6話 すべきこと、したいこと -青い果実+真っ赤な誓い=『 』-
赤。
まどのそとには、朱いそらと紅いつきがうかぶ。
いえのなかは赤がべったりとそこらじゅうにあふれかえっている。
ゆかにねているのはまま、ぱぱ、せるじゅおにいちゃん、えれな。
まどのそとには、朱いそらと紅いつきがうかぶ。
いえのなかは赤がべったりとそこらじゅうにあふれかえっている。
ゆかにねているのはまま、ぱぱ、せるじゅおにいちゃん、えれな。
どうしてみんなねているの?
みんなこたえてくれなかった。
わたしのまえにたってるのは、うちでかってるねこ。
わたしよりもおおきなおおきな、ぱぱよりおおきなまっしろのねこ。
ゆきのひにわたしがひろったまっしろいちいさなねこは、
わたしのまえにたってるのは、うちでかってるねこ。
わたしよりもおおきなおおきな、ぱぱよりおおきなまっしろのねこ。
ゆきのひにわたしがひろったまっしろいちいさなねこは、
いまは、真っ赤にそまってた。
わたしはねこのなまえをよぶ。
「……あんじゅ?」
『シェリー……』
『シェリー……』
ねこは、そのこえをきいて―――わらった。
硬質なもの同士がこすれるような甲高い音が月匣の内に響き渡る。
魔剣と結界のいく度めかの衝突は、やはり間に火花が散るだけに終わった。
しかし、それに対して感慨を抱く暇はない。結界の内側にある<血の文書>には、自身に近づくものに対する防衛攻撃術式も内包されている。
ぱらぱらと数枚のページがめくれ、ぴたりとそれがおさまったページに書かれている文章が、小さく光を放つ。
もしもそれを読める位置にいるものがいたなら、それが攻撃魔装<ディストーション・ブレイド>の回路文であることがわかっただろう。
魔剣と結界のいく度めかの衝突は、やはり間に火花が散るだけに終わった。
しかし、それに対して感慨を抱く暇はない。結界の内側にある<血の文書>には、自身に近づくものに対する防衛攻撃術式も内包されている。
ぱらぱらと数枚のページがめくれ、ぴたりとそれがおさまったページに書かれている文章が、小さく光を放つ。
もしもそれを読める位置にいるものがいたなら、それが攻撃魔装<ディストーション・ブレイド>の回路文であることがわかっただろう。
柊の感覚が、自分の近くの空間が歪むのを感じ取る。虚属性の魔法の発動の前触れだ。
以前ある任務で裏界第二位の大魔王に遊びでイヤというほど叩きこまれた覚えが無駄にそんな感覚を強くしてしまったという哀しい経緯があるが、今はそれが彼の命を救う。
後ろに軽くバックステップし、効果範囲から逃れる。一瞬前まで彼のいた空間が見えぬ刃によって切り裂かれるのが、ぐにゃりと歪んだ光景という形で見えた。
しかしそれに安堵している場合でもない。
以前ある任務で裏界第二位の大魔王に遊びでイヤというほど叩きこまれた覚えが無駄にそんな感覚を強くしてしまったという哀しい経緯があるが、今はそれが彼の命を救う。
後ろに軽くバックステップし、効果範囲から逃れる。一瞬前まで彼のいた空間が見えぬ刃によって切り裂かれるのが、ぐにゃりと歪んだ光景という形で見えた。
しかしそれに安堵している場合でもない。
「蓮司、右!」
後ろに立つノーチェが声を上げる。
その声に体が反応して右に跳ぶと、彼の左側に銀色の雨がバケツをひっくり返したように降り注ぐ。水属性の<シルバーレイン>だ。
ノーチェの助言でそれを辛くもかわした柊は、離れた距離をつめるために走る。
小さく口の中で魔剣に魔法の炎を纏わせる呪文を呟いた。彼の知る少ない魔法は、違わずその効果を発揮する。
炎を纏った魔剣を担い、裂帛の気合とともに振りぬく。
その声に体が反応して右に跳ぶと、彼の左側に銀色の雨がバケツをひっくり返したように降り注ぐ。水属性の<シルバーレイン>だ。
ノーチェの助言でそれを辛くもかわした柊は、離れた距離をつめるために走る。
小さく口の中で魔剣に魔法の炎を纏わせる呪文を呟いた。彼の知る少ない魔法は、違わずその効果を発揮する。
炎を纏った魔剣を担い、裂帛の気合とともに振りぬく。
「おっ、らああぁぁっ!」
侵魔の王すら切り裂くその刃は、しかし結界の前に無力だった。
結界に傷一つつけることはできず、間に火花が舞う。
結界に傷一つつけることはできず、間に火花が舞う。
けれど、その結果に彼は一つの確信を持つ。
柊が全力ではないとはいえ、それなりに高レベルの魔剣使いの一撃にまったく意味をなさないこの防御力は異常だ。
ノーチェの魔法も柊の剣も通さず、炎も風も存在への干渉すらもまったくの無意味。そんなものが人間に作れるのなら、<血の文書>が廃れることはないはずだ。
それに、結界に斬りつける度に妙な感覚を感じていたこともある。
それらが合わさり、彼の抱いた疑念は今確信に変わっていた。
柊が全力ではないとはいえ、それなりに高レベルの魔剣使いの一撃にまったく意味をなさないこの防御力は異常だ。
ノーチェの魔法も柊の剣も通さず、炎も風も存在への干渉すらもまったくの無意味。そんなものが人間に作れるのなら、<血の文書>が廃れることはないはずだ。
それに、結界に斬りつける度に妙な感覚を感じていたこともある。
それらが合わさり、彼の抱いた疑念は今確信に変わっていた。
しかし、<血の文書>は剣を振り抜きそれ以上身動きのとれない柊を容赦なく襲う。
再びページがめくれ、今度は三つの節が輝いた。
同時に生まれるのは渦巻く水の奔流と、それを取り巻くいくつも連なる炎の珠。
水属性の魔装<ウォータースパイラル>と火属性の魔装<ファイアボール>の融合。対になる属性同士の魔力を、相殺させずに上手く融合させたそれが柊を襲う。
再びページがめくれ、今度は三つの節が輝いた。
同時に生まれるのは渦巻く水の奔流と、それを取り巻くいくつも連なる炎の珠。
水属性の魔装<ウォータースパイラル>と火属性の魔装<ファイアボール>の融合。対になる属性同士の魔力を、相殺させずに上手く融合させたそれが柊を襲う。
体勢上回避は不可能と判断、即座に魔剣を盾に覚悟を決める。
プラーナの開放はしない。
ただでさえこの本に半分食われた状態なのだ、一滴たりとも無駄には使えない。そんなことに使う余裕はない。それ以上に、彼は共にこの場に立つ仲間を信じている。
着弾の直前、可愛らしい声が戦場に響いた。
プラーナの開放はしない。
ただでさえこの本に半分食われた状態なのだ、一滴たりとも無駄には使えない。そんなことに使う余裕はない。それ以上に、彼は共にこの場に立つ仲間を信じている。
着弾の直前、可愛らしい声が戦場に響いた。
「<ダークバリア>!」
ノーチェの声とともに、柊の傍らに黒い球が生まれた。その球は魔法を吸い寄せ、柊への攻撃の威力を削ぐ。
もちろん、そう長くもつものではない。その球は、あまりの威力にすぐに許容量を超えぱちんと弾けた。
残った融合魔装が柊を襲う。水の流れが圧力を伴って体を叩き、時折弾けて撒き散らされる高い熱量と爆風が内側にまでダメージを与えて彼を吹き飛ばした。
転がり、ノーチェのそばまで吹き飛ばされた柊に、彼女は叫ぶ。
もちろん、そう長くもつものではない。その球は、あまりの威力にすぐに許容量を超えぱちんと弾けた。
残った融合魔装が柊を襲う。水の流れが圧力を伴って体を叩き、時折弾けて撒き散らされる高い熱量と爆風が内側にまでダメージを与えて彼を吹き飛ばした。
転がり、ノーチェのそばまで吹き飛ばされた柊に、彼女は叫ぶ。
「蓮司!」
その声に、意外に元気そうに跳ね起きる柊。
「おう。ナイス援護、助かった」
「……意外に元気そうでありますな?」
「あの程度でへたばれるかよ。こっちは日頃魔王相手にしてんだぞ?」
「普通、魔王級と相対するのは一生に一回あるかないかだと思うでありますが……」
「うるせぇよっ!?」
「……意外に元気そうでありますな?」
「あの程度でへたばれるかよ。こっちは日頃魔王相手にしてんだぞ?」
「普通、魔王級と相対するのは一生に一回あるかないかだと思うでありますが……」
「うるせぇよっ!?」
とはいえダメージがないわけではない。というか、割と深刻だ。
ノーチェは黒い本を睨んだ。
<血の文書>は二人にとどめを刺すためなのか、結界によって自分に攻撃が届かないと知っているように強力な発動魔法の準備に入っていた。
柊がぼやく。
ノーチェは黒い本を睨んだ。
<血の文書>は二人にとどめを刺すためなのか、結界によって自分に攻撃が届かないと知っているように強力な発動魔法の準備に入っていた。
柊がぼやく。
「三種類の属性に複数魔法の同時発動……あれもこれもって手出しすぎるのは器用貧乏になるもんだけどな」
「魔術師と陰陽師は同じルーンマスター系であります。魔法戦士やるよりは器用貧乏にならないでありますよ。むしろお互いの短所を補いあう分強力になるであります」
「そんなモンか。って言っても魔装つけすぎだろあれ。まともに近づくのもかなりキツいんだが」
「金に飽かせてありったけ魔装つけてるんでありましょうな。
魔法の記憶容量については、あれはもともとが『記録する』ための本でありますからページの許す限りできるのでありましょうし」
「貧乏人からするとすっげぇ腹立つ。……とはいえ、とりあえずあの結界ぶっ壊す方が先だろうな」
「魔術師と陰陽師は同じルーンマスター系であります。魔法戦士やるよりは器用貧乏にならないでありますよ。むしろお互いの短所を補いあう分強力になるであります」
「そんなモンか。って言っても魔装つけすぎだろあれ。まともに近づくのもかなりキツいんだが」
「金に飽かせてありったけ魔装つけてるんでありましょうな。
魔法の記憶容量については、あれはもともとが『記録する』ための本でありますからページの許す限りできるのでありましょうし」
「貧乏人からするとすっげぇ腹立つ。……とはいえ、とりあえずあの結界ぶっ壊す方が先だろうな」
腹立たしいが、確かにあの結界は固い。それさえなければ、今すぐにでも<血の文書>を破壊しに行けるのだが。
だからノーチェは隣の男に聞いた。
だからノーチェは隣の男に聞いた。
「壊せそうでありますか?」
柊はそれに平然と答える。
「俺じゃ無理だな。魔器開放使っても壊せる気がしねぇ」
「どうするでありますかそんなのっ!?」
「どうするでありますかそんなのっ!?」
あっさりと無理だと言った柊が、この場で一番攻撃に特化している。
最大火力が通用しないのならあの結界を破壊する術などあるはずもない。
けれど、柊は言う。
最大火力が通用しないのならあの結界を破壊する術などあるはずもない。
けれど、柊は言う。
「あれな、どうも攻撃の当たる場所に結界の構成密度を集中させるように作られてるらしい」
「と、いいますと?」
「攻撃が当たる瞬間に、あのドームみたいな結界作ってる―――なんて言うんだっけか」
「結界の構成要素でありますか?」
「あぁ、それ。それが集中するようになってる。
俺は剣で叩き斬るしかできねぇから、俺がやろうとするとよっぽどの威力叩き出さなきゃならねぇわけだ」
「と、いいますと?」
「攻撃が当たる瞬間に、あのドームみたいな結界作ってる―――なんて言うんだっけか」
「結界の構成要素でありますか?」
「あぁ、それ。それが集中するようになってる。
俺は剣で叩き斬るしかできねぇから、俺がやろうとするとよっぽどの威力叩き出さなきゃならねぇわけだ」
面の防御に見えて、実は点の防御であるため魔力を均等に張っているわけではないらしい。
それはつまり、一点の攻撃しか出来ない柊では破壊することが実質不可能であるということ。
そして、それはつまり。
それはつまり、一点の攻撃しか出来ない柊では破壊することが実質不可能であるということ。
そして、それはつまり。
「攻撃が全面から襲う範囲魔法なら、あれを壊せるということでありますな?」
「そういうことだ」
「そういうことだ」
範囲に対する攻撃手段を持つノーチェなら、結界を壊すことができるということだ。
しかし、ノーチェは顔を曇らせた。
しかし、ノーチェは顔を曇らせた。
「蓮司、問題があるであります」
「なんだ?」
「わたくしが使える範囲魔法、発動魔法しかないのでありますよ」
「なんだ?」
「わたくしが使える範囲魔法、発動魔法しかないのでありますよ」
発動魔法は、魔装と異なり呪文を詠唱して発動させる魔法だ。
その呪文の詠唱中、他の魔法を使用することはできない。つまり、防御魔法を使用することができないのだ。
そして、<血の文書>は今魔法の詠唱中。どれだけ頑張っても詠唱時間を短くする術を持たないノーチェよりも、<血の文書>の魔法の方が先に完成する。
ただでさえ妖怪を狙ってくる相手が、吸血鬼が魔法の詠唱なんて隙だらけのことをしているのを知って、狙わないはずがない。
柊が囮になるという手もあるが、相手が殺す気で放つ威力増強の限りを尽くして他人から奪ったプラーナを突っ込んだ一撃に、防御魔法のない状態で耐えられるかは疑問だ。
その呪文の詠唱中、他の魔法を使用することはできない。つまり、防御魔法を使用することができないのだ。
そして、<血の文書>は今魔法の詠唱中。どれだけ頑張っても詠唱時間を短くする術を持たないノーチェよりも、<血の文書>の魔法の方が先に完成する。
ただでさえ妖怪を狙ってくる相手が、吸血鬼が魔法の詠唱なんて隙だらけのことをしているのを知って、狙わないはずがない。
柊が囮になるという手もあるが、相手が殺す気で放つ威力増強の限りを尽くして他人から奪ったプラーナを突っ込んだ一撃に、防御魔法のない状態で耐えられるかは疑問だ。
どうするかと柊が思案していると、これしかないか、とノーチェが呟いた。
「あんまり使いたくなかったのでありますが……蓮司もベホイミもメディアも命はってるのでありますから、やるしかないでありましょうな」
「ノーチェ、なんか考えでもあんのか?」
「一応、一個だけ方法があるであります。ただ、一つ約束してほしいでありますよ」
「ノーチェ、なんか考えでもあんのか?」
「一応、一個だけ方法があるであります。ただ、一つ約束してほしいでありますよ」
真剣な様子のノーチェに、柊もまた真剣な表情で頷く。
「何があっても、何が起こっても、わたくしのことを信じてほしいでありますよ。
わたくしのこれからすること、全部に意味があるであります。無駄にしないでほしいでありますよ」
「……正直よくわかんねぇが、わかった。お前を信じる」
わたくしのこれからすること、全部に意味があるであります。無駄にしないでほしいでありますよ」
「……正直よくわかんねぇが、わかった。お前を信じる」
不敵に笑って、ノーチェは言った。
「さぁ―――勝ちにいくでありますよっ!」
「おう、当たり前だ!」
「おう、当たり前だ!」
「どぉりゃああぁぁぁぁっ!」
女の子としてどうなのかと思う気合の声とともに、炎を纏うベホイミの拳が重い音を立て<ミリオン>の右膝に打ち込まれる。
通常のウィザードがまともに食らえばダメージ必至のその一撃は、しかし鋼の装甲に何度も何度も打ち込まれようとも、まともに効いたようには見えない。
ベホイミはさらにそこに膝蹴りをおまけで打ち込むも、やはり巨人は揺らぎもしない。
お返しとばかりに足を持ち上げる<ミリオン>。そのままなら7mの巨人に踏み潰されることになっただろう。
通常のウィザードがまともに食らえばダメージ必至のその一撃は、しかし鋼の装甲に何度も何度も打ち込まれようとも、まともに効いたようには見えない。
ベホイミはさらにそこに膝蹴りをおまけで打ち込むも、やはり巨人は揺らぎもしない。
お返しとばかりに足を持ち上げる<ミリオン>。そのままなら7mの巨人に踏み潰されることになっただろう。
しかし、彼女は一人で戦っているわけではない。
「ベホちゃん!」
後ろから走りこんでいたメディアが、ベホイミの制服を掴み―――上に投げ飛ばす。
足とすれ違いながら、ベホイミは上へと向かう。
しかしベホイミのいた場所に今いるメディアには、振り下ろされる鉄の塊を避ける方法はないはずだ。
わずかな遅滞もなく振り下ろされた鉄塊は、華奢な彼女の体を無情にも押し隠す。
ずずん、と重い音とともに砂煙が舞い上がる。
やがてその砂煙が落ちそこにあったのは、少女の無惨な姿―――ではなく、いつもの笑顔で<ミリオン>の顔を見てたたずむメディアだった。
足とすれ違いながら、ベホイミは上へと向かう。
しかしベホイミのいた場所に今いるメディアには、振り下ろされる鉄の塊を避ける方法はないはずだ。
わずかな遅滞もなく振り下ろされた鉄塊は、華奢な彼女の体を無情にも押し隠す。
ずずん、と重い音とともに砂煙が舞い上がる。
やがてその砂煙が落ちそこにあったのは、少女の無惨な姿―――ではなく、いつもの笑顔で<ミリオン>の顔を見てたたずむメディアだった。
メディアはウィザードのクラスで区分すると忍者だ。その特殊な鍛錬で可能になる体のこなしは、奇術にも見まごうほどである。
必殺の一撃をかわされ、<ミリオン>を操るブランシェリーナに動揺が走ったのか。ベホイミの行動に気がつくのに一瞬遅れた。
彼女は、<ミリオン>の拳にあるわずかな出っ張りに足をかけて、ブランシェリーナのいるコクピットに向けて巨人の表面を蹴り登っていたのだ。
漢前な雄たけびを上げ、ベホイミはコクピットに向かう。
それに気づいたブランシェリーナはベホイミが今登りつつある<ミリオン>の右腕を跳ね上げた。
足場がいきなり動いたことで、ベホイミは地面から10メートルほどの高さに放り出される。
必殺の一撃をかわされ、<ミリオン>を操るブランシェリーナに動揺が走ったのか。ベホイミの行動に気がつくのに一瞬遅れた。
彼女は、<ミリオン>の拳にあるわずかな出っ張りに足をかけて、ブランシェリーナのいるコクピットに向けて巨人の表面を蹴り登っていたのだ。
漢前な雄たけびを上げ、ベホイミはコクピットに向かう。
それに気づいたブランシェリーナはベホイミが今登りつつある<ミリオン>の右腕を跳ね上げた。
足場がいきなり動いたことで、ベホイミは地面から10メートルほどの高さに放り出される。
ウィザードはこの高さから落下した程度で死んだりすることはない。
が、空中で戦闘機動ができるほど自由な動きをする能力はベホイミにはない。
つまり、空中に放り出されれば彼女は的でしかない。
その的に対して、<ミリオン>は容赦なく拳を突き出した。鋼の圧倒的な質量が、無抵抗の少女に撃ち込まれる―――その刹那。
が、空中で戦闘機動ができるほど自由な動きをする能力はベホイミにはない。
つまり、空中に放り出されれば彼女は的でしかない。
その的に対して、<ミリオン>は容赦なく拳を突き出した。鋼の圧倒的な質量が、無抵抗の少女に撃ち込まれる―――その刹那。
がんがんがんっ、とけたたましい音を立てて、<ミリオン>の腕に向けて飛来したものが突き立ち、わずかに軌道がそれた。
その突き立ったものを見れば、事情をよく知らない者は誰であれ目を丸くしただろう。
錬金術の粋を尽くして作り上げられた<ミリオン>。
その腕に突き立つのは―――食事用の、磨き上げられ銀に輝くフォークとナイフ。
そんな珍妙なものを武器として投げたのは、先ほど<ミリオン>の攻撃を避けたメディアだ。
曰く、「メイドの武器はハウスキープに使うもの全部ですよ♪」とのことだ。
錬金術の粋を尽くして作り上げられた<ミリオン>。
その腕に突き立つのは―――食事用の、磨き上げられ銀に輝くフォークとナイフ。
そんな珍妙なものを武器として投げたのは、先ほど<ミリオン>の攻撃を避けたメディアだ。
曰く、「メイドの武器はハウスキープに使うもの全部ですよ♪」とのことだ。
その、仲間の作ったチャンスを、ベホイミは逃さず掴み取る。
軌道のそれた巨大な拳に足をかけ、ブランシェリーナのいる頭に向けて駆け下りる。
その速さはまるで矢のごとく。解き放たれた矢は、後ろを向くことなく一点を見据えて駆け抜ける!
軌道のそれた巨大な拳に足をかけ、ブランシェリーナのいる頭に向けて駆け下りる。
その速さはまるで矢のごとく。解き放たれた矢は、後ろを向くことなく一点を見据えて駆け抜ける!
「うおおおぉぉぉぉぉっ!」
腕はすでに拳を握り、大きく振りかぶられている。
その一撃で全てぶち抜くと言わんばかりの気迫とともに、彼女はその拳を振り―――
その一撃で全てぶち抜くと言わんばかりの気迫とともに、彼女はその拳を振り―――
―――ばしゅんっ!と頭の真ん中にある穴から放たれた光の筋が、彼女の体を凄まじい勢いで撃ち抜いた。
その光の勢いと威力に抗えず、ベホイミは叩き落とされるように地面に突っ込んだ。
メディアがその光景を見てさすがにあわてた。駆け寄ろうとする彼女の背に声がかかる。
メディアがその光景を見てさすがにあわてた。駆け寄ろうとする彼女の背に声がかかる。
『行かせると思うか?』
足を止め、メディアはしっかりと<ミリオン>と相対した。
彼女はベホイミのために時間を稼ぐため、問う。
彼女はベホイミのために時間を稼ぐため、問う。
「ブランシェリーナさん。一つ、お聞きします。
あなたがそれほど妖怪と人間の隔離にこだわるのは―――あなたのご家族が、妖怪に殺されたからですか?」
あなたがそれほど妖怪と人間の隔離にこだわるのは―――あなたのご家族が、妖怪に殺されたからですか?」
返事には、少しだけの間があった。
『……よく調べているな、ニンジャ』
「色々、顔の利く知り合いがいるもので。
リヴァル家は、20年前一夜のうちにたった一人の女の子を残してみんな亡くなっているんです。
その女の子の名前がブランシェリーナ=リヴァル。つまり、あなたです」
『その通りだ』
「色々、顔の利く知り合いがいるもので。
リヴァル家は、20年前一夜のうちにたった一人の女の子を残してみんな亡くなっているんです。
その女の子の名前がブランシェリーナ=リヴァル。つまり、あなたです」
『その通りだ』
感情の見当たらない平坦な声が返る。
それでも今の注意はこちらに向いているようだと判断し、メディアは話を続けた。
それでも今の注意はこちらに向いているようだと判断し、メディアは話を続けた。
「リヴァル家は、自分達の飼っていた猫の妖怪に侵魔が乗り移ったものに一夜の内に4人が殺されたと聞いています。
それが、あなたがこの町を壊そうとする理由ですか」
それが、あなたがこの町を壊そうとする理由ですか」
罪を突きつける審問官のように問うメディアに、相手はやはり冷淡な声で答えた。
『ちがう』
あまりに意外なその一言に、メディアがえ?と呆けたように声を漏らした。
ブランシェリーナは淡々と告げた。
ブランシェリーナは淡々と告げた。
『確かに、あの夜が今の私のはじまりだった。
けれど私は、妖怪に恨みを持っているからこの場にこうして立っているわけではない』
「どういう、意味ですか」
『あの夜―――私がはじめて紅い月を見た、あの静かな血の夜。
あの子は、私が拾ってきた白猫のアンジュは。私を助けたのだ』
けれど私は、妖怪に恨みを持っているからこの場にこうして立っているわけではない』
「どういう、意味ですか」
『あの夜―――私がはじめて紅い月を見た、あの静かな血の夜。
あの子は、私が拾ってきた白猫のアンジュは。私を助けたのだ』
そうして彼女は語りだす。
町の片隅で箱に入れられた白い猫との出会い。
その猫と、家族で育んだ絆。
家族もまた、その白猫が人外の存在であることを知っていながら暖かく迎えたこと。
そして―――アンジュと彼女に名づけられたその猫が、第三天使の喇叭によってもろくなった世界結界を通り抜けたエミュレイターによって『憑かれしもの』となったこと。
町の片隅で箱に入れられた白い猫との出会い。
その猫と、家族で育んだ絆。
家族もまた、その白猫が人外の存在であることを知っていながら暖かく迎えたこと。
そして―――アンジュと彼女に名づけられたその猫が、第三天使の喇叭によってもろくなった世界結界を通り抜けたエミュレイターによって『憑かれしもの』となったこと。
アンジュはエミュレイターによって自由を奪われ、その体を好き勝手に使われた。
大切に接してくれた家族達をその手で殺し、その真っ白な体を赤く血で染め、プラーナをすすり、そしてブランシェリーナの前に立った。
大切に接してくれた家族達をその手で殺し、その真っ白な体を赤く血で染め、プラーナをすすり、そしてブランシェリーナの前に立った。
けれど、小さな猫は最後の最後で抗った。
自分を拾ったその小さな手を、自分の手で傷つけることだけはしたくなかった。
だからアンジュは―――自分の血で自分を赤く染めた。
自分を拾ったその小さな手を、自分の手で傷つけることだけはしたくなかった。
だからアンジュは―――自分の血で自分を赤く染めた。
ブランシェリーナは、押し殺した声で言う。
『わかるか、あの子の覚悟が。
出会ってしまった大切なものを、その手で傷つけたくないと願い、私の名を呼び、笑って死んでいったあの子の覚悟が。
―――そんな出会いがあったから、私達は苦しい思いをした。侵魔につけこまれることになった。
繋いだ手が切り離されるという苦痛は、手が差し伸べられないよりも苦しい。
手を繋ごうとしたことが苦しみに変わるのなら、最初から繋がぬ方がいい。
妖怪は自分の場所から出ず、人間は自分の場所を守りさえすればいいのだ。そう難しいことではあるまい』
「世界中の人間の町に住む全ての妖怪を、あなた一人で全部追い出す気ですか?」
『私にそれほどの器がないことはわかっている。
だが、このような事件が何回かあれば、妖怪は人間に不信を抱く。それだけでいいのだ、ただそれだけでいい。
不信が起きればそれが広まっていくのは必然だ。その結果、妖怪と人間は己の住処に戻ることになるだろう』
出会ってしまった大切なものを、その手で傷つけたくないと願い、私の名を呼び、笑って死んでいったあの子の覚悟が。
―――そんな出会いがあったから、私達は苦しい思いをした。侵魔につけこまれることになった。
繋いだ手が切り離されるという苦痛は、手が差し伸べられないよりも苦しい。
手を繋ごうとしたことが苦しみに変わるのなら、最初から繋がぬ方がいい。
妖怪は自分の場所から出ず、人間は自分の場所を守りさえすればいいのだ。そう難しいことではあるまい』
「世界中の人間の町に住む全ての妖怪を、あなた一人で全部追い出す気ですか?」
『私にそれほどの器がないことはわかっている。
だが、このような事件が何回かあれば、妖怪は人間に不信を抱く。それだけでいいのだ、ただそれだけでいい。
不信が起きればそれが広まっていくのは必然だ。その結果、妖怪と人間は己の住処に戻ることになるだろう』
だから私の邪魔をするな、とブランシェリーナはそう言った。
大切な相手がいなくなることは悲しい。だから、そんな思いをしないように私達は分かれているべきなのだと。
確かに喪失は苦しいものだ。それを味わったものならば、誰もが理解できる感情だろう。
大切な相手がいなくなることは悲しい。だから、そんな思いをしないように私達は分かれているべきなのだと。
確かに喪失は苦しいものだ。それを味わったものならば、誰もが理解できる感情だろう。
けれど―――
「ふざけんな」
―――その言葉に異を唱える者が、ここにいる。
少女は汚れていた。地面に叩きつけられて砂だらけで、光にやかれてところどころ焦げたようになっている制服。
けれど、その眼光はまっすぐにただ目の前の鋼鉄の箱の中にいる女を貫く。
けれど、その眼光はまっすぐにただ目の前の鋼鉄の箱の中にいる女を貫く。
「お前には、この町のみんながいがみあうように見えるのか」
一歩。
「お前が絆を断ち切らなきゃ、傷つけあうように見えるのか」
二歩。
「みんながみんな出会わなきゃよかったと考えると思うのか」
三歩。
メディアと肩を並べる。
メディアと肩を並べる。
「お前のやってることは、ただのテロだ」
『……なんだと』
「同情はしてやる。大事な奴が消えたら悲しいっていうのは、皆がわかるけど皆が同じ思いを抱いてるかはわからない。
けど、お前のやろうとしてることは、お前とアンジュが分かれるきっかけになったエミュレイターと同じだ。
この町のみんなの絆を、自分勝手な理由で断ち切ろうとしてるだけだ。
みんなが笑ってる今を、勝手に崩そうとしてるだけだ」
『……なんだと』
「同情はしてやる。大事な奴が消えたら悲しいっていうのは、皆がわかるけど皆が同じ思いを抱いてるかはわからない。
けど、お前のやろうとしてることは、お前とアンジュが分かれるきっかけになったエミュレイターと同じだ。
この町のみんなの絆を、自分勝手な理由で断ち切ろうとしてるだけだ。
みんなが笑ってる今を、勝手に崩そうとしてるだけだ」
彼女は、叫ぶ。
「お前には、本当にわからなかったのかっ!?
たとえ一時とはこの町で暮らしたんだろっ!この町のみんながどれだけあったかいか、どれだけ笑顔で暮らしてるか、見えなかったわけじゃないだろうっ!?」
たとえ一時とはこの町で暮らしたんだろっ!この町のみんながどれだけあったかいか、どれだけ笑顔で暮らしてるか、見えなかったわけじゃないだろうっ!?」
しゃべるウサギと、一緒に歩くちびっこ教師がいた。
化け猫を、文句を言いながらも居候させる喫茶店の店主がいた。
人に慣れていないジュゴンに、優しくしてやっている高校生がいた。
水がないとたまに動きの止まるオオサンショウウオに、笑顔で水をかける少女がいた。
精霊界から来たと名乗る怪しいトカゲの言うことを聞き、魔法少女をやっている女の子がいた。
化け猫を、文句を言いながらも居候させる喫茶店の店主がいた。
人に慣れていないジュゴンに、優しくしてやっている高校生がいた。
水がないとたまに動きの止まるオオサンショウウオに、笑顔で水をかける少女がいた。
精霊界から来たと名乗る怪しいトカゲの言うことを聞き、魔法少女をやっている女の子がいた。
他にもたくさん、たくさん。
この何の変哲もない町の中で、妖怪と人間の絆が結ばれている。
この何の変哲もない町の中で、妖怪と人間の絆が結ばれている。
「お前だって自分のやってることが間違ってることくらいわかってるんだろっ!?
自分がどれだけ悲しかろうが、どんな理由があろうが他人にその痛みを押しつけていい道理なんかどこにもないってことくらいっ!」
自分がどれだけ悲しかろうが、どんな理由があろうが他人にその痛みを押しつけていい道理なんかどこにもないってことくらいっ!」
傷ついているはずの少女が出す声は、とてもそうとは思えなかった。
ただただ、この町のことを信じている少女が、この町を壊そうとする悲しみで道を外れた女の心に、打ち抜くように言葉をぶつける。
ただただ、この町のことを信じている少女が、この町を壊そうとする悲しみで道を外れた女の心に、打ち抜くように言葉をぶつける。
「みんな今笑ってる!未来なんかどうなるか誰にもわからない!お前が、この町のみんなの未来を勝手に決めるな!
この町を―――なめるなっ!」
自身の信念を真っ向から否定され、ブランシェリーナは―――揺らいだ体を、持ち直した。
『黙れ。すでに計画ははじまっている、お前ができることなど何もない。お前の拳でできることなど何もない』
そう言って、ブランシェリーナは敵を見据えた。
『すぐに終わらせてやろう、私の敵。私の信念は、積み重ねた年月は、お前の甘言ごときに崩されはしない』
ベホイミは、自然体でその宣言に応える。
「確かに、私にはアンタを救ってやることはできない」
そう告げて、彼女は―――自身の最大の武器である拳を握る。
固く、固く握り締める。
固く、固く握り締める。
「私にできるのは、この拳に信念を込めて握るだけ。
握った手のひらで何かが『すくえる』と思うほど、私も世間知らずじゃない」
握った手のひらで何かが『すくえる』と思うほど、私も世間知らずじゃない」
けど、と彼女は続ける。
「握りこんだ(こんな)拳にだって、できることがある。
道に迷って泣き続けて、道を外れたと思い込んでる子供を、元の道に殴って戻すくらいはできるつもりだ」
道に迷って泣き続けて、道を外れたと思い込んでる子供を、元の道に殴って戻すくらいはできるつもりだ」
そう言って、彼女は不敵に笑う。
目の前の鉄の塊を、道を外れた迷子であると言って。
そう侮辱する眼前の敵に、それまで凍ったようだったブランシェリーナの声に、熱がこもった。
目の前の鉄の塊を、道を外れた迷子であると言って。
そう侮辱する眼前の敵に、それまで凍ったようだったブランシェリーナの声に、熱がこもった。
『―――やってみろっ』
ノーチェは、魔法の詠唱を開始する。
彼女が詠うように唱え紡ぎ、力を持った言葉達が周囲のプラーナを感応させて隷属させる。
一言で事象を起こす言葉を積み重ねることで、段階を踏み、自身の望む事象へと昇華させる。それが、魔法だ。
銀の髪の一房一房が揺れ動き、月光をはねかえして楽譜のように踊る。
彼女が詠うように唱え紡ぎ、力を持った言葉達が周囲のプラーナを感応させて隷属させる。
一言で事象を起こす言葉を積み重ねることで、段階を踏み、自身の望む事象へと昇華させる。それが、魔法だ。
銀の髪の一房一房が揺れ動き、月光をはねかえして楽譜のように踊る。
その美しい光景に―――<血の文書>が気づいた。
もともと妖怪に対しての攻撃を最優先させるこの魔導具が、そんな絶対の隙を見逃すはずもない。
今までその吸血鬼への攻撃を邪魔してきた魔剣使いの妨害はない。ならば、<血の文書>たる『アンジュ』がやることは一つ。
最も優先すべき命令である、それの存在理由は―――妖怪の排除に他ならない。
『アンジュ』は、用意が完了した詠唱魔法を、吸血鬼に向けて解き放つ。
もともと妖怪に対しての攻撃を最優先させるこの魔導具が、そんな絶対の隙を見逃すはずもない。
今までその吸血鬼への攻撃を邪魔してきた魔剣使いの妨害はない。ならば、<血の文書>たる『アンジュ』がやることは一つ。
最も優先すべき命令である、それの存在理由は―――妖怪の排除に他ならない。
『アンジュ』は、用意が完了した詠唱魔法を、吸血鬼に向けて解き放つ。
―――<フレイムレイジ>、と記された一節が、最後に光を放った。
それと同時に生み出されるのは、炎。
近くにある酸素を奪うように食らい、炎はあっという間に巨大な竜のごとくに成長する。
青い世界に突如現れた朱色の竜に、周囲の空気がわなないた。それは竜のいななきのように響き、月匣を震わせる。
炎の竜は、指定されたたった一人の少女に対して空気を焼きながら疾駆する。
そして、少女は抵抗することもなく炎に飲み込まれた。
近くにある酸素を奪うように食らい、炎はあっという間に巨大な竜のごとくに成長する。
青い世界に突如現れた朱色の竜に、周囲の空気がわなないた。それは竜のいななきのように響き、月匣を震わせる。
炎の竜は、指定されたたった一人の少女に対して空気を焼きながら疾駆する。
そして、少女は抵抗することもなく炎に飲み込まれた。
一人にそこまでする必要がどこにあるのかわからないほどの熱量が叩きつけられ、火の粉が舞う。
あまりのエネルギーに巻き添えをくらった地面から土煙が巻き上げられたほどだ。
その力に、たかが一ウィザードが耐え切れるはずもない。
はずがない、のに。
あまりのエネルギーに巻き添えをくらった地面から土煙が巻き上げられたほどだ。
その力に、たかが一ウィザードが耐え切れるはずもない。
はずがない、のに。
ごう、と風が吹く。
風が、全ての砂煙を取り払う。
風が、全ての砂煙を取り払う。
そこにあったのは、月を映す鏡だった。
いや、鏡というには平面ではなく波立っている。
いや、鏡というには平面ではなく波立っている。
それは、鏡と見まごうほどに美しく長く伸びて広がった銀の髪だった。
髪を括っていた二本の黒いリボンが、月を映す銀の鏡の後ろへと流れていく。
ばさりと広がったただでさえそう短くはない髪が、地面に落ちるほどに、落ちた後もさらに進むように伸び続け、やがて止まった。
赤い瞳が、らんらんと紅玉のごとくに輝きを放つ。
そこにいたのは、美しい月夜の女王だった。
髪を括っていた二本の黒いリボンが、月を映す銀の鏡の後ろへと流れていく。
ばさりと広がったただでさえそう短くはない髪が、地面に落ちるほどに、落ちた後もさらに進むように伸び続け、やがて止まった。
赤い瞳が、らんらんと紅玉のごとくに輝きを放つ。
そこにいたのは、美しい月夜の女王だった。
彼女の祖先は、かつて人の手では倒せず、この世界そのものの力を使ってようやく倒しきれたとされる伝説の吸血鬼だ。
その吸血鬼の血は、彼女にも色濃く受け継がれている。
しかしあまりに強い力に先祖のように慢心することのないよう、彼女の一族は生まれてから死ぬまで自身の力を押さえつける枷、<拘束術式>をつけるのが掟だった。
女の髪には強い魔力が宿るとされる。ゆえに、ノーチェはその術式をリボンの形に加工し、それで髪を縛ることで自身の力を抑制していたのだ。
その吸血鬼の血は、彼女にも色濃く受け継がれている。
しかしあまりに強い力に先祖のように慢心することのないよう、彼女の一族は生まれてから死ぬまで自身の力を押さえつける枷、<拘束術式>をつけるのが掟だった。
女の髪には強い魔力が宿るとされる。ゆえに、ノーチェはその術式をリボンの形に加工し、それで髪を縛ることで自身の力を抑制していたのだ。
そもそも彼女は吸血鬼だ。
その内でも太陽の下に出ても大丈夫とされる高位の吸血鬼である。「不死の王(ノーライフ・キング)」という異名を持つ吸血鬼が、この程度で死ぬはずもない。
満月の月の光を奪うように、銀の長い髪が煌く。
彼女の手の中にある空間のゆがみが、煌きに呼応してより大きく渦巻きだす。
術式によって拘束を受けていた限界が一気に開放され、その力はゆがみをより大きく強力なものへと変えていく。
最後の一節が、紡がれた。
その内でも太陽の下に出ても大丈夫とされる高位の吸血鬼である。「不死の王(ノーライフ・キング)」という異名を持つ吸血鬼が、この程度で死ぬはずもない。
満月の月の光を奪うように、銀の長い髪が煌く。
彼女の手の中にある空間のゆがみが、煌きに呼応してより大きく渦巻きだす。
術式によって拘束を受けていた限界が一気に開放され、その力はゆがみをより大きく強力なものへと変えていく。
最後の一節が、紡がれた。
「―――<ディメンジョンホール>」
同時。ゆがみは虚空を渡り、標的である『アンジュ』の上へと一瞬のうちに転移する。
ノーチェの手の中で外に出るのを抑制されていたゆがみは、その檻がなくなったことで一気に開放された。
存在そのものを否定するゆがみが、周囲にあるもの全てを飲み込むために広がり、近くにあるものから存在の力を貪欲に食らっていく。
その場にあるもっとも大きく存在の力を内包する結界は、ゆがみの格好の餌だ。
ぐにゃりと。ゆがみは効率的に結界を飲み込もうと全ての方向から吸い込む方法を取った。
一点には強いものの全方向からの攻撃に、拡散された構成要素では対応し切れない。
『アンジュ』に防御用の魔法が組みこまれていたのならそれを使うことがあったのかもしれないが、なまじ厄介な結界がはれるだけにそれ以上の防御魔法を持っていない。
ノーチェの手の中で外に出るのを抑制されていたゆがみは、その檻がなくなったことで一気に開放された。
存在そのものを否定するゆがみが、周囲にあるもの全てを飲み込むために広がり、近くにあるものから存在の力を貪欲に食らっていく。
その場にあるもっとも大きく存在の力を内包する結界は、ゆがみの格好の餌だ。
ぐにゃりと。ゆがみは効率的に結界を飲み込もうと全ての方向から吸い込む方法を取った。
一点には強いものの全方向からの攻撃に、拡散された構成要素では対応し切れない。
『アンジュ』に防御用の魔法が組みこまれていたのならそれを使うことがあったのかもしれないが、なまじ厄介な結界がはれるだけにそれ以上の防御魔法を持っていない。
結界は悲鳴を上げ―――澄んだ音を立て、割れる。
ゆがみは、結界の消滅と同時に喪失が補填されきったのか、そこで消滅する。そして―――
ゆがみは、結界の消滅と同時に喪失が補填されきったのか、そこで消滅する。そして―――
結界が消滅すると同時に、結界を展開していた魔法陣の外縁を踏み抜く者があった。
この場にいるもう一人のウィザードは、厄介な結界がなくなったことでその力の本領を存分に発揮できる。
相棒を携え、力強く地を蹴り、一秒でも早く『アンジュ』を叩き斬るためだけに疾駆する。
相棒を携え、力強く地を蹴り、一秒でも早く『アンジュ』を叩き斬るためだけに疾駆する。
そう、柊が今の今までノーチェの盾になることもなく、囮になることもなかったのは、ただ彼女の言葉を信じてこの瞬間を待ち続けたゆえに。
力強く、前へ、前へ、前へ、他に小細工を考えることもなく、ただ前へ。
振り返る意味はない。躊躇う必要もない。刃の存在意義はただ斬ることのみ。ならば、一秒でも早く。一歩でも速く。
その在り方はまさに風。そしてその在り方そのままに、彼は地面を蹴り疾駆する。その刃をもって敵を斬る、ただそのためだけに。
振り返る意味はない。躊躇う必要もない。刃の存在意義はただ斬ることのみ。ならば、一秒でも早く。一歩でも速く。
その在り方はまさに風。そしてその在り方そのままに、彼は地面を蹴り疾駆する。その刃をもって敵を斬る、ただそのためだけに。
その脅威を感じて、思考はあれど感情はないはずの<血の文書>は、確かに戦慄した。
ブランシェリーナは結界を破られることを想定していなかった。『アンジュ』には、自身を守る術がない。ならば、この脅威に対抗する方法は脅威そのものを消すことのみ。
『アンジュ』の内の一節が輝き、迫る柊に闇の飛礫が放たれた。虚属性の魔装<ヴォーティカル・ショット>だ。
今ノーチェは自分の魔力を使いきり、柊への援護ができる状況ではない。魔法への抵抗力は低くなる。
しかし、彼の相棒はただの剣ではない。
運命を断ち切り、神すら殺してみせた、世界の危機に立ち向かい続ける一振りの刃―――すなわち、魔剣である。
柊は前より襲いくる闇の飛礫を、一薙ぎで叩き斬る。魔剣に魔法が切れないという道理はない。彼らもまた、常識の外の存在だからだ。
そして、ただ愚直なまでに前に進むその剣の担い手はその程度では止めることはできない。
ブランシェリーナは結界を破られることを想定していなかった。『アンジュ』には、自身を守る術がない。ならば、この脅威に対抗する方法は脅威そのものを消すことのみ。
『アンジュ』の内の一節が輝き、迫る柊に闇の飛礫が放たれた。虚属性の魔装<ヴォーティカル・ショット>だ。
今ノーチェは自分の魔力を使いきり、柊への援護ができる状況ではない。魔法への抵抗力は低くなる。
しかし、彼の相棒はただの剣ではない。
運命を断ち切り、神すら殺してみせた、世界の危機に立ち向かい続ける一振りの刃―――すなわち、魔剣である。
柊は前より襲いくる闇の飛礫を、一薙ぎで叩き斬る。魔剣に魔法が切れないという道理はない。彼らもまた、常識の外の存在だからだ。
そして、ただ愚直なまでに前に進むその剣の担い手はその程度では止めることはできない。
その前へ進もうとする意思は、ついに一足一刀、彼の独壇場へと『アンジュ』を取り込む。
ならばやることは一つ。
プラーナを開放できるだけ開放、裂帛の気合とともに下からすくいあげるように斬撃を放つ。
その一撃は、『アンジュ』のページを掠めた。ばさり、と舞い上げられる紙。
ならばやることは一つ。
プラーナを開放できるだけ開放、裂帛の気合とともに下からすくいあげるように斬撃を放つ。
その一撃は、『アンジュ』のページを掠めた。ばさり、と舞い上げられる紙。
浅い。それでは『アンジュ』の機能を完全に止めることはできない。だから『アンジュ』は一節を輝かせて炎を生み―――
しかし、柊はその光景に不敵に笑った。
彼の一撃に対し、『アンジュ』自身に防御する術はない。それが今、示された。
特大の一撃はかわされたら終わりだ。これなら安心して投入できる。
彼の一撃に対し、『アンジュ』自身に防御する術はない。それが今、示された。
特大の一撃はかわされたら終わりだ。これなら安心して投入できる。
柊自身のこれまでの経験が、鋭く周囲を知覚する。
『アンジュ』は魔装を放とうとする寸前。ノーチェは援護に入れない。
魔剣に本当の力を使わせてやるのなら、ここで魔法を食らうわけにはいかない。防御も回避も攻撃が遅れる。ならば、今この瞬間にしかチャンスはない。
だからこそ、全ての常識を無視し、彼は今こそ魔剣を振るう。
『アンジュ』は魔装を放とうとする寸前。ノーチェは援護に入れない。
魔剣に本当の力を使わせてやるのなら、ここで魔法を食らうわけにはいかない。防御も回避も攻撃が遅れる。ならば、今この瞬間にしかチャンスはない。
だからこそ、全ての常識を無視し、彼は今こそ魔剣を振るう。
流れる血を介し、魔剣に自身の生命を食わせる。慣れた感覚に、さらに猛りが加速する。
残るプラーナを全部突っ込み、風が舞う。ともにある風に、さらに肉体が歓喜する。
相棒に大量の力の渦を開放させる。終わりへの予感に、さらに気分が高揚する。
残るプラーナを全部突っ込み、風が舞う。ともにある風に、さらに肉体が歓喜する。
相棒に大量の力の渦を開放させる。終わりへの予感に、さらに気分が高揚する。
―――終わりだ。
「くらええええぇぇぇぇぇぇぇっ!」
凄まじいまでの力の渦を伴った剣は、今度こそ、生まれはじめていた炎ごと<血の文書>を両断し。
ある少女の20年の妄執と、この町の危機を力の渦が容赦なく消し飛ばした。
ある少女の20年の妄執と、この町の危機を力の渦が容赦なく消し飛ばした。
柊はノーチェのもとへと駆け寄る。声をかけると、彼女は不満そうな表情で腕を組んでいた。
彼女は今、戦闘が始まる前とはまったくの別人のようだった。
身に着けていたゴシックロリータの服はところどころ焦げていた。
そして、そんなことがどうでもよくなるくらいの変化がある。彼女の銀の髪は、もともとあった量の二倍ほどの長さまで伸びていた。
柊がそれに素直な感想を漏らした。
彼女は今、戦闘が始まる前とはまったくの別人のようだった。
身に着けていたゴシックロリータの服はところどころ焦げていた。
そして、そんなことがどうでもよくなるくらいの変化がある。彼女の銀の髪は、もともとあった量の二倍ほどの長さまで伸びていた。
柊がそれに素直な感想を漏らした。
「……すっげぇなそれ。リボン外しただけでそんな伸びるもんなのか」
「わたくしのリボンは拘束術具の一種でありますからな。
伸びたら伸びっぱなしなのがイヤだったから外すのにためらったのでありますよ、わざわざ切ってからもう一度リボンで括らないといけなくなるでありますからな。
髪の毛切るお金がもったいないでありますし」
「俺らの命は床屋代と天秤にかけられたのかよっ!?」
「だから最終的には外したでありましょうっ!?」
「わたくしのリボンは拘束術具の一種でありますからな。
伸びたら伸びっぱなしなのがイヤだったから外すのにためらったのでありますよ、わざわざ切ってからもう一度リボンで括らないといけなくなるでありますからな。
髪の毛切るお金がもったいないでありますし」
「俺らの命は床屋代と天秤にかけられたのかよっ!?」
「だから最終的には外したでありましょうっ!?」
一瞬でも躊躇われたのは事実なわけだが。
柊はため息をつき、言った。
柊はため息をつき、言った。
「ノーチェ、手ぇ出せ」
「はいでありますよ?」
「はいでありますよ?」
不思議そうな表情で差し出される小さな手。ぱん、と乾いた音を立てて、手と手が打ち合わされた。
ベホイミは、駆ける。
この世界の不条理を、20年の妄執を、目の前の馬鹿を、ただその拳で殴り飛ばすそのためだけに。
鈍重な<ミリオン>はそれに反応できない。右膝に、炎を纏った左のジャブが叩き込まれる。しかし、それではゆるぎもしないことはこれまでも同じだ。
ベホイミは、駆ける。
この世界の不条理を、20年の妄執を、目の前の馬鹿を、ただその拳で殴り飛ばすそのためだけに。
鈍重な<ミリオン>はそれに反応できない。右膝に、炎を纏った左のジャブが叩き込まれる。しかし、それではゆるぎもしないことはこれまでも同じだ。
『無駄だ』
そう言って、<ミリオン>は左足でベホイミを踏み潰そうとする。それを受ければ、いかに彼女といえど再び立つのは難しいだろう。
しかし、ブランシェリーナの手足のごとくに動くはずの己の僕にして傀儡、<ミリオン>は、ぴくりともしなかった。
突如失われた制御に何が起きているのか把握しようとすると―――月光に照らされて出来た<ミリオン>の月影に、いくつものナイフとフォークが突き立っていた。
メイドが、笑う。
しかし、ブランシェリーナの手足のごとくに動くはずの己の僕にして傀儡、<ミリオン>は、ぴくりともしなかった。
突如失われた制御に何が起きているのか把握しようとすると―――月光に照らされて出来た<ミリオン>の月影に、いくつものナイフとフォークが突き立っていた。
メイドが、笑う。
「私のことも、忘れないでくださいね」
メディアの用いた忍者の秘術の一つ、<影縫いの術>だ。時間は短いが、相手の動きを封じることができる。
彼女はベホイミに呼びかける。
彼女はベホイミに呼びかける。
「ベホちゃん今です!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
援護を受け、全身全霊の力を込めて彼女は今までなんの反応もなかった鋼にもう一度右の拳を叩きつける。
拳で鋼を打ち抜くことは不可能だ。それが非常識と常識の対決ならばともかく、非常識同士がぶつかり合ってその条理が崩れるはずもない。
拳で鋼を打ち抜くことは不可能だ。それが非常識と常識の対決ならばともかく、非常識同士がぶつかり合ってその条理が崩れるはずもない。
けれど、それが積み重なったとしたら話は別だ。
雨だれですらぶつけ続ければ岩に穴を穿つ。千畳の堤もアリの空けた穴から崩壊することがある。
だから彼女は諦めない。何度でも、何度でも、これが失敗しても、いつか訪れるその時まで、拳を打ちつけ続けるだろう。
そのいつかがこの時起きただけのこと。だからそれは必然。ベホイミの思いが、鋼の巨人の足を今こそ打ち砕く!
雨だれですらぶつけ続ければ岩に穴を穿つ。千畳の堤もアリの空けた穴から崩壊することがある。
だから彼女は諦めない。何度でも、何度でも、これが失敗しても、いつか訪れるその時まで、拳を打ちつけ続けるだろう。
そのいつかがこの時起きただけのこと。だからそれは必然。ベホイミの思いが、鋼の巨人の足を今こそ打ち砕く!
右足が砕かれ、大きくバランスを崩す<ミリオン>。
地面に崩れ落ちようとするその巨人の上を、ベホイミが走りぬける。
頑なに自分の内に閉じこもる馬鹿を殴り飛ばすために、ただひたすら駆け抜ける。
地面に崩れ落ちようとするその巨人の上を、ベホイミが走りぬける。
頑なに自分の内に閉じこもる馬鹿を殴り飛ばすために、ただひたすら駆け抜ける。
それを認識したブランシェリーナが、不安定になっているコクピットの中で、ビーム用のトリガーを手探りで探す。先ほどベホイミを吹き飛ばした例の兵器だ。
もともと狭いコクピット内だ、すぐにそれは見つかった。そして彼女は確信する。
もともと狭いコクピット内だ、すぐにそれは見つかった。そして彼女は確信する。
―――こちらの方が、早い。
当然といえば当然だ。
コクピットまで行って拳を振りかぶり相手を殴り倒すよりも、トリガーに手をかけて引く方が断然早い。
それは、幾多の戦場を渡ってきたベホイミにも直感的に理解できた。
そのままでは届かない。その拳は、思いは、届かないまま終わる。
コクピットまで行って拳を振りかぶり相手を殴り倒すよりも、トリガーに手をかけて引く方が断然早い。
それは、幾多の戦場を渡ってきたベホイミにも直感的に理解できた。
そのままでは届かない。その拳は、思いは、届かないまま終わる。
そんなことが、認められるか。
認めてたまるか。認めたりしない。認めてなんかやるもんか。
湧き上がった想いが、彼女をさらに加速させる。
ウィザードとしての全てをつぎ込んで加速する彼女の拳は―――やはり、それでも一歩届かない。
どれだけの思いをつぎ込もうとも、どれだけの力をつぎ込もうとも、やはりそれは届かない。
それが彼女の限界だ。全ての力をつぎ込んでも届かない、それが限界と呼ばれるものだ。
認めてたまるか。認めたりしない。認めてなんかやるもんか。
湧き上がった想いが、彼女をさらに加速させる。
ウィザードとしての全てをつぎ込んで加速する彼女の拳は―――やはり、それでも一歩届かない。
どれだけの思いをつぎ込もうとも、どれだけの力をつぎ込もうとも、やはりそれは届かない。
それが彼女の限界だ。全ての力をつぎ込んでも届かない、それが限界と呼ばれるものだ。
(限界<おまえ>は、)
限界にぶち当たった時、人は諦める。そこに絶望を抱く。
けれど彼女は知っている。
諦めたくないものがある。代わりのきかないものがある。大切な輝けるような日々を。
けれど彼女は知っている。
諦めたくないものがある。代わりのきかないものがある。大切な輝けるような日々を。
(邪魔だ)
今ベホイミの前に立ちはだかるのは鋼の巨人ではない。ブランシェリーナでもない。
彼女の行く手を遮るのは、彼女自身の限界のみ。
ウィザードとしての全力では届かない。
彼女の行く手を遮るのは、彼女自身の限界のみ。
ウィザードとしての全力では届かない。
(そこから、)
けれど彼女は諦めたくなんかない。目の前を覆う壁に向け、全力のその先を求め続けた。
(私の目の前からっ―――)
だからこそ、その指先は彼女の限界の壁に届いた。
触れられるのなら壊せるも道理。
彼女のクラスは竜使い、己の体に眠る力と意思を信じて拳を握り、全てをぶち抜く魔法使い。魔法使いが、たかが自身の常識(げんかい)を超えられぬはずはない。
触れられるのなら壊せるも道理。
彼女のクラスは竜使い、己の体に眠る力と意思を信じて拳を握り、全てをぶち抜く魔法使い。魔法使いが、たかが自身の常識(げんかい)を超えられぬはずはない。
「ど、けええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
その意思が、彼女の纏う制服―――コンバットスーツにかけられていたリミッター(げんかい)を吹っ飛ばした。
ベホイミの体のことを考えてかけられているリミッターが消えたことで、彼女は彼女の体を破壊しながらもさらなる力を手に入れる。
ベホイミの体のことを考えてかけられているリミッターが消えたことで、彼女は彼女の体を破壊しながらもさらなる力を手に入れる。
その彼女の覚悟こそが。意思で限界をねじ伏せた覚悟こそが、届かぬはずのその一歩を埋める―――!
『な』
ブランシェリーナがトリガーに指をかけそれを引くよりも、突如おかしい加速を見せたベホイミに驚くよりもなお速く。
固く握り締められた拳がコクピットを一撃で破砕し―――中にいた女を、思い切り殴り飛ばして背後の壁を突き抜けながら空を舞わせた。
固く握り締められた拳がコクピットを一撃で破砕し―――中にいた女を、思い切り殴り飛ばして背後の壁を突き抜けながら空を舞わせた。
こうして、この町は守られた。
そして、間違えて歩き続けた女は、この町を守る魔法少女にぶっとばされてここでその歩みを止めた。
そして、間違えて歩き続けた女は、この町を守る魔法少女にぶっとばされてここでその歩みを止めた。
それだけの、お話。