手でも足りないほど。微妙な数だな。
メディアが笑顔で言う。

「対空砲火ベホイミですね」
「できるかバカ―――!!」

びしっと空からのんきにふよふよ降りてくるパラシュートバタフライを指差し、ベホイミは叫んだ。

「こっちは空飛ぶ為の装備なんか持ってないってのっ!どうするんだよあんなのっ!?」
「ですよねー」

しかしメディアは笑顔を崩さない。

「でも―――負けるつもりはないんでしょ?魔法少女としては」
「……お前、それ言えばなんとかまとまると思ってないか?」

ベホイミのジト目もなんのその。メディアは笑顔で続けた。

「まぁ最初は手伝いますよ。だから、頑張ってきてくださいね」

こいつ、やっぱりキライだ。と内心思いつつ、少しばかりベホイミはメディアと距離をとる。
メディアは、その意思をくみ取ったのか両手を組み、軽く全身のバネを溜める。
いつでもいいですよー、という彼女の声に、ベホイミは彼女に向けて走り出す。
屋上の短い助走距離で、しかし彼女はギアをローから一気にトップまで持っていき、最後の一歩に足をかける。
その場所はメディアの組んだ腕の上。メディアの力とともに、その一歩をオーバートップで踏み抜いた。

落下傘降下を続けるパラシュートバタフライの一匹の背に、強烈な衝撃が加わった。
飛ぶでなく、文字通り跳んできた魔法少女が、そこにいた。変身は跳ぶ間に終わらせていたのだろう。

彼女は宣言する。
いつものとおり、この町を脅かすものに対して。
私がいる限り、お前らの好きにはさせないと。
知らしめるように、名を名乗る。

「魔法少女 ベホイミ」

それが、お前らを倒す者であり―――この町を守る者の名だ、と。



これが彼らの日常。
非日常を経てなお、変わらぬ強い彼らの日常。
だからこそ、彼らは非日常を駆け抜け続ける。

―――この輝かしい毎日と、自分もまた、共にあるために。



end

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